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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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88話 困ったやつだ


 この時代に紛れ込んでから色々とやってきたが、ついに綺麗な大金が入ってくるスキームができた。

 そのためには法人化をしなくてはならない。

 昭和の所得税はとんでもないのだ。

 個人で申告なんてしたら、稼ぎのほとんどを税金で持っていかれる。


 昭和に窓際のナントカちゃんというベストセラーを書いた女優さんがいたが、稼ぎをほとんど税金で持っていかれて、国の税制調査会で苦情を言ったとかなんとか。

 そりゃそうだよ。

 稼ぎの9割とか税金にとられて、なんのために働いてんだ――って話になる。


 その地獄のような税金から逃れるために、法人化するわけだ。

 納税は国民の義務ではあるが、節税のために法人化するのは別に違法ではない。

 利用できるものは利用すべきだろう。


 会社を作るためにハンコを作ったりもしたが、特に代表者印は厳重に保管しなければならない。

 変な契約書を作られて、それにハンコを押されたら、それが有効になってしまう。

 一発で破滅する可能性すらある。


 法人設立のために銀行の書類も必要になるので、取りにいくことにした。


「あれ? 篠原さん、どこかに行くんですか?」

 廊下で八重樫君に会った。


「会社を作るんで、銀行に行って書類を作ってもらわないと」

「篠原さんも、ついに会社を起こすんですかぁ」

「だって、特許料が定期的に入ってくるのが決まったし、印税やら入ってくるのは間違いないし。なにもしないと税金取られるだけだし」

「そ、そうですよねぇ」

 彼がため息をついた。

 なにごとも、知らないことに手を出すのは億劫なものだ。


「先に俺がやるから、解らんことがあったら聞いてくれ」

「お願いします」

「面倒なら、いっそ雑用をやってくれるようなマネージャーを雇うとか」

「そういう手もありますねぇ」

「経理などができる女性と結婚するという手もあるが」

「そのために結婚するんですか?」

「秘書とかマネージャーとして雇った女性とくっつくのは、よくある話だ」

「……」

 彼が微妙な顔をしている。


「なんだその顔。君のお父さんが、会社の女性に手を出したとかそういうのがあったのか?」

「な、なんで解るんですか?」

「まぁ、よくある話だし」

「う~、なんか篠原さんが怖くなりますよ」

「そんなことないだろ。世の中のそこら辺によく転がっている話だし」

「そ、そうですかぁ?」

「君が知らないだけだぞ? 世の中ってのは汚くて黒くて、ドロドロしたヘドロみたいなもんだし」

「……」

 平成令和だと、ネットのまとめ記事でいくらでもそういう話が転がっていたからな。

 当然、作り話も多いだろうが、この時代の一般人よりかなり耳年増なのは否めないか。


「事実は小説より奇なりって言うが、現実は人が想像するより遥か斜め上をいくからな――ははは」

「あ、その言葉いいですねぇ」

「事実は小説より奇なりか? イギリスの詩人の言葉だな」

「へ~」

 彼が部屋に戻ると、ノートにメモをしている。

 この時代に、この言葉はあまり一般的ではなかったのかな?

 こういう言葉が漫画で使われたりすると、それで広まるんだよなぁ。

 平成令和は、ネットでミームが広まったが。


 あ、そうだ。

 風呂で「カポーン」という音は、某女性漫画家が使ったのが最初って話だったが、ムサシの風呂場で出せば、八重樫君が元祖ってことになるな。


「司法書士と税理士は大家さんから紹介してもらった所を使うから、君も紹介してもらえばいい」

「大家さんの紹介なら安心ですね」

「はは、そうだな。それにしても、このアパートから3人も高額納税者が誕生か。いや、ヒカルコもいるから4人か?」

「凄いですよね、あはは」

 逆に、踏み込んでくる国税は楽かもしれん。

 あ、こっちもついでにやっとくか~みたいな感じでな。

 洒落にならん。


 会社を作ったりなど忙しいが、彼とのネタの打ち合わせは済んでいる。

 すでにネームに入っている段階だ。

 今回は締め切りが早まってしまい先生も大変だったようだ。


 八重樫君と別れると、国鉄の駅前にある銀行に向かう。

 ヒカルコもついて来るというので、一緒に路地を歩く。


 脇にはいつものカバンと、中には銀行の通帳。

 会社の口座を作ったら、俺の口座から会社の資本金を振り込む必要がある。

 金が入ったら、その金はもう会社のものだ。

 入れたり出したりするのにも、ちゃんとした理由が必要になるし、好き勝手はできない。

 勝手に使ったら横領だし。

 まぁ、建前はそうなのだが、個人会社だとテキトーだよな。


 せっかく銀行に行くんだ、住宅ローンのことも聞いてみるか。

 特許の書類と、サントクから送られてきた特許料振り込みの明細票をカバンに入れた。

 これらが、俺の会社の定期的な収入を証明してくれる。

 まだ、一ヶ月目だから、もうなん回か振り込まれたあとのほうがいいかもしれないが。

 聞くだけ聞いてみようと思う。

 相談はタダだからな。


 空は秋晴れでいい天気だ。

 涼しくなったし、いい季節になった。

 また写真の現像でもするかな?

 暑いと反応があっという間に進んでしまい、失敗しまくるから止めていた。

 現像していないフィルムが結構ある。

 いや、法人化の問題のほうが先か。

 最近はヤベー写真も撮ってないし、それならカメラ屋に出してもいいからな。


 商店街を歩いていると、店先に今まで見かけなかった白い箱が置いてあるのを見つけた。

 これは懐かしい、頭に噴水がついているジュースの自販機だ。

 自販機を作ったけど、まったく売れなくて噴水をつけたらヒットしたという有名なやつだな。

 その噴水を、ヒカルコがジ~ッと見つめている。


「はは、飲みたいのか?」

「噴水がついているなんて変わってる……」

 ジュースが飲みたいのかと思ったら、そうでもないらしい。


「瓶や、粉のジュースを買ったほうが安いし」

「そりゃそうだが、お前は金を持っているだろ?」

「関係ない」

 自分の選択に、金のあるなしは関係ないようだ。

 金があっても無駄使いをするつもりはないということだろう。

 つい無駄使いをしてしまう俺とは正反対だな。


 商店街を抜けて大通りに出た。

 駅前のアーケードから続く建築中の大規模商業施設は、すでにかなりでき上がっていた。

 上を見上げると、デカいなぁ――と思う。

 ちまちまとした商店街ばっかりじゃ国民の暮らしはよくならないと、こういう大規模商業施設が計画されたようだな。

 つまり、商業の近代化の一端だったと。

 まぁ、結果的には、ホムセンのような店ができて、そこに行けばなんでも揃うようになったのだが、便利になったといえばそうだ。


 駅前に到着したので、銀行に入る。

 預金の窓口ではなく口座開設の窓口に向かう。

 ここは整理券を取らなくてもいいようだ。


「いらっしゃいませ」

 紺色の制服を着た女性行員が笑顔で迎えてくれた。


「口座を作りたいんだが」

「はい、ありがとうございます」

 丸い椅子に座るが、ヒカルコは俺の後ろに立っている。


「今度、会社を始めることになってね。会社の口座を作りたいんだよ」

「普通口座ですか?」

 別に手形などを振り出す予定はないので、当座じゃなくてOK。


「ああ」

「それでは、こちらにご記入をお願いできますか?」

 渡された書類に、会社名やら住所やらを書き込んで渡す。

 持ってきた会社の代表者印も押した。


「篠原未来科学……」

 書類を見た行員が訝しげな顔をしている。


「なにか、問題でも?」

「い、いいえ……」

 なにか不満があるなら聞こうじゃないか――と、言いそうになったが、止めておく。

 書類を奥に持っていくと、なにやら色々とやっている。

 名前などに問題はないはずだ。

 この時代、偽名でも口座を作れたぐらいだからな。


「ほら、やっぱり変な会社名だから」

「そんなことはないだろ」

 俺のつけた社名に、ヒカルコも不満があるようだ。

 そんなにおかしくはないと思うがなぁ。

 本当は、光子力研究所とかしようと思っていたのは内緒だ。

 それに比べたら、まだ普通だと思うのだが。


 ヒカルコと話していると、行員が通帳を持ってきた。


「こちらになります」

「ありがとう」

 口座はできたので、次は俺の口座に入っている金を会社の口座に移さないと駄目だ。

 窓口で整理券を取って待つ。


「おまたせいたしました」

 順番がきたので、俺は通帳を2枚出した。


「さっき会社の口座を作ったばかりなんだが、こっちの個人名義の口座から会社の口座のほうへ、50万円移してくれ」

「かしこまりました」

「それから会社の口座の預金証書がほしい」

「承知いたしました」

 手続きが終わる。

 会社の通帳をみると、確かに50万円が入金されている。

 証書ももらったのだが、行員の上司らしい男が窓口にやって来た。


「お客様、会社を始められるということで、今後ともよろしくお願いいたします。出金の金額が大きくなるときには、予め電話などでご予約をお願いいたします」

「金庫の中の現金が足りないときがあるんだろ?」

「はい、そのとおりです」

「それでは、連絡を入れてから来ますから」

 ウチが上客だと解れば、銀行から行員がウチに来てくれる。

 それが上級国民ってやつよ。


「お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします」

 これで終わりではない。

 次は融資部門にも行く。

 会社の経費で住宅を買ってローンが組めるかの相談だ。


「いらっしゃいませ~」

 こちらの窓口も女性行員だ。


「こんにちは――いや、まだおはようございますかな」

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

 俺はカバンから爪切りや特許の書類を取り出した。


「私、今度会社を設立しようとしているんですよ」

「当銀行とのおつき合いをよろしくお願いいたします」

「それで、こういう特許を扱っている会社でして――」

 爪切りやら、持っている特許のこと、定期的に収入があることを説明した。

 もちろん、俺名義になっている特許も、全て篠原未来科学名義に変更する。


「はい、それでどのようなご相談なのでしょうか?」

「この特許を担保にして、お金って借りられたりします? たとえば、不動産の購入資金とか――」

「……少々お待ち下さい」

 行員が席を立った。

 自分では判断がつかないと思ったのだろう。

 後ろの席に座っていた、上司らしき男性にお伺いを立てている。


 その男性が立つと窓口までやって来た。

 ちょっとグレーの頭をした50代の男だ。


「本日は、ありがとうございます。ご相談の件ですが、可能ではあるのですが――」

「まぁ、確かに特許料が振り込まれたのは、まだ一回だからね」

「そのとおりです」

 要は実績がないということなんだろう。

 それは当たり前だし、俺もこの場でローンを組もうとは思っていない。

 特許が担保になると解っただけでも収入だ。


「あの~不動産の購入を検討されているとお聞きしましたが、ちなみにどこらへんでしょう?」

 俺はあの白い屋敷の住所を伝えた。


「あ……」

 男の顔色が変わる。


「夜逃げした家が売りに出されているんだけど、もしかしてこの銀行が関わってた?」

「ははは……」

 男が顔を引きつらせて、苦笑いをしている。

 口には出さないが、顔に出ているんだよなぁ。

 まぁ、こういうことがあるから、銀行屋は傾き始めた会社には冷たい。

 不良債権に関わってたりしたら出世に響くしな。

 彼らも商売でやっているので、それは致し方ないことだろう。


 とりあえず、物件の値段を聞いてみる――650万円らしい。

 この時代土地はまだ安いから、令和なら土地だけで軽く2億円ぐらいになる物件だろうな。


「聞きたいことは聞けたので、ありがとうございました」

 俺は席を立った。


「今後とも、当行をよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

 まぁ、会社をやるとなると、どうしても銀行とのつき合いが必要になる。

 個人的にはあまりいい思い出がないのだが。

 すべてネットでできるようになり、窓口に行かなくても済むようになってせいせいしていたのに。

 諦めよう、仕方ない。


「終わった?」

「銀行は終わったが、書類を持って司法書士の所に行かないと駄目だ」

「……やっぱり、私には絶対に無理」

 そんなことを言ってもな。

 稼げるようになったのに、法人化しなけりゃ税金を取られるだけだ。

 まぁ、納税は国民の義務だから、いくらでも納税します――という奇特な人なら止めはせん。

 残念ながら、俺は違う。


 せっかくここまで来たので、美味いコーヒーが飲みたくなった。

 いつも行っているクラシック喫茶に向かう。

 真っ暗な店に入ると、いつものようにコーヒーを頼んで、適当な席に座った。


「やれやれ、会社を起こすとなるとやることが山積みだな」

「うん」

「矢沢さんは解らんが、八重樫君は確実にやらないと駄目だと思うが……大丈夫か?」

「う~ん、わからないけど、彼は意外としっかりしているから……」

 そうそう、頼りなさそうに見えて、やることはやるんだよな。

 大きな会社の息子であり、あのお姉さんの弟だ。

 能力はあるんだろう。

 頭もいいしな。

 まぁ、放置して税金をがっぽりと取られたら、嫌でも解ると思うが。


 暗い店の中でコーヒーをすすりながら、ヒカルコと話していたのだが――暗闇からいきなり腕を掴まれた。


「うわぁぁぁん!」

「うわ!」

 突然のできごとに思わず飛び上がった。

 俺の腕を捕まえたのは、髪の長いデニムを履いた五◯真弓みたいな女。


「あ?! お前、モモとかいう女」

「百田だよぉ……うえぇぇん」

 しばらく会ってなかった、美人局つつもたせの女だ。

 以前に男と歩いていたから、そいつに押しつけて、俺との縁は切れたと思ったのに……。


「お前、前に男と歩いてただろ? あいつはどうした?」

「お金を貸したら……逃げられた」

「ははは」

「笑うなよぉ!」

「お前も、男を見る目がねぇなぁ……」

「だれ?」

 突然現れた女に、ヒカルコが不機嫌そうだ。


「ちょっとした知り合いだ。そうだな――お前の元同業だ」

「ああ……」

 彼女が白い目をした。


「うわぁぁん」

「うぜぇ! ほら、5000円やるから、大人しくしろ」

 俺は財布から札を出すと、彼女に握らせた。


「ううう」

「まだ、あそこに住んでいるんだろ? 仕事は行ってるか? 今日は平日なんだが?」

「……」

「なんで黙るんだよ」

 俺は女の頭に思い切りチョップを入れた。


「ふぎゃ!」

「ばかやろう! 父ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ!」

「お父ちゃんじゃないし」

 俺は再び、女の頭にチョップを入れた。


「ふぎゃ!」

 話を聞けば、生活に困って大家さんにお金を借りたり、家賃を滞納しているらしい。


「なんで、たった1年でそこまで落ちるんだよ!」

「だってだって……」

「だってもクソもねぇんだよ。あそこが駄目なら、赤線にでも行けって話だったろ?」

「ううう……」

「バカじゃねぇの? バカだろ?!」

 だいじなことなので2回言いました。

 本当に男を見る目がねぇな。

 大学入ってるんだから、それなりの頭は持ってるはずなのに。


「ヒカルコ、出るぞ」

「……うん」

「オラ、来い」

 女を連れて外に出た。


「大家さんからいくら借りてる?」

「1万円……」

 そう言った女は、下を向いて意気消沈している。

 自分でもバカなのは自覚しているのだろう。


「行くぞ」

「……どこへ?」

「大家さんの所に決まってるだろ」

「……は、はい」

「ヒカルコ、先に帰っててもいいぞ」

「一緒に行く」

「行くのは、俺たちが住んでたあのアパートだぞ?」

「あそこ?」

「ああ、行く場所がないって話だったから、あそこに入れたんだ。ちょうどお前が住んでた部屋に、こいつが住んでる」

「……」

 ヒカルコが複雑な表情をしている。

 境遇がほぼ同じなので、助けるなとも言いづらいのだろう。


「それから、アパートを引き払う用意をしろ。金は出してやる」

「ど、どこに連れて行くんだよぉ……」

「ウチの近所だ。探せばアパートぐらいあるだろう。とりあえず、ウチの周りの雑用をやらせる。別にやりたくないなら、今のままでもいいぞ。どこにでも行け。俺は止めはせん」

「……わかったよぅ」

「とりあえず、管理能力がゼロな、馬鹿なのが解ったからな」

 俺も会社を始めるし、八重樫君も雑用係がほしいだろう。

 その役にいいかもしれない。

 それなりの頭はあるはずだし。


 こいつは百田って名前だから、モモでいいだろう。

 覚えやすいし。

 途中の店で茶封筒を買い、モモを連れて懐かしい木造アパートにやって来た。


「また、ここに来る羽目になるとはなぁ……」

 俺は大家さんの部屋の戸をノックした。


「すみません~、こんにちは」

「は~い、あら」

 ズボンにシャツの男が顔を出した。

 さすがに涼しくなったので、ステテコではないらしい。


「どうも、お久しぶりです」

「え~と、篠原さんね――あら、寺島さんも一緒」

「はい――え~、こいつのことで」

 俺の後ろで小さくなっているモモを指した。


「百田さんがなにか?」

「こいつが、大家さんからお金を借りていたでしょ?」

「はいはい」

「ありがとうございました」

 俺は封筒に入れた1万1000円を彼に手渡した。


「篠原さんからいただいていいの?」

「大家さん、まだ借金とか、借りてるものとかありませんか?」

「え~、布団だけだと思うけど……あ、今月の家賃は大丈夫?」

「……」

 モモが下を向いている。

 どうやら、有り金全部を男にやってしまったようだ。

 すぐに倍にして返す――などと言うセリフを真に受けたのだろうか。

 そんなことができるのは、この世界のインチキを知っている俺ぐらいのもんだ。


「どうも仕事も行ってないようなので、ここも引き払わせて、こいつは私の近くに置きます」

「あ~、そうなんだ……そのほうがいいかもしれないねぇ」

 大家さんもちょっと諦め顔をしている。

 彼としても、家賃を溜めたあげく、夜逃げなどされたら困るのだろう。

 引き止める素振りも見せないから、勤務態度などもよくなかったのに違いない。


 今月分の家賃も、俺の財布から出して彼に支払った。

 こういう金は俺の使えない金から出せばいい。

 モモを社員にすれば、部屋を借りたりしても福利厚生費で落ちるしな。


「大家さん、今月一杯でこいつの部屋は引き払いますので」

「そう、残念ねぇ」

「迎えに来るから、それまでに荷造りしておけよ。それまでの生活やら、必要なものはさっき渡した金でなんとかなるだろ?」

「わ、わかったよう……」

 随分と素直になったな。


「嫌なら逃げてもいいからな。俺はもう助けねぇぞ?」

「ちゃんと引っ越しの用意をするから……」

 大家さん的にも問題なさそうだし。

 なんとかなるだろ。


 大家さんに挨拶をして、俺は懐かしいアパートを離れた。


「彼女を、どこに連れていくの?」

「ウチの大家さんに聞いてみるか。不動産屋の爺さんにも聞いてみて、部屋がなかったら、見つかるまで俺の秘密基地に置いておく」

「……」

 ヒカルコは、明らかに不満げな顔をしている。


「お前は反対か」

「は、反対じゃないけど……」

「あいつも親に勘当された口だからな。もう行く所がねぇはず」

 だったら、あそこで黙って働いてろって話なんだよな。

 まぁ、いい男を捕まえたとか、舞い上がったんだろう。


「はぁ~、なんで俺が……」

 俺は深いため息をついてしまった。


 役に立つかなぁ。

 たてばいいのだが。



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