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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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86話 お誕生日


 しばらく競馬をやっていなかったが、シンシンザンのオッズが美味しいレースがあったので、賭けてみた。

 当然、的中。

 また、使えない金が増えてしまったが、ないよりはあったほうがいい。


 その数日あと、コノミの初めての学芸会。

 人前で劇をするのも初めてだったろうが、上手くこなしたようだ。

 本人は恥ずかしがっていたがな。


 カメラ屋に頼んだ学芸会の写真が上がってきたのだが、劇で動いてなかったコノミの写真は普通に撮れていた。

 遊戯をしていた野村さんの写真は――ギリギリセーフ。

 まぁ、思い出にはなるだろう。


 ウチに野村さんが遊びにやってきたので、写真をプレゼントした。

 鈴木さんも一緒だ。

 コノミは、相変わらず俺の膝の上。

 そろそろ止めたら? ――俺の声にも、耳を傾けない。

 まぁ、別に悪いことじゃないけどなぁ。

 普通は年ごろになると、親に甘えるのは恥ずかしいし格好悪いと、イキがって見せたりするもんだが。


 ただ、俺やヒカルコは本当の親じゃないからなぁ。

 それに当てはまらないのかもしれないが……。


「……」

 写真をもらった野村さんが顔を赤くしている。


「スカートで踊っていて可愛いよね」

「コクコク」

 一緒に写真を見ていたヒカルコもうなずいている。


「……ううう」

 遊戯で恥ずかしくて、写真で恥ずかしくて、恥ずかしさの二乗といった感じだろうか。


「鈴木さんは、ごめんね。学年が違うから撮れなくて」

「いいえ、しょうがないです」

「あ、でも、鈴木さんのお父さんに会ったよ。鉄道会社に勤めているんだってね」

「はい」

「電車は日曜日も動いているからなぁ……それじゃ、日曜日に仕事があっても仕方ないねぇ」

「……」

 子ども的には、日曜日には相手にしてもらいたいんだろうなぁ。

 コノミはずっと寂しい思いをしてきたが、その点に関しては今は恵まれているのかもしれない。


「鈴木さんと野村さん、11月16日は、コノミの誕生日だから来てくれよな」

 彼女の本当の誕生日は不明だ。

 なにせ出生届も出されておらず、戸籍もなかったのだから。

 コノミの戸籍を作ったときに、俺と出会った日を誕生日にした。

 彼女にも、そのことは話してある。


 なにかの手続きの際、生年月日ってのはどうしても必要だ。

 大人になったら誕生日なんてどうでもよくなってしまうが、子どもの頃には大切なイベント。

 友だちを集めて誕生日会はやらないでも、身内でのお祝いはするべきだろう。

 こどもも、それを楽しみにしているし。


「はい」「……」

 鈴木さんは、すぐに返事をしたのだが、野村さんはなにかモジモジしている。

 彼女の様子で俺は察した。

 誕生日となると、なにかプレゼントを贈らないと駄目だと思っているのかもしれない。


「ああ、お誕生日会とかじゃないから、プレゼントとかいらないぞ? 仲のいい子で集まってケーキを食うだけだ」

 このアパートじゃ、友だちが沢山やってきても、ぎゅうぎゅうになってしまう。

 いつものメンツでこじんまりやったほうがいいだろう。

 裏技で、大家さんちの部屋を借りるという手もあるが……彼女は貸してくれると思うが、あまりにも厚かましいだろう。

 まぁ、ここは自重だ。


「で、でも……」

「いいから、ケーキだけ食べに来なよ」

「……」

 お小遣いをもらっていなくて、プレゼントなんて買えない子もいるだろう。

 べつに、プレゼントイコール買うものってわけじゃないんだが、手作りだって材料費がいるわけで。

 まぁ、無理に参加させるのも酷だ。

 集まらなかったら、身内でやるだけだし。


 ――その夜、高坂さんと相原さんがやってきた。

 彼女から本をもらったコノミは、早速読み始めた。


 コミックスに使う表紙の原稿などを取りにきたようだ。

 ムサシのお陰で、月刊誌の部数も伸びている。

 これが一時的なものなのか継続的なものなのか、小中学館の経営陣は判断しあぐねているらしい。

 なにせ前代未聞の事態なのだ。

 彼らにとってはなんにせよ発行部数が増えるのは喜ばしいことだろうが、ずっと部数が増えたままだと、少々問題が出てくる。


 部数が多いと印刷に時間がかかるのだ。

 そうなると、原稿の締切も当然早まる。

 まぁ、雑誌発売の1ヶ月前に締め切りになっても、手前に徐々にスライドするだけだが。


 高坂さんから、単行本の表紙の原稿を見せてもらった。

 ムサシの前に、銃を構えた格好いい主人公と、ちょっとエロくて可愛いヒロインがいる構図。

 いいじゃないか。

 この時代、雑誌専門のデザイナーなどはいなかったので、デザインなどは全部編集部でやっている。

 ムサシのロゴのデザインは、八重樫君が原稿に直描きだ。

 あとからはめ込むなんてできない。


「いいですねぇ、実に売れそう」

「注文は入っているようですから、売れると思いますよ」

 相原さんから説明を受ける。

 高坂さんに聞くより、彼女に聞いたほうが早い。


 初版は30万部だが、本当に捌けそうだし、もしかしたら重版もあるかもしれない。

 それどころか未来まで延々と何十版も刷られる可能性だってある。

 たとえば、青い猫型ロボットの漫画のように。


「地元の本屋にも聞いてみましたが、結構注文を入れているようでした」

「そうなんですか、ありがとうございます」

「雑誌の追加注文を入れたとか、前代未聞だと笑ってましたけど」

「いやぁもう、本当ですよ。編集部でも聞いたことがないと言ってました」

「ははは――まぁ、すごく売れたから、他の出版社も真似て出してくるでしょうねぇ」

「はい、多分」

 帝塚先生とか、真っ先にやりそうだ。


「あ、そうそう。話は変わりますが、16日は、コノミの誕生日なんですよ」

「え? そうなんですか?」

「はい、でも――誕生日会でお友だちが集まるんですが、昼なんですよねぇ」

「16日ですね! ケーキを持って昼に来ます!」

「ええ?!」

 彼女が気合を入れている。

 本当に来るようだ。

 忙しい人なのに……。


「え? そんな無理しなくても」

「いいえ! 来ます!」

 いや、ケーキの手配をどうしようかと考えていたから、ありがたいけど……。

 彼女が持ってくるのは、いつものケーキだろうから、味は保証されている。

 駅前の商店街で新しい店に頼んだりして、不味かったら目も当てられない。


 ――相原さんがやってきた数日あと。

 コノミを学校に送り出すと、アパートの前に車が止まった。

 窓から覗くと、見覚えがある白い車。

 以前にやって来た、乳酸菌飲料メーカーの車だと思われる。

 プラスチックのボトルに銀紙の蓋をする特許の件だ。

 彼らは特許の買い取りを希望していたが、どう考えても普通にパテント料をもらったほうがお得だ。

 車から3人の男たちが降りてきた。


「ヒカルコ、お客様だ」

「うん」

 彼女がお茶の準備を始めた。

 ポットのお湯はまだ温かいので、すぐに用意できるだろう。

 会議を開いて、やっと結論が出たのだろうか?

 昭和の時代は社長の鶴の一声で決まるものだと思っていたが、そうじゃない場合もあるんだな。

 ――などと考えていると、戸がノックされた。


「は~い」

 戸を開けると3人の男が顔を出した。


「ご契約の件で、参りました」

「どうぞ、お入りください」

 彼らを招き入れて、座布団とお茶を出す。


「よろしくお願いいたします」

 座布団に座った男たちが頭を下げた。


「社長さんの鶴の一声ですぐに決まるかと思ったら、結論が出るまで結構時間がかかったみたいですね」

「いやぁ……はは」

 先頭にいる初老の男が汗を拭いている。

 まぁ、こんな嫌味を言う必要もないのだが……。


『なんで、こんな男に特許を取られているんだ!』

『お前らがもたもたしているからだ!』

『この男が持っている特許を避けて、なんとか商品化できないのか?!』

『足元を見おって! 忌々しい男だ!』

 ――などと、揉めたのかもしれない。

 あくまで想像だけど。


「それでどうなりましたでしょうか?」

「はい、え~と、それがですねぇ……」

 彼から詳しい説明を受ける。

 今度は販売数やら原価やら詳しい資料つきだ。

 ちゃぶ台の上に紙が並べられた。


「ふむふむ……」

「こんな具合でして、2%だと弊社としても大変厳しい条件となりまして……」

「それじゃ――1.5%では?」

「せめて……0.75%ぐらいになりませんかねぇ」

「う~ん」

 あ~だこ~だ話して結局1%になった。

 多分、そのぐらいならOKを出してもいいと、言われて来たのだろう。


「では、この条件で契約をするということで」

「ありがとうございます」

 彼らの顔を見ると、ほっとした表情にも見えるが、だいぶ疲れているようだ。

 やっぱり社内で揉めたのだろう。


 あんまりゴネて、面倒なことになると大変だ。

 相手は大手なので、あまり無茶なことをしないとは思うが――。

 たとえば、ヒカルコやコノミを人質に取って譲歩を迫るとかな。

 いや、ちょっと小説脳すぎるかとも思うが、ここは昭和だ。

 そんなことがないとも限らんし。


 それに1%といっても、あの乳酸飲料は1日に数百万本も売れる。

 たとえば1本5円だと卸値で約2.5円、200万本としても――0.025円✕200万本=5万円。

 これは1日だからな。

 30日で150万円、1年なら1800万円で、令和だと1.5億円以上の金が黙って入ってくるわけだ。

 ひゃっほう! サントクさんには悪いが、爪切りより金になるな。

 やっぱり安くても大量に売れるものは強い。


 ちゃぶ台の上に契約書が置かれた。

 よく読む――特許料は売上の1%で契約から20年間。

 四半期ごとに精算。


 あのプラ容器で発売されるのは、もう少しあとになるみたいだが、企業としては早めに契約したほうが得だろう。

 2年あとに発売になれば、契約から18年分のパテント料を払えばいいのだから。

 2年分お得だが、そのことでも揉めたのではないだろうか?

 数年あとに発売する商品の特許を今から契約する必要があるのか? 

 ――みたいな話も出たかもしれん。


 まぁ、なにはともあれ契約してしまったし、あのプラ容器+銀紙の蓋で発売されるのは未来で決まっている。

 これで、大ヒットする乳飲料の上前をはねることができるわけだ。

 史実にはなかったことだが――たった1%だし、これでこの会社が傾くようなこともないだろう。


「はい、確認いたしました」

 俺は名前を書くと、実印を出して押した。

 これで契約完了。

 サントクに続き、2件目の特許契約ゲットだな。


 これはサントクの爪切りのように営業する必要もない。

 黙っていれば20年間――いや18年にわたり金が入ってくる。

 これでまた一歩野望に近づいた。


 契約書を持ったスーツの男たちは、お茶にも口をつけずに、急いで帰っていった。


 ――銀紙の蓋の特許契約にハンコを押した次の日。

 コノミを学校に送り出すと、郵便配達がやってきた。


「篠原さ~ん、書留です~」

「はい、ご苦労さま」

 差し出し人を見ると――サントクだった。

 とりあえず、中身を見ることにした。


「なに?」

 ヒカルコも一緒に見ている。


「明細――だな」

 6月と、7~9月のパテント料が振り込まれたようだ。

 四半期ごとの精算だったのだが、6月だけ半端になっている。


 それによると、約50万個もあの爪切りが売れたらしい。

 1個65円の爪切りだが、普通に問屋に卸したら32.5円。

 駅前などでゲリラ販売した分は、直販なのでそのまま利益になっている。

 直販分は約6万個みたいだな。


 1ヶ月10万個とすれば、1日3333個か。

 生産が間に合わないと言っていたから、今のところは、そのぐらいの数でいっぱいなのだろう。

 手で組み立てたりしているのかもしれないし。


 パテント料は最初は3%の予定だったが、サントクの社長さんの厚意で5%になっている。

 直販分は65円の5%で3.25円、それが約6万個売れて、約20万円。

 問屋に卸した分は、32.5円の5%で約44万個の売上が、約72万円。

 合わせて約92万円の収入だった。


 たった92万円というなかれ。

 平成令和なら900万円オーバーの収入なのだ。

 それに手紙によるとさらに増産しているらしい。

 そういえば、広告の話をしたときにも増産しまくっていると言っていた。


 しばらくは沢山売れるだろうが、いずれ落ち着くだろう。

 それでも爪切りというのは定番商品だ。

 ずっとある程度の数が売れ続ける。

 それに、あの乳酸飲料の特許もあるしな。

 これで、働かずして金を生み続けるスキームができたってわけだ。


 年収も100万円の大台に簡単に乗った。

 つまり元時代でいうところの年収1千万円の壁を超えるだろう。

 こりゃ税金がヤバいことになる。

 来年には、ムサシの印税の分前やら、レコードの印税も入ってくるわけだし。

 そうそう、矢沢さんの単行本だって出るかもしれんしな。

 早々に法人化しなけりゃ……。


 ――とはいえ、前につき合っていたあの弁護士は少々怪しい。

 前のアパートの大家さん共々、色々と世話にはなったが、そろそろつき合いそのものを考えるべきだろう。

 法人化で司法書士などを頼みたいが、サントクさんの知り合いを紹介してもらえないだろうか。

 お願いしてみるか……。


「ヒカルコ、ちょっと銀行に通帳記入しに行ってくる」

「私も行く!」

 彼女も通帳記入するようだ。

 連載を持っているから、順調に金は入ってきているようだな。

 ――とはいえ、ヒカルコが金を使っているのは、自分の本やコノミの服だけだし。

 その他は全部俺が出してる。


 2人で駅前の銀行に行くと、通帳記入を頼む。

 ATMなんてないので、全部窓口でやってもらうことになる。

 つくづく、ATMってのは便利な代物だったんだなぁ――と、思う。


「……ヒカルコ、俺はちょっと神田に行きたいんだが……」

「私も行く!」

「そうか、コノミに渡す誕生日プレゼントの本が欲しいんだが、いつもの本屋だとあまり面白い本がないんだよなぁ」

「あそこで沢山買ってるから」

「はは、そうだな」

 面白そうな本は、ほぼ買い尽くしてしまった感がある。

 神田まで行けば、普段見ないような本があるのではないだろうか。

 俺はそう思ったわけだ。


 ヒカルコと一緒に国鉄駅から電車に乗ると、水道橋に向かう。

 到着した俺たちは、歩きながら本屋を探し、面白そうな本を物色した。


「沢山買うと、持って帰るのが大変」

「ああ、帰りはタクシーを使おうぜ」

「贅沢」

 そう言ってる彼女だが、反対ではないようだ。

 2人で本屋を見つけると入ってみる――とはいえ、コノミに贈る本なので古本ではない。

 純文学が好きなやつなら、珍しい古本などに興味があるだろうが、コノミは子どもだ。


 ヒカルコは、あれこれと古本を買い込んでいる。


「それは、コノミ用じゃないんだろ?」

「うん」

 コノミには、新しい服を贈るようだ。

 ヒカルコは、野村さんも可愛い格好をさせていじりたいようだが、それは止めておけと言ってある。

 野村さんの親からしたら、あまり面白くはないだろう。

 俺が動物園に連れていったのだって、ギリギリって感じだ。


 買い物をした俺たちは、いつもケーキを買っている喫茶店でサンドイッチを摘み、コーヒーを飲む。


「あ! 篠原さん!」

 名前を呼ばれてそちらを向くと、相原さんがいた。


「む……」

 ちょっとヒカルコが不機嫌になるが、彼女はおさげの女の子を連れている。

 若々しいその子もおそらくは漫画家の卵なのだろう。

 軽く挨拶をすると、敏腕編集者は席について女の子と打ち合わせを始めた。

 それを見て、ヒカルコの機嫌も治ったようだ。


 そのあとは、本を抱えてタクシーで自宅まで帰った。


 ――神田で買い物をした数日あと。

 今日は、コノミの誕生日。

 子どもたちの学校が終わる1時間ほど前に、相原さんがケーキを持ってやってきた。

 本当にやって来るとは――いや、ケーキを持ってきてくれるという話だったので、来てくれないと俺が困るのだが。


 彼女を当てにして、俺もケーキの準備をしていないわけだし。


「相原さん、お仕事は大丈夫なんですか?」

「はい、数時間なら大丈夫ですよ」

 そんな数時間の隙間を縫って――と思うのだが、彼女にとっては、そのぐらい重要なことなのだろう。

 彼女曰くエネルギー補充の為の重要な時間らしい。

 相原さんの行動に関しては、俺があれこれ言える立場にないから、黙って見守るしかない。

 身体を壊したりしなければいいのだが。


 コノミたちを待っている時間ももったいないので矢沢さんを呼んで仕事の打ち合わせをする。

 今描いている原稿の進行状況の確認などだ。


「順調なようですね。先生、このままお願いいたします」

「解りました!」

 八重樫君のほうは、今日は特にないようだ。

 ムサシの原稿打ち合わせは、夕方に高坂さんがやってくるらしい。

 そう、八重樫君の担当は高坂さんなんだよなぁ。

 つい相原さんだと勘違いしてしまうが。


「相原さん、ムサシの単行本のほうは?」

「すでに印刷に入っておりますから、予定どおりに発売になりますよ」

「これで八重樫先生も、一流作家の仲間入りかぁ」

「いいなぁ」

 思わず、矢沢さんが漏らす。


「それですが先生。先生の単行本も1月に出るのが決定しましたよ」

 今までそういう話があったのだが、確定ではなかったのだ。


「え?! 本当ですか?!」

「はい、ちょっとムサシよりは発行部数が少なくなる予定ですが……」

 ムサシの場合は、実際にシートレコードをおまけにつけた月刊誌が95万部以上売れたのだから。

 ノーマルバージョンを入れたらミリオンだし。

 人気があるのは間違いない。


「ありがとうございます!」

 矢沢さんが頭を下げた。


 ムサシは確実に売れると思われるが、美少女戦士のほうは、どうなるかまったく不明。

 読者に大人が多くて、たくさんのファンレターが送られてくるのは確かだが、実際にどのぐらい売れるのか、見当もつかないのだろう。


 いや、俺だって解らない。

 未来で大ヒットしたネタを使った漫画ではあるが、だからといって売れるという保証がまったくない。

 ただ、漫画がおもしろいのは確かだ。

 初版は少なくても、じりじりと発行部数を伸ばしていくのではないだろうか。


 相原さんと待っていると、コノミが学校から帰ってきた。

 すぐにお友だちもやってくるという。


「コノミちゃ~ん! はぁ~クンカクンカ」

 相原さんがランドセル姿のコノミに抱きついた。


「コノミ、今日のケーキやプレゼントは、お友だちが来てからな」

「うん」

「コノミ! 着替えよう!」

 ヒカルコが新しい洋服を取り出した。

 どこから買ってきたのか、フリルのついたワンピース。


「可愛いけど、学校には着ていけねぇな……」

「パーティードレス!」

 ヒカルコがフンスと鼻を鳴らす。

 自分が主催ならいいけど、お友だちのパーティにこの格好はちょっと……。

 みんながこういう格好ができる世情ならいいけどな。

 まぁ、可愛いから今日はよしとしよう。

 早速コノミが新しい服に着替えた。


「可愛~い! はぁ~コノミちゃん! クンカクンカ」

 また相原さんが、フリル姿のコノミに抱きついた。

 そんなことをやっていると、お友だちがやって来たので、誕生日パーティの始まりだ。

 今日、やって来たのは、いつもの鈴木さんと野村さんの他、3人。

 たまに見る顔だ。

 だいたい、この5人とのつき合いが多いのだろう。

 野村さんも、スカートを穿いてきている。

 やっぱりおしゃれをして来ているらしい。

 こういうところが、やはり女の子だ。


「はぁ~、みんな可愛い!」

「相原さん、ちょっと落ち着いて」

「……おほん! 取り乱しました……」

「今日は、このお姉さんがケーキを用意してくれました~――はい、拍手~!」

「「「わぁ~パチパチ!」」」

 早速ケーキを切り分ける。

 ケーキが全員に行き渡ったところで、誕生日の歌が始まった。

 この時代から、これは歌われていたのか。


 お友だちの心遣いに感謝だが、当のコノミがキョトンとしている。


「ああ、ごめんな。コノミは学校とか行ってなかったから、この歌を聞くのは、多分初めてなんだ」

「あ、そうなんだ……」

 俺の言葉に鈴木さんがつぶやいた。


「みんなは、誕生日の歌って、いつ覚えたの?」

「幼稚園とかのお誕生日会で歌ったり……」

「あ~、そういえば幼稚園とか保育園でやるよなぁ……そうかぁ~」

 コノミに歌の説明をしてあげる。


「……うん、解った」

「コノミが、他の子のお誕生日にお呼ばれしたら、歌ってあげるんだぞ?」

「うん!」

 そう返事をした彼女だが、俺の膝の上に座った。


「コノミ~、お友だちが来てるんだから、膝の上に座るのは止めようぜ?」

「いーやー」

 ことあるごとに言っているのだが、彼女は止めるつもりはないようだ。

 それはそうと、皆でケーキを食べる。

 子どもたちは牛乳を使ったカフェオレ。

 大人たちはコーヒーで食べる。


「やっぱり、このケーキは美味いな」

「うん!」

「ほい、コノミ、お誕生日祝い」

 彼女に本を10冊ほど渡した。


「やった!」

「私は、いつも本を持ってきているから、プレゼントはコレにしました」

 相原さんがコノミに差し出したのは、リボンのついた細長い箱。


「……」

「開けていいわよ、コノミちゃん」

 彼女が箱を開けると、中から出てきたのは万年筆。


「小学生に万年筆はしぶすぎるのでは……」

「そうでしょうか? でも、一生ものですよ」

「え? もしかして、すごく高いものとか……?」

「そうじゃないですけど」

 コノミに使い方を教える。


「でも、それは学校には持っていけないぞ」

「うん」

 万年筆をもらった彼女の反応が気になるが、嬉しそうにしている。


「はい、コノミちゃん!」

 子どもたちのプレゼントはいらないということにしたのだが、鈴木さんは持ってきてくれたようだ。

 彼女のプレゼントは、組紐が使われた栞。

 本を沢山読むコノミにはピッタリのプレゼントだ。


「ありがとう」

 プレゼントをもらったコノミは嬉しそうだが、組紐は手作りっぽい。


「この組紐って、鈴木さんが作ったのかい?」

「はい、お母さんに教えてもらいました」

「へぇ~」

 鈴木さんのプレゼントを見て、他の子たちがちょっと気まずそうだ。


「あ~、いいんだよ。今日はプレゼントはいらないって話だったからね」


 そのあと、無事に誕生日会も終わり、相原さんは急いで会社に帰っていった。

 これでコノミが、また1つ普通の子どもに近づいたってわけだ。


 終わった誕生日会だが、これってやっぱり小学生の行事だよなぁ。

 中学生になったら、やらなかったと思う。

 もしかして俺が呼ばれてないだけか?


 某野球アニメで、主人公が誕生日パーティーだったと思うが――その用意をしたが、誰もやって来ない。

 絶望した主人公が、会場を破壊するという場面を思い浮かべていた。



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