76話 皆で行くか~
久しぶりにサントクを訪れてみた。
社屋が3つに増えて、商品も売れに売れているようだ。
会社が順調そうで、俺も一安心。
貸していた金も無事に回収することができた。
今は大ヒット商品があるが、いずれは頭打ちになる。
そこで、べつの発明品も売り込んでみることにした。
社長さんも新商品の開発に前向きである。
このままサントクが大きくなって、株式上場なんてことになれば――俺がもらった株の価値もうなぎのぼりになる。
社長は信じていないっぽいが、今の勢いからすると、その可能性も十分にある。
そうなれば、俺が持っているサントクの株も化けるってわけだ。
まぁ、実際に株式上場なんてことになれば、増資もすると思うけどな。
サントクは問題ないみたいで、俺も一安心した。
仕事は思いの外順調だが、寂しそうにしているヒカルコを見て、たまには家族サービスをしなくちゃ――と思った。
次の日曜に、上野の動物園に行ってみようかと思う。
俺の提案を聞いて、コノミは非常に喜んでいた。
動物園に行く日を、とても楽しみにしている。
――動物園の話をした次の日。
彼女に学校への連絡帳を持たせたのだが、その返答が来た。
女の子の笛を舐めるとかいう変態行為についてだ。
まぁ、これはどこのクラスでもありそうなネタではある。
俺が小学生の頃も実際にあったし。
コノミは可愛いので、狙われそうではある。
先生からの返信では、クラス会を開いて話し合ったらしい。
当然、女子からは非難轟々。
あたり前○のクラッカーだ。
実際に下手人が上がったわけではないが、クラスの男たちは、かなり格付けが落ちたことだろう。
多分、クラス会などで顔を合わすたびに言われるぞ。
こういう場面でも、絶対に女子から非難を浴びない男の子がいるし、真っ先に標的になるガキもいる。
普段の行いがものをいうのは、間違いない。
「変態事件が解決してよかったな」
「うん」
「まぁ、どこのクラスでもありそうなネタだけどなぁ」
「信じられない!」
ヒカルコがぷりぷり怒っている。
そんなに怒らんでも……ここらへんは、男と女の違いだろうか。
女が男のリコーダーを舐めても、男はそんなに怒らんと思う……怒るか?
そもそも、女はそういうことをしないか。
「美人とか可愛い子のリコーダーは高く売れたりしてな」
「最低!」
ヒカルコが俺を蹴ってくる。
「別に俺がやったわけじゃねぇ」
「ふん!」
心なしか、コノミもドン引きしているような気がする。
とんだ濡れ衣だ。
俺はものには興味はねぇ。
あらぬ疑いをかけられていると、いつもの女の子たちが遊びにやってきた。
1年お姉さんの鈴木さんと、ボーイッシュな野村さんだ。
「はい、いらっしゃ~い」
「「お邪魔しま~す」」
「鈴木さん――学年が違うけど、女子の笛を舐める男子とか出た?」
「コノミちゃんから聞きました! ウチのクラスでもありましたよ! もう最低!」
やっぱり、定番ネタなんだよなぁ。
しかも、この手の変態行為は、女子にはすこぶる評判が悪い。
ちゅ~か、やっぱり4年とか5年あたりの行事なのだろうか。
多分、男とか女とかを意識し始めるからなんだろうなぁ。
そのぐらいまで、体育の着替えとかも一緒だし。
「さて、俺は邪魔にならないように、また秘密基地に避難するかな……」
「あの!」
鈴木さんがなにか用事があるようだ。
「なぁに? 鈴木さん」
「コノミちゃんが、日曜日に動物園に行くって……」
コノミが帰り道で自慢したらしい。
「そうそう、皆で行くんだよ。たまに皆でお出かけもいいかと思ってね」
「「いいなぁ」」
2人の声がハモる。
「鈴木さんも野村さんも、お父さんにどこかに連れていってもらったりはしないのかい?」
「パパは、いつも忙しいし……日曜日も仕事に行ったりとか……」
鈴木さんのお父さんは、モーレツ社員みたいだな。
「うちのお父さんは、休みはお酒飲んで寝てる……」
まぁ、めちゃ働いていたら、日曜日はぐったりってパターンだろ。
それに、この時代は週休二日制じゃないし。
せっかくの休みを、ゆっくりしたいってのは解る。
つ~か、休みに家族サービスするほうが難しいのではないか。
そういう家族を犠牲にしたお父さんの頑張りで、日本は高度成長したわけだし。
「「……」」
2人がしょんぼりしている。
まぁなぁ、可哀想だよなぁ。
「鈴木さん野村さん、親御さんがいいって言うなら、コノミと一緒に動物園に連れていってあげるよ」
「本当ですか?!」「本当?!」
「ああ、コノミもいいよな?」
「いいよ」
「ヒカルコも問題なし?」
「うん」
2人には話して、親御さんの許可を取ってくること――と、いう約束をした。
「動物園の入園料も出してあげるし、ご飯も食べさせてあげるから、なにも持って来なくてもいいよ」
「ありがとう……ございます」「……」
どうも、2人とも親を説得できるのか、自信がないようだ。
でも、金もかからんと解れば、駄目とは言わんだろう。
「あ、そうだ。親御さんに手紙を書いてあげよう。それを見せればいいんじゃない?」
紙を用意して、ヒカルコと一緒に手紙を書く。
同じ文面を2枚書くのは面倒だからな。
一応、費用などは全部俺が持つし、動物園は子どもの情操教育にとてもよい経験だと思います――とか書いておく。
実際にそうだろう。
百聞は一見にしかずっていうしな。
「はい、これを親――お母さんかな――に見せてね」
「解りました」「うん」
やっぱり鈴木さんのほうがしっかりしている印象だな。
しつけも厳しいらしいし。
でも、動物園は社会勉強みたいなものだしなぁ……。
NOとは言わないとは思うが。
――コノミのお友だちに、動物園の提案をした次の日。
部屋にいると、コノミが帰ってきた。
「鈴木さんと野村さん、両方行けるって!」
「動物園にか?」
「うん!」
「お~、よかったなぁ」
反対とかされなかったんだ。
「すぐに、2人とも来るよ」
「そうか」
コノミと待っていると、鈴木さんと野村さんがやってきた。
「はい、いらっしゃ~い」
「「こんにちは~!」」
野村さんはいつものとおりだが、鈴木さんは手紙を持ってきた。
どうやら、お母さんからの返事らしい。
なんと、マメというかクソ真面目というか。
中を読むと、丁寧なお礼の言葉が書いてあった。
達筆過ぎて読めない所があるが。
この時代、文字を書くことが多かったので、やはり字が上手い人が多い。
ヒカルコも中々上手いしな。
俺なんて、途中からワープロになっているからガタガタよ。
それでも昭和に来てから特訓したので、多少はマシになったけどな。
嫌でも手書きしかないし。
会社には和文タイプライターがあるが、あんなの個人じゃ使えない。
「2人とも、お父さんとお母さんに話した?」
「パパにはママから話してもらった……」「私もお母さんから……」
「でも、OKだったんだろ?」
「「うん!」」
2人とも満面の笑みだ。
連れて行くのは、いつも仲良くしてくれている、この2人だ。
他にもなん人か遊びにきてくれている子はいるのだが――コノミがその子たちも動物園に誘ったらしい。
俺としても駄目とは言えないのだが、その子たちは、都合が悪いか親の許可が出ないらしい。
まぁ、親同士のつき合いもないしな。
どこかのオッサンが子どもたちを動物園につれていくと言われても、訝しむ親もいるだろう。
正直、コノミの話を聞いてホッとした。
皆が皆、一緒に行きたいと言われても、ちょいと困るんだよなぁ。
人様の子どもを預かるのは大変だし、なにかあったら責任問題になる。
特に女の子は、怪我でもさせたら大変だ。
面倒を見るにしても2人が限界じゃなかろうか。
そう考えると、40人も50人も子どもを預かっている学校の先生というのは大変な職業だと思う。
コノミ1人に右往左往している俺にゃ、絶対に無理だ。
遊びにやって来た2人は、コノミの図鑑を見て、見たい動物を決めているようだ。
「そういえば、まだパンダはいないよなぁ……」
「パンダ!? パンダってこれ?!」
コノミが俺の言葉に反応して、図鑑のページを見せてくれた。
ヒマラヤの動物たち――みたいなページだ。
彼女が指したページにそれっぽいのが載っているのだが、ぱっと見でちょっと違う。
白と黒の塗りわけも違うような気がするし、イロワケグマ、オオパンダなんて書いてある。
これは和名なのか。
「え~とな、中国にしかいない珍しい熊なんだよ。今は世界中のどこの動物園にもいないのかもしれないなぁ」
「へ~」
パンダイコール可愛いというイメージがあるのだが、この図に載っているパンダは正直可愛くない。
普通の熊にペンキを塗ったようだ。
微妙である。
まぁパンダが来たら大変なことになるが、今の動物園なら混雑はしていないだろう。
「上野動物園といえば、象の花子が有名だよなぁ」
「私も知っている」
ヒカルコも知っているようだが、子どもに聞かせるような話でもないので、止めておく。
せっかく楽しみにしているのに、暗い話を聞かせることもないだろうし。
女の子同士、みんなワイワイやっていて楽しそうなので、俺は秘密基地に避難することにした。
カラーフィルム多めに買っておいてよかったな。
みんなの写真も撮ってあげないと。
けど、あとでまた揉めそうだけど……。
しょうがないじゃん。
友だち全員は連れていけないしな。
――その夜、相原さんがやって来た。
「コノミちゃん! こんばんは~!」
「こんばんは!」
「はぁ~コノミちゃん! クンカクンカ!」
相原さんがコノミに抱きついて、エネルギー補給をしている。
男がやったら、間違いなく危ない絵面だ。
「コノミね~、日曜日に皆で動物園に行くんだよ」
「本当?! いいなぁ~私も行きたいなぁ」
「お姉ちゃんも行く?」
「行く!」
ヒカルコが立ち上がろうとしたので、抑える。
「ちょっとちょっと相原さん、大丈夫ですか?」
「なんとかします!」
「行くのはコノミだけじゃなくて、彼女のお友だちも一緒なんですよ」
「前にここで読書感想文の勉強会を開いていた女の子たちですか?」
「そうです」
「楽しみ~」
相原さんがニコニコしているのだが、正反対にむくれているのはヒカルコだ。
「む~」
「コノミがいいって言っちゃってるし、コノミの友だちもいるから、家族団らんってわけでもないだろうし」
「……」
ヒカルコが俺に抱きついてきて、ブーブー言っている。
まぁ、納得はしていないようだ。
「じゃあ、お姉さんが持ってきてくれたケーキを食おうぜ~」
「うん!」
「それじゃ私は、矢沢先生の所に……」
「動物園って、なん時からやっているんだろうなぁ」
「多分、10時……」
ヒカルコがボソリとつぶやいたが、まぁそんな時間だろう。
それに、だいたいの店も、その頃には開いているし。
相原さんは、現地に10時集合ということになった。
現地というのは、当然上野動物園の正門前だ。
上野駅でもいいんだが、駅ってのは出口が色々とあって、よく解らないからな。
それにひきかえ、動物園の正門は一箇所だし。
皆でケーキを食べて、コノミが相原さんからもらった本を読んでいると、パタパタと足音がやってきた。
八重樫君ではない。
2つ聞こえるので、相原さんと矢沢さんだろう。
「篠原さん!」
いきなり戸を開けたのは、やっぱり矢沢さんだ。
「ちょっと矢沢さん!」
相原さんも彼女の行動を咎めている。
「矢沢さん、ノックするとか、確認してな」
「そんなのはいいんです! 日曜に動物園に行くんですか?!」
いや、よくはねぇけど。
「皆で行くよ~」
「私も動物の写生とかしに行きたいです!」
この時代、ネットなどはないから、動物などを調べるためには図書館やら売っている図鑑などが頼り。
経験値を高めるために、動画なども簡単に観ることができない。
動いている動物を見たければ、実物を観るしかないってわけだな。
犬やら猫なら、そこら辺にもいるが、それ以外は動物園にしかいないし。
「あ~、いいんじゃない? 行くときは一緒だけど、動物園に着いたら矢沢さんだけ別行動ってことでしょ?」
「はい」
「まぁ、そのあと、合流できたらするってことでOK?」
「はい!」
彼女がフンスと気合を入れている。
それと対照的に、テンションが下がっているのがヒカルコだ。
ちゃぶ台にうなだれてぐったりしている。
そんなに落ち込むことはないだろう。
「しょうがないじゃん。みんな動物園に行きたいんだよ」
彼女の頭をなでなでしてやる。
「それと! 篠原さんに見せてあげたいものがあるんです!」
「え?! なんだい?」
「これです!」
彼女がちゃぶ台の上に広げたのは――どうやら手紙。
結構な数がある。
「これって、もしかして読者からのお手紙?」
「そうです!」
「俺が読んでもいいのかい?」
「大丈夫ですよ。だって篠原さん、原作者じゃありませんか」
相原さんもOKだと言うのだが……。
「俺は原作者というか、原案だけだよ」
「それでも! 私だけじゃあんなお話を思いつきませんし」
まぁ、そりゃそうだな。
俺も未来に流行ったネタのツギハギだし。
それでも、そのネタを一番最初に考えたやつが一番偉い。
「え?」
その中の1通を開いたのだが、いきなり達筆なんだけど。
どうみても子どもの字じゃねぇし。
「どうしたの?」
ヒカルコが俺の顔を覗き込んでいる。
「いや、漫画のファンレターなのに、いきなり達筆なので驚いた」
達筆すぎて読めねぇぞ。
「あの、セーラー服戦士の読者が、年配の方に多いらしくて……」
相原さんが複雑な顔をしている。
「こんな漫画は子どもにはよくない! ――みたいな話じゃなくて?」
「ああ、中にはそういう方もいらっしゃるのですが、ほとんどが好意的な手紙でして……」
子どもが読んでいたので、隠れて私も読んでみたら、すごく面白くて毎号とても楽しみにしております――みたいなのが多い。
それどころか、「漫画を読んだだけで、すごくドキドキしてしまって」「○○と○○の絡みあるのでしょうか? とても楽しみです」――とか書かれている。
やべー。
「く、腐ってやがる――早すぎたんだ……」
「え? 腐る? 腐るってなんですかぁ?」
矢沢さんが俺のほうを見ている。
「ああ、いいや――こっちの話で、ゲフンゲフン」
そういう概念がなくても、基本的にはそういう需要があるってことだよな。
早すぎるものを持ち込んでしまったかと、思ったんだが――。
いや、古典にもそういう話ってなかったか?
源氏物語にも、そんなネタがあったような……。
南総里見八犬伝も、二次エロパロが沢山作られて、もちろんBLネタも沢山あったらしい。
俺は読んでないから、詳しくは知らんけど。
それはよしとして、これって――。
「相原さん、この手紙から察するに、読者には大人の女性が沢山いるということでしょう?」
「はい、そうだと思います」
「相手が大人なら、単行本を出しても買うんじゃないですか?」
なにせ、この時代の本は高い。
平成令和だと、1冊数千円レベル。
子どものお小遣いじゃ、ちょっと買うのが大変。
そんな本が沢山あるウチは、かなり特殊なので、コノミのお友だちが沢山集まってくるわけだな。
「……私もそう思っていたところです」
「ファンレターも見せて、方向性は間違ってなかったと編集長とも打ち合わせをしたほうがいいかも……」
「はい」
そこに矢沢さんが入ってきた。
「他の雑誌でも、女の子の変身ものが始まったりしているんですよ」
「やっぱり刺激されたかね?」
「そうだと思います」
漫画のネタをかなり早めてしまった感があるが……。
「女性の漫画家って少ないだろう。男の漫画家が上っ面だけを見て描いても、それは似ても似つかないものにしかならんよ」
「そうだと思います!」
「矢沢さん、今の漫画を描いてて、どう? 楽しい?」
「はい! もう、次の話を描きたくて、うずうずしています」
「本当は、それが理想なんだよなぁ」
仕事だからって、やりたくもない話を嫌々描いて、いいものになるはずがない。
男だから描けないというと、ちょいと語弊があるな。
そういうスピリットを持った男性も当然いるのだが、まぁ今の時代では難しいかと思う。
「そうかぁ、このままいけば矢沢さんも単行本デビューか~」
「やったぁ!」
「まだ、喜ぶのは早いぞ~。でも、単行本の印税が入れば、矢沢さんのお母さんにも楽をさせてあげられるな」
「はい!」
彼女の若いキラキラが、オッサンの俺には眩しすぎる。
俺のキラキラは、いったいどこに落っことしてきてしまったんだろうなぁ……。
「相原さんの前で言いにくいが――出版社には気をつけてな」
「なんですか?」
「若いやつが儲けたりすると、高価なものや家を買わせて、借金漬けにしたがるからさ」
「八重樫先生から聞きました! それで出版社に縛り付けたり、仕事をさせるんですよね」
「まぁそういうことだ」
「……」
相原さんが、すごく気まずい顔をしている。
事実だろうし。
「でも、家を買うのはいいと思うよ。どんなときでも住む所があれば困らないからね」
「はい!」
それに土地は財産になるしな。
これからの日本は土地神話で、ドンドン値段が上がる。
今は買い時だ。
「でも、マンションとかは止めときな。あんなの空中権だけだからな」
それに築40年~50年とかたったら、建て替えも視野に入る。
一戸建てなら、最悪土地は残るし。
平成令和ならマンションも手だが、これから土地価格相場が上がる昭和は、やはり一戸建てだろう。
「やっぱり、一戸建てですよねぇ」
「ちょっとまだ気が早いか、はは」
「みんな、篠原さんのおかげです!」
彼女が立ち上がると、俺に抱きついてきた。
「ちょっとちょっと矢沢さん」
「コノミも~!」
コノミも一緒になって抱きついてきた。
「にゃ~!」
変な叫び声を上げているのは、ヒカルコだ。
「にゃ~! にゃ~!」
ヒカルコのマネをして、コノミもにゃ~にゃ~言ってキャッキャしている。
相原さんのほうを見ると、白い視線が……。
いや、なんにもしてねぇし。
ちょっとしたか。
なんとか矢沢さんを引き離し、落ち着かせる。
「どうどう! 矢沢さん、さっきも言ったが、気が早い! 早すぎるよ」
「そんなことないですぅ~」
すぅ~じゃねぇ。
ヒカルコと相原さんに睨まれて、矢沢さんが自分の部屋に戻るようだ。
「それじゃ日曜日ですね」
廊下で皆で話していると、戸が開いた――八重樫君だ。
「どこかに行くんですか?!」
「日曜日にな――コノミを動物園に連れて行こうとしたら、矢沢さんがついてくるって言うんだよ。動物園で写生したいんだってさ」
「ぼ、僕も連れていってくださいよ! 篠原さん、僕のことが嫌いなんですかぁ?!」
なんか、前にもそんなセリフを聞いたような気がするぞ。
「いや、休日の家族団らんなんだよ」
「そう!」
ヒカルコがむくれているのだが、矢沢さんが反論した。
「相原さんだって行くじゃないですか!」
「わ、私は、コノミちゃんと一緒に動物園に行きたいだけだし……」
「――というわけなんだよ、先生」
「それじゃ、僕も行っても問題ないですね」
「そりゃ問題ないけど。矢沢さんは動物の写生をするって話だから、別行動だぞ?」
「僕もそうしますよ。生の動物とか、見る機会があまりないですから」
「そうだな、経験値を積んだほうがいいと思うぞ?」
「経験値? なんですかそれ?」
あ~これはゲーム的な要素だったか。
普通に、能力のパラメータとかステータスなどという単語を使っているからなぁ。
「え~と、なんていうか――色々なことをすると、能力の数値が溜まっていくんだよ。まぁ実際に数値なんてあるはずがないけどな。たとえだよたとえ」
「はぁ」
やっぱりピンと来ないようだ。
でも、経験を積むとは言うしなぁ。
数値に換算されるってところが理解できないのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
呉越同舟――ではないが、日曜日に皆で動物園に行くことになった。
たまにはいいじゃないか。
コノミにもいろんなことを経験させてあげないとな。
――色々と決まって、真夜中。
大きな布団に3人で川の字になって寝ていたら、俺の下半身でもぞもぞ。
ヒカルコだ。
「……おい、コノミがいるんだぞ」
「……」
ヒカルコと抱き合っていたら――。
「私も~!」
突然、コノミに抱きつかれて驚いた。
どうやら、寝ぼけたらしい。
こうなったら、もうアカンよなぁ……。
ヒカルコはむくれているのだが、もう無理だ――はは。





