73話 寸劇
突然相原さんが泊まりにきて、驚いてしまったが、彼女も息抜きをしたかったのだろう。
ヒカルコと睨み合ったりしていたので、ちょっとハラハラしてしまった。
ヒカルコにはコノミの面倒をみてもらっているし、相原さんは大切な仕事のパートナーだ。
どちらかを選んでくれといわれても困る。
非常に困る。
俺が全部悪いといえばそうなので、返す言葉もない。
心配をよそにトラブルもなく、相原さんは俺たちと一緒に朝飯を食べて、直接出勤した。
俺が希望した歌手にコンタクトを取ってくれると言う。
非常に楽しみだ。
ついでに、俺が持ち帰っていたシートレコードの契約書を小中学館に持っていってもらった。
これで正式に仕事が動きだすことになる。
まぁ、とっくに色々とやってしまっているのだが、そこら辺のアバウトさは、いかにも昭和って感じだ。
なぁなぁの口約束で仕事をやってしまって、損をした人も沢山いたんだろうなぁ――と察してしまう。
のちにアニソン界の帝王と呼ばれた方がいて、それと同じぐらい有名な歌手がいる。
その人は、ある歌を買い切りで契約してしまったため、ミリオンセラーになるほど売れたレコードの印税をフイにしてしまったのだ。
そういうこともあるってことだな。
俺がテキトーに書いていた三文小説も、間違ってベストセラーなどになったら印税をもらいそこねるってわけだ。
まぁ、そんなことはありえねぇとは思うが。
――相原さんが泊まりにやって来て数日あと。
彼女から電話がかかってきた。
大家さんちの玄関で電話を受ける。
『篠原さん! 佐伯さんからOKをいただきましたよ』
「え?! 本当ですか?! よかった!」
これは本当にロマンだけだった。
俺が絡んだことで、佐伯さんのアニメやら声優デビューを早めることができるかもしれない。
ただ、今の彼は役者希望のはずなので、それをよしとしないかもしれないが……。
『はい! 実際に音楽事務所でお会いしてお話をしたのですが、ムサシの漫画のファンだということでした』
「それじゃ、ムサシを読んでいたってことですか?」
『そうみたいです! それで、ムサシの主題歌の話が来たので、二つ返事でOKをいただきました』
「それで、音楽のサンプルは聞いていただきましたか?」
『はい! とてもよい曲だと』
まぁ、俺が作曲したわけじゃないんだけどな。
未来に流行った曲のパクリだが、この世界で俺のロマンを叶えるために利用させていただく。
「それはよかった」
『あの方、俳優さんですが、歌のレッスンもなさっていた方なんですね』
「ええ――それで、相原さんの第一印象はどうでした?」
『とても素敵な声の方だと思いました』
「そうですよねぇ」
『それでですね! 即興でテープに合わせて歌っていただいたんですよ』
「本当ですか?」
『はい』
く~羨ましい。
俺も聞きたかった。
いや、レコーディングにOKが出たということは、そのうち歌声を聴けるのだ。
作曲者だと言えば、レコーディングに立ち会って、生声でも聴ける。
これはテンション上がるぜ。
「あの――本のオマケなので、印税は発生しないとか、その辺も伝えていただきました?」
『はい、もちろんです。それでも、引き受けてくださいました』
「よかった」
『篠原さんが作った、組み立て式のシートレコードプレーヤーもお見せしたら、すごく驚いてましたよ』
彼女の話では、本のオマケにシートレコードをつけるというのも、すごく驚いていたという。
う~む――あちこちでこういう話をすると、秘密の計画なのが漏れてしまうかもなぁ。
帝塚先生の所も、機密の漏洩などがあったみたいだし。
――とはいえ、あの組み立て式のレコードプレーヤーが簡単に真似できるかなぁ。
俺は実物を知っているからすぐに作ることができたが、話だけを聞いてあれを作るのは少々難しいとは思うが……。
それでも、あれのオリジナルを作った人がどこかにいるのだから、侮ることはできない。
どのみち小中学館から付録つきの雑誌が出れば、模倣されるだろうし。
俺が組み立て式プレーヤーの特許を申請しているので、それが通るまでが華だと思うが。
あまり電話で話していると電話賃がかさむので、詳しい話は会ってからということになった。
「そうか、決まったか……」
俺は受話器を置くと、小躍りをしそうになって止めた。
いい歳したオッサンが、そんなことをやっていたらアホかと思われる。
それにしても――相原さんの目は本物だな。
確実に売れるものが解っている。
あんな有能な人なら、名物編集とか名物編集長になっていてもおかしくないはずなのに。
未来で彼女の名前を聞いたことがない。
おそらく――編集部のパワハラやらセクハラで、途中で出版社を辞めてしまったとかだろうなぁ。
父君が外務省勤めだというし、誘われて公務員になったりしたのかもしれない。
あんな優秀な人材を手放すなんて、業界の損失だと思うのだが……。
いや逆に、俺のせいで彼女が出版社にそのまま残ってしまったら、有能なキャリア官僚を失う国家的な損失になるのか?
まぁ、そこまではいかないか……はは。
政治家やら官僚で、彼女の名前を聞いたことがなかったしなぁ。
途中で諦めて、その気もないのに家庭に入ってしまったのだろうか。
昭和ならありえる。
「う~ん」
ここで妄想してても始まらん。
俺は八重樫君の部屋に向かった。
「お~い先生」
「は~い」
ランニング姿の彼が顔を出した。
すでに原稿は終わり、アシスタントの五十嵐君もいない。
今頃、自分の原稿を描いていることだろう。
「ムサシの主題歌を歌ってくれる人が決まったみたいだぞ」
「本当ですか?!」
「ああ、無名だけど、すごくいい人だと思う」
「篠原さんが、そう言うんですから間違いないですね! 楽しみですよ!」
彼が俺の話を聞いて嬉しそうにしている。
そりゃ嬉しいだろう。
俺だって嬉しい。
本当はパクリでも、色々と苦労して作品にしているわけだし。
「いや、俺も楽しみだよ。なんでも形になって、世の中に出るってのはすごいことだよなぁ」
「はい! 僕もそう思います」
「これで評判がよかったら、TV漫画化とかもあるかもしれんなぁ」
「さ、さすがにそこまでは望んでませんけど……」
「多分、夜に詳しい説明をするために相原さんが来るみたいだぞ」
「楽しみにして待ってますよ」
その時に、次の話の打ち合わせをすることに決めた。
八重樫君との話を終えて部屋に戻ると、矢沢さんがヒカルコと打ち合わせをしていた。
コノミは、鈴木さんの家でお勉強会だ。
子どもがお勉強会をするというのに反対する親はいない。
まぁ、ウチの親父は俺の勉強を邪魔してくれた毒親だったが。
そろそろ、夏休みも終了するので、子どもたちも最後の追い込みだろう。
絵日記などをつけてない子は、慌ててテキトーな日記を量産することになる。
平成令和まで幾度となく繰り返される、夏休みのありがちな日常。
今が一番楽しいと感じている人は、この昭和に戻りたいんだろうなぁ。
俺はまったく戻りたくなかったが。
――とはいえ、住めば都。
この時代にもなんとか適応して生活をしている。
未来の知識でちょっとインチキをして、ちょっと良い生活だけどな。
せっかく、こういう機会に恵まれたのだから、それを活かしてもいいだろう。
タイムスリップという設定の物語によっては、未来を変えないように奮戦する話もあったりするのだが、そんなことは知らん。
大幅な改変をしない限り、問題はないと考えている。
多分な。
子どもたちの勉強会で、ちょうどコノミがいない。
そこに矢沢さんがやって来ているわけだ。
彼女の漫画のアバウトなストーリーの組み立てと設定には協力しているが、少女漫画の恋愛展開とか俺には無理だからな。
それだけではない。
男と男の組み合わせも俺には無理だ。
そういうものが受けるってのは解るが、半端な知識で半端なことをやっても、批判を食らうだけだろう。
餅は餅屋に任せるべき。
「電話のお相手は、相原さんですか?」
「ああ、ムサシの主題歌を歌ってくれる人が決まってね」
「わぁ! すごいですねぇ!」
矢沢さんも喜んでくれている。
「単行本も出るし、もっと売れるかもしれないね」
「羨ましい……よし! 私ももっと頑張るぞぉ!」
こういうことをハッキリと言うのも彼女っぽいよなぁ。
彼女には、金儲けをしてお母さんに楽をさせたいという、確固たる目標があるからなぁ。
――とはいえ、金になるならなんでもやる、ということでもないようだが。
「頑張るのはいいけど、身体には気をつけてな。漫画家って不摂生の人が多いから」
「あ、篠原さんのおかげで、しっかりと眠れてますから大丈夫ですよ」
彼女も今のところ月刊誌を1本しか抱えていない。
相原さんから話を聞く限り、セーラー美少女戦士は評判がいいらしい。
「少女誌と言っても、女性の漫画家じたいが少なく、男性の漫画家が描いていることが多いじゃない」
「そうですねぇ」
「それじゃやっぱり、本当に女の子が読みたい物語じゃないと思うんだよね」
「私もそう思います!」
実際に、矢沢さんの漫画をコノミのお友だちに読ませても、「面白い」と言ってくれているし。
「矢沢さんが描く漫画が少女誌にくさびを打ち込み、漫画家を目指す女の子がドッと増えると思うよ」
「あの……読者が増えるのは嬉しいんですが、ライバルが増えるのは嫌ですねぇ」
「ハッキリ言うなぁ、矢沢さんらしいけど」
「すみません」
「べつに謝ることじゃないな。俺も作家だから、君の気持ちが解るし」
「ありがとうございますぅ」
「でも、漫画家が増えるってことは、上手い人もドンドン出てきて、漫画のレベルも上がるってことだからなぁ」
「そうなると困るじゃないですか……」
「でも、それが市場競争の原理だし、受け入れるしかない。力なき者は去れ――それが世界の掟なのだ、フフフ」
「本当に、篠原さんってシノラー総統みたいですねぇ」
「性格が悪いのは認めるが、あんなに高慢ちきじゃないけどなぁ」
「うん」
俺の言葉にヒカルコはうなずいてくれるが、相手が敵となれば容赦はしない。
俺は慈愛にも溢れてないし、人格者でもないからだ。
矢沢さんの漫画は、仲間が増える場面になる。
当面、仲間は3人。
あとは敵にライバルが欲しい。
オリジナルのセーラー戦士の漫画には、ナントカ仮面がいたが、あれも出てこない。
男役は、刀に宿った精霊たちがするからな。
「現れた戦士は敵か味方か!? で次に続いてもいいと思うがなぁ」
「そうですねぇ」
この時代、漫画といえば毎回読み切りが多かった。
事件が起きると、主人公が解決して終わる――みたいな感じだな。
「そこらへんは、相原さんと相談してみてよ」
「わかりましたぁ」
今日、相原さんが来て確認できれば、ネームに入れる。
スタッフがここに揃っているから早いよね。
矢沢さんとの打ち合わせも終わり、夕方。
夕飯も食べ終わり暗くなると、相原さんがタクシーでやって来た。
こんなにあっちこっち飛び回っているんじゃ、やっぱりドアトゥドアのタクシーが必須になるのだろうか。
「こんばんは~」
「いらっしゃい相原さん。お疲れ様です~」
相原さんが玄関から入ってくると、コノミに本を渡してくれる。
「こんばんは、コノミちゃん」
「ありがとうございます~」
コノミは早速本を開いて読書タイムだ。
「いつもありがとうございます。でも、毎回本を持ってくるのが大変なら、無理をなさらなくてもいいんですよ?」
「大丈夫ですよ。前にも言ったかもしれませんが、出版社なので本ならいくらでもありますから」
八重樫君を呼んで、一緒に彼女から詳しい話を聞いた。
「篠原さんと相原さんが太鼓判を押す人なら、大丈夫ですね」
「はい、私もそう思います」
「相原さんの目は確かだからなぁ……」
「む~」
ヒカルコが、なぜか俺にくっついている。
相原さんを褒めているのが気に入らないのだろうか。
さすがに、八重樫君がいるので相原さんは遠慮しているようだ。
「佐伯さんが、歌のレッスンもなさっている役者さんだとは知りませんでした」
「映画で観て、私は注目していたんですよ」
もちろん大嘘である。
「本職は、役者さんなんですか?」
「そうなんだけど、ちゃんと歌のレッスンもしている人だから大丈夫だよ」
「テープに合わせて少し歌っていただきましたけど、すごくよかったですよ」
「へぇ~、楽しみですねぇ」
八重樫君もニコニコだ。
そりゃ、俺だってニコニコになる。
「歌が決まったということは、歌の後に入れるドラマ編のシナリオも書かないとだめだな」
「はい、お願いいたします」
「シートレコードは、片面しかプレスできないから、3分ぐらいのドラマか……」
「難しそうですね」
彼が心配している。
「絵がなく、声と音だけだと、聴いているちびっ子たちにはわけが解らんから、全部説明セリフにしないと駄目だな」
「説明セリフってどんなですか?」
「はい?」
突然そんなことを言われて、間抜けな返しをしてしまった。
それなりのプロになった彼からそんな言葉を聞くとは思わなかったからだ。
「たとえば、『目がぁ~目が見えない!』やら『車が事故を起こして煙が出ているぞ! けが人も沢山いるぞ!』とか」
「あの――すみません、僕の漫画でやってませんでした?」
「たしかに、一番最初に見せてもらった先生の漫画はそんな感じだったな」
「ですよね」
彼がちょっと落ち込んでいる。
「売れっ子になって、ちょっと成長しているだろう? 大丈夫だよ」
「そうでしょうか……」
「大丈夫、大丈夫! それは置いておいて、レコードは音声しかないから逆に声で全部説明してあげないとだめなんだよ。ナレーションでもいいけどさ」
「それで、どういうドラマになりそうですか?」
「実は、もう考えてある――『しばらく敵の攻撃もなく、ムサシは平和な航海をしていた』」
「そこに敵の攻撃がくるんですね?」
八重樫君が身を乗り出している。
「その前に、シノラー総統からの通信がムサシに入る」
「通信ですか?!」
『戦闘隊長、怪しい通信が入っています』
『なに?! 怪しい通信?! メインパネルに映せ!』
『了解!』
『フフフ……会いたかったよ、ムサシの諸君』
『お前は、宇宙帝国総統、シノラー!』
実際には会ってないのに、なぜか解る。
『君たちに、私からのささやかな贈り物を届けてあげることにしたよ。存分に楽しんでくれたまえ、ハハハハ――』
『ああ~っ! 前方に敵の大艦隊です!』
『あんなに沢山の敵艦隊なんて! ムサシのピンチだわ!』
『くそぉ! 総員戦闘準備だ!』
その後は、当然敵の艦隊がムサシにボコボコにされる。
ムサシが負けたら話がそこで終わってしまうから、負けるはずがないけどな。
「残った敵はどうするんですか? 退却ですか?」
『栄えある宇宙帝国軍人が、おめおめと祖国に戻ることができようか! 全艦単縦陣にて、ムサシに突撃せよ! シノラー総統万歳!』
「特攻ですか?!」
「随伴艦を次々と倒して、最後に残った敵の艦隊旗艦が突っ込んでくる」
「どうやって倒すんですか?」
「衝突ギリギリで、船体をドリルのように回転させて相手を弾き飛ばすんだ」
「やったぁ!」
なんで作者の君が喜んでいるんだ。
「篠原さん、その話を漫画にしてもいいですか?」
「いいけど、次の回は敵の捕虜の話にするつもりなんだが、優先事項だ」
「優先ですか?」
「ああ、ムサシも有名になってきたからな。P○Aとか戦争反対とか言ってる連中から絡まれる可能性がある」
「先生、それは本当ですよ」
相原さんが俺の意見に同調してくれた。
実際に編集部でもその話が出たしな。
「ムサシの漫画は戦争を賛美しておらず――あくまで宇宙の平和と地球を守るために、侵略者と戦う話というのを印象づけなくてはならないんだよ」
「ううう――そ、そうですねぇ」
俺の話を聞いた先生が、複雑な表情をしている。
「あの帝塚大先生だって、焚書にあったんだぜ?」
ガチで悪書追放運動ってのに巻き込まれてな。
人それぞれに色々と思想はあるにしても本を焼くってのはどうなのよ?
本を焼く国は、いずれ国民も焼く。
そういうわけで、焚書をするような連中に政権を渡しちゃアカンのよ。
「た、確かに……」
「ムサシは、こちらからは攻撃をしかけず、あくまで自衛のための戦闘をしているだけ――という建前だな」
「建前ですか……」
彼は不満げだが、世の中で商売をしていくためには、どうしても建前ってやつが必要になる。
なんでも好き勝手書ければいいのだが、そうは問屋が卸してくれない。
「――というわけで、次は捕虜の話にしてくれ」
「わかりました」
「大丈夫だって先生。敵の捕虜は女性だし、また裸を出せば人気がうなぎのぼりに……」
「篠原さん、あまりやりすぎると……そっちも抗議が来ますよ」
相原さんが困った顔をしている。
女性の前でこんな話はセクハラだったか。
「フヒヒ、サーセン」
「敵も味方も、女性が普通に軍隊にいるんですね」
八重樫君が、俺の話を聞きながら敵キャラのラフスケッチをしている。
「機会平等だからねぇ――だがまぁ、女子を前線に出すと戦死が多くなるって話もあるし……」
「能力的な問題――とかではなくて?」
「う~んほら、女子が危機に陥ると、男子が無理して助けにいっちゃうことが多いらしくて……」
「あ~なるほど……」
「でも、性別平等だというなら、女子がピンチだからといって助けにいっちゃ駄目なんだよね」
「でも、お話としては、そうもいかないでしょ?」
そりゃそうだ。
ヒロインを見捨てる主人公じゃ話にならない。
「まぁ、未来ならそうなっていてもおかしくないってことさ」
黙って話を聞いている相原さんだが、女性の社会進出を望んでいるといっても、彼女はリベラルではない。
親御さんは外務省の役人だし。
「あ、そうそう――相原さんに聞きたいことがあったんですよ」
「なんでしょう?」
「相原さんのお父上は、外務省に勤めていらっしゃるんですよね?」
「はい」
「外務省に、毛ナントカ主義の人っているんですか?」
彼女はニコリと笑って答えてくれた。
「ノーコメントです」
さすが、教育がしっかりとしているなぁ。
「ヒカルコの両親も教師だと言っていたが、親から影響を受けて活動家になったのか?」
「違う」
「親は、そっちじゃないのか?」
「うん」
それじゃ、昔ながらの教師ってやつか。
それなら娘が活動家になったりして警察の厄介になったりすれば、ブチ切れるよなぁ。
あたり前田のクラ○カー。
俺の所での打ち合わせが終わり、相原さんは矢沢さんの所に行った。
今回のストーリーの終わりは、次回につづく――で、OKが出たようである。
まぁ、まだ売れてない雑誌なので、なにをやってもいいってことなんだろう。
本当に手探り状態だし。
相原さんが帰り際、挨拶をしてくれた。
俺の所にはまだ八重樫君がいる。
「それでは、レコーディングの日にちなどが正式に決まり次第、ご連絡いたします」
「編曲の先生のお仕事はもう終わってしまってるんですか?」
「はい」
編曲者には印税などはなく、1本いくらでやっているらしい。
「それでは、至急ドラマの台本を仕上げて、相原さん宛にお送りいたします」
「お待ちしております」
「八重樫君もレコーディングには行く?」
「い、行きたいですが……あくまで原稿の進み具合次第ですかねぇ……」
「そうか~そうだよなぁ」
締め切りに重なっていたりしたら、物理的に不可能になるしな。
台本は簡単だ。
3分ぐらいの台本だし、1日あればできる。
レコーディングが楽しみだな。
――夕飯の買い物に行って、商店街で花火を見つけた。
食事が終わったあとに、コノミと一緒に花火をする。
矢沢さんも降りてきて、キャッキャとはしゃいでいた。
花火をとても喜んでいたコノミだが、近所でやっていたのを見たことがあるらしい。
自分でもやってみたかったようで、望みが叶ったようだ。
よかったな。
コノミの花火を写真に撮ろうとしたのだが、真っ暗な外では、やっぱり無理。
デジカメならISO6400でもISO12800でも可能だが、この時代にそんな高い高感度フィルムはない。
そもそもASAという規格らしいし。
まぁ、しゃーない。
それでも三脚に固定して、1秒~2秒ぐらいのシャッター開放で撮ってみた。
写っているかどうかはまったく解らん。





