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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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71話 ぅゎょぅι゛ょっょぃ


 俺が住んでいるアパートに、相原さんが遊びにやって来た。

 どうやら泊まっていくらしい。

 俺の部屋にゃ無理! ――と思ったら、彼女はすでに大家さんと交渉していたようだ。

 矢沢さんたちが仮眠室に使っている部屋を宿泊に使うと言う。


 さすが仕事のできる女性だ。

 根回しが早い。

 突然の珍客にヒカルコはむくれているのだが、いつも世話になっている相原さんの願いを断るわけにもいかんし。

 お客様にコノミは喜んでいるしな。


 食事を摂った俺たちは銭湯に行くことにした。

 いつもは3人だが、そこに1人増えたわけだ。

 風呂に入ると、コノミの声の他に相原さんの声が聞こえてくる。

 なにか不思議な感じだ。

 ヒカルコはあまり喋らないので、いつもとおんなじ。


「お~い! シャンプーと石鹸を置くぞ~」

 使い終わったものを、男湯と女湯を仕切っている壁の上に置く。

 シャンプーと石鹸は皆で使いまわしているのだが、この時代はこういう風景がよく見られた。

 ものが高価なため、2つ3つと買えなかったのだから仕方ない。

 そのため、贈り物などでも石鹸が選ばれたりした。

 新婚だとバレた男が、爺たちにからかわれたりしている。


「篠原さ~ん! これですねぇ!」

 白い手を伸ばしたのは、相原さんだった。

 相原さんは自分の石鹸とシャンプーを持っているのに。

 ヒカルコは風呂に入っているのだろうか。


 まぁ、俺は洗うものは洗ってしまったので、湯船に浸かって上がるだけ。

 冬じゃないので、温まる必要もない。

 汗を流しにやって来たのに、汗だくになるからな。


 先に上がると、牛乳を飲んで外で待つ。

 俺はカラスの行水なので、いつもこんな感じだ。

 外で待っていると、俺と同じように待っている男がなん人かいる。

 みんなタバコをぷかぷか、吸い殻をそこら辺に捨てている。

 まぁ、昭和なんでこんなもんだ。


 タバコが原因の火事なども多かった。

 いつも火事の原因のトップ3を寝タバコが占めていたぐらいだし。


「お待たせしました」

 髪にタオルを巻いた相原さんが出てきた。


「ショウイチ~!」

 走ってきたコノミが俺に抱きつく。


「ちゃんと洗ったか?」

「うん」

 コノミの湿った頭をなでる。

 一番最後にヒカルコが暖簾をくぐってきた。

 彼女たちと話していると、周りにいる男たちの視線が集まっているのに気がつく。

 俺が若い女を2人も連れているので、驚いているのだろう。


「若い嫁さんをもらっている」と、俺を非難していた布団屋の店員に、この光景を見せたら卒倒するのではないだろうか?

 まぁ、別に相原さんもヒカルコも嫁ではないのだが、ヒカルコは完全に内縁の妻状態だ。

 隣近所からも、そういう認識をされているし。

 俺も説明するのが面倒なので、そう言っている。


 若い女もそうだが、一緒に可愛い娘もいるし――怨嗟ともいえるそこら辺にいる男たちからの視線は、ちょっとした優越感に浸れる。

 妻でもないし娘でもない。

 全部が、かりそめのものなのだが……。


 皆で、アパートに戻ってきた。


「ふぅ……」

 メガネを取ってうなじを出し、髪を乾かす相原さんは中々色っぽい。

 女性陣は皆で髪の毛を乾かしているので、俺は炊事場でカ○ピスを作ることにした。

 俺は風呂で牛乳を飲んでしまったから、3人分だな。

 氷は作れないが、水や原液を冷やしてあるので、それなりに冷たい。

 ウチのカ○ピスは濃いぞ~。

 当社比2倍である。


 お盆にコップを3つ載せて、部屋に戻った。


「相原さんもどうぞ~」

「ありがとうございます」

「ショウイチ、ありがとう!」

 コノミがごくごくとカ○ピスを飲んでいる。


「相原さん、コノミが読書感想文を書いたんですよ。髪を乾かしたら読んでみますか?」

「はい!」

 彼女の髪が乾いたので、コノミの読書感想文を渡した。


「これって、一番最初にヒカルコさんが書いた話ですよね」

「そうそう」

「よく書けていると思います。コノミちゃんって文才があるのでは……」

「やっぱり、プロの編集の目から見てもそう思いますか?」

「はい」

「そうか~」

 コノミの頭をなでなでする。


「明日、みんなで読書感想文を書くんだよ」

「そうそう、コノミのお友だちが、読書感想文を書くのが苦手だというので、書き方講座を開こうかと」

「ええ! それって、すごく面白そう! 私も一緒に受けても?」

「もちろんどうぞ――って、相原さん、プロじゃないですか」

「けど、篠原さんがどんなことを教えるのか興味がありますし」

「そんな、小学生相手に難しいことは言いませんよ」

「それはそうですが……」


 そのあとは、4人でトランプをした。

 隣では八重樫先生が仕事中なので、うるさくならないように、もちろん気をつけて。


「あの……篠原さん」

「はい?」

「帝塚先生のことは、お聞きになりましたか?」

「いや、なんでしょう?」

「実は――」

 相原さんの話によると、大先生が企画連載していた漫画やアニメのネタが度々盗用されることがあったらしい。

 それに不信感を覚えた大先生が、ライバル会社から小中学館の週刊誌に移籍してきたという。


「スパイですか?」

「はっきりとは解らないのですが……、プロダクションのほうでも、離職者が結構出たらしくて……」

「大先生の所は大所帯ですからねぇ。弟子の数も半端ないだろうし」

「はい」

「しかし、大先生が週刊誌のほうに移籍してきて、小中学館的には益々チャンス到来じゃないですか」

「そうなんですけどぉ、なんというか……あまり喜べないというか……」

「生き馬の目を抜く業界ですから、情け無用ですよ」

 残虐行為手当、死ぬのはやつらだ。


「篠原さんのおっしゃるとおりなんでしょうけど……」

 業界、各出版社、帝塚プロダクション、全部が気まずい状態だろう。

 今のアニメというのは、金鉱脈だ。

 大金が絡むと、そういうことも起きるよなぁ。

 大先生はパクられたネタとか、全部変更しているらしい。

 それはまた大変だ。


「そのまま出しちゃえばいいのに」

「帝塚先生的には、それは納得できないのでしょう」

 そういうときに、大先生だと少々困るのだろうなぁ。

 大家たいかだというプライドもある。

 こっちがパクられた側なのに、盗作だとか言われたくないというのもあるのだろう。


 俺は全然気にしないタイプなのだが。

 それに平成令和になると、ネタがかぶっているなんて日常茶飯事だったし。

 なにかが大ヒットすれば、柳の下には泥鰌どじょうが100匹状態。

 編集から、大ヒット作に似せてそれっぽいやつを書いてくれって言われる始末だし。

 完全にそういうのが商売として定着していたよな。

 進化なのか退化なのかよく解らんが。

 それにしても、代わりのネタが簡単に出てくるのが、神様っぽい。


「ウチは、俺と八重樫先生で完結しているから大丈夫ですけどね、ははは」

 未来にヒットしたアイディアは、俺の頭の中にしかないわけだし。


 夜も遅くなってくると、俺の膝の上にいるコノミが眠たそうにしている。


「コノミ、そろそろ寝るか?」

「うん……」

 黙っていた相原さんが口を開いた。


「ヒカルコさん」

「なに?」

「ヒカルコさんは、いつも篠原さんと寝ているのだから、今日は私に譲るべきなのでは?」

 相原さんがおかしなことを言い出した。


「やだ」

「ヒカルコさんだけ、ずるいじゃないですか?」

 今日の相原さんは少々変だが、酔っ払ってるわけではない。

 俺も、酒など出していないし。

 取っ組み合いはしないという約束だったはずなので、俺は止めに入ろうとした。


「ちょっとちょっと、相原さん」

「篠原さんは、黙っていてください」

「はい」

 彼女の言葉に、ヒカルコが反論した。


「別にずるくない。掃除洗濯、食事の用意、コノミの世話、全部私がやっている。私には、ショウイチと寝る権利がある」

 そう言う彼女は押しかけなのだが、ヒカルコがこんなことを言うのは初めてだ。


「私だって、外で篠原さんのお仕事を支えてます!」

「「ぐぬぬ……」」

 本当につかみ合いになりそうなので、間に入った。


「はいはい、それじゃ折衷案として、コノミがお姉さんと寝てあげるというのは?」

「コノミが?」

 突然話を振られた彼女が、キョトンとしている。

 お姉さん2人がプロレスしようとしているのに、動揺している節はない。

 本気のバトルだとは思っていないのかもしれない。


「他の部屋にお泊りしたことないだろ?」

「うん! それじゃ、お姉さんと寝る」

「コノミちゃ~ん! はぁ~クンカクンカ!」

 相原さんがコノミを抱いてスリスリしている。


「寝る前に歯を磨いてな」

「うん」

 炊事場で皆で歯を磨く。

 コノミに虫歯はないようだ。

 母親の寵愛を受けていなかったせいで、親のミュータンス菌を受け継がなかったらしい。

 いいんだか、悪いんだか。


 自分の枕を抱え、パンツにシャツ姿のコノミが、相原さんに手を繋がれて隣の部屋に行く。


「それじゃな~、初お泊りだな」

「うん」

 彼女が戸の向こうに行くと、矢沢さんの声が聞こえる。


「コノミちゃん、今日はこっちに寝るんですか?」

 なんだか、女性陣でキャッキャしている。

 まぁ、相原さんに任せておけば大丈夫だろう。

 こっちはこっちで、デカい布団にヒカルコと一緒に寝ることにした。

 暑いので掛け布団はなく、タオルケットだけである。


 明かりを消すと、ヒカルコが抱きついてくる。


「お~い、止めろ。暑いんだから……」

 俺の制止を聞かずに、彼女が唇を重ねてくる。


「暑いから勘弁してくれ。せっかく風呂に入ったのに、汗だくになっちまうだろ?」

「……」

 俺の言葉に不満なのか、ヒカルコが俺のシャツの中に頭を突っ込んでくる。

 彼女がこれをやるから、コノミが真似して困る。

 ヒカルコは不満のようだが、暑いのでこれ以上動きたくないのだ。


 ――そのあと、ヒカルコをなだめて眠りについたのだが……深夜。


 突然、俺の身体に誰かが乗った感触で目が覚めた。

 まさか、相原さんが夜這いにしにきたわけでもあるまい。

 俺の上に乗っているのは、軽くて小さい。

 手を伸ばすと、柔らかくてしなやかな髪――どうみてもコノミだ。

 子どもって髪の毛も若いよなぁ。

 まったくもって羨ましい……。


 目が覚めて、寂しくて戻ってきたのか――いや多分、トイレに行って、寝ぼけてそのままいつもの部屋に戻ってきただけだろうと思う。

 彼女を抱きかかえると、タオルケットの下に潜らせた。

 月の明かりにスヤスヤ眠るコノミの寝顔を見ながら、俺も再び眠りについた。


 ――そういえば、窓にカーテンもつけてないよなぁ。

 そもそも、カーテンがついている家も少ないし……。



 ――相原さんが泊まりにきた次の日の朝。


「う~ん」

 起きると、俺の上でコノミが寝ている。

 昨晩は半分寝ぼけていたが、コノミが帰ってきたのは間違いなかったらしい。

 隣を見るとヒカルコはおらず、すでに食事の準備をしているようだ。

 俺も起きることにした。


「お~い、コノミ起きろ~朝だぞ」

「……」

 彼女は起きたが、目を擦っている。


「おはよう」

「……?」

 彼女が寝ぼけ眼でキョロキョロしている。

 相原さんの所で寝ていたのに部屋に戻っているので、不思議なのかもしれない。


「夜に、コノミが1人で戻ってきたんだぞ?」

「……?」

 どうやら覚えていないらしい。

 それはいいとして、布団を上げてちゃぶ台を出さなければ。

 コノミを端っこに寄せて、布団を押入れの中に突っ込むと、壁に立てかけてあるちゃぶ台を出した。


 畳に座るとコノミが抱きついてきて、俺の膝の上で寝ている。


「お~い」

 彼女を起こそうとしていると、戸がノックされた。


「開いてるよ」

「おはようございます。ああ、やっぱりコノミちゃんはこちらに」

 入ってきたのは相原さんだった。

 朝起きたら彼女がいなかったので、俺の所を見にきたのだろう。


「夜中にトイレに起きて、寝ぼけてそのまま戻ってきてしまったようですよ」

「うふふ」

 笑いながら相原さんが入ってきたと思ったら、俺に抱きついた。


「なんですか、相原さんまで」

「あ~ん、私も甘えたいです~」

 彼女がアホなことを言っていると、ガラっと戸が開いた。

 菜箸を持ったヒカルコがズカズカと歩いてきて、相原さんに手を伸ばす。

 シャツの首のところを捕まえた。


「手伝って」

「あ~ん! もう少し、このままで」

「だめ」

「ぎゃあ!」

 ヒカルコが強引に引っ張ったので、シャツが捲れて腹から胸までむき出しになった。

 形のいい胸がおはようございます――朝からいいものを見た。


「ほら」

「解りましたから!」

 少々驚いたが――なんだ、ヒカルコのやつも、やるときはやるんだな。


 コノミをあやしながらしばらく待っていると、料理ができ上がってきた。

 お客が来たということで奮発したのか、卵焼きとハムだった。

 それと味噌汁。

 ハムなんて高いので、十分にご馳走だ。


 相原さんも一緒に4人でお食事。

 今日は日曜日なので、彼女は丸一日休みなのだろう。

 忙しいと休日出勤もしているようだが、たまにこういう日があって充電してもいいはず。


「はわ~、美味しい……普通の朝食、最高……」

 相原さんが、朝食に感激している。


「いつもはなにを食べているんですか?」

「……駅でパンを買って」

「はは、私も工場に勤めていたときには、通勤の途中でアンパンと牛乳でしたよ」

「やっぱり、そうですよねぇ」

 彼女だけではない。

 この時代、日本中の独身サラリーマンが、そうやって頑張ってきたのだ。

 コンビニもないし、便利な栄養食などもないしな。


 食事が終わったら、コノミのお勉強タイムだ。

 その間、ヒカルコと相原さんは、食事の後片付け。

 炊事場からキャッキャウフフが聞こえてくるので、矢沢さんたちもいるようだ。

 俺のことで雰囲気が険悪かといえば、そうでもないらしい。


 さすが、人数がいると片付けもすぐに終わったようで、ヒカルコと相原さんが戻ってきた。

 コノミのお勉強なのでやることがない。


 文机の所でコノミの勉強姿を見ていると、相原さんがジリジリと俺に近づいてくる。

 それを見たヒカルコも俺に近づいてきた。

 俺の目の前で火花を散らしていた2人だが、同時に俺に抱きついてきた。


「もう!」

 自分の後ろでバタバタしているのが気に障ったのか、コノミが声を上げた。

 珍しい。


「お? なんだ?」

「私もショウイチに抱っこしてもらいたいのに我慢して勉強しているんだから、ヒカルコたちも我慢してください!」

 コノミが抗議の声をあげた。


「正論だな。2人とも自重してください」

「「はい」」

 結局、コノミの勉強が終わるまで、大人は読書タイム。

 俺は秘密基地からカメラと三脚を持ってきた。

 彼女の勉強が終わるころ、階段を上がってくる小さな足音が沢山聞こえる。


「「コノミちゃ~ん!」」

「は~い」

 彼女が戸をあけて出迎えると、女の子たちが挨拶をした。


「「「おはようございます」」」」

「はい、おはようございます。いらっしゃ~い!」

 女の子たちを部屋に入れるのだが、人数が多い。


「「「おじゃましま~す」」」

「おお? 人数多くない?」

 俺の質問に鈴木さんが答えてくれた。


「他の子たちに話したら、一緒に勉強したいって……駄目ですか?」

 いつも遊びに来ている3人の他に、初めて見る女の子が2人。

 1人は、鈴木さんの同級生で5年生――おかっぱ頭の女の子。

 もう1人は、初めてやって来た子だが、コノミの同級生らしい。


 人数が多いので、いつも使っているちゃぶ台をしまい、大家さんから大きなテーブルを借りることにした。

 いつもは大家さんちの内階段は使わないが、今日は使わせてもらう。


「篠原さん、小さな子たちが沢山来たみたいだけど、なにかの集まり?」

 大家さんも、子どもたちの訪問に驚いているようだ。


「コノミのお友だちを集めて勉強会ですよ」

「あら、大変ねぇ。難しい宿題でもあるのかしら」

「読書感想文なんですよ」

「ああ、そういえば――ウチの娘も、なにを書いていいのか解らないって頭を抱えてたわねぇ」

 かなり昔から、この宿題はあるのだろうか?


 炊事場では、女の子たちに出すカ○ピスをヒカルコが作っていた。

 廊下で八重樫先生と鉢合わせをする。


「先生、女の子たちが沢山きているけど、なるべくうるさくならないようにするから」

「ああ、原稿は山を越えているから大丈夫ですよ」

「申し訳ない」

「……」

 彼がなにか考えごとをしている。


「どうした、先生?」

「あの、相原さんってなぜ泊まりにきたんですかね?」

「彼女はコノミのことを気に入ってるようでなぁ。彼女に会いにきたらしいけど。気分転換のようなものだと思うけど……」

「そうなんですね」

「昨日も、コノミと一緒に隣の部屋で寝てたしな」

「みたいですね」

 彼にしてみれば、なんで俺の所に――とか思っているのかもしれん。

 そんなの俺だって聞きたいわ。


 大きなテーブルを持って、部屋に戻ると設置した。


「これで、みんな座れるだろう」

「「「わぁい、ひろ~い」」」

 女の子たちが喜んでいるところに、ヒカルコがカ○ピスを持って戻ってきた。


「今日が初めての子もいるから自己紹介しておくか。俺が、コノミの保護者でショウイチな。そっちのカ○ピスもってきた女の人は、ヒカルコ」

「「「よろしくお願いしま~す」」」

 みんな礼儀正しい。

 だいたい、悪ガキは悪ガキ同士でつるむし、いい子はいい子同士でつるむもんだ。

 小さい学校で生徒が少ないとごちゃ混ぜになることもあるが、この時代はガキが多い。

 勉強会なんて開いても、悪ガキがやってくるはずもねぇし。


「それと、今日は特別にお客様もいる。そちらが相原お姉さんだ」

「よろしくね、皆さん」

「「「よろしくお願いいたしま~す」」」

「みんな可愛いわねぇ……」

 彼女がニコニコしている。


「可愛い子どもに囲まれていると、命の洗濯みたいな感じになりますよね」

「本当ですよ。大人のドブ川みたいな地獄とは大違い」

 彼女がうんざりしたように話す。


「このお姉さんは、こういう本を作っている会社に勤めているんだぞ」

 俺は献本でもらった漫画雑誌を皆に見せた。


「すご~い!」「本当ですか?!」「この本を作ったの?!」

「ほら、ここに小中学館って書いてあるだろ? 神田にあるデカい会社だぞ」

「「「へぇ~っ!」」」

 出版社に興味があるのか、鈴木さんが手を挙げた。


「はい! 私も本を作りたいんですけど」

「大手の出版社に入るには、沢山勉強して結構いい大学に入らんとだめだろうなぁ」

「いっぱい勉強しなきゃだめですか?」

「まぁ、多分な……」

「……頑張ります」

 女史のような働く女性に憧れているのかもしれないが、その行く道は険しい。


「ちなみに、相原さんって大学はどこなんですか?」

「帝都大ですけど……」

 彼女がちょっと恥ずかしそうに答えた。


「え~っ?! ガチエリートやん……」

「そ、そんなことありませんけど……」

「鈴木さん、帝都大学って知ってる」

「はい、東京で一番勉強が大変な大学だって……」

「まぁ、大手出版社に入るとなると、そのぐらいの所に入らんと駄目ってことだなぁ」

「そ、そんなことありませんよ。早稲田もいますし、義塾もいますし、一本橋もいますし……」

 どのみち、高卒の俺から見れば、一流大学ばっかりだ。

 やっぱり、そのぐらいの学歴が必要になるのは仕方ないが、産み出すほうに回ればその限りではない。

 つまり漫画家や作家に学歴は必要ないわけだし。

 俺と八重樫君は高卒だし、矢沢さんは中卒だ。

 もっとも俺は、設定上の年齢に合わせるためにここでは中卒にしているが。


「どっちも、かなり上位の大学じゃありませんか」

「そ、そうですけど……」

「「「すご~い!」」」

 女の子たちが、はしゃいでいる。


「大学行くとなると、親の財力も関係してくるしなぁ。鈴木さんのご両親は大学出てる?」

「はい」

 やっぱり、それなりに裕福な家庭のようだ。

 経済的には大丈夫そうだから、あとは彼女の頑張り次第だろうなぁ。


 いやいや、そんなことよりだ。

 皆の紹介が終わったので、本来の目的である読書感想文の勉強会となった。


 

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