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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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70話 お泊り会


 ムサシの主題歌のサンプルができ上がったというので、小中学館の編集部に向かった。

 できはよく、俺が知っている未来に流行った曲に近づいている。

 あとは歌手だ。

 俺は、この時代にはまだアニソンを歌っていない歌手に依頼してほしいと、相原さんに仕事を任せた。

 のちにムサシの主題歌のオリジナルを歌う方だが、この時代にはまだ駆け出しの俳優だ。

 歌い手の仕事受けてくれるかどうかは不明だが、相原さんなら万事上手くやってくれるのではないだろうか。


 俺は相原さんにすべてを託し、アパートに帰ってきた。


 そこにはコノミのお友だちがいたのだが――話を聞くと、苦手な読書感想文の宿題が残っているという。

 感想文の書き方が解らず、いつも苦しむらしいので、俺が宿題のアドバイスをすることになった。


 そうそう、小学校って物語の読み方は教えてくれるのに、書き方は全然教えてくれないんだよね。

 読書感想文が苦手という小学生は多いのではないだろうか。

 俺は適当な文章をずらずらと書いて隙間を埋めるのは得意だったので、書くのが一番早かった。

 原稿用紙の隙間なんて、回りくどいことを書いたり同じことを繰り返したりすれば、すぐに埋まる。


 当然、「よくできました」をもらったことは、一度もないけどな。


 皆で集まって読書感想文の書き方講座をすることに決まったが、そのためには本を読まなければならない。

 図書館などで借りた本をまだ読んでいない子もいるので、数日あとにすることになった。


 ――それから数日、ウチのアパートを訪れる女の子たちがいなくなった。

 皆、読書感想文用の本を読んでいるのだ。


 コノミは、今まで読んだ本の中から読書感想文を書くのでなんの問題もない。

 彼女は、現役小説家であるヒカルコから英才教育を受けているしな。

 頭もいいし、読書感想文ぐらいなんてことはない。

 ガキの俺みたいな卑劣なことをしなくても、普通に原稿用紙を感想という文章で埋められる。


 まったくもって素晴らしいのだが、誰もが彼女みたいな頭があるわけではない。

 普通の小学生の感想なんてものは、「面白い」「つまらない」「難しい」「よく解らない」みたいな言葉が並ぶのではないだろうか。


 まぁ、普通に考えたら、そこから文章をひねり出して原稿用紙を埋めるのは、至難の業って感じはする。

 その難しさを感じているから、女の子たちも途方に暮れているのだろう。


 俺は書いていた三文小説が打ち切られてしまい、新しいのを書く気にならない。

 ゴロゴロしながら溜まっている小説を読む。

 暑い中、扇風機がぐるぐると首を振り、風を送っている部屋。

 どこからか聞こえてくるセミの声に耳を傾けつつ畳の上に寝ていたら、コノミが腹の上に乗って抱きついてきた。


「なんだ、飽きたのか?」

「できた」

 すでに感想文が完成したらしい。


「お? できたのか? ちょっと見せてみ」

「はい」

 彼女がちゃぶ台の上に乗っていた原稿用紙を取ろうとすると、今度はヒカルコが抱きついてきた。


「お前はなんだ?」

「ん~」

「ヒカルコ、だめ~!」

「む~!」

 コノミがヒカルコを引っ張ると、いい歳した女が俺のシャツの中に頭を突っ込んだ。


「こら~、なにやってんだよ。暑いだろ~」

 腹の上でのコノミとヒカルコの戦いをよそに、読書感想文を読む。

 コノミが題材に選んだのは、ヒカルコが一番最初に書いた小説だ。

 学年誌の付録についてたやつだな。

 物語のできがよいと評判らしいし、感想文の題材としても申し分ないだろう。

 文庫本化されたら、学校の図書館に寄贈してもいいぐらいだ。


「よくできてるな。小学生の読書感想文なら、これ以上は望むべくもないんじゃないか」

「うん」

 俺のシャツに頭を突っ込んだまま、ヒカルコが返事をした。


「これで先生がアカだったら、最後に政府批判をちょっと入れれば花丸二重丸だな」

「そんな小学生はいないし」

「はは、まぁな」

 しかしなぁ、数日あとに、みんなで集まって読書感想文書くって話だったのに、今完成させちゃっていいのか?


「大丈夫、また書くし」

 コノミがしれっとそんなことを言う。

 そのときには、他の本の読書感想文を書くらしい。

 中々、文才があるなぁ。

 ヒカルコと一緒に書いていれば、中学生あたりになったらデビューできるかもしれん。


 起き上がり、コノミと一緒に金魚の水を換える。

 金魚すくいでゲットした2匹だ。

 まだ生きているのだが、長生きしてくれればいいが。


 ――コノミが感想文を書いた次の日。


 今日も女の子たちは遊びに来ない。

 多分、本を読んでいるのだろう。

 俺も、あまりゴロゴロしているわけにもいかない。

 秘密基地からカメラを持ち出して、街の中を撮影して回る。

 朝顔やひまわりも咲いているし、青い空ともくもくの入道雲――モチーフは沢山ある。

 まぁ、モノクロだけどな。

 私鉄の駅の向こうには、大きな公園もあるので、そこにも行ってみた。


 野球をしている連中がいたので、それをパチリ。

 暑い中を秘密基地まで帰ってきたのだが、そのまま放置。

 暑いと薬品の化学反応が進みすぎて調節が難しいので、プロに任せることにしたのだ。


 ちょうど昼頃なのでアパートに帰ると、ヒカルコが素麺を作っていた。

 麺を手繰っていると、電報が来る。

 相原さんだ――今日、遊びに来るらしい。


「コノミ、相原さんが遊びに来るらしいぞ?」

「ほんと?!」

「ああ、今日ってことは――編集の仕事が終わってからのはずだから、夜だろうなぁ……」

「やった!」

「矢沢さんの様子を見ながらってことになるのかなぁ……」

「……もしかして、泊まるの?」

 ヒカルコが心配しているのだが、どうだろう。


「泊まるって、ここじゃ無理だぞ?」

「うん」

 3人でいっぱいいっぱいだからな。

 それにいくらなんでも、ここに泊めるのはいかがなものか。

 その前に相原さんの行動が読めん。


「まぁ、俺が秘密基地で寝れば、ここに3人寝られるが……」

「い~や~」

 ヒカルコが本当に嫌そうな顔をしている。


「そんなに嫌な顔をしなくてもいいだろ?」

「い~や~」

 相原さん、嫌われたな。

 まぁ、彼女もコノミに会いに来るわけで、ヒカルコはどうでもいいだろうけど。


「よく解らんが、いつも世話になっている相原さんに、『来るな!』とは言えん」

「ブツブツ……」

 ちゃぶ台に突っ伏したヒカルコが、ブツブツ文句を言っている。


「陣中見舞いってとこだろうけど……」


 午後は、ゴロゴロして小説を読む。

 コノミは本を読みながら俺の腹の上――重い。


 夕方近くになり、ヒカルコが夕飯の準備をするようだ。


「ショウイチ、なん人分作るの?」

「一応、4人分作っておいてくれ。余ったら俺が食うし」

「うん……ショウイチ、コロッケを買ってきて」

 少々嫌そうだが、ヒカルコは相原さんの分も飯を作ってくれるらしい。

 まぁ、俺が作ってもいいのだが……カレーとかにすればいいし。


「わかった」

「コノミも行く~!」

「本屋は行かないぞ? 今日、相原さんが来るしな」

「うん」

 軽く着替えると、コノミと一緒に私鉄の駅前にある肉屋に行く。

 ここで、コロッケを10個ほどゲット。

 値段は1個10~11円ぐらいなので、平成令和に換算しても高くない。

 これが肉になると途端に跳ね上がるが。


 1人2個なら、少々余るが――冷蔵庫に入れておくと、いつの間にかなくなる。

 共有の買い置き食料などを食べると、空き缶にお金を入れるシステムなので、誰かが食べているのだ。


「食べないで」と張り紙をしておくと、誰も手をつけないルールだ。

 食べ物の恨みは結構怖いし、ここでの共同生活だ――最低限のルールは守る必要がある。


「コノミ、相原さんはお泊りしていくかもしれないぞ?」

 今日、相原さんが来るということは、ケーキが差し入れられる可能性が高い。

 そのために牛乳を買ったのだが、この時代の牛乳は瓶に入っており重い。

 学校の給食についている牛乳も瓶だったため、給食係の子どもたちが運ぶのはかなり大変。

 牛乳瓶が入っている木の箱も重く、運んでいる最中に落として割ったりすることが度々あった。


「本当?!」

「ああ、多分」

 彼女が喜んでいる。

 いったい、どこで寝るのか――という問題があるのだが、俺が心配しても仕方ない。

 相原女史のことだ、無謀なことをするはずがない――多分な。

 俺はコノミと一緒にアパートに戻った。


 相原さんのことは少々気になるが、空にはグラデーションがかかり、日が傾いてくる。


「ショウイチ、夕飯はどうするの?」

「ああ、普段どおりでいいぞ。相原さんは、いつ来るか解らんし」

「わかった」


 用意ができたので、普段どおりの食事を摂る。

 今日はさっき買ってきたコロッケだ。

 揚げたてはやっぱり美味いな。

 家でコロッケを作っても、肉屋のコロッケの味にならん気がするんだが、なにか秘伝でもあるのだろうか?


 食事が終わりまったりとしていると、辺りが暗くなってくる。

 時計を見ると7時頃――外に車が止まった。


 塀の扉が開き、誰かが階段を上がってくる音がするのだが、1人ではない。

 相原さんではないのか?

 俺は立ち上がると、玄関まで行ってドアを開けた。


「わっ!」

 驚いた声を上げたのは、黒っぽいスーツの高坂さんだった。

 いきなり戸が開いたので、驚いたのだろう。


「こんばんは――あれ? 高坂さんだったか」

「私もいますよ!」

 高坂さんの後ろにいたのは、大きなバッグを持ったスーツ姿の相原さんだった。


「ああ、一緒に来たんですね。ちゅ~ことは、高坂さんが仕事で相原さんは私事……」

「そうです」

「そんなことに、タクシーを使ってもいいんですか?」

 高坂さんがブーブー言っている。


「いいえ、矢沢先生の用事も兼ねているので、これも仕事ですよ」

 まぁ、仕事でやってきて、現地解散みたいな感じになるってことだろう。


「そんなの屁理屈です!」

「ここから直帰しても問題ないなら、ここに泊まっても問題ないでしょ? 近所の旅館に泊まるのと同じことでしょうし」

「屁理屈です!」

 相原さんの口ぶりからすると、やはり泊まるようだ。


「相原さん、相原さん! どこに泊まるんですか? 私の所に4人は無理ですよ?」

 本当なら、嫁入り前のお嬢さんが男と一緒の部屋に泊まるなんて――。


「男の人の所に泊まるなんて破廉恥ですよ、破廉恥!」

 高坂さんが、いつになくうるさい。


「いいえ――いくら私でも、篠原さんの所に泊まろうなんて思ってないですよ」

「ええ? それじゃどこに……」

「こちらの大家さんと交渉しまして、空いている部屋を使わせていただけることになりました」

 さすが女史、仕事が早い。

 もともと2階の半分は、娘婿夫婦のために改装をしていたのだが、その夫婦が違う所に住んでしまったので、使わずに空いていたのだ。

 賃貸ではなくて家族用に改造したので、中々よい造りになっている。

 そこを矢沢さんが借りて、残りの部屋を女性アシスタントの仮眠室などに利用しているわけだ。

 相原さんは、その仮眠室に泊まろうというのだろう。


「さすが相原さん。すでに大家さんと交渉済みでしたか」

「はい、それでは仕事のほうを片付けてまいります」

「荷物はここに置きますか?」

「ありがとうございます。あの、これ召し上がってください」

 彼女が差し出したのは、いつもの白い箱――ケーキだ。

 玄関に荷物を置くと、相原さんが矢沢さんの所に向かった。

 まだ白い箱を持っていたので、矢沢先生の所にも差し入れだろう。


「まさか、本当に泊まるとは……」

「……」

 ヒカルコが不機嫌そうな顔をしている。


「ヒカルコ、むくれなくても大家さんの所に泊まるって言ってただろ?」

「そうだけどぉ……」

「それより、ケーキを食べよう」

「わぁい! ケーキ!」

 さっき飯を食ったばかりだが、ケーキは別腹。

 コノミは牛乳、俺はインスタントコーヒーにミルクを入れてカフェオレで食うことにした。


「「ンマーイ!」」

「……」

 喜ぶ俺とコノミの横で、ヒカルコももそもそとケーキを食べている。


「なんだ、食べたくないなら俺とコノミで食べるぞ?」

「!」

 彼女がサッと、ケーキの載った皿を高く掲げた。

 食いたくないわけではないようだ。


 ケーキを食べていると、戸がノックされた。

 相原さんだろう。


「は~い、どうぞ~」

「お邪魔しま~す」

 顔を出した彼女だったが、すでに室内着に着替えていた。

 黒っぽいシャツに、下は柄の入った薄いパンツ。

 こんな姿の彼女を見たことがないので新鮮だ。

 化粧も落とされているのだが、炊事場で顔でも洗ったのだろうか。


「申し訳ない――美味しくケーキをいただいてますよ」

「美味しい!」

「はい、どうぞ~」

 コノミの言葉に、相原さんが嬉しそうにしている。


「コノミちゃ~ん!」

 彼女がそのまま上がり込んでくると、コノミに抱きついた。


「ケーキ食べてる」

「はぁ~クンカクンカクンカ」

 迷惑そうにしているコノミに構わず、相原さんがクンカクンカしている。


「む~」

 ケーキを食べるのを邪魔されているコノミがむくれていると、相原さんが離れて、自分の荷物を漁っている。


「はい、コノミちゃん」

「ありがとうございます!」

 むくれていた彼女の顔が明るくなるのだが、現金なやつだ。


「相原さん、いつもすみません」

「篠原さ~ん!」

 なにを思ったのか、今度は彼女が俺に抱きついてきた。

 今日は薄着なので、ダイレクトに肌の感触と重みが伝わってくる。


「あ~!」

 慌ててヒカルコが立ち上がった。

 俺と相原さんを引き離そうと、間に割って入ろうとしている。


「コノミも~!」

 一緒にコノミも抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと暑いから!」

 さすがに、3人で団子になると暑い。


「篠原さ~ん」

「相原さん、酔っ払ってるわけじゃないですよね?」

「飲んでません~」

 さっきまで仕事をしていたわけだし。

 彼女を引き離そうとしていると、戸がノックされた。


「は~い」

 コノミと相原さんが抱きついたまま、2人を引きずって玄関の所にいく。

 戸を開くと、高坂さんがいた。

 いままで八重樫先生の所にいたらしい彼女だが、俺と相原さんを見て固まった。


「不潔……」

 一言彼女がつぶやくと、そのまま階段を降りていった。


「まてまて……」

 なにか言い訳しようとしたのだが、この状況じゃちょっと無理か。

 べつに言い訳するような関係でもねぇし。


「ショウイチ、不潔ってなに?」

 俺に抱きついていたコノミが質問してくる。


「汚いって意味だよ」

「ちゃんとお風呂に入っているから、汚くない!」

「そうだよなぁ――あ、そうだ! あとで皆で風呂に行こうか?」

「うん!」

「コノミちゃんとお風呂~?! 楽しみすぎる~」

 相原さんがニコニコしているのだが、妙にハイだ。

 本当にアルコールが入っていないのだろうか?

 酒のにおいはまったくしないから、入っていないと思うのだが……。


「そういえば相原さん。食事は?」

「……あ、あの、実は食べてないんですけど……」

 彼女が気まずそうに答えた。

 会社からまっすぐにここにやってきたのだろう。

 コンビニ弁当などがない時代だ。

 途中で飯など買う余地がない。

 たまに夜鳴きそばなどが回ってくることがあるが。


 あ、そうそう――未来では夜鳴きそばってなくなったなぁ……。

 それより相原さんの食事だ。


「ああ、やっぱり。一人分余計に作ってましたから、すぐに用意しますよ」

「本当ですか?! ありがとうございます! あとでアンパンでも齧ろうかと思ってました」

「お客様に、そんな食事をさせるわけにはいかないでしょう?」

「む~」

 ヒカルコがむくれているので、俺が用意をする。

 料理はできているので、1人分をお盆に載せて運ぶだけだ。

 コノミが炊事場にやってきて、手伝いをしたいらしくウロウロしている。


「コノミ、これをお姉ちゃんに持っていってあげて」

「うん!」

 彼女に料理を載ったお盆を持たせた。


「大丈夫か? 落とすなよ? 落としたら、お姉ちゃんのご飯がなくなっちゃうぞ?」

「大丈夫!」

 心配なので、汁物などは俺が持っていくことにした。

 戸の所まで行くと、彼女の手が塞がっているので、俺が開けてやる。


「はい、お姉ちゃん」

「コノミちゃん、ありがとう~!」

 俺は汁物をちゃぶ台の上に置いた。

 メニューは俺たちが食べたと同じコロッケ定食だ。


「いただきます~」

 相原さんがご飯を食べ始めた。

 彼女はいつも忙しいようだが、どうやって食事をしているのだろう。


「相原さん、いつもなにを食べているんですか? 仕事とか夜遅くまでしているでしょう?」

「あ、あの……家事とか全然できないので、近所の小料理屋などで……」

 え? ああ、そうなんだ。

 それなら、深夜までやっているか――それにしても、料理もできないとか意外である。

 この時代の女性って、親から家事を習うものだと思っていたが……ヒカルコだって普通にできているしなぁ。


「相原さんのお母さんから、料理を教わったりとかは……?」

「それが……ウチの母は、そういうのは女中のやることだからと言って……」

 女中って、令和でいうところのお手伝いさんだな。


「ええ?! ガチの上流階級やんけ」

 ショックのあまり、未来のネット言語が出てしまった。


「そ、そうなんですかね……」

 彼女がちょっと恥ずかしそうにしている。


「失礼ですが、お父上の職業なんて……」

「あの、外務省に勤めてますけど……」

「ぐわ! マジなお嬢様やん!」

 この時代の外務省勤めとか、マジで超エリートのはず。

 そんな家庭のお嬢様捕まえて、ゴニョゴニョしちゃったんだけど、いいのかよ……ちょっと心配になるな。


「コクコク!」

 相原さんの言葉にヒカルコもうなずいている。


「ヒカルコ、お前の親もお堅そうな商売っぽいけど、なにをしてるんだ?」

「……教師」

「ふたりともか?」

「コクコク」

「そりゃ確かに堅いだろうなぁ」

 漫画やアニメとか「バカになるから観るんじゃない!」とか、いいそうな家庭だ。


「お父上がそういう職業で、お嬢様が漫画の編集をやってたりして、なにか言われないですか?」

「言われますけど――もう独立してますし、父の言うことに従う義務もありませんので」

「コクコク!」

 ヒカルコがうなずいている。

 そこら辺は意見が合うらしい。


「でも、なぜ出版社に。コネで国家公務員の席がいくらでも……」

「そんなのに興味ありませんでしたから」

「ほう」

「私! 物語が好きなんですよね!」

 彼女がご飯を食べながら熱弁をしている。


「それなら文芸誌とかには?」

「いいえ! これからは漫画が伸びると思ったんです! まったく見たことや聞いたことがない物語を作るのをお手伝いしたいと!」

 読むのは大好きだけど、彼女は生み出せない人らしい。

 それなら――と、クリエイターのサポートをする仕事を選択したのだろう。

 編集なら、物語ができる最前線にいることができるのだから。


「TV漫画などは?」

「み、観たいのですが、その時間は家に帰れなくて……」

 まぁ、この時代にビデオはないしなぁ。

 未来になれば、いつでもどこでも動画が観られるようになるなんて信じられないだろう。


「食事は解りましたが、部屋の掃除とか洗濯は?」

「……週に1回ほど、実家から女中がやって来て……その」

「全然、独立してねぇし」

 思わず、ツッコミを入れてしまった。


「そ、そんなことはありませんよ。私だって、やろうと思えばやれるんです!」

「いやいや、相原さん。せっかく太い実家があるなら、利用しない手はないですよ」

「そ、そんなに太くはないと思うのですが……」

 オカンが家事をしたことがなくて女中がいるなんて、ガチ豪邸とかじゃん。

 太いに決まっとるやんけ。

 いやいや、ショックのあまり言葉遣いが変だな。


 お話をしつつ、相原さんの食事が終わった。

 完食である。


「お嬢様のお口に合ったようでよかった」

「お嬢様じゃないですから……」

 彼女が恥ずかしそうにしている。

 普段は小料理屋などに行っているなら、ウチと味は変わらんはず。

 ああいう所は、いわゆる「おふくろの味」を売りにしているからな。

 コンビニやらチェーン店などがないので、独身の男たちはそういう所で飯を食う。

 古い漫画などでそういうシーンが多いのは、それが普通だったせいもある。

 男たちは自分好みの味付けの店を探して、渡り歩くわけだ。


 相原さんの食事が終わったので、皆で風呂に行くことにした。


「相原さん、タオルなどは?」

「持ってきました!」

 石鹸やシャンプーなども持ってきていた。

 準備万端だな。

 ちょっとした旅行感覚なのかもしれない。


 4人で外に出ると、八重樫先生の部屋に明かりが煌々(こうこう)と灯っている。

 追い込みの真っ最中だ。

 売れてきているのが解っているので、作画にも気合が入るだろう。

 それはいいのだが、身体には十分に気をつけてほしいところである。



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