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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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64話 組み立てプレーヤーの特許もとるか~


 雑誌にシートレコードの付録をつけるという計画が進みそうだ。

 漫画雑誌でそういうことをやっている会社はいままでないらしい。

 付録の歴史で小中学館がパイオニアになるかもしれない。


 ムサシの主題歌がレコードになるのか~。

 楽しみだ――といいつつ、もちろん俺の考えたオリジナルではなく、未来に流行った歌のパクリなのだが。


 その打ち合わせを兼ねて、相原さんに会ってきた。

 美味い中華を食って、そのあとは――。

 俺よりも彼女がノリノリで、少々驚いてしまった。

 毎回あんな感じならもっと色々と楽しめるのになぁ――とか思っていると、相原さんから電報がやってきた。


「キョウノコト ワスレテクダサイ」

 文面を見た俺は驚いた。

 ええ?


 なにを忘れるんだ?

 俺のことを忘れるのか、それともシートレコード計画自体が頓挫したのか。


 俺はなにか酷いことをしてしまったのだろうか?

 心当たりがあり過ぎてどれだかわからないが、今日の彼女の様子から、そうとも思えないんだがなぁ……。


 気になる――気になるが、こういうときにこの時代には連絡方法がない。

 会社に電話をかけるわけにもいかないしなぁ。

 会社だと、向こうにも人がいるだろうし。

 電報でやり取りするようなことでもない。

 SNSやらメールで聞ければ簡単なのに……。


 メール……俺は閃いた。

 つまり手紙か。

 ここは時間は少々かかるが、アナログな方法で連絡してみるか?

 ここまできて、ジタバタしても始まらんし。

 出版社から、やっぱりシートレコードなんて駄目って言われれば、なにも言えないしな。


 ――相原さんからの電報を受け取った次の日。

 朝飯を食った俺は、秘密基地に避難すると言って、買い物に出かけることにした。


「コノミ、朝の涼しいうちに宿題とかやっておきなよ」

 彼女はもう夏休みに入っている。

 毎朝、早起きしてラジオ体操にも行く。


「うん」

「絵日記とかも、ちゃんと毎日つけるように」

「わかった」

 溜めるとろくなことがないしな。


 アパートから出ると、今日はいい天気である。

 ピーカンで撮影日和なので、秘密基地に寄りカメラを持ち出すと、商店街に向かう。

 相原さんに手紙を書くために、とりあえず便箋と封筒はいるだろう。

 路地を歩きながら街のスナップを撮る。

 路上駐車している車も撮影してみるが、こんなクラシックな車なら資料にもなるだろう。

 この時代、通りを遊んでいる子どもの写真を撮っても捕まることはない。


 子どもたちにカメラを向けると、手を振り集まってくる。

 いや、整列写真を撮りたいわけじゃねぇんだ。

 あくまで自然体なガキンチョをだな――まぁいいか。

 写真を撮りながら商店街にやって来た。


 この時代にコンビニはないが――子どもたちが登校の途中で文房具を買ったりするので、文房具屋は朝からやっていたりする。

 便箋と封筒を買うと、秘密基地に帰宅。

 早速手紙を書くことにした。


「前略――相原様。そういえば、彼女の下の名前は――確か美智子だったな」

 もらった名刺にそう書いてあったと思う。

 昭和の時代、畏れ多くも畏くも、民間から皇太子妃になられた御方にあやかって、この名前が増えた――はず。

 それはいい。


 とりあえず、なにかマズいことをしたのなら、謝罪する旨を書く。

 あるいは、シートレコードの付録計画が頓挫したのか? ――それも質問としてしたためた。

 いかにも昭和って感じだが、アナログの手紙など、なん十年ぶりだろうか。

 こんな機会がなければ、手紙など書かないであろう。

 いい機会になったかもしれない。


 書いた手紙を封筒に入れて、糊で封をした。

 糊は、以前に鯉のぼりを作ったときの残りだ。

 俺は、書き終わった手紙を持って、私鉄の駅前まで出かけた。

 郵便局に入ると、切手を買う。


 封書は10円切手らしい。

 物価からすると少々高いかもしれないな。

 10枚買ったら、赤い着物を着た女性の切手がシートでやってきた。

 なにやら切手週間の切手らしいが、別に普通の切手でもよかったのだが……。


 そういえば、見返り美人の切手がえらく高くなっていたことがあった。

 あの切手は、この時代よりもっと古いものだったはず。

 俺は切手を見ながら1枚を切り離し、封筒に貼り付けると赤いポストに投函した。


 秘密基地に戻ってきた俺だが、出版社に送っていた大衆小説は打ち切りになってしまった。

 続けて原稿を書くものの、いまいち乗らない。

 こういう仕事は乗りが大切である。

 畳に寝転がり、煤だらけの黒い天井を見つめるが、いいことを思いついた。


「そうだな――組み立て式のレコードプレーヤーの特許を取るか!」

 今のうちに取っておけば、他の雑誌社がシートレコードのオマケをつけようとしたときに、いくらかでも金が取れるかもしれない。

 多分、小中学館がオマケをつけたあと、各社が追随してくるだろう。

 特許がゲットできるまで1年かかるので、その間はコピーされまくりになってしまうが、やむを得ない。

 塵も積もれば山となるかもしれんし。


 小説で稼げる金なんてたかがしれているしな。

 悲しいかな、俺に才能がないのは元の時代で判明しているし、これ以上ジタバタしても仕方ない。

 文章書きは、あくまでも趣味だ。


 組み立て式レコードプレーヤーの試作はアパートで作っていたが、そのときの材料はすでに秘密基地に搬入済みだ。

 向こうに置いておくと、荷物がドンドン溜まり狭い部屋がさらに狭くなってしまう。

 要らないものは、すぐに秘密基地へ持ってくる。

 これで、普段暮らしているアパートがスッキリするわけだ。


 試作したときの設計図や材料などは残っているので、再び同じものを作って特許事務所に持ち込むことにしよう。

 さすがに3回目ともなると要領が解るため、すぐに完成した。

 この現物と設計図を、そのまま特許事務所に見せて書類を作って貰えばいいだろう。


 紙袋の中にできあがったものを突っ込むと、秘密基地に鍵をかけた。

 一旦、アパートに戻ってヒカルコの所に顔を出す。

 コノミは中にはいなかった。


「ヒカルコ、ちょっと特許事務所に行ってくる」

「うん」

「帰ってくるのは昼を過ぎると思うから、飯はコノミと食べてていいぞ」

 途中で昼飯を食べてくる旨も伝える。


「わかった」

 彼女も、コノミがいるから一緒についてくるとは言わない。


 スーツに着替えようかと思ったが、あの特許事務所なら大丈夫だろう。

 金があるので、この時代にやってきたときに買ったものはドンドン捨てて、新しいものを揃えている。

 以前のように、あまりボロい恰好はもうしていない。


 そうすると、こちらを見る周りの目も違ってくるのが面白い。

 いつも言っているが、人間は見た目で9割がた決まる。

 ――と言いつつ、特許事務所には普段着で行くけどな。

 まぁ、あそこの所長は馴染みだし問題ないだろう。


「あ、そうそう。サンプルの爪切りを特許事務所にも贈呈してあげようか」

 お世話になったしな。

 国鉄駅に向かう前に――近くの店に向かう。

 曇っているのだが、蒸し暑い。

 まぁ、30℃は越してないだろう。

 8月も近いし、そろそろ梅雨明けということか。


「あ~もしもし」

 木でできた店先にある赤い電話に10円を入れると、特許事務所に電話をかける。

 あの所長がいないときに行っても仕方ないし。

 幸い、爺さんはいるようだ。

 それじゃ行くか。


 途中の商店街で、またシートレコードをゲットしなくてはならない。

 前に手に入れたものは、相原さんに渡してしまったし。


「ちわ~」

「おや! この前の!」

 店主は俺のことを覚えていたようだ。


「またシートレコードを探しにきたんだけど」

「ああ、それなら――」

 レジが載っている机の引き出しから、彼が取り出したのは前と同じシートレコード。


「同じのがまだあったんだ」

「はは……」

 彼が苦笑いしている。

 この薬の営業をしているやつが、適当な店に押しつけていった光景が目に浮かぶ。


「それじゃ、それをもらってもいいかな?」

「ええ、どうぞどうぞ! 捨てるに捨てられなくて困っていたところなんで」

 レコードを売っているということはレコードが好きなんだろう。

 たとえしょうもないレコードでも、捨てるのは忍びないんだと思う。

 本好きが、つまらない本でも捨てられないのと一緒だな。


「ありがとうございます――あ、そうだ」

 俺は袋から、紙のプレーヤーを取り出した。


「なんですか?」

「これが仕事でやっていたものなんですよ」

 俺はジャケットからシートレコードを取り出すと、プレーヤーの上に載せてくるくると回し始めた。


「手作りの蓄音機ですか!」

「そうそう、面白いでしょ?」

「へぇ~」

 店でレコードプレーヤーを売っているぐらいだし、こういうものも好きなはずだ。

 彼も、シートレコードをくるくる回して歌を聞いている。


「このシートって、プレーヤーでかけてみました?」

「はい、一度だけ……はは」

 あまりにアホらしくて、聴く気にならんだろうな。

 ――と言いつつ、ウチではコノミが回しまくったせいで、曲も歌詞も全部覚えてしまったが。

 なんという脳細胞の無駄遣い。


「シートレコードありがとうございます。プレーヤーを買うときはここで買いますんで」

「はは、よろしくお願いします」

 俺は店主に礼を言うと、店をあとにした。


 人混みの中、国鉄の駅まで歩くとガード下でなにかを売っている連中がいる。

 よく見ると――ここにもサントクの社員がいて、ガード下で爪切りを売っていた。

 本当にゲリラ販売だな。

 挨拶しようとしたのだが――まぁ、いいか。


 それを横目で見ながら電車に乗ると、特許事務所がある最寄りの駅へ。

 駅から出ると、ここにもサントクの社員がいた。

 もしかして商品を抱えて電車で移動、行く先々で爪切りを売っているのかもしれない。


 あんまり大々的にやると、問屋に嫌われたりしないかね?

 まぁ、あの社長のことだ、しっかりと考えているとは思うが……。

 口コミで広まれば、あとは店頭に並べればいい――そういう作戦かもしれねぇ。

 しばらくサントクのことを考えながら、特許事務所までやってきた。

 古いビルの階段を上って扉を開ける。


「こんにちは~!」

「いらっしゃいませ~」

 紺色の制服を着た女性社員が対応してくれた。


「篠原と申しますが、所長さんいる?」

「はい」

 すぐに爺さんがやってきた。


「おお~、篠原さん」

「所長さんのおかげで、こいつを商品にすることができましたよ」

 俺は、袋からカバーつきの爪切りを取り出して彼に手渡した。


「実はねぇ、僕は駅前で買っちゃったんだよ~、はぁ~」

 彼が悔しそうにしている。

 俺がこの発明を持ち込んだときにも、悔しそうにしてたしなぁ……。

 この爺さんも趣味で発明をしているようだし。


「そうですか、それじゃそっちの女の子に」

 前に来たときにはいなかった、純朴そうなオサゲの子がいる。


「いいんですか!?」

「いいよ。そんな高いものじゃないし」

「ありがとうございます~!」

 爪切りをもらった女の子がキャッキャしている。


「ちょっと、ずる~い!」

「私がもらったんですぅ!」

 女の子たちが喧嘩を始めてしまった。


「悪い、サンプルは1個しか持ってこなかったんだよ」

「お客の前だよ! 騒いでないでお茶でも淹れなさい!」

「「「は~い……」」」

 応接に通された俺は、まずは所長に礼を言った。


「この爪切りの件では、大変お世話になりました」

「それが、僕たちの仕事だからねぇ。それで、今日はなにを持ってきたの?」

「これです」

 俺は袋に入れていた紙のプレーヤーを出した。


「う~ん? 中にシートレコードが入っているってことは――これって蓄音機なの?」

「そうです。蓄音機の特許はもうだめでしょうけど、紙でできた組み立て式の蓄音機を、雑誌の付録などにつける特許です」

「雑誌の付録?!」

 紙の箱を持った彼が、目を見開いた。


「そうです。この薄い箱を雑誌に挟んで一緒に売り、提携するものの宣伝に使う」

「……」

 爺さんが黙って腕を組んでいる。

 俺の言っていることが、ピンと来ないのだろうか?


「TV漫画になっている漫画を連載している雑誌がありますでしょ?」

「ああ……」

「番組の主題歌などのシートレコードを付録につければ、売上の増加や宣伝にもなるという寸法ですよ」

「なるほど――蓄音機や電蓄を持っていない子どもでも、これがあればオマケのシートレコードを聴けるというわけか……」

「そのとおりです」

 爺さんと話していると、さっきの女の子がお茶を持ってきた。


「それってなんですか?」

「これは、紙でできた蓄音機だよ」

 俺がシートレコードを指で回すと、音が出始めた。


「ええ~っ!? なんで音が出るんですか?!」

「これは、手で回す蓄音機なんだよ」

「こんな紙でできているのに?!」

「そう」

「すごーい!」

「そんなわけで、蓄音機の特許ではなくて、紙でできた蓄音機をシートレコードとセットで雑誌につけて売るという――商売の特許ですね」

「うん! 承知した! これは飛びつく雑誌社が出るかもしれないね」

「基本は、子ども向けですねぇ。大人なら、レコードプレーヤーを持っているわけですし」

「そうだね。でも――これは上手くできてるなぁ……本当に子どもでも作れそうだし……」

「こんなのが、あったら私も欲しいですぅ!」

 お茶くみの女の子が、まだプレーヤーを眺めている。


 話を理解してくれた爺さんが、自ら図面を引いて特許の書類を作ってくれるらしい。

 面白そうだから――という理由で。

 彼に書類の申請は任せて、俺は特許事務所をあとにした。


 地元に帰ってきて駅から出ると、駅前商店街にあるクラシック喫茶でコーヒーを飲む。

 一服してから秘密基地に帰ってきた。


 庭にいた隣の奥さんをチラ見するが、彼女との関係は完全に切れている。

 以前は旦那がずっと留守だったが、最近は自宅にいるようだ。

 この状態では、彼女とやったりはできないだろうしな。

 旦那は貿易会社の社長をしているような話を聞いたことがあったのだが、会社はどうしたのだろうか?

 まぁ、俺にはもう関係ないことだし。

 旦那がいるなら、万引きなどしている暇もないだろう。


 秘密基地の掃除などをしつつ、畳で寝転がって本などを読んでいると、戸を叩く音がする。


「はい?」

「ショウイチ……」

 この声は、コノミの声だ。

 彼女には、この場所は直接教えていないのだが、どこからか情報を仕入れたのだろうか。

 戸を開けると、コノミと女の子の友だちが2人いた。

 1人はいつも遊びにやってくる鈴木さんだ。


「どうした? なにかあったのか?」

「ううん」

 彼女が首を振るのだが……。


「こんな所に来ても、なにもないぞ? それに、俺がアパートにいると、コノミたちの邪魔になるからと、ここで仕事をしているのに」

「いいの」

 なにが楽しいのか、3人を中に入れるのだが、マジでなにもない。


「ほら、なにもないだろう」

「あ! 拳銃!」

 女の子の1人が、ちゃぶ台の上にあったモデルガンを指した。


「これは玩具だよ」

「ふ~ん……」

「ほら、なにもないだろう? 普段は要らないものを入れておく場所に使っているからな」

 マジでなにもないのだ。

 ここで生活をしているわけじゃなくて、ただの作業部屋だしな。


「こっちは?」

 コノミが奥の部屋に行こうとする。


「そっちは写真部屋だよ」

「「写真?!」」

 彼女たちの目が輝く。


「ほら、前に運動会の写真を撮ってあげただろ? ここで作ったんだよ」

 現像と言っても子どもたちには解らんだろうし。


「「本当?! 見てみたい!」」

 本当に好奇心でいっぱいって顔だ。

 どうやらコノミも見てみたいらしい。


「ちょっとまっててな」

 先に入って、ものを片付ける。

 俺が撮ったエロ写真とかがあるからな。

 ここに子どもたちも遊びに来るなら、鍵付きのキャビネットとか買ったほうがいいかもしれんなぁ。


「ショウイチ……」

「いいぞ~」

「「「わぁ~」」」

 女の子たちが、部屋になだれ込んできた。


「こんなの見てもつまらんだろ?」

「どうやって写真にするの?!」

「見てみたい!」

 女の子たちが、興味津々な顔をしている。

 この状態から追い出すわけにもいかんしなぁ。

 別に写真に興味が湧くのは悪いことでもないし……。


 フィルムから現像するところからじゃ、時間がかかりすぎる。

 最後の引き伸ばしとプリントするところでいいか。

 俺は、天井からぶら下がっている赤色灯をつけた。


「戸をしっかりとしめてくれ」

 戸を閉じると、部屋の中が真っ赤に染まる。


「みんな真っ赤!」

 非日常的な空間に女の子たちがキャッキャしている。


「写真を作るとき――現像っていうんだけど、この赤い光じゃないとだめなんだ。写真が真っ黒になっちゃう」

「「「へ~」」」

 バットに薬品を用意。

 テキトーなフィルムを引き伸ばし機にセットして、印画紙をセットする。

 露光して現像液に着けると、コノミの写真が浮かび上がった。

 薬品で定着させると、最後に水洗いしてから、ぶら下げて乾かす。


 女の子たちが、部屋の中に張られた紐にぶら下がる写真を見上げている。


「「すごい! 本当に写真ができた!」」

 はしゃぐ女の子たちに、コノミがドヤァァ顔をしている。


「こうやって写真を現像しているわけだ。俺は白黒しか写さないけどな」

「カラーもできる?」

「できるけど、面倒だからカメラ屋に持っていくよ」

「ふ~ん」

「そうだ、3人の写真を撮ってあげようか?」

「「「本当?!」」」

「ああ」

 3人は乗り気のようだ。

 まぁ、遊ぶネタがなくて退屈なんだろう。

 宿題はちゃんとやったのだろうか?

 コノミの宿題はヒカルコが見ていたはずだから、やっていると思うが。


 カメラを用意して外に出る。

 3人が並んだ。


「立っているだけじゃつまらないから、なにかポーズをつけない?」

「ポーズって?」

「恰好をつけてみるとか?」

 俺はポーズの見本を見せてやる。

 特撮ヒーローの決めポーズとか普及してないからなぁ。


「「「わかった!」」」

 3人が手を広げたり、Vサインをしたりしている。

 Vサインってこの頃からあるのか。


「それじゃ撮るよ~笑って!」

「「「えへへ~」」」

 その場でポーズを変えて12枚撮る。

 ちょうど12枚撮りだし。

 なにせ液晶のファインダーとかないし、現像してみないとどういう写真になっているのかまったく解らない。

 オートフォーカスもなけりゃ、手ブレ補正機構もない。


「明日にはできるぞ」

「え~?! 今日は見られないの?!」

 女の子たちは、すぐに写真を見たいようだ。


「フィルムとかの乾燥があるから、無理だねぇ。ほんで、写真の乾燥にも1日かかるから」

「仕方ないよ」

 1学級年上の鈴木さんが、女の子たちをなだめている。

 コノミは写真の現像に時間がかかるのを知っているから、なにも言わない。


「それじゃな」

「「「バイバイ~!」」」

 コノミたちは、他の所に遊びに行くようだ。


「さて、俺は早速現像してみるか……」

 現像してみると、綺麗に撮れていた。

 俺の腕も中々上がったもんだ。


 ――少女たちの写真を撮った、その夜。

 夕飯を食べたあと、漫画家の先生たちと一緒に、ネームの打ち合わせをする。

 セーラー服のほうは、あまりストーリーに動きがない。

 敵が襲ってきて、毎回それを撃退する中で徐々に話が進んでいく。

 その合間に恋愛パートが挟まれるが、オッサンの俺にそんな話は無理だ。

 ここは、ヒカルコ先生の力を借りる。

 新進気鋭の先生2人で、キャッキャとストーリーを練っている。

 こういうときが一番楽しいのだ。

 考えたネタを実際に形にするとなると、地獄の苦しみだけどな。


「八重樫先生、こっちもストーリー展開だ」

「はい」

 恒星の表面に超破壊砲で穴を開けて、敵の罠を脱出したムサシはそのままワープに入って逃亡する。


「そこでトラブルだ」

「トラブルって――エンジンの故障ですか?」

「惜しい! 異次元の裂け目に入り込んでしまい、エンジンがストップしてしまう」

「ヤバいですよね」

「そこで初めて、ロメル将軍という強敵に遭遇する」

「敵はなんでそこにいたんですか?」

「演習中だな」

「敵は、ムサシと同じようにエンジンがストップしないんでしょうか?」

 相手は異次元の裂け目に対応する装置を持っていたと、彼に説明する。

 ムサシの前に立ちふさがる宿敵との邂逅かいこうだ。


「あと、異次元空間のヤバいところは、ビーム兵器が使えないところだな」

「それじゃミサイルとか、魚雷が主体の攻撃ですね」

「普通はそうだが、ムサシにはビーム兵器じゃないものがあるじゃないか」

 しばらく考えていた八重樫君であったが、俺の言ったことが理解できたようだ。


「え?! ……ああ! 主砲ですね!」

「そう! 原始的な火薬と核弾頭を使った主砲で敵を撃退する」

「わかりました! 敵は地球人を原始人だと思っているので、原始的な兵器でやっつけるわけですね?!」

「そういうこと」

「なんか、そっちのほうが面白そうですぅ!」

 横から矢沢さんの声がする。


「そんなことを言われても、美少女戦士に戦艦とか出てこないし……」

「そうですけどぉ」

「戦いもいいけど矢沢さん、主人公が変身したあとの決めポーズとか、必殺技とか考えたほうがいいよ」

 俺が立ち上がって、ポーズをしてあげた。

 オッサンがこんな恰好してアホみたいだが、仕事だからしゃーない。


「ぷぷ……」

「こら! ヒカルコ! 笑うな!」

 俺は脚を伸ばして、彼女をつついた。


「……だって」

「わかりました!」

 彼女は俺のポーズをスケッチしている。


「ほら、矢沢さんはちゃんとわかっているぞ」

「必殺技ってどんなのですか?」

「時代劇の居眠り狂死郎『三日月殺法』とか知らない?」

「知らないです……」

 まだ流行る前か?


「まぁ、なんでもいいんだよ。火炎烈火斬! とか、水龍激流突き! とか」

「う~ん、う~ん……」

 彼女から、ストーリーやら練っている設定を聞いて、適当な技の名前を考えてあげた。

 刀を持っての必殺技だから、仏教用語から色々と取ったら――と、アドバイスもしたが、どうだろうか。


 まだ中二病ってのはない時代だし、そういうのが受けるかもしれない。

 恥ずかしい技を考えている俺は、尻がくすぐったくて勘弁だけどな。


 

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