63話 相原さん張り切る
宇宙戦艦ムサシが連載されている雑誌に、付録をつけるという。
俺がシートレコードをつけたいと言い出したので、皆がそれに乗ってしまった恰好だ。
その中でも一番張り切っているのは、相原さん。
企画書を書いて、もう関係なくなった古巣に突撃してしまった。
「組み立て式のレコードプレーヤーなんてものが、どこにある?」と、一蹴されてしまったようだが――。
そんなこともあろうかと、俺が試作していた。
早めに作っておいてよかったぜ。
まぁ、俺としてもムサシの主題歌とかドラマ編が、シートレコードで聴けたらなぁ――と、思っていたので、逸る心が功を奏した恰好だ。
俺のところにやって来た相原さんが、喜んで試作プレーヤーを持っていったが――果たしてどうなっただろうか?
令和なら、スマホのSNSとかですぐに連絡が入るところだが、この時代は違う。
電話すら会社や金持ちの家にしかない時代だ。
すぐに結果が聞けないところがもどかしくもあり、のんびりしている感もあり。
これが昭和か。
――相原さんが、組み立て式プレーヤーを持っていった次の日。
コノミを学校に送り出してまったりしていると、郵便屋がやって来た。
現金書留が5通――24万円の入金だが……一緒によくない知らせが。
中に手紙が入っており、原稿は前回に送った分で打ち切りにして欲しいとのことだった。
「はぁ~、打ち切りか~。まぁ、しゃーない……」
まぁ、そんなに続くとは思ってなかったがな。
つなぎの資金としてありがたかったし、金なら他にも入ってくる。
それに、暇だったらまた書いて、他の出版社に持ち込んでもいいし。
「ショウイチ、大丈夫?」
ヒカルコが心配そうにしている。
「ああ、大丈夫だ。爪切りの特許だけでも十分に食えるだろ」
彼女の頭をなでる。
他の特許もあるし、あの組み立て式のプレーヤーの特許も取っておかなくては。
その前に競馬の稼ぎもあるしな。
ちょっとずつ使うならバレないはず。
趣味でやっていたとはいえ、やっぱり打ち切りは少々堪えた。
がっかりしていると廊下から大家さんの声がする。
「篠原さ~ん!」
「は~い」
廊下に出た。
「電話よ~」
「すみません~! すぐに行きます」
ズボンを穿いてシャツを羽織ると、外の階段を降りていく。
今日は快晴で、暑くなりそう。
そろそろ梅雨も明けるのではなかろうか。
コノミの学校も明後日が終業式で、1ヶ月以上の夏休みに突入する。
毎日、コノミの友だちが遊びに来たりするから、俺も秘密基地勤務が多くなりそうだな。
それはいいのだが、大衆小説が打ち切りになってしまって原稿が宙に浮いてしまった。
まぁ、どうせ暇だから、書き溜めて置いてもいいのだが……。
それとも、なにか他のことをしようか。
たとえば車の免許を取るとか……。
外を回ると、大家さんちのドアを開けた。
「篠原さん、内階段使ってもいいのよ?」
彼女が目の前にある階段を指した。
「まぁ、けじめみたいなものがありますので」
「もう」
それはさておき、電話に出る。
誰だろう? サントクの社長かな?
「もしもし?」
『篠原さん! ありがとうございます!』
電話から聞こえてきたのは、相原さんの声だ。
「シートレコードのプレーヤーはどうでした?」
『もう、皆声を失ってました!』
「目の前にサンプルがあるのに、反対された――なんてことは……」
『もう反対なんてできるはずがありませんよ。そんなものあるなら持って来い! ――とか言っていた編集長が黙ってしまったんですから』
彼女は、「これでも認めてくれないなら、プレーヤーを持って社主に直訴します!」と、言ったらしい。
そんなことをされたら、編集長の面子が丸つぶれだ。
急遽、各編集部が集まって、緊急会議になったらしい。
そりゃ、そんなものがあるなら、どこの編集部でもオマケにつけたりしたいだろうしな。
もしかしたら、他社を出し抜いて売上を伸ばすことができるかもしれないし。
「それで、決まりそうなんですか?」
『はい! この組み立て式のプレーヤーを付録にする計画を進めるようです』
「でも、初めての試みですからねぇ。中々大変ですよ」
『そういうのは、私の苦労ですから、お任せください!』
「もちろんですけど、無理はしないでくださいよ。お肌にもよろしくありませんし」
『……あ、あの、それでですね……』
電話の向こうの彼女が、なにかモゴモゴしている。
「なんですか? なにか問題でも?」
『い、いいえ! これからお会いして、お昼ご飯ついでに打ち合わせなどをしたいのですが……』
「ええ、もちろんいいですよ。以前のホテルですか?」
『はい! よろしいですか?! よろしくお願いいたします!』
待ち合わせは、前と同じように駅前ということになった。
すぐに電話が切れたのだが、珍しくすごく興奮しているように感じた。
「大家さん、ありがとうございました」
「おでかけ?」
「はい、仕事ですねぇ。雑誌で付録をつけることになったんですよ」
「篠原さん、そういうお仕事もしてるの?」
「まぁ、今回は私が言い出しっぺってことで、ははは」
大家さんに挨拶をして部屋に戻ってきた。
「ヒカルコ悪い。仕事の打ち合わせだ。あのレコードプレーヤーを付録につけるらしい」
「本当?! 楽しみ!」
「そうだよなぁ。ムサシの主題歌とか、俺も聴きたいし……」
シャツを着て、夏用のジャケットを羽織る。
ネクタイは――まぁ、相原さんに会うだけならいらないだろう。
「昼飯も奢ってくれるらしいから、食ってくる」
「むう……」
「悪いな。なにか出前でも取って食え」
彼女に100円札を渡すと、渋々受け取った。
「わかった……」
本当はついて行きたい――とか言いたそうだが、仕事だって言っているのに、そいつは無理だ。
廊下に出ると、八重樫君の所に行く。
「お~い、先生」
「は~い!」
彼が出てくると、またパンツ一丁だ。
「雑誌の付録があれに決まったみたいだから、これから打ち合わせに行ってくるわ」
「本当ですか?!」
「やっぱり、目の前にあのプレーヤーを出されたら、みんな黙ったみたいだな」
「そりゃそうですよ! あんなので音が出てくるとは思いませんし!」
「予算とか、定価がどうなるとか、色々と難関があると思うが、初めての試みだからな」
「他の雑誌社とか、驚くでしょうねぇ」
「まぁ、多分な」
俺と八重樫君が話していると、右手のドアが開いた。
顔を出したのは矢沢さんだ。
「なにか面白い話ですか?!」
「雑誌の付録にシートレコードをつけるのが決まりそうなんだよ」
「え?! すごい! 本当ですか?!」
彼女が両手を上げてくるくると回っている。
簡単服から腋が見えているのだが……この子はちょっと警戒感がなさすぎだなぁ。
俺と八重樫君だから大丈夫だと思っているのだろうけど。
「これから神田に行って、打ち合わせしてくるからさ」
「戻ってきたら、お話聞かせてくださいねぇ」
「でも、この段階で、具体的な話はなにもないとは思うがなぁ……」
2人に行ってきますを告げて、俺は外に出た。
もうかなり日が高くなっているので、ジリジリくる。
今日は確実に30℃を超えそうだ。
暑い中、冷房がない電車を乗り継ぎ、水道橋駅で降りた。
改札を通るとハッピを着て、なにか売っている連中がいる。
男女合わせて3人ほどで、ダンボールが横に詰んであったのだが、そこに見慣れたロゴが――。
よく見ると、サントクの社員たちだった。
こういう駅前などの人が多い場所で、ゲリラ販売をしているのだろう。
許可を取っているのだろうか? それとも、本当にゲリラ販売?
辺りを見ても、相原さんの姿は見えないので、サントクの社員に声をかけてみることにした。
「ちわ! その爪切り売れてる?」
「あ! 先生!」
若い男の社員だ――俺は知らなかったが、向こうは俺を知っていたらしい。
「先生は止めてくれよ」
俺も、いつも八重樫君のことを先生だとからかっているが、俺が言われる羽目になるとは……。
「そんなことはありませんよ。先生はサントクの恩人なんですから!」
「恩人なんて大げさな……」
「この爪切りが大ヒットで、会社の中はてんてこ舞いなんですから。もうすごいですよ!」
「そんなに売れてるのかい?」
「はい!」
彼の話によると、営業部が2つも増えたらしい。
「新しい営業部って、あのビルに入っているのかい?」
「いいえ、とてもじゃないですが入り切らないですよ。新しいビルを借りて、そこに第2と第3の営業部が入ってます」
「それじゃ、社屋も増えたのかい」
「はい」
すげー、急成長しているなぁ。
勢いを見て、銀行もバンバン金を貸してくれるらしい。
「銀行屋も掌返しまくりだなぁ」
「社長もそう言って、苦笑いしてましたよ」
メインバンクを変えたと言っていたが、逃げられた銀行屋は地団駄踏んでいるだろう。
傾いた会社から融資を引き上げる――銀行としては致し方ないルーチンだろうが、逃がした魚は大きい。
「俺の紹介で入った、デカい男の子は頑張ってるかい?」
「ああ、岩山君ですね~。あの人、めちゃ力持ちですよねぇ」
一緒にいた女性社員がキャッキャしている。
残念ながら、彼は彼女持ちなんだよなぁ。
サントクの社長と話していたときに、その話題が出たから知っているとは思うが。
爪切りを売っている社員と話していると、声をかけられた。
「篠原さん!」
「おお、相原さん」
タイトスカートとスーツを着た、彼女が目一杯の笑顔を見せてくれる。
随分と元気そうだ。
新しい編集部に飛ばされたときには落ち込んでいたが、開き直ったせいだろうか。
「え? もしかして、先生のいい人ですかぁ?」
男性社員がいやらしい笑いを浮かべている。
「ちゃうちゃう、仕事の相手だよ。向こうに、小中学館ってデカい出版社があるだろ?」
「ああ、はい! そちらの方も、新発明の爪切り、いかがっすか~!」
「彼女には、俺がサンプルを渡してあるから」
「でも篠原さん、机の引き出しに入れるために、1個ここで買いましたよ」
相原さんが笑って話している。
「すでに購入済みでしたか! あざ~す!」
「同僚たちも、ここで買ったと言ってましたよ。机で爪を切れるから便利だといって」
「営業とかでるのに、爪が伸びていたりするとマズいだろうしねぇ」
「はい」
ある程度数が出たら頭打ちになるかな? ――と、思ったのだが、複数買っている人もいるようだ。
「それじゃ相原さん、いきましょうか」
「はい」
社員たちにも別れを告げる。
「サントクの社長さんにも、よろしく伝えてよ」
「わーりゃした! 先生! あざ~す」
相原さんと一緒に、電車道を渡る。
行き先は、前の食事をした山の神ホテルだ。
彼女と一緒に線路沿いの道を歩いて行く。
あのホテルに行くなら御茶ノ水駅のほうが近いと思うが、相原さんと待ち合わせがあるからな。
「それにしても一発で、企画が通ってよかったですよ」
「『そんなものがあるなら持って来い!』って言って、それを目の前に出されたら、なにも言えませんよ、うふふ」
「まさか、すぐに現物が出てくるとは思わなかっただろうなぁ」
「そうですよ。私だって思ってませんでした」
「でも、実現するとなると、結構大変かもしれないですよ」
「はい」
「でも、可能なはず」
それが証拠に、未来では実際に付録として雑誌と一緒に売られていたわけだし。
あれをやり始めたのがどこかは解らないが、今回は小中学館がパイオニアになるわけだから、多少の苦労は仕方ない。
「大丈夫ですよ。任せてください!」
彼女がガッツポーズで、フンス! と気合を入れている。
「体調に気をつけて、無理しないでくださいね」
「それは、女性が男性に向けて言うセリフみたいですね……」
「はは、そうですねぇ」
やはり彼女は、仕事が忙しいほうがいきいきとしている。
仕事が好きなんだろうなぁ。
俺みたいな基本ぐーたら人間には理解不能だが……。
2人で話しながら歩き、坂の上にあるホテルに到着した。
中に入ると涼しい――さすがに、こういう大きな所は空調があるようである。
そういえば、戦艦大和にも空調はあったらしいので、仕組みが作られたのはそれなりに古いのかもしれない。
以前に入った中華レストランに入る。
とりあえず、カニチャーハンと餃子を頼んだ。
街の中華屋で食っているのは焼餃子だが、ここの餃子は水餃子だ。
家でも餃子を食いたいのだが、冷凍食品がないので自分で作るしかない。
いや、冷凍食品じたいはあるようだが、餃子っぽいのを見かけたことがない。
餃子を食いたけりゃ、皮も売ってないので自作する必要がある。
非常に面倒くさい。
結果、あまり代わり映えがしない料理が食卓に並んでしまう。
まぁ、それがこの時代の当たり前なのだから、贅沢を言うべきではないと思うのだが。
「美味い美味い! 家でも餃子を食いたいんですがねぇ」
汁に浸った餃子を掬って噛むと中から肉汁が出てくる。
「あら、ここでお土産として売っているようですよ」
彼女は、なにかトロみがついたラーメンを食べている。
俺が食べているのは水餃子だが、売っているのは焼餃子っぽい。
焼餃子なら家でも食えるな。
「え? それなら、お土産は餃子にするかな。夕飯で皆で食える」
「コノミちゃんの学校はどうですか?」
「成績もいいし、順調ですねぇ。そこら辺のガキ大将より頭がいいですよ」
「まぁ」
彼女がクスクスと笑っている。
「プレーヤーの薄い箱は、組み立てた状態で同梱したいんですよねぇ」
「やっぱり、そのほうがいいでしょうねぇ……」
「本当は、箱に切れ込みまで入れて、刃物を使わなくても組み立てられるようにできればなぁ……」
「……どんな感じなのでしょうか?」
カバンからノートを出して、彼女に図を描いて説明をする。
「全部切ってしまうと、開いてしまうじゃないですか。所々を繋げたままにしておけば、それを手を使って切り離すだけで組み立てができる――という」
「ああ、なるほど! いいですねぇ! ミシン目より簡単かもしれません」
「でも、組み立ての手間が増えてしまうからなぁ」
令和の雑誌なら、そういうのはオートメーションでやっているのだろうが、この時代にはそんなものはない。
相原さんの話では、内職を斡旋する業者がいるので、そういう所に頼むらしい。
この時代、女性の仕事と言えば、こういう内職が多かった。
切って糊付けして組み立てて10個で1円の手間賃とかそういうのだな。
1個いくらの外注業者扱いなので、最低賃金とかもない。
そもそも、この時代にそういうものが存在しているのかも解らん。
一応、法律などはあるのかもしれないが……。
あとは、手間が増える分、料金がかかるので、予算をどれだけ突っ込むか上層部の判断に委ねるしかない。
基本、子どもが作れるようにしなくてはならないからな。
まだ、盲導犬的なキットなどもない時代だから、全部客任せでもいいような気もするが……子どもが組み立てできないと可哀想だしなぁ。
「あと、値段は上がりますよね? シートレコードも同梱されますし……」
「おそらくは――特殊な例なので、高い付録版と通常版を用意しようかという話も出てます」
「まぁ、そうですねぇ」
彼女と話をしながら、楽しい食事をした。
涼しい部屋で、美味い食事――たまにはこういうのもいい。
元時代ほど暑くはないが、家庭用のクーラーが欲しくなるな。
「小中学館のビルって空調あるんですか?」
「いいえ、ありません。昔の大学の建物を使っているので……」
俺が知っている小中学館はデカいビルだったが、それじゃないのか。
「大変そうですね」
「でも、新社屋が建設中なので」
「あ、そうなんですね」
中華飯店から出て、出口に向かおうとしたのだが、シャツを掴まれた。
「あの、お部屋を取ってありますので」
彼女が、なんだかみなぎっている顔をしている。
シートレコード計画にGO! が出たときにも、随分と興奮していたように思えた。
「相原さんの大切なお話となると、お断りできませんねぇ」
「コク」
彼女が嬉しそうにうなずいた。
木がふんだんに使われた階段を2人で上り、3階のある部屋にやってきた。
前に訪れたときと同じような、和室にベッドを置いた変わった造り。
中に入ると、相原さんが突然抱きついてきた。
顔を見るとかなり興奮しているようで、もう我慢できない――みたいな顔をしている。
もう、しかたねぇ。
――というわけでゴニョゴニョしたのだが、よほど嬉しくて興奮していたのか、普段の彼女から想像もできないぐらいハッスル(死語)していた。
もう、こちらがドン引きするぐらい。
「一緒にシャワー浴びるか?」
色々と終わったあと、電池が切れたようになっている彼女に話しかけた。
「……」
相原さんを引きずるように、バスルームに連れていくと、シャワーを一緒に浴びる。
温かい流水で彼女の身体を綺麗に洗ってあげた。
お風呂で洗いっことか、ヒカルコともしてないな。
いつも銭湯だし。
やることはやったので、着替えて外に出た。
彼女はこれから仕事があるようだし。
「大丈夫ですか?」
「……」
話しかけてもボ~っとしているのだが、ホテルへの支払いなどはしっかりとやっている。
領収書ももらったりして。
ここらへんは無意識にやっているのか?
俺は、飯を食った中華飯店で餃子のお土産を買うことにした。
ホテルから出ても、彼女はべったり。
「相原さん、ここらへんでそういうことをすると、知り合いに見られたりしますよ?」
「……」
言葉は聞こえているはずなのに、彼女は出版社の近くまで俺に抱きついたままだった。
別れ際にキスを求められたので、してあげる。
相原さんは黙って会社に戻っていった。
「……大丈夫かな?」
まぁ、彼女のことだから大丈夫なのだろうと、駅に向かう。
時間は3時すぎなので、まだラッシュには早い。
混まずにアパートまで帰って来られた。
「ただいま~」
「おかえりなさい~」
コノミが出迎えてくれた。
「餃子買ってきた。皆で食おう」
「ぎょうざ?」
彼女が首を傾げている。
食べたことがないから解らないのだろう。
電子レンジなどはないので、フライパンで軽く加熱する。
隣で、ヒカルコが夕飯の準備を始めた。
「はぁ~なんかいいにおいがしますねぇ……」
やって来たのは八重樫君だ。
「この餃子はあげられないぞ?」
「わかってます……なにか店屋物でも取りますよ」
「栄養が偏るなぁ……若いうちは、それでもいいけどな」
「そのうちなんとかしますよ」
「付録の件は決まったみたいだが、まだなんとも言えない状態らしいぞ」
「なにせ、前代未聞の付録ですからねぇ」
「実際に組み立てなどを受け持ってくれる所があるのか? それに予算の問題だな」
「そうですねぇ……」
話しているうちに餃子が温まった。
飯は炊いてあったようなので、ヒカルコがスープだけを作ったみたいだ。
部屋に戻って皆で、餃子を食う。
「昼も餃子だったが、やっぱり美味い」
「おいしい……」
「コクコク!」
コノミが餃子を口いっぱいに頬張っている。
美味いらしい。
中華で腹をいっぱいにしたが――外はまだ明るい。
この季節は、7時過ぎにならないと辺りが暗くならないからなぁ。
食事のあと、後片付けをしてまったりしていると、コノミが抱きついてきた。
「餃子は美味かったか?」
「うん!」
コノミと遊んでやる。
彼女がキャッキャと喜んでいると、階段を誰かが上がってくる音が――。
先生が頼んだ出前の器を下げに来たかな?
「篠原さ~ん! 電報で~す!」
「え?! 俺か!?」
戸を開けて、電報を受け取る。
見れば、差出人は相原さんだ。
「キョウノコト ワスレテクダサイ」
俺は電報の文面に固まった。
は?! なんだ?! どういうことだ?





