表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/162

63話 相原さん張り切る


 宇宙戦艦ムサシが連載されている雑誌に、付録をつけるという。

 俺がシートレコードをつけたいと言い出したので、皆がそれに乗ってしまった恰好だ。

 その中でも一番張り切っているのは、相原さん。

 企画書を書いて、もう関係なくなった古巣に突撃してしまった。


「組み立て式のレコードプレーヤーなんてものが、どこにある?」と、一蹴されてしまったようだが――。

 そんなこともあろうかと、俺が試作していた。

 早めに作っておいてよかったぜ。

 まぁ、俺としてもムサシの主題歌とかドラマ編が、シートレコードで聴けたらなぁ――と、思っていたので、逸る心が功を奏した恰好だ。


 俺のところにやって来た相原さんが、喜んで試作プレーヤーを持っていったが――果たしてどうなっただろうか?

 令和なら、スマホのSNSとかですぐに連絡が入るところだが、この時代は違う。

 電話すら会社や金持ちの家にしかない時代だ。

 すぐに結果が聞けないところがもどかしくもあり、のんびりしている感もあり。

 これが昭和か。


 ――相原さんが、組み立て式プレーヤーを持っていった次の日。

 コノミを学校に送り出してまったりしていると、郵便屋がやって来た。

 現金書留が5通――24万円の入金だが……一緒によくない知らせが。

 中に手紙が入っており、原稿は前回に送った分で打ち切りにして欲しいとのことだった。


「はぁ~、打ち切りか~。まぁ、しゃーない……」

 まぁ、そんなに続くとは思ってなかったがな。

 つなぎの資金としてありがたかったし、金なら他にも入ってくる。

 それに、暇だったらまた書いて、他の出版社に持ち込んでもいいし。


「ショウイチ、大丈夫?」

 ヒカルコが心配そうにしている。


「ああ、大丈夫だ。爪切りの特許だけでも十分に食えるだろ」

 彼女の頭をなでる。

 他の特許もあるし、あの組み立て式のプレーヤーの特許も取っておかなくては。

 その前に競馬の稼ぎもあるしな。

 ちょっとずつ使うならバレないはず。


 趣味でやっていたとはいえ、やっぱり打ち切りは少々堪えた。

 がっかりしていると廊下から大家さんの声がする。


「篠原さ~ん!」

「は~い」

 廊下に出た。


「電話よ~」

「すみません~! すぐに行きます」

 ズボンを穿いてシャツを羽織ると、外の階段を降りていく。

 今日は快晴で、暑くなりそう。

 そろそろ梅雨も明けるのではなかろうか。

 コノミの学校も明後日が終業式で、1ヶ月以上の夏休みに突入する。

 毎日、コノミの友だちが遊びに来たりするから、俺も秘密基地勤務が多くなりそうだな。

 それはいいのだが、大衆小説が打ち切りになってしまって原稿が宙に浮いてしまった。

 まぁ、どうせ暇だから、書き溜めて置いてもいいのだが……。

 それとも、なにか他のことをしようか。

 たとえば車の免許を取るとか……。


 外を回ると、大家さんちのドアを開けた。


「篠原さん、内階段使ってもいいのよ?」

 彼女が目の前にある階段を指した。


「まぁ、けじめみたいなものがありますので」

「もう」

 それはさておき、電話に出る。

 誰だろう? サントクの社長かな?


「もしもし?」

『篠原さん! ありがとうございます!』

 電話から聞こえてきたのは、相原さんの声だ。


「シートレコードのプレーヤーはどうでした?」

『もう、皆声を失ってました!』

「目の前にサンプルがあるのに、反対された――なんてことは……」

『もう反対なんてできるはずがありませんよ。そんなものあるなら持って来い! ――とか言っていた編集長が黙ってしまったんですから』

 彼女は、「これでも認めてくれないなら、プレーヤーを持って社主に直訴します!」と、言ったらしい。

 そんなことをされたら、編集長の面子が丸つぶれだ。


 急遽、各編集部が集まって、緊急会議になったらしい。

 そりゃ、そんなものがあるなら、どこの編集部でもオマケにつけたりしたいだろうしな。

 もしかしたら、他社を出し抜いて売上を伸ばすことができるかもしれないし。


「それで、決まりそうなんですか?」

『はい! この組み立て式のプレーヤーを付録にする計画を進めるようです』

「でも、初めての試みですからねぇ。中々大変ですよ」

『そういうのは、私の苦労ですから、お任せください!』

「もちろんですけど、無理はしないでくださいよ。お肌にもよろしくありませんし」

『……あ、あの、それでですね……』

 電話の向こうの彼女が、なにかモゴモゴしている。


「なんですか? なにか問題でも?」

『い、いいえ! これからお会いして、お昼ご飯ついでに打ち合わせなどをしたいのですが……』

「ええ、もちろんいいですよ。以前のホテルですか?」

『はい! よろしいですか?! よろしくお願いいたします!』

 待ち合わせは、前と同じように駅前ということになった。

 すぐに電話が切れたのだが、珍しくすごく興奮しているように感じた。


「大家さん、ありがとうございました」

「おでかけ?」

「はい、仕事ですねぇ。雑誌で付録をつけることになったんですよ」

「篠原さん、そういうお仕事もしてるの?」

「まぁ、今回は私が言い出しっぺってことで、ははは」

 大家さんに挨拶をして部屋に戻ってきた。


「ヒカルコ悪い。仕事の打ち合わせだ。あのレコードプレーヤーを付録につけるらしい」

「本当?! 楽しみ!」

「そうだよなぁ。ムサシの主題歌とか、俺も聴きたいし……」

 シャツを着て、夏用のジャケットを羽織る。

 ネクタイは――まぁ、相原さんに会うだけならいらないだろう。


「昼飯も奢ってくれるらしいから、食ってくる」

「むう……」

「悪いな。なにか出前でも取って食え」

 彼女に100円札を渡すと、渋々受け取った。


「わかった……」

 本当はついて行きたい――とか言いたそうだが、仕事だって言っているのに、そいつは無理だ。

 廊下に出ると、八重樫君の所に行く。


「お~い、先生」

「は~い!」

 彼が出てくると、またパンツ一丁だ。


「雑誌の付録があれに決まったみたいだから、これから打ち合わせに行ってくるわ」

「本当ですか?!」

「やっぱり、目の前にあのプレーヤーを出されたら、みんな黙ったみたいだな」

「そりゃそうですよ! あんなので音が出てくるとは思いませんし!」

「予算とか、定価がどうなるとか、色々と難関があると思うが、初めての試みだからな」

「他の雑誌社とか、驚くでしょうねぇ」

「まぁ、多分な」

 俺と八重樫君が話していると、右手のドアが開いた。

 顔を出したのは矢沢さんだ。


「なにか面白い話ですか?!」

「雑誌の付録にシートレコードをつけるのが決まりそうなんだよ」

「え?! すごい! 本当ですか?!」

 彼女が両手を上げてくるくると回っている。

 簡単服から腋が見えているのだが……この子はちょっと警戒感がなさすぎだなぁ。

 俺と八重樫君だから大丈夫だと思っているのだろうけど。


「これから神田に行って、打ち合わせしてくるからさ」

「戻ってきたら、お話聞かせてくださいねぇ」

「でも、この段階で、具体的な話はなにもないとは思うがなぁ……」

 2人に行ってきますを告げて、俺は外に出た。


 もうかなり日が高くなっているので、ジリジリくる。

 今日は確実に30℃を超えそうだ。

 暑い中、冷房がない電車を乗り継ぎ、水道橋駅で降りた。


 改札を通るとハッピを着て、なにか売っている連中がいる。

 男女合わせて3人ほどで、ダンボールが横に詰んであったのだが、そこに見慣れたロゴが――。

 よく見ると、サントクの社員たちだった。


 こういう駅前などの人が多い場所で、ゲリラ販売をしているのだろう。

 許可を取っているのだろうか? それとも、本当にゲリラ販売?

 辺りを見ても、相原さんの姿は見えないので、サントクの社員に声をかけてみることにした。


「ちわ! その爪切り売れてる?」

「あ! 先生!」

 若い男の社員だ――俺は知らなかったが、向こうは俺を知っていたらしい。


「先生は止めてくれよ」

 俺も、いつも八重樫君のことを先生だとからかっているが、俺が言われる羽目になるとは……。


「そんなことはありませんよ。先生はサントクの恩人なんですから!」

「恩人なんて大げさな……」

「この爪切りが大ヒットで、会社の中はてんてこ舞いなんですから。もうすごいですよ!」

「そんなに売れてるのかい?」

「はい!」

 彼の話によると、営業部が2つも増えたらしい。


「新しい営業部って、あのビルに入っているのかい?」

「いいえ、とてもじゃないですが入り切らないですよ。新しいビルを借りて、そこに第2と第3の営業部が入ってます」

「それじゃ、社屋も増えたのかい」

「はい」

 すげー、急成長しているなぁ。

 勢いを見て、銀行もバンバン金を貸してくれるらしい。


「銀行屋も掌返しまくりだなぁ」

「社長もそう言って、苦笑いしてましたよ」

 メインバンクを変えたと言っていたが、逃げられた銀行屋は地団駄踏んでいるだろう。

 傾いた会社から融資を引き上げる――銀行としては致し方ないルーチンだろうが、逃がした魚は大きい。


「俺の紹介で入った、デカい男の子は頑張ってるかい?」

「ああ、岩山君ですね~。あの人、めちゃ力持ちですよねぇ」

 一緒にいた女性社員がキャッキャしている。

 残念ながら、彼は彼女持ちなんだよなぁ。

 サントクの社長と話していたときに、その話題が出たから知っているとは思うが。

 爪切りを売っている社員と話していると、声をかけられた。


「篠原さん!」

「おお、相原さん」

 タイトスカートとスーツを着た、彼女が目一杯の笑顔を見せてくれる。

 随分と元気そうだ。

 新しい編集部に飛ばされたときには落ち込んでいたが、開き直ったせいだろうか。


「え? もしかして、先生のいい人ですかぁ?」

 男性社員がいやらしい笑いを浮かべている。


「ちゃうちゃう、仕事の相手だよ。向こうに、小中学館ってデカい出版社があるだろ?」

「ああ、はい! そちらの方も、新発明の爪切り、いかがっすか~!」

「彼女には、俺がサンプルを渡してあるから」

「でも篠原さん、机の引き出しに入れるために、1個ここで買いましたよ」

 相原さんが笑って話している。


「すでに購入済みでしたか! あざ~す!」

「同僚たちも、ここで買ったと言ってましたよ。机で爪を切れるから便利だといって」

「営業とかでるのに、爪が伸びていたりするとマズいだろうしねぇ」

「はい」

 ある程度数が出たら頭打ちになるかな? ――と、思ったのだが、複数買っている人もいるようだ。


「それじゃ相原さん、いきましょうか」

「はい」

 社員たちにも別れを告げる。


「サントクの社長さんにも、よろしく伝えてよ」

「わーりゃした! 先生! あざ~す」

 相原さんと一緒に、電車道を渡る。

 行き先は、前の食事をした山の神ホテルだ。


 彼女と一緒に線路沿いの道を歩いて行く。

 あのホテルに行くなら御茶ノ水駅のほうが近いと思うが、相原さんと待ち合わせがあるからな。


「それにしても一発で、企画が通ってよかったですよ」

「『そんなものがあるなら持って来い!』って言って、それを目の前に出されたら、なにも言えませんよ、うふふ」

「まさか、すぐに現物が出てくるとは思わなかっただろうなぁ」

「そうですよ。私だって思ってませんでした」

「でも、実現するとなると、結構大変かもしれないですよ」

「はい」

「でも、可能なはず」

 それが証拠に、未来では実際に付録として雑誌と一緒に売られていたわけだし。

 あれをやり始めたのがどこかは解らないが、今回は小中学館がパイオニアになるわけだから、多少の苦労は仕方ない。


「大丈夫ですよ。任せてください!」

 彼女がガッツポーズで、フンス! と気合を入れている。


「体調に気をつけて、無理しないでくださいね」

「それは、女性が男性に向けて言うセリフみたいですね……」

「はは、そうですねぇ」

 やはり彼女は、仕事が忙しいほうがいきいきとしている。

 仕事が好きなんだろうなぁ。

 俺みたいな基本ぐーたら人間には理解不能だが……。


 2人で話しながら歩き、坂の上にあるホテルに到着した。

 中に入ると涼しい――さすがに、こういう大きな所は空調があるようである。

 そういえば、戦艦大和にも空調はあったらしいので、仕組みが作られたのはそれなりに古いのかもしれない。


 以前に入った中華レストランに入る。

 とりあえず、カニチャーハンと餃子を頼んだ。

 街の中華屋で食っているのは焼餃子だが、ここの餃子は水餃子だ。

 家でも餃子を食いたいのだが、冷凍食品がないので自分で作るしかない。


 いや、冷凍食品じたいはあるようだが、餃子っぽいのを見かけたことがない。

 餃子を食いたけりゃ、皮も売ってないので自作する必要がある。

 非常に面倒くさい。

 結果、あまり代わり映えがしない料理が食卓に並んでしまう。

 まぁ、それがこの時代の当たり前なのだから、贅沢を言うべきではないと思うのだが。


「美味い美味い! 家でも餃子を食いたいんですがねぇ」

 汁に浸った餃子を掬って噛むと中から肉汁が出てくる。


「あら、ここでお土産として売っているようですよ」

 彼女は、なにかトロみがついたラーメンを食べている。

 俺が食べているのは水餃子だが、売っているのは焼餃子っぽい。

 焼餃子なら家でも食えるな。


「え? それなら、お土産は餃子にするかな。夕飯で皆で食える」

「コノミちゃんの学校はどうですか?」

「成績もいいし、順調ですねぇ。そこら辺のガキ大将より頭がいいですよ」

「まぁ」

 彼女がクスクスと笑っている。


「プレーヤーの薄い箱は、組み立てた状態で同梱したいんですよねぇ」

「やっぱり、そのほうがいいでしょうねぇ……」

「本当は、箱に切れ込みまで入れて、刃物を使わなくても組み立てられるようにできればなぁ……」

「……どんな感じなのでしょうか?」

 カバンからノートを出して、彼女に図を描いて説明をする。


「全部切ってしまうと、開いてしまうじゃないですか。所々を繋げたままにしておけば、それを手を使って切り離すだけで組み立てができる――という」

「ああ、なるほど! いいですねぇ! ミシン目より簡単かもしれません」

「でも、組み立ての手間が増えてしまうからなぁ」

 令和の雑誌なら、そういうのはオートメーションでやっているのだろうが、この時代にはそんなものはない。

 相原さんの話では、内職を斡旋する業者がいるので、そういう所に頼むらしい。

 この時代、女性の仕事と言えば、こういう内職が多かった。

 切って糊付けして組み立てて10個で1円の手間賃とかそういうのだな。

 1個いくらの外注業者扱いなので、最低賃金とかもない。

 そもそも、この時代にそういうものが存在しているのかも解らん。

 一応、法律などはあるのかもしれないが……。


 あとは、手間が増える分、料金がかかるので、予算をどれだけ突っ込むか上層部の判断に委ねるしかない。

 基本、子どもが作れるようにしなくてはならないからな。

 まだ、盲導犬的なキットなどもない時代だから、全部客任せでもいいような気もするが……子どもが組み立てできないと可哀想だしなぁ。


「あと、値段は上がりますよね? シートレコードも同梱されますし……」

「おそらくは――特殊な例なので、高い付録版と通常版を用意しようかという話も出てます」

「まぁ、そうですねぇ」


 彼女と話をしながら、楽しい食事をした。

 涼しい部屋で、美味い食事――たまにはこういうのもいい。

 元時代ほど暑くはないが、家庭用のクーラーが欲しくなるな。


「小中学館のビルって空調あるんですか?」

「いいえ、ありません。昔の大学の建物を使っているので……」

 俺が知っている小中学館はデカいビルだったが、それじゃないのか。


「大変そうですね」

「でも、新社屋が建設中なので」

「あ、そうなんですね」


 中華飯店から出て、出口に向かおうとしたのだが、シャツを掴まれた。


「あの、お部屋を取ってありますので」

 彼女が、なんだかみなぎっている顔をしている。

 シートレコード計画にGO! が出たときにも、随分と興奮していたように思えた。


「相原さんの大切なお話となると、お断りできませんねぇ」

「コク」

 彼女が嬉しそうにうなずいた。

 木がふんだんに使われた階段を2人で上り、3階のある部屋にやってきた。

 前に訪れたときと同じような、和室にベッドを置いた変わった造り。

 中に入ると、相原さんが突然抱きついてきた。


 顔を見るとかなり興奮しているようで、もう我慢できない――みたいな顔をしている。

 もう、しかたねぇ。


 ――というわけでゴニョゴニョしたのだが、よほど嬉しくて興奮していたのか、普段の彼女から想像もできないぐらいハッスル(死語)していた。

 もう、こちらがドン引きするぐらい。


「一緒にシャワー浴びるか?」

 色々と終わったあと、電池が切れたようになっている彼女に話しかけた。


「……」

 相原さんを引きずるように、バスルームに連れていくと、シャワーを一緒に浴びる。

 温かい流水で彼女の身体を綺麗に洗ってあげた。

 お風呂で洗いっことか、ヒカルコともしてないな。

 いつも銭湯だし。


 やることはやったので、着替えて外に出た。

 彼女はこれから仕事があるようだし。


「大丈夫ですか?」

「……」

 話しかけてもボ~っとしているのだが、ホテルへの支払いなどはしっかりとやっている。

 領収書ももらったりして。

 ここらへんは無意識にやっているのか?

 俺は、飯を食った中華飯店で餃子のお土産を買うことにした。


 ホテルから出ても、彼女はべったり。


「相原さん、ここらへんでそういうことをすると、知り合いに見られたりしますよ?」

「……」

 言葉は聞こえているはずなのに、彼女は出版社の近くまで俺に抱きついたままだった。

 別れ際にキスを求められたので、してあげる。

 相原さんは黙って会社に戻っていった。


「……大丈夫かな?」

 まぁ、彼女のことだから大丈夫なのだろうと、駅に向かう。

 時間は3時すぎなので、まだラッシュには早い。

 混まずにアパートまで帰って来られた。


「ただいま~」

「おかえりなさい~」

 コノミが出迎えてくれた。


「餃子買ってきた。皆で食おう」

「ぎょうざ?」

 彼女が首を傾げている。

 食べたことがないから解らないのだろう。


 電子レンジなどはないので、フライパンで軽く加熱する。

 隣で、ヒカルコが夕飯の準備を始めた。


「はぁ~なんかいいにおいがしますねぇ……」

 やって来たのは八重樫君だ。


「この餃子はあげられないぞ?」

「わかってます……なにか店屋物でも取りますよ」

「栄養が偏るなぁ……若いうちは、それでもいいけどな」

「そのうちなんとかしますよ」

「付録の件は決まったみたいだが、まだなんとも言えない状態らしいぞ」

「なにせ、前代未聞の付録ですからねぇ」

「実際に組み立てなどを受け持ってくれる所があるのか? それに予算の問題だな」

「そうですねぇ……」

 話しているうちに餃子が温まった。

 飯は炊いてあったようなので、ヒカルコがスープだけを作ったみたいだ。

 部屋に戻って皆で、餃子を食う。


「昼も餃子だったが、やっぱり美味い」

「おいしい……」

「コクコク!」

 コノミが餃子を口いっぱいに頬張っている。

 美味いらしい。


 中華で腹をいっぱいにしたが――外はまだ明るい。

 この季節は、7時過ぎにならないと辺りが暗くならないからなぁ。

 食事のあと、後片付けをしてまったりしていると、コノミが抱きついてきた。


「餃子は美味かったか?」

「うん!」

 コノミと遊んでやる。

 彼女がキャッキャと喜んでいると、階段を誰かが上がってくる音が――。

 先生が頼んだ出前の器を下げに来たかな?


「篠原さ~ん! 電報で~す!」

「え?! 俺か!?」

 戸を開けて、電報を受け取る。

 見れば、差出人は相原さんだ。


「キョウノコト ワスレテクダサイ」

 俺は電報の文面に固まった。


 は?! なんだ?! どういうことだ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様、角川コミックス・エースより黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミックス発売中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ