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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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48話 まるでヒモだな


 俺が作業場にしている秘密基地。

 その隣に白くて立派な家がある。

 見るからに金持ちが住んでいそうな家で、そこから出てくる奥さんも上品そうな女性だった。

 隣近所なので、顔を合わせると挨拶ぐらいはしていたのだが、そんなある日。


 商店街でその奥さんが万引きしていたのを目撃してしまった。

 そんな彼女に俺は声をかけて、注意をしたのだが――。

 証拠がなくなると掌を返された。


 ムカついた俺は、スマホで撮った証拠写真をフィルムカメラで撮って現像してプリント。

 できのよい写真を隣の郵便受けに放り込んだ。

 性格が悪い? セコい? ケツの穴が小さい?

 ははは、まぁその通りなので仕方ない。


 俺はいい子には優しいが、悪い子は許さん主義だから。


 ――写真を郵便受けに投函して、数日あと。

 世間はゴールデンウィークに突入しつつあるが、この時代は休みが連続しておらず、飛び石連休だ。

 5月3日と5月5日の間も、学校や会社があったりした。

 飛び石だと、あまり休みのありがたみがないんだよなぁ。


 俺の小学生時代のことを考えつつ、秘密基地にやってきた。

 小説の仕事をしつつ、カメラをいじくり回す。

 測光機能の電源を入れると電池がすぐになくなるので、自重しないと。

 現像液の温度と、現像時間の表も清書して作る。

 これも、カメラ屋のオヤジから教えてもらったものだ。

 色々と教えてもらったので、あそこを贔屓ひいきにしないと。


 原稿用紙に向かっていると、戸を叩く音がする。


「はいはい」

 戸を開ける――そこに隣の奥さんが立っていた。


「これ、あなたですよね?!」

 彼女が差し出したのは、俺が郵便受けに突っ込んだ写真。


「はぁ~? なんのことだか解りませんなぁ……」

「とぼけないでください!」

 彼女に睨まれる。

 いやぁ、美女に睨まれるのは癖になるねぇ。


「そう言われてもねぇ。だから言ったじゃないですか。俺以外に見られたら、大変なことになりますよって」

「……お金ですか?! お金がほしいんですか?!」

 彼女が写真を握りつぶして、泣きそうな顔になっている。

 涙目になって悔しさに滲むその顔もまたいい感じ。

 美女ってのは、どんなシーンでも絵になるよなぁ、はは。


「この前、言いましたが、金ならあるんですよねぇ」

「お、お願いです……なんでもいたしますから、主人にだけは……」

 そういえば、昭和のお昼にやっていたメロドラマで、こういうシーンが多かったような。

 あれって、ずっと長い間やっていたけど、やっぱり人気があったんだろうなぁ。

 俺の行動ノリもすっかりと昭和に毒されている。

 朱に交われば赤くなるってことだな。


「なんでも――と言われるとねぇ。私としても限りなき前向きの姿勢で考えたくなりますねぇ……」

「……」

「まぁ、こんな所で話していると、ご近所であらぬ噂が立つかもしれませんし」

「は、はい……」

 話し合いの場所を移動するため、ここから離れた通り沿いで待ち合わせることにした。

 2人で別々の方向に出かけて現場で落ち合うわけだ。

 秘密基地で色々と準備をすると紙袋を持って出発。


 ぐるっと遠回りして通りに到着すると、彼女がすでに待っていた。

 2人で道を渡り、訪れたのは1軒の古いアパート。

 そう、ここは美人局つつもたせをやっていた女が教えてくれたヤリ部屋だ。

 俺は1階の管理人室をノックした。


「空いてる?」

「うひ……」

 Tシャツにステテコ姿の禿げたオッサンが出てくる。

 この男は、部屋を貸して小遣い稼ぎをしつつ、盗聴かなにかをして楽しんでいるのかもしれん。

 それどころか、どこかにのぞき穴があって、覗いているのかも……。

 まぁ、害がなけりゃいいよ。

 この時代に盗撮は無理だろうしな。

 8mmカメラなどを回したら、盛大に音がするわけだし。


 奥さんを連れてアパートの中に入ると、2階の部屋に入った。

 前と同じように、畳の部屋に布団とチリ紙だけ敷いてある。

 いつも綺麗になっているということは、やったあとに掃除とか入れ替えとかしてるんだろうな。

 そりゃ、汚いままだったりしたら、使うやつがいなくなるか……。

 そんなだったら俺だって使わんし、はは。


「こ、ここは……?」

「なんでもするよな?」

 俺は持ってきた袋を布団の上に放り投げた。


「……で、でも」

 まぁ、彼女も察したようだし、最初のときも警戒していた。

 そういう目に遭うんじゃないかと思っていたわけだ。

 人妻だし、やることはやっているわけだから、なにをするのか解っているのだろう。

 当然、抵抗はあるだろうなぁ。

 それは解る。


「まぁ、やることやったら、写真とネガとか渡すからさ」

「は、はい……」

「でも、ネガを渡した瞬間、また掌を返されたりしたら俺としてもねぇ――こっちは失うものなんてなにもないわけだし」

 ネガなんて渡しても、オリジナルはスマホの中に入っているわけだから、またいくらでもプリントできるしな。


「……コク」

 彼女が黙ってうなずいた――覚悟を決めたようだ。


 そのあと、当然彼女とゴニョゴニョした。


「あの……主人には、このことは……」

「ああ、大丈夫大丈夫、言わないから」

「……」

 俺が裏切らないか、心配しているようだが、当然そんなことはしない。


「さて、あまりここを占領するわけにはいかんからな」

 ヤリ部屋から引き上げることにした。

 奥さんは、まだふらふらしているが、なんとかアパートの外に連れ出した。

 アパートの鍵を大家に返却する。


「やったら、ちゃんと掃除とかしてるんだな」

「そりゃもちろん。うへへ」

 大家がスケベそうな顔をしているので、やっぱり盗聴しているか覗いたりしているんだろうな。

 まぁ、1階の天井裏とかに上ったら、音とかは筒抜けだしな。


 奥さんの身体を抱えて道路を渡るが、このまま一緒に帰るわけにはいかない。

 どんな噂を立てられるか解らんし。

 そうなると旦那の耳にも入って、結局は騒動になってしまう。

 もしそうなっても、俺のスマホの中に奥さんのヤバいシーンが収められているのだから、それで取引ができるはず。


「帰ったらフィルムを渡すから」

「……はい」

「証拠は渡すけど、掌を返さないでな?」

「はい」

 別に確証があるわけじゃないが、彼女の顔を見ても大丈夫だと思われる。


 ふらふらしている彼女と別れると、俺は別のルートを使って秘密基地まで戻ってきた。

 隣の奥さんはまだ戻ってきていない様子。

 俺は、ネガやらプリントした写真をまとめて、隣の家の郵便受けに放り込んだ。

 これでミッションコンプリートだ。

 なんでもそうだが、深追いは禁物。

 あまり追い込むととんでもない反撃を食らったりするし――窮鼠猫を噛むっていうしな。


 ------◇◇◇------


 ――世間はゴールデンウィークに入った。

 コノミも当然休みなので、朝から友だちが遊びに来ている。

 そうなると、俺も当然秘密基地送りだ。

 元々、あの6畳で3人暮らしってのは、ちょっと無理がある。

 まぁこの時代、一間にぎゅうぎゅう詰めで暮らしている――そんな家庭が沢山あったわけだが。


 コノミの友だちも新しい子が増えている。

 遊んでいるだけではなくて、学校の宿題もやったりしているので、褒めてあげなくてはならない。

 俺はロリコンではないが――いつの間にか、我が家が幼女の楽園と化している。

 皆がコノミのクラスメートだが、1級上の鈴木さんは、ちょっとお姉さんぶっているのが可愛い。


 新聞に載ったということで、コノミはちょっとした有名人だ。

 彼女が苦労人だということも知れ渡っているので、コノミと遊んじゃいけません!

 ――なんて言う保護者もいない。


 俺は秘密基地にやって来ると、黙々と仕事をする。

 ここでは1人になれるので仕事もはかどるってもんだ。


 八重樫先生の漫画は順調で、問題なし。

 相原さんが創刊に関わっている雑誌も、来月末には出るらしい。

 新しい雑誌を、まったくゼロから作るのだから大変だ。

 それに、まったく実績のない状態から始めるので、俺が提案した変身セーラー美少女戦士にもOKが出たし。

 当たるかどうかも解らん新しいジャンルだから、とりあえずやってみようということなのだろう。

 これが老舗の雑誌ならボツにされたかもしれないが、これは願ってもない展開なのかもな。


 小説を書きながら漫画のネタを考えたりしていると、戸がノックされた。

 出ると――隣の奥さん。


「ちわ――なんすか? もしかして、訴えにきました?」

「ち、違います……」

 彼女の顔が赤い。


「それじゃ、なんでしょう?」

「……」

 眼の前の女が、黙って俺の服を掴まえてきた。


「写真もネガも返したでしょ? もう、私の相手なんてする必要がないんですよ?」

「……」

 彼女は下を向いたままだ。


「わかった――それじゃ、前と同じ場所で待ち合わせということで」

「……はい」

 奥さんは一旦家に戻った。

 マジか――どこかに火が点いちまったんだろうか。

 俺は、前と同じように玩具を用意すると家から出た。


 ――それから数十分あと。


 彼女とゴニョゴニョして、ついでにお金を借りる約束をした。

 爪切りのサントクに金を貸してしまったので、ダービーの資金が足りなくなってたんだよな。

 ちょっと言動がヒモっぽいが――ヒカルコに借りるのも、この奥さんに借りるのも一緒だろ。


 ------◇◇◇------


 ――ゴールデンウィークが終わった、ある日。

 秘密基地に隣の奥さんがやって来た。


「あの……これを……」

 ちょっと心配そうな顔をして彼女が俺に手渡してくれたのは、厚い茶封筒。

 中を見ると、万札の束が入っていた。

 これは、前に話していた50万円だろう。


 俺の貯金を爪切りのサントクに投資してしまったので、ダービーに賭ける資金がなくなったのだ。

 隣の白い家は金持ちそうなので、試しに借金を頼んだら、なんとかしてくれたようだ。

 まぁ、ダメならヒカルコから借りようと思っていた。

 女から金を借りるなんて、絵に描いたようなダメ男ムーブだが、次のダービーは勝負のチャンスなのだ。

 ここでやらねば、いつやるのだ。


「おおっ! ありがとうございます。助かりました」

「あの、本当に……?」

「大丈夫ですよ。6月の頭には耳を揃えて、それに足すことに利子もつけますので」

「……お願いします」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですって、ははは」

 言っている自分でも怪しいオッサンである。

 傍から見たらただの詐欺師だが、そうではない。

 未来からやって来たスーパーオッサンだとは、お釈迦様でも気がつくメェ。


 彼女の話では、口座などは旦那が管理してハンコとか持ち歩いているようだ。

 そんなわけで、彼女は実家から50万円を引っ張ったらしい。

 旦那が事業に使うから――とかいう言い訳をして。

 そう言われると、少々悪いことをしてしまったか。


「あの……ですから……」

「大丈夫ですって、ははは」


 奥さんはかなり心配そうだ。

 そりゃ元の時代なら、500万円ぐらいの大金だからな。

 心配するのは当然だ。


 こいつをダービーにぶっこむのだが、勝つのは解っているからな。

 やっていることが完全に悪党ムーブなのだが、そいつは気のせいだ。

 奥さんも気持ちよくなって喜んでいるし、金も儲けられるし、ストレスも減るし。

 いいことずくめじゃん。


 最初に撮った写真で脅しているというのなら完全に悪役だが、今は彼女から求められているから違うしな。


 

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