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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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45話 金を貸す


 俺が申請した実用新案が登録された。

 爪切りのカバーだ。


 舞い上がった俺は、ロクに準備もしないで売り込みに突撃してしまう。

 1軒目は当然という感じで叩き出されてしまったのだが、2軒目の会社の社長さんがよい人で、俺の話を聞いてくれた。

 会社がジリ貧なので、俺の実用新案を使って付加価値をつけたいようだ。

 ワンマン経営の会社なので、すぐに契約をしてもらい、プロジェクトは動きはじめた。

 こういうときのトップダウンの会社は動きが素早い。

 俺も、行き当たりばったりの飛び込み営業だったのに、上手くいったと自画自賛していたのだが――。


 ある日、コノミを学校に送り出したあと、俺に電報がやって来た。

 差し出し人は、サントク――つまり、あの社長さんだ。

 連絡をしてほしいみたいなので、電話をかけなくてはなるまい。


 大家さんの所を訪ねて、電話を借りる。

 ヒカルコのように大家さんちの内階段を使うわけにはいかない。


 社長から貰った名刺を見ながら、サントクに電話をかけた。

 電話がつながったので社長さんに代わってもらう。


「あ、社長――いつもお世話になっております」

『ああ、先生かい。実はマズいことになってねぇ』

 俺の悪い予感が的中した感じ。


「いったいなにが……?」

『君の発明を見せて銀行から金を借りるつもりだったのだが、融資を断られてしまってねぇ……』

 会ったときには、豪快に笑っていた彼であったが、ずいぶんと意気消沈している様子がうかがい知れる。

 そりゃ、覚悟を決めて勝負に出たら、出鼻を挫かれたようなものだし。

 とりあえず、いきなり倒産はなさそうではあるが、新製品が出せないとジリ貧だと言っていた。


「あれを見て、売れると直感できないなんて、銀行屋も見る目がないですよね」

『まったくそのとおりだと思うよ』

 電話口から大きなため息が聞こえてくる。


 とりあえず、金型を作る金はあったようなので、試作は進んでいるらしい。

 金型ができても、実際に生産するときのお金とか、新製品ならパッケージも変更しなくてはならない。

 金がないからといって、広告もゼロってわけにもいかないだろう。

 それじゃ売れるものも売れないし、新製品を出した意味がない。


『せっかく、先生からよい発明を紹介してもらったと思ったのに、非常に残念だよ』

 この発明は未来でもしっかりと残っているものだ。

 定番商品になりえると確定している。

 つまり出せば絶対に売れる。


「……社長さん、どのぐらいお金が足りないのですかねぇ?」

『そうだねぇ――金型はどうにかなったから、あと80万円はないと……』

 80万か――その金額なら、今の俺にならどうにかできる。

 これは投資だ。

 知り合ったばかりの会社に投資するのは少々危険があるし、無謀といえる。

 これが投資詐欺だったりしたら笑うのだが、元になった発明は俺が持ち込んだものだし。


「社長さん、そのお金を私が貸しましょうか?」

『え?! そ、そんなつもりで、先生の所に連絡をしたわけじゃないんだよ!』

 社長が本当に慌てているのが解る。


「いいえ、せっかくのチャンスですし。私としてもあの発明を世の中に出してみたいですから」

『そ、それは理解できるが……80万円だよ? 大金だよ?!』

「まぁ、私の貯金をほぼ吐き出すことになると思いますが」

『いやいや、そんなことは頼めんよ』

「社長! ここは勝負ですよ! 私もこの発明には自信を持ってますし。絶対にヒットしますって。大丈夫です!」

 絶対なんて言うやつは、詐欺師に間違いないしな。

 普通なら無謀だし無茶だが、俺は未来を知っている。

 競馬と同じだ。

 結果を知っているから、無茶なこともできる。


『し、しかし……』

 埒が明かない。

 社長さんも、まったく無関係の人間を巻き込むことに罪悪感があるのだろう。

 無関係かといえば、無関係でもない。

 発明をした張本人だし。


 俺は金を持って強引に押しかけることにした。


「社長! 今から、お金を持って行きますから」

『ちょ、ちょっと……せ』

 俺は構わず電話を切った。

 未来に爪切りを作っているサントクという会社はなかった。

 多分、なにもしなければ、このまま消滅してしまうメーカーなのだろう。

 彼にも言ったが、ここは勝負だ。

 失敗すれば金が寂しくなるが、やむを得ない。

 やばくなったら、ヒカルコの金を借りればいい。

 まぁ、そうなるとヒモっぽいなぁ。


 彼女を押しかけとか言っていたのに、今度は俺がヒモになるのか。

 電話の所に20円を置いて、部屋に戻った。

 スーツを着て、出かける準備をする。


「ヒカルコ、仕事の話で出かけてくる」

「うん」

 今日は素直だな。


「今日はついてくるって言わないんだな?」

「だってショウイチ、難しい顔しているから……」

 一応、空気は読めるらしい。

 そりゃ、表情が険しくなるのは仕方ない。

 競馬は、結果が解っているレースなら100%勝てるのだが、今回は先行きが霧の中に隠れている。

 商品を出せばヒットするのは間違いないとは思うのだが、100%ではない。

 どう転がるか解らないのだ。


 それにしてもいきなり80万円か。

 金が少々厳しくなるかもなぁ――とか考えていると、外から声がした。


「篠原さ~ん! 郵便です」

「は~い! ご苦労さまです~」

 外に出ると、配達員から黄色い封筒を渡された。

 現金書留だ――しかも5通。


 部屋に戻り、「なんだっけ」と、中を開けると当然現金が入ってた。

 差出人を見れば、俺が三文小説を送っている出版社。


「あ~、忘れてたわ」

 俺が一番最初に書いた小説の原稿料だった。

 合計で24万円。

 この時代、現金書留だと1通で5万円しか送れないので、5通に分割したらしい。

 これで、しばらく金の心配はなくなったな。

 まったくタイミングがいい。

 やっぱり、普段の行いがいいせいか。


 金があれば、ヒカルコのヒモにならんで済む。


「よしよし!」

 俺は軽くガッツポーズをした。

 いや、そんなことをしている場合ではない。

 金を持って社長を説得しないとな。

 俺はヒカルコに留守番を頼むと、カバンの中には自分の小説を入れた。

 そのまま秘密基地に向かう――隠している金を出すためだ。


 出どころがハッキリしない金を銀行に預けるわけにはいかないからな。

 これで会社を起こして特許料などの収入が増えれば、多少競馬の勝ち分を口座に入れてもごまかせるとは思うが。

 いや、やっぱり裏金は裏金として、分けるべきだろうなぁ。


 俺は秘密基地に入ると、天井裏から金を持ち出す。


「社長は80万って言ってたが――90万円持っていくか」

 金を数えるが、さっき収入があったので余裕がある。

 別に余計に貸し付けて、余計に利子を取るつもりとか、そういうのではない。


 金をカバンに入れると、家に鍵をかけて大通りに向かう。

 大金を運ぶのに公共機関は使いたくない。

 平成令和なら問題ないだろうが、この時代では警戒したほうがいい。

 なにせ90万円――元時代だと900万円の大金だ。

 なにかあってからでは遅い。


 大通りに出ると、タクシーはすぐにつかまったので乗り込む。


「秋葉原と上野の中間、湯島辺りを目指して行ってくれ」

「湯島ですね」

「ああ」

 タクシーは俺を後ろに乗せて走り出し、30分ほどで目的地に到着した。


「ここらへんでよろしいですか?」

「あ、ここでいい」

「はい、500円です」

 俺は、500円札を渡した。

 今日はピッタリか。


 タクシーを降りると、サントクを目指す。

 秋葉から来る時と反対側に出たので、少々解り難いが――通りを歩いていけば路地に看板が出てくるだろう。

 数分で看板を発見した。

 俺は走り出すと、会社の中に躍り込んだ。


「社長さん、いるかい?!」

「あ! 社長~!」

 一番手前にいた女性社員が、俺の顔を覚えてくれていたようだ。


「先生! 本当に来てくださるとは!」

「はは、先生は止めてくださいよ」

「なにをおっしゃる」

 中に案内されて応接のソファーに座ると、早速話を切り出した。

 カバンから金を出す。


「ここに90万円あります。これで足りますか?」

「ほ、本当に出してもらえるとは……ありがとうございます……」

 80万円でいいとは言わなかったので、やっぱり多いほうがよかったのだろう。


 いつも豪快に笑っていた社長が、その場で泣き出してしまう。

 彼の様子から見ると、本当にギリギリだったのかもしれない。


「まぁ社長社長、泣いてないで一緒に夢を見ましょうよ。あ――一応、借用証書はお願いしますよ」

「……もちろんです」

 彼が涙を拭っている。


「あの、お茶です……」

 ちょっとびっくりしたような顔をして、女性社員がお茶を持ってきてくれた。

 こんな顔の社長を初めて見たのかもしれない。


「……君、弁護士の先生を呼んでくれたまえ」

 社長さんがチリ紙で鼻をかむ。


「はい」

 彼が、俺の渡した金をテーブルに並べて数え始めた。


「こんな大金を――家でも買うつもりで、貯めていらしたとか?」

「いや、発明とか投資をする会社を起こすつもりだったんですよ」

「そんな貴重な資金を――ありがとうございます」

「いえいえ、あの爪切りは絶対に売れますから大丈夫ですよ。電話でも言いましたが、私も自信がありますから」

「社員や家族に見せても、みんなほしいと言ってましたから。ワシも売れると思いますよ」

「銀行のヤツは見る目がない。軌道に乗ったら、銀行を変えたほうがいいかもしれないですよ」

「昔からのつきあいですが、こういうことがあると考えてしまいますわ……」

 彼からしてみれば、裏切られたと感じてもおかしくない。

 銀行は銀行で、やつらは鼻が利く。

 この会社は、そろそろヤバいリスト入りをしていたのかもしれないが、俺みたいなまったく未知のファクターが飛び込んでくるとか、夢にも思わないだろう。


 社長と話していると弁護士がやって来たので、早速借用証書を作ってもらう。

 さすがに大金なので、口約束ってわけにはいかない。

 俺のほぼ全財産だし。


 彼と、ひそひそ話をする。


「社長、この金――実は競馬で当てた金とかが混じってまして――あまり表に出せないんですよねぇ」

「そうなのかい?」

「それで、社長個人に貸すという形にしていただくとありがたいんですけど……」

「そのぐらいは、どうってことはないよ。私も私財を会社に入れてるしね」

 ここらへんは個人会社だなぁ。

 普通は、会社の財産は会社の財産、社長の財産は別――って感じにしてるんだが。

 これだと、会社が倒産すると社長の財産までなくなってしまう。

 そのぐらいこの会社に賭けているのかもしれないけど。


 書類の作成が終わると、すぐに社長は金を持ってどこかに向かうようだ。


「こいつが上手くいったら、先生! 今度一杯!」

 彼が酒を飲む仕草をしている。


「あ、大変申し訳ないのですが、私は飲まないんですよ」

「そうなのか、それは残念。それじゃ、なにか美味いものでも食おう!」

 この時代、飲みニケーションができない俺は、色々と困りそうではあるが、基本的に飲まない人だからなぁ。


「それなら、おつき合いいたしますので」

「そうか、ダハハ! それでは! お~い! 出かけてくるぞ~」

「「「社長! いってらっしゃいませ!」」」

 彼がカバンを持って慌てて出ていった。

 もしかして、どこかに支払いでもあったのだろうか。


 俺も、帰るとするか――。

 そうだ、本を渡すのを忘れてたわ。

 社長の机の上に置かせてもらった。


 会社の皆に挨拶をすると、御徒町駅に向う。

 帰りは無駄使いすることもなく、電車でアパートに帰った。

 プロジェクトが上手くいけばいいのだが。


 アパートに帰ると昼になったので、ヒカルコと一緒に昼飯を食う。

 隣では八重樫君と新しいアシの少年が、仕事をしているらしい。

 先生の話では、アシとしての能力は問題ないという。


「慌てて、どこに行ってきたの?」

 彼女と2人、インスタントラーメンを食う。

 一袋12円で売っているのを見つけて、まとめ買いしてある。

 おやつにちょうどいい。

 味はイマイチだが。


「上野だ――前に話した、俺の発明を買ってくれる会社だよ」

「爪切りのやつ?」

「そうだ、あれは売れると思うんだよ」

「私もそう思う」

 だって、ヒカルコも欲しがっていたしな。

 今は俺が自作したカバーを使っているが。


 社長の話はしたが、大金を貸した話はしていない。

 俺がそんな大金を持っていることじたい、ヒカルコは知らないし。

 ――とはいえ、彼女も結構金を持っているのだけどな。

 金が入ってもなにか買うわけでもなく、贅沢をする様子もない。

 生活費は俺が出してるし。


 あっちこっちに忙しい日々なのだが、その夜――相原さんがやって来た。

 もちろん、彼女はもう編集部を移ってしまったので、俺と八重樫君の担当ではない。

 お土産のケーキをコノミに渡して、彼女に抱きついてなでなでされている。

 また、相当ストレスが溜まっているようだ。

 本当に大変そうだなぁ。


「相原さん、新しい職場はどうですか?」

「……はぁぁぁぁぁ~」

 彼女がクソデカいため息をついた。

 この様子を見るとやっぱり左遷というのが正しいのだろうか?

 男尊女卑の職場で活躍をしてしまったから、煙たがられたのかもしれない。

 察することはできるが、これで腐ったり引っ込む彼女ではないと思うのだが。

 いや、その前に新雑誌を創刊するのだから、そりゃ大変だろう。

 編集も漫画家も、まるっきりの新メンバーで事業を立ち上げるのだから。


「ここから相原さんの逆転の一手は?」

 俺の言葉に、彼女がコノミから離れて畳に手をついた。


「お願いがあります!」

「あ、嫌な予感が……」

「矢沢さんに原作をつけてください!」

 彼女は一緒に連れていった矢沢さんに賭けているようだ。


「やっぱり、そうきましたかぁ……さすがに少女漫画の原作というのは――私、オッサンですし」

「そんなことはありません。篠原さんならできるはずです」

「いやいや、少女漫画は無理ですってば」

「そこをなんとか!」

 部屋にはコノミとヒカルコがいるから、裸土下座をしたりはしないだろうが、彼女も必死だ。

 まぁ、彼女に裸になられたら、また即落ちしてたかもしれんが……。

 結局は、必死な相原女史にがぶり寄られて、承諾してしまった。


 原作というか、ネタ出し係みたいな感じになると思うが。

 一応、名作と呼ばれる少女漫画の作品は読んではいるし。

 それが使えるのかは解らんが。


 やっぱり少女漫画というのは、対象になる世代との共感みたいなものが重要なんじゃなかろうか。

 そうなると、読者と漫画家との歳が近いほうがいい――ということになると思うんだよなぁ。

 そこに俺みたいなオッサンが入ってよいものなのだろうか。

 ――と思うのだが、この時代の少女漫画って男が描いていることが多かった。

 女性の漫画家じたいがすくなかったのだ。


 ――そんなわけで、相原さんから依頼を受けてしまったので、俺はネタづくりを始めた。

 設定だけ作って、それを元に矢沢さんに描いてもらうわけだ。

 だって、女の子の会話なんて解らねぇし。


 ベースになる作品は、のちの大ヒット作、変身セーラー美少女戦士である。

 この時代にはないジャンルではあるが、変身してヒーローになり活躍したいという願望は、男の子たちの特権ではない。

 それが元の作品で証明されたのだ。


 もちろん、そのままのパクリではない。

 男の子が読む漫画ならバトルものでよいのだが、少女漫画だとそうもいかない。

 大事なのは恋愛シーンだ。

 甘い甘い糖蜜のようなくんずほぐれつ、それがないと始まらない。


 そこで俺は、オリジナルにはない男を出すことにした。

 戦士たちは固有の刀を所持しており、それに男性型の精霊が宿っているという設定だ。

 敵の幹部クラスが持っている刀にも精霊が宿っており、複雑な因縁が絡みあう。

 この精霊たちと、喜怒哀楽のおつき合いをするわけだ。

 恋愛とかに関しては、さっぱりと解らんので、ヒカルコの力を借りる。

 彼女も「面白そう」と、了承してくれた。


 刀の精霊同士の込み入った関係から、平成令和でいうところのカップリングができるように配慮してみた。

 ×とか+とか俺にはよく解らんが、そういう設定がこの時代に生かされるかどうかはやってみないと解らん。


 ――後日、神田の山の神ホテルで、矢沢さんと相原さんと打ち合わせをした。

 今回は、他の編集たちに俺の存在は隠している。

 八重樫君のときと同じように、この原作で金を取るつもりもない。

 ただ、大ヒットして単行本などが出版されるときには、個人的に契約するということになった。

 これも、八重樫先生と一緒だ。


 とにもかくにも、まずはこの作品をヒットさせないことにはどうしようもない。


「す、すごい、大作ですね!」

 矢沢さんが、俺の設定に目をきらめかせていたと思ったら、すごい早さでキャラシートを描き始めた。

 ネタに詰まっているときには、どうやってもなにも出てこないのだが、なにかきっかけがあると決壊したダムのように溢れ出す。


「とりあえず売れないことには次がないので、主人公の周りから設定とストーリーを始めないと」

「はい、解りました!」

 設定するのはいいが、それを垂れ流してしまうのは厳禁だ。

 八重樫君も最初やってしまっていたがな。


「あとね――矢沢さんも、刀の勉強とかしたほうがいいと思うよ。図書館などにいけば、そういう本があるし、この神田神保町を探せばそういう古書なども売っている」

「矢沢さん、経費を使ってもいいですから」

 相原さんの言葉に、矢沢さんがフンスと気合を入れている。

 若いので、やる気満々だ。


「はぁ……」

「なんですか篠原さん? ため息なんてついて」

 相原さんが訝しんでいる。


「いやぁ、若さにあふれていて羨ましいなぁ――と、ははは」

「そう――ですか?」

 相原さんもまだ若いのでピンと来ないみたいだ。

 若くてエネルギーに満ち溢れ、なんでもできたはずなのに、そのときにはなにもしなかったという――オッサンの後悔のため息だ。


 他のオッサンたちがどうかは解らんが、俺は多少はマシなのかもしれない。

 なに者にもなれなかった男が過去に戻り、未来の知識を使って天下を取れるかもしれないのだ。


 そのあとも、矢沢さんの怒涛の質問攻めに答えていく。

 それを横目で見ている相原さんがそわそわしているのだが――もしかして、俺と2人きりになりたかったのだろうか?

 彼女としても、矢沢さんに賭けているところがあるので、ここで割っては入れないだろう。


 ――数日あと、新しい担当の高坂さんが、八重樫先生の原稿を取りにやってきた。

 一応、相原さんから言われたとおりにしているのか、俺の所にもケーキと適当な本を持ってきてくれた。

 もう本当に仕事でやってます――って感じなのだが、俺の所にはヒカルコがいるので、彼女とはあれこれと話している。

 まぁ、漫画の邪魔をしてくれなきゃ、問題はないんだけどな。


 ------◇◇◇------


 ――そして4月18日。

 今日は中山競馬場で、皐月賞が行われる。

 朝に買ってきたスポーツ新聞を見ると――俺が追っているキーストトンは、やはり人気だ。

 多分、2番人気だろうか。

 一番人気はダントツで、ダイダイコーター――オッズは1倍台っぽい。

 前のスプリングSまで連勝を続けたのが評価されているらしい。


 ――とはいっても、なにがあるのか解らないのが競馬。

 俺もなん回痛い目にあったか。

 でも買っちゃう! 悔しい! ビクンビクン!

 それが競馬だ。

 冗談はさておき、結果を覚えておらず確実ではないこのレースも、けんだな。


 さて、競馬はいいとして、サントクのほうは上手くいっているのだろうか。

 上手くいってくれないと、俺も困るんだがなぁ。


 もしかして、はやまったのか?


 

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