37話 お涙頂戴
ひょんなことから、家を手に入れた。
ボロボロの家で崩壊寸前だが、土地は使える。
なにかで儲けたら新築してもいいだろう。
更地にしてしまうと固定資産税が上がるので、しばらくこのままでいい。
倉庫や俺の秘密基地として使うことにする。
コノミにも友だちができたらしいし、そのときの避難場所としても使える。
友だちが遊びに来たときに、部屋に俺がいたら気まずいだろう。
なにせ普通のお父さんなら昼間は働いているのだ。
もちろん、俺も小説家や漫画原作者としての仕事はあるのだが、それを子どもに説明するのは少々難しい。
――節分が終わり数日たったある日。
ヒカルコ宛てに小包が届いた。
中を開けると、彼女が投稿している文芸誌の献本が入っていた。
投稿された小説は、数回に分けて掲載されるようだ。
この原稿は買い取りではないらしいので、文庫になったときには印税も入ってくる。
それはいいのだが――本を開いたら、田端康成大先生の推薦文が載ってるじゃねぇか。
「新星の如く現れた新人とか書かれているし! マジすか、大先生!」
「……!」
推薦文をヒカルコに読んでやろうとすると、めちゃ恥ずかしがっている。
俺に抱きついてきてバタバタしているので、止めてほしいらしい。
「そんなこと言われてもな。これって日本中の本屋に並んでいるんだぞ」
「……」
本人は町内からあまり出ず、俺と一緒にこの狭い部屋の中で暮らしているので、そんな実感がないのだろうが。
名前も寺島ヒカルコって本名で載っちゃってるし。
漫画家はペンネーム使うけど、昭和の小説家は本名が多い感じがするなぁ。
多分大先生は、児童文学全集を書いたときのヒカルコの名前と文章を覚えていたのだろう。
「こんな凄い大先生から推薦文が寄せられるなんて凄いじゃないか」
「……」
それよりも、恥ずかしいほうが先立つらしい。
まぁ、ヒカルコらしくていいけどな。
それはいいのだが、これで他の所からの仕事が増えたりするかもしれんなぁ。
その前に本人にやる気があればの話だが、彼女的には多くは望んでいないような感じにも見えるし。
普通に飯が食えるぐらいの稼ぎがあればいいのだろう。
たまにこういう人がいる。
凄い才能があるというのに、当の本人はあまり興味がないというパターンだ。
八重樫君のように、それを目指していたのならいいが、ヒカルコは小説家を目指していたわけではない。
金がある程度入ったら、プツリと書くのを止めてしまうかもしれない。
個人的には、この才能を埋もれさせてしまうのは惜しいと思うのだが、本人が望んでいないのであれば致し方ない。
子どもの頃に見たTV番組を思い出す。
――限界集落に昔ながらの木造の家が建っていた。
古めかしい囲炉裏の前に婆さんが座っていて、アナウンサーがインタビューをしている。
話の途中で彼女が引っ張り出してきたのは、小学生のときに描いたという水彩画。
そこに描かれていたのは、オレンジ色に灯る囲炉裏の周りを家族で囲んでいる絵だったのだが――それが名画過ぎた。
素人の俺が見ても凄い絵に見えたのだ。
当の婆さんは、「子どもの頃は、純粋だったからこういう絵が描けたのかねぇ」とか言っている。
世の中に出れば、名を残せる画家になれたのかもしれないのに――彼女は限界集落の年寄りで人生を終わろうとしていた。
当の本人は囲炉裏の前で笑っていて幸せそうだったから、余計なお世話なのかもしれないが、俺の眼の前にいるヒカルコにもそういった才能を感じる。
平成に入りネットが発達したことで、日の目を見ることがなかった才能が掘り出されることが多くなったのは、喜ばしいことだと思う。
ヒカルコの名前が全国的に出たということで、彼女の小説家としての道筋ができたと言ってもいいのではないだろうか。
娘が有名になれば、彼女を勘当したというヒカルコの親はどうするだろうか?
掌を返して娘を受け入れるだろうか?
「ヒカルコ、お前が有名になったら、両親はどうすると思う?」
「……無理」
彼女は少し考えてからそう答えた。
「無理ってなにが無理なんだ?」
わけのわからんオッサンと暮らして、見ず知らずの子どもの面倒をみている――という状況が受け入れられないだろうという。
「だから無理」
「お前は、よりを戻さなくてもいいのか?」
「いい――大学入るまでは2人の言うことを聞いたから、もう聞かなくてもいいはず」
あまり深くは聞かないが、親との仲はあまりよくなかったのか。
それなら仕方ない――とはいえ、親も親で歳を食って、自分たちの面倒が見きれなくなったらどうするつもりなんだろうな。
まぁ、余計なお世話か。
――その日の夕方、相原さんがやって来た。
いつものように1人ではなく、若い男連れである。
スーツを着て頭も整えており、いかにも会社勤めという感じ。
ヒカルコにはお茶を淹れてもらい、コノミは相原さんから本をもらっている。
話をしてちゃぶ台を使うので、コノミには俺の文机を使ってもらう。
若い男が名刺をちゃぶ台の上に置いた。
見れば――新聞記者と書いてある。
大手の保守系新聞だ。
相原さんと政治の話はしたことがないが、彼女も保守系だと思う。
女性の社会進出とか地位向上とか、そういう話をするならリベラルというイメージがあるが、それは思い込みってやつだ。
「新聞記者? なんでまた?」
「彼は、私の同期でして」
「相原さんの同期なのは解りましたが、聞屋さんが――いや新聞記者さんがなんの御用で?」
「彼女のことで」
相原さんが、文机で漫画を見ているコノミを見た。
「コノミがなにか?」
俺の質問に男が答えた。
「そこの女の子は、無戸籍で学校に通っているとか」
俺は相原さんのほうをチラ見した。
彼女が申し訳なさそうにしている。
なにかの拍子で口を滑らせてしまったのだろうが、別に口止めしていたわけじゃねぇし。
「いや、私が保護したときにはそうだったが――今は戸籍を取ってるよ。でも、それがなにか?」
「彼女のことを新聞の記事にしたいのですよ」
「まさか政治欄とかじゃないだろうし、文化欄とかそういうところかい? 学校にも取材に行ったり?」
「予定してます」
話している所に、ヒカルコがお茶を持ってきた。
彼女にも取材のことを話す。
「どうだろう?」
「……ショウイチに任せる」
う~ん、悩むなぁ。
世間に波を立てず、ひたすらひっそりと暮らすという選択もあるのだが。
「う~ん……俺の考えからすると、新聞にコノミが出たらちょいと有名になるよな」
「うん」
「有名になった子に、もしもなにかあったら学校のメンツが潰れるから、早急に手を打ってもらえると思うんだよ……」
「なにかってなに?」
「たとえば、イジメに遭うとかな。もちろん、有名人に対するやっかみも起こるかもしれんが」
この時代は、まだ戦前教育が生きていて、先生が神様の時代だ。
まぁ、モンペみたいな親もいたことはいたが、先生が前に出ればたいていのことは片付いた。
まして新聞に出た有名な子どもとなれば、真っ先に校長が出てきてくれるだろう。
それに新聞記者を連れてきた相原さんの面子もあるし。
彼女には世話になっているからな。
俺の考えに、男が口を開いた。
「そこは、全国に多くいる無戸籍児童に、希望を与える存在になれるという一面も考えていただけませんか?」
今は戸籍があるというのは、どうでもいいらしい。
「見ず知らずのガキに夢と希望を与えても、こっちには一銭の得にもならねぇからなぁ……」
「クスクス」
それを聞いたヒカルコが笑っている。
「なんだよ、笑うところなのか?」
「ショウイチらしいから」
こいつの中での俺はそうなのか。
気がつくと、相原さんが俺のほうをじ~っと見ている。
「新聞社からのお礼はできないのですが、取材にご協力願えませんか?」
新聞ってのは基本がこうだ。
他人の褌で相撲を取りまくって、こちらにはなにもよこさない。
それだけではなく、ペンの暴力ってやつで好き勝手書いてこちらを貶めることもできる。
「コノミ」
俺の文机で漫画を読んでいるコノミにも聞いてみる。
「?」
「新聞の人が、コノミのことを新聞に載せたいんだって」
「?」
どんなことなのか、彼女には見当もつかないようだ。
「そうか、よくわかんないよなぁ」
彼女の頭をなでる。
「う~ん――とりあえず、こちらからの要求は2点」
「はい」
「1つ目は、家族の顔を出さないこと。特に彼女は子どもだ、写真は後ろからとかで対応してもらいたい。俺たちは目を隠すぐらいでいいが」
「それは大丈夫だと思います」
「2つ目は、家族の本名を出さないこと。1つ目と被るのだが、有名になると――わけわからん遠い親戚とやらがやって来て揉めるかもしれん」
彼女の母親が訳ありだと解ったので、そういう可能性はないと思うのだが、世の中にはおかしな人間がいる。
親戚でもないのに、親戚だといい出す輩とかな。
そういう連中は、有名になりたいとか金が欲しいとかロクなことを考えてない。
そんな奴らと関わり合いになりたくもねぇし、揉めたくもねぇ。
「確かに、変な人たちが湧く可能性はありますねぇ」
話を聞いていた相原さんがつぶやいた。
「本当にな。少しでも金のにおいを嗅ぎつけると、ゴキブリみたいな奴らが集まってくるからな」
「コクコク」
俺の言葉にヒカルコもうなずいた。
彼女にしても、いまさらコノミを手放すつもりもないだろうし。
母子が慎ましくも仲良く暮らしていたが、やむを得ず娘の手を放した――とか、そんな話じゃねぇからな。
「取材の前に、さっきの2点について書いた誓約書を作って偉い人のハンコをもらってくれ。それを確認してから取材を受ける。悪いがこの子の人生がかかってるし、こちらには取材を受けるメリットがまったくないんだからな」
「わかりました」
「その前に、学校が取材に応じないかもしれないぞ?」
「そのときには、ここだけの取材ということで」
「承知した」
まぁ新聞社としても、どうしても取材をゴリ押ししたいわけでもないだろう。
帰り際、相原さんが頭を下げた。
「この埋め合わせは、いずれ」
「まぁ、期待してないで待ってますよ~」
彼女をじ~っと見ていると、申し訳なさそうにしている。
多分、話のついでに、こういう子どもがいるんですよ~みたいなことを言ってしまったのに、聞屋が食いついたと。
色々と柵もあり、断れなかったのだろう。
彼女としても仕事のパイプは多いほうがいいからな。
それに新聞といっても、政治部とかじゃないから多少はマシのような気はするし……。
――新聞記者がやって来た次の日。
速達で手紙が届いた。
差出人を見れば、某新聞社である。
中を開けると、誓約書が入っていた。
ちゃんと、あの男の名前と上司の名前が書かれてハンコが捺してある。
本当に取材をするのか、ちょっと怪しかったのだが、やるつもりのようだ。
俺が面倒なことを言い出したので、「やっぱり止めます」などと言い出すだろうとたかをくくっていたのだが、外れた。
こっちはOKだが、学校のほうが残っている。
あの校長が「うん」と言わなければ、取材はできない。
――数日たったある日、コノミが学校から帰ってくると連絡帳を見せてくれた。
それを読むと校長からの手紙で、取材を受けるという旨だった。
ヒカルコにも見せる。
「やっぱりなぁ――ちょっと可哀想な生徒を受け入れて、当校は全力でサポートしております――とか、全国紙に載ったら、自慢できるからなぁ」
校長の集まりみたいなのがあれば、新聞に載ったと自慢できるだろう。
そういうのがあるのかは知らんが。
「うん」
手紙には、取材を受ける日時も指定されていた。
学校主導で取材を受けるらしい。
保護者に来てほしいと書いてある。
そりゃ当然、俺のことだろうから、またスーツをひっぱり出さないとな。
この部屋も取材するのだろうか?
こりゃまいったね。
部屋での撮影はさすがに普段着だよなぁ。
こんな6畳でスーツとか着てたら、逆に変だしなぁ。
昭和の時代、TV局が地方の取材に行ったりすると、農家のおばちゃんとかが、よそ行きの服を着てバリバリに化粧して出てたりした。
普段そんな格好してないやろがい! ――と、突っ込み入りまくりだ。
平成令和じゃさすがにそういうのがなくなってたが、この部屋にスーツじゃ、そういう感じになるよな。
俺は連絡帳に返事を書いて、コノミに持たせた。
取材は土曜日に行うようだ。
普通の授業が終わったあとに、撮影をするらしい。
先生も授業中じゃ取材を受けられないだろうしな。
ちょっとやらせっぽいが仕方ない。
――そして新聞の取材を受ける土曜日になった。
コノミはいつもと同じように学校に行っているので、時間になったら俺だけスーツに着替えて学校に向かう。
土曜は4時間で終わりなので、生徒のほとんどが下校している。
グラウンドに残っているのは、遊んでいる生徒だけ。
彼らも昼飯を食べないと駄目だろうから、すぐに帰るだろう。
正面玄関から入ると、受付の窓口に顔を突っ込む。
「あの~、今日、新聞の取材を受ける、篠原ですが……」
「あ、お待ちしておりました~」
丸いメガネをかけた事務員に案内されて、学校の保健室に向かった。
引き戸の上にかかっている、「保健室」の教室札が懐かしい。
事務員が戸を開けてくれたので、俺は中に足を踏み入れた。
保健室の中は、8畳ぐらいのスペースか。
ベッドが一つと、白いガラス棚が壁に並び、石炭ストーブが燃えている。
そこに机と椅子があり、コノミが1人で座っていた。
すでに撮影の準備が行われていて、カメラマンが、大きな二眼レフカメラを持ってスタンバっていた。
他に2人のアシスタントらしき若い男と、俺の所にやってきた、あの聞屋だ。
「こんにちは~、本日はよろしくお願いいたします」
「「こんにちは~」」
「篠原さん、取材を受けてくださり、ありがとうございます」
記者の男が礼をした。
「いえいえ、そちら様の、全国の無戸籍児童に夢と希望を与えてください――という、言葉に感銘を受けましてねぇ――カッコ大嘘カッコトジ」
「ははは……」
男が、苦笑いをしている。
取材を受けたのも、コノミと相原さんのためであり、こいつのためじゃねぇし。
俺はコノミの所に行くと頭をなでた。
「お腹空いたよな? 終わったら一緒に帰ろう。ヒカルコがご飯作って待っているから」
「コクコク」
撮影はすぐに終わった。
彼女の椅子に座っている後ろ姿を撮るだけだからな。
「ちゃんと顔を隠して、本名は出さないでくれよ」
「わかってます」
撮影していると校長もやってきたので、俺と並んで握手している写真を撮る。
こんな写真使うのか?
「お父さんから校長先生になにか一言」
「え~、こんなに幼いのに、普通の生活から大きく外れてしまった彼女を受け入れてくださり、とても感謝しております。特別授業のカリキュラムまで作ってくださり、大変ありがたいことだと思っております」
「私どもも、教職員の力を合わせて、彼女が通常の授業を受けることができる日を目指しております」
いい記事になりそうと踏んだのか、新聞記者が上機嫌だ。
コノミも春から3年生にでも編入できれば、万々歳。
そうすれば、もう普通の小学生と変わらない。
「彼女の勉強の進み具合はどうでしょうかねぇ?」
コノミのことを聞いてみる。
「大変優秀だと聞いております。家庭でも勉強をしているのでしょう?」
「はい、家族全員で一丸となり勉強しております」
「素晴らしい! まさに家族と生徒と学校が、三位一体の本来あるべき姿ということですな、ははは」
ずいぶんと校長先生も饒舌だ。
一杯引っ掛けているんじゃないだろうな。
学校での取材が終わったので、新聞記者たちと一緒にアパートに移る。
たくさんの人たちがやってきたので、大家さんが出てきた。
「篠原さん、どうしたのぉ?」
「新聞が、コノミを取材したいんだそうで」
「あらぁ! やっぱり可愛いから?」
「違いますよ。コノミが一生懸命頑張ってるからだよなぁ」
彼女の頭をなでてやる。
「うん」
部屋の中は、しっかりと掃除をして片付けている。
写真に撮られても問題はないだろう。
あの政党色の強い新聞も押入れに隠したし。
ちゃぶ台に3人で座っている写真を撮る。
コノミは教科書を見て下を向いているから大丈夫だろう。
俺とヒカルコには、目隠しを入れてもらう。
「それでは、彼女が無戸籍になってしまった経緯などを……」
インタビューが始まった。
テープレコーダーなどは持っていないようなので、記者は手帳になにやらスラスラと書いている。
多分、速記だろう。
「それは、実の母親が彼女の出生届をしないまま、突然いなくなってしまったせいです」
「お母さんは行方不明のままなのでしょうか?」
「はい、そのせいで彼女はこの歳まで学校に通っていませんでした。あとで解ったのですが、母親にも戸籍がなかったようで……」
「保護者の尽力で、彼女の戸籍が取れたそうですね?」
「ええ、裁判所に行ったりとか中々大変でした。区役所では警察に通報されたりとか――あ、言ってもいいのかな?」
「あはは」
新聞記者が笑っている。
「彼女が成人するその日まで、それまでは我々がしっかりと助力していきます」
「無戸籍児童を抱えている家庭になにか一言」
「解らないことがありましたら、区役所や市町村役場に相談してください。親身に相談に乗ってくれますよ。建前上は」
「はは……ありがとうございました」
取材は無事に終了した。
まぁ、毒舌も入っているが、そこら辺は脚色して書いてくれるだろう。
――取材を受けた数日あと。
記事が載る日を教えてもらっていたので、店に新聞を買いにいった。
文化欄に、しっかりと記事が載っている。
ちゃんと目隠しも入っているし、コノミの顔は写っていない。
事前に記事のチェックとかはしてなかったので、ちょっと心配だったが、まともな記事だ。
どうにもマスコミってのは信用できないからな。
それなら、取材を受けるなって話なのだが……まぁほら、相原さんには世話になっているし、貸しを作れば色々と……。
でも、有名になってしかも可愛い女の子なら、大事にしてもらえると思うのよ、実際にな。
こましゃくれた鼻垂らしたガキと、可哀想な可愛い女の子。
どっちを助けるかといえば、そりゃ一目瞭然。
誰かの言葉だが――悲しいけど、これって現実なのよね。
――そんな俺の読みは当たった。
新聞が全国に行き渡ると、舞台となった小学校と発行した新聞社に大量の励ましの手紙と寄付、山ほどの文房具が送られてきたのだ。
コノミ1人では使い切ることができる文房具なんて、たかがしれている。
学校に寄付された文房具は、経済的に生活が苦しく文房具を揃えることができない家庭に配られた。
本当に、この時代にはそういう家庭が沢山あったのだ。
食事も満足に摂れず、学校の給食が頼みの綱という「欠食児童」なんて言葉もあったぐらい。
また現金の寄付は、学級積立ができない子どもなどの修学旅行資金としてプールされることに。
新聞社に送られてきた寄付は、一部をコノミのためにいただき、文房具などは身寄りのない子どもたちがいる施設などに寄贈される。
このことは、学校から家庭へ文章にして配られた。
こういうのはハッキリと文章にして、学校に寄付してみんなに分配したんだよ――と知らしめないと、「いい思いをしやがって」と逆恨みやら嫌味を言われる可能性があるからな。
人というのはいつでも、「上手いことをやったやつ」が大嫌いなのだ。
たくさんの寄付があったことを、コノミのお礼とともに、新聞の記事として再び載せることになった。
可哀想な子どもに全国からの援助が集まる――みんな大好きな、「お涙頂戴物語」ってやつだ。
一連の記事は全国で大反響を呼んだらしい。
「は~、日本人はお涙頂戴が大好きだからなぁ」
「でも、こんなに大騒ぎになるなんて思わなかった……」
新聞の記事を読んだヒカルコも、少々驚いている。
「そうだな、予想より多かったかなぁ」
やはり、この時代の新聞というのは影響力が大きい。
それがそのままTVの時代に移って行くのだが、それももうすぐだろう。
色々と心配だったが――この企画と記事を書いた男は鼻を高くできるだろうし、それを紹介した相原さんも貸しを作れただろう。
コノミは大量の文房具と俺は金をゲットできたし、学校と新聞社も名が売れた。
学校と新聞社に集まった寄付を基に基金が作られて、そこから更に寄付が行われる――という形になるらしい。
つまり、全部丸く収まったわけだな。
めでたしめでたし。
金はちゃんと、コノミのために貯金しておくぞ。
念のため。
これ、あたり前○のクラッカーね。





