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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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32話 和尚が2人で


 昭和の時代にやってきて、2回めの年末になった。

 去年はかつかつで余裕なんてなかったが、今年は余裕がある。

 余裕どころか、1年で家族が2人も増えているじゃねぇか。

 どうしてこうなった。


 ――とはいえ、まさか放り出すわけにもいかず一緒に住んでいる。

 まぁ、掃除洗濯、飯の用意など――身の回りの世話をしてもらっているから、俺にもメリットがあると言えばある。


 夜になり、年越しそばを食べたあと、俺は八重樫君を誘って年末詣に出かけた。

 4人が、クリスマスプレゼントのお揃いのマフラーをしている。

 年が開けて行けば初詣なんだが、俺はいつもどちらかしかいかない。

 今年は年末詣ってことになるってわけだ。


「篠原さん、そうやって見ると本当に親子ですねぇ」

 八重樫君が3人で手を繋いでいる俺たちをからかう。

 傍から見たらそうだろう。

 ちょっと母親にしては、ヒカルコは若すぎるけどな。


「はは、もう否定はしねぇし」

 どこに行ってもそう言われるので、否定するのを止めた。


「篠原さん、今年も姉からお餅を送ってきましたので、おすそ分けをしますよ」

「おお、ありがたい。大量には食いたくはねぇけど、やっぱり気分的に数枚は食いたいんだよなぁ」

 また八重樫君のお姉さんが来てくれねぇかなぁ……。

 あれだけの美人は、マジで中々いねぇし。


 餅といえば――今年はミカンも買ったりしている。

 去年の今頃はまったく買うつもりもなかったものだが、やっぱり余裕ができればほしくなる。

 ちょっと食べてみたが、酸っぱいミカンばっかり。

 失敗したわ。

 砂糖を舐めながら食べればいいかもしれん。

 あとは焼くとかな。

 そういえば、焼きミカンとかやらなくなったなぁ。

 やっぱりミカンが甘くなったせいだろうな。

 温州みかんって形の違いが解らないんだが、あれってやっぱり品種が色々とあって改良とかもされているのだろうか。


 神社の境内に入ると人で溢れている。

 そしていつものようにガキが多い。

 本当にうじゃうじゃいる。

 まったくどこに行ってもガキだらけだが、それだけ勢いよく人口が増えているということになる。

 そして「シェー!」をしている子どもが多い。


「やっぱり、シェー! が流行っているなぁ」

「そうですねぇ」

 羨ましがっている八重樫君だが、彼も驚く声が聞こえてきた。


「ワープ!」「右砲雷撃戦用意!」「エネルギー充填120%!」「超破壊砲発射!」

 言わずと知れた、宇宙戦艦ムサシのセリフである。


「なんだ、先生の漫画も流行っているじゃないですか」

「そ、そうですねぇ」

 困惑している彼だが、やっぱり嬉しそうである。


「ここに描いている先生がいると解ったら、騒ぎになるなぁ」

「それはちょっと勘弁してもらいたいですねぇ」

「コノミ、学校でもこのお兄さんが漫画描いているとか言っちゃ駄目だぞ?」

「コクコク」


 人混みの中を歩いていると、聞いたことがある声がする。


「おっちゃん!」

 見れば、コノミと同じ学校のガキどもだ。

 こいつらも近所に住んでいるから、どうしても会ってしまう。


「おう、お前らか」

 いつも10人ぐらいで行動しているが、今日は5人ほど。


「えへへ」

「子どもだけで来ていいのか?」

「いいんだ。とーちゃん酒飲んでいるし」

「まだ、正月には早いんだがなぁ……」

 放任主義だな。

 ――とは言うものの、俺もガキのころは子どもたちだけで年末詣に行ったことがあった。

 もっとも、ガキにとってはお参りなんてどうでもよくて、夜店で散財したりとか遊ぶのが目的なんだが。

 そういえば、同級生が年末詣で1万円拾ったことがあったな。

 酔っ払っていた大人も多かったから、落としたんだろうけど。

 当時は飲酒運転も普通だったしな。


「なぁなぁ、おっちゃん」

「お? なんだ?」

「その子って、俺たちが公園で見つけた子なんだろ?」

「ありゃ、知っていたのか?」

「うん、皆で話しているうちに、そうじゃないかって……」

「そうなんだ。わけがあってな、ずっと学校に行ってなかったんだ。仲良くしてやってくれよな」

「わかった」「うん」「わかった!」

「よっしゃ、彼女と仲良くしてくれるなら、ここでなにか1つ買ってやるぞ」

 俺の提案にガキどもの目が輝く。


「「「本当?!」」」

「ああ、本当だ。でも、高いのは駄目だぞ」

「「「う~ん……」」」

 俺たちのクリスマスプレゼントもそうだったが、なにか選べと言われると、中々出てこないもんだ。

 子どもたちの1人が手を挙げた。


「綿あめはいい?」

「それならいいぞ」

「それじゃ、りんご飴は?」

「それもオッケー! オッケーは解らんか」

「知ってるぞ!」「知ってる」

 子どもの1人が俺の服を引っ張った。


「あれは?」

 坊主頭のガキが指したのは、沢山ならんだお面。

 この当時からこういうのが売っていたのか。

 懐かしいムーンライト仮面とか、レインボー仮面などのお面が並んでいる。

 ――ということは、TVで特撮ヒーローものが放映されているってことか。

 ウチにはTVがないからなぁ。


「お面か? いいぞ」

「本当?!」

「ああ、いいけど。親に見つかったりしても大丈夫か? お菓子なら食ったら証拠は残らないんだぞ?」

「大丈夫!」

 本当か?

 まぁ、はしゃぐ子どもたちは、お菓子よりお面にしたようだ。

 多分、遊びで使ったりするのだろう。

 子どもたちに好きなお面を選ばせる。

 1個30円だ。


「買ってやるから、ウチのコノミが困っていたら助けてやってくれよな」

「うん」「まかせろ!」

 物品で買収しているようなもんだが、手っ取り早い。

 大した出費じゃないしな。

 お面をした子どもたちは、礼を言うと人混みの中に消えていった。


「変身ヒーローものの漫画を描いたら売れそうだよな」

「そうですねぇ」

「悪の組織を登場させて、毎回悪事を働く怪人を、ヒーローに変身した主人公が阻止する――TVドラマならよさそうだが、漫画にしたらイマイチか?」

「う~ん、どうですかねぇ」

「あんなお面みたいな商品化はしやすいと思うが――」

「毎週ピッタリと起承転結があるので、週刊向きかもしれませんねぇ」

「それじゃ、週刊用になにかネタを考えておくか――」

 仮面のヒーローものといえば、お面ライダーがあるじゃないか。

 のちにあれが大ヒットしたんだから、先に描いちまえばいい。

 それはあとで考えるとして。


「コノミはなににする? 綿あめでいいか?」

「?」

 彼女が不思議そうな顔をしている。

 綿あめを食べたことがないので、どういうものか解らないのだろう。

 まぁ、買ってみてコノミが食べないなら、皆で食えばいい。

 ――と思ってたら、ヒカルコが小さいりんご飴を買っていた。

 デカいのもあるが、あれを買っても絶対に食いきれないし。

 俺はガキの頃、一度食ってから買ったことがない。

 綿あめも、ただ甘いだけだし。


 コノミは、ヒカルコからもらったりんご飴で喜んでいる。

 綿あめは、また今度にするか。

 まぁいつでも売っているしな。


 俺たちは賽銭を投げるとお参りを済ませた。

 こんなものは気休めだが、子どもができたなら大人として手本を見せなきゃならんだろう。

 俺みたいな大人が、子どもの手本なんてなんの冗談だって話なんだが――中身はどうでも見える所では、いい大人を演じなくてはならない。

 こうやって大人ってのは面倒なことで構成されているわけだな。


 帰り際、この賑やかな境内に似つかわしくない白装束の集団がいる。

 昭和の後期には見かけなくなったが、ウチの親から聞いたことがある――傷痍軍人だ。

 俺たちは白装束の集団を横目で見ながら、アパートに帰ることにした。

 コノミがそろそろ限界そうなので、俺がおんぶした。


「来年はどうなりますかねぇ」

 八重樫君は未来が気になるようだ。


「明日から昭和40年代に突入だ。俺が思うに、激動の時代になるぞ」

「そうでしょうか」

「ベトナムでやっている戦争も泥沼化しそうだしな」

「アメリカは短期決戦で決めたいみたいですけど」

「そう上手くいくかな……」

 実際に泥沼化するわけだしな。

 日本は変動相場になるし、インフレもめちゃ進むし。


 りんご飴を舐めながらアパートに戻ってきたコノミだったが、帰ってくるとすぐに撃沈。

 コートを着たまま、電池が切れたように眠ってしまった。

 歯を磨いてほしかったのだが、この状態じゃちょっと無理。

 無理に起こして、とりあえず口だけゆすがせた。


 彼女に、今のところ虫歯はないようだ。

 ネグレクトだったので、逆に親からミュータンス菌をもらっていないのかもしれない。

 虫歯になりにくいといっても、歯磨きをしないと歯槽膿漏になったりするしな。

 やはり磨いたほうがいいだろう。

 ここらへんも大人が率先して手本を見せないと、子どもも真似をしない。


 ヒカルコが、コノミを寝かしつけている間に、俺はストーブに火を点けた。


 部屋の中がぽかぽかと暖まって来る。

 なにを思ったか、ヒカルコが俺に抱きついてきたので、彼女の頭にチョップを入れた。


「ぴゃ」

「コノミがいないときにしろ」

「……」

 彼女がむくれている。

 ヒカルコが離れないので、引き離そうとしていると――寝ていたコノミが突然起き上がった。


「どうした? オシッコか」

「……」

 起き上がった彼女がとことことやってくると、俺に抱きつく。


「なんだ、今日は俺と寝るのか?」

「……」

 寝ぼけているのか、そのまま寝てしまった。

 むくれているヒカルコに俺の布団を敷いてもらい、コノミを寝かせる。


 除夜の鐘がなっているのだが、年明けを待たずに寝ることにした。

 令和になると、除夜の鐘がうるせぇと中止になるらしいしな。

 そんなことまでクレームを入れなくてもいいじゃないか。


 ストーブを消して換気をすると、俺も布団に潜り込む。

 蛍光灯を消すと真っ暗になるが、隣には小さい黒い髪がすやすやと眠っている。

 俺はその頭をなでて眠りについた。


 ------◇◇◇------


 ――昭和40年、年明け。

 起きると俺の上にコノミが乗っていた。

 横を見れば――すでにストーブが焚かれていて、部屋が暖まっている。

 コノミを胸の上からどけると隣の布団はもぬけの殻。

 すでにヒカルコが起きていていなかったが、多分飯の用意をしていると思う。


 新しい年の正月になったが、なにか変わるわけでもない。

 布団から出て服を着ると、玄関に置いてあった新聞を手に取った。

 正月版なので分厚くて、年始の挨拶やら広告が沢山挟まっている。

 この時代、新聞ぐらいしか広告を出すところがなかったので、みんな折込チラシを入れた。


 昨日は遅かったので、コノミがまだ寝ている。

 まぁ、学校は休みだし、ゆっくり寝ていればいい。

 廊下から八重樫君の声が聞こえてきた。

 彼もすでに起きているらしい。


 戸が開くと、お盆にお椀を載せたヒカルコがやってくる。

 部屋の中にいいにおいが漂ってくると、年の初めの食事。

 腹が鳴るのも初鳴り。

 俺はコノミが寝ている布団を引っ張って寄せると、ちゃぶ台を出す。

 ヒカルコがそれにお盆を載せると、いいにおいの正体は雑煮だった。


「餅は、八重樫君からもらったのか」

「うん」

「彼に雑煮は?」

「作った」

 さっき話していたのが、それか。


「朝飯ができてしまったら、コノミを起こさないと駄目か」

「コクコク」

 布団を少しめくり、コノミを起こす。


「お~い、コノミちゃん。起きろ~、朝ごはんだぞ~」

 俺の声に反応したのか、彼女が目を開けるとしばしばさせて目をこすっている。


「……」

「早く着替えて、顔を洗ってきなさい」

「……」

 彼女がふらふらと起き上がると、俺に抱きついてきてそのまままた目を閉じている。


「ほらほら、起きた起きた」

 彼女に服を着せて、ズボンを穿かせる。

 学校に行くときはワンピースだが、家の中では古着の子ども服だ。

 新品はもったいないからな。

 とにかく大量生産などしていないから、ものが高い。

 外着で穴が開いたりしたら、パッチを当てて室内着にする。

 子どもはズボンの膝に穴を開けるいきものなのだ。


 平成令和でパッチしたズボンを穿いている子どもはいなかっただろう。

 俺がガキの頃には、まだ少しはあったんだがなぁ。

 なにせボロボロなものを、ダメージ商品とかいって売っているぐらいだし。


 コノミを俺の膝の上に載せて雑煮を食べさせる。

 食べながら彼女がキョロキョロしているのだが、なにを探しているのか解った。


「昨日の飴なら、これ食べたあとでな」

「コク」

 コノミが雑煮を食べ始めた。


「美味しいだろ?」

「うん」

 俺も食う。

 餅の中に少々つぶつぶが残っている、杵つきの餅だ。

 まだ餅つき機とかが発売されていないし、店に行っても餅は売ってない。

 ナントカの切り餅が発売されたとき、「こんなの売れないだろ?」「どこの家でも餅ついているのに……」

 ――なんて言っていたら、徐々に売れだしてそれが当たり前になってしまった。

 やっぱり、みんな餅つきが面倒だと思っていたんだろうな。

 それに沢山餅つきしても、食いきれないし。


 1月の終わりや2月ごろまで餅が残っていて、カビが生えているとか普通だったしなぁ。

 お供えもガチガチになったやつを金槌で割って油で揚げたりとか……。

 そんなことをしなくても、必要な分だけ買えばいいじゃん――と、なったのは当然の流れともいえる。


 朝の雑煮が食い終わると、誰かが階段を上がってくる音がする。


「郵便で~す」

 その声に戸を開けると、廊下に年賀状が置かれていた。

 出版社が2社と、弁護士からの年賀状だ。

 年賀状なんて面倒なだけなんだが。

 こんなの郵政省が仕組んだ罠だろ?

 平成令和にゃ、廃れていたし。


 餅を食べたあと、昨日買った飴を探していたコノミを座らせた。


「今日はお正月だ。お正月になったら、お正月の挨拶をしなくちゃならない」

「うん」

「あけまして、おめでとうございます」

「……あけまして……おめでとうございます……」

「よしよし、よくできたな」

 彼女の頭をなでて、俺は準備していたぽち袋を出してきた。

 このぽち袋ってのは、かなり昔からあるらしい。

 すくなくとも戦前からとか、そんな感じ。


「お正月には、お年玉というお小遣いがもらえます。はい」

 コノミにぽち袋を手渡した。

 中身は300円だ。

 この時代には、板垣退助の100円札もあるのだが、子どもなら小銭のほうが好きだろう。

 多分。

 俺のときはそうだったし。


「ありがとう……」

 それを見たヒカルコがシュバってきた。

 俺の前で正座をしている。


「!」

 まるで餌をもらいにきた犬だ。


「お前、その歳でお年玉もらうつもりかよ! コノミにあげる立場やろがい!」

 俺はヒカルコのデコにチョップを入れた。


「にゃ!」

 それを見たコノミが、自分のぽち袋から100円玉を取り出して、ヒカルコの前に差し出す。


「ほら! 子どもからお年玉もらうとか、お前はどういう大人なんだよ」

「……」

 俺にそう言われて、彼女がしょんぼりしている。

 マジか。


「コノミ、いいんだよ。それは君の分だから。ほれ!」

 俺は財布から伊藤博文さんを取り出して、ヒカルコにやった。


「ぴゃ!」

 なんか凄く喜んでいるが、こいつはいい歳した大人だ。


「そんな金で喜ばなくたって、そろそろ仕事の金が入ってくるんだぞ?」

「……」

 俺にそう言われて、彼女がすねている。

 今の会話のどこにすねる場所があったのか不明だ。


「それから――コノミには、毎月100円のお小遣いをあげるから、無駄使いをしちゃだめだぞ」

「……」

 彼女に100円玉をあげた。

 ヒカルコもお年玉で200円をコノミにあげたのだが、反応が微妙だ。

 子どもで600円といえば大金のはずなのだが……。


 この子は、ネグレクトで育った。

 もしかして、お金の使いかたや価値が解らないのかもしれない。


「ヒカルコ、正月が明けて店が開いたら、2人で買い物に行ってきな。コノミにお金の使いかたを教えてあげてな」

「!」

 俺にそう言われて、コノミが金の使いかたを解らないのに気がついたっぽい。

 ヒカルコが可哀想な女の子を抱き締めている。


 店が開いたら――と、言ってみたが、この時代は三が日は全休。

 初売りなんて5~7日からなんてのがあるのも普通。

 当然、コンビニなんてない。

 とりあえず保存食で乗り切る。

 そのためにも、おせち料理を作るわけだ。


 正月といってもやることもないので、俺は仕事をする。

 その合間を縫って、前のアパートの大家さんの所にも年始の挨拶に行った。

 かなり世話になってしまったからな。


「あけましておめでとうございます」

「はい、おめでとうございます」

 大家さんはいつものとおりだ。

 なんだかよくわからない人だし、掴みどころがない。


「去年は色々、お世話になってしまって。大変助かりました」

「まぁ、大変だったね。拾った子どもっていうのはまだいるの?」

「はい、学校に通わせています」

「そうなの。困ったら施設にも顔が利くから、連絡ちょうだいね」

 マジか、この人スゲーな。

 なに者なんだ。


「ありがとうございます。あの――私が拾ってきた女は真面目にやってますか?」

「ああ、百田さんね。しっかりと仕事には行ってるようですよ。まぁ、ここから出ても行くところもないみたいだし」

 あいつ百田って名前だったのか。


「そうでしょうねぇ……」

 本当になにを考えて生きているのやら。

 お祭り騒ぎに、そのつもりになってしまったのかもしれないが。

 20歳過ぎてたら、そのぐらい解るだろう。

 世界を変えることができる革命戦士だってか?

 確かにゲバラみたいなやつはいるが、そんなの全人類の人口でなん人だ?

 まぁ、人には可能性ってもんがあるから、100%あり得ないなんてことはないが、そういうのはガキの頃に卒業するもんだ。

 あれ、そういえば――この時代にゲバラってまだ生きてるのか?

 さっぱりと解らん。


 かくいう俺だってガキの頃は神童だなんだって言われたが、中学の頃には凡人だと気がついたからな。

 要は、小学校の勉強なら直感で解けた、タダの早熟だっただけ。

 中学になって、さっぱりと勉強が解らなくなれば嫌でも解る。


「百田さん、あなたに会いたがってましたよ」

「私に? また金の無心かな?」

「ははは、そうかもよ」

 金の無心なら、大家さんにすりゃいいじゃねぇか。


「まぁ、ツラでも見てやるか」

 正月で仕事は休みだから、いるはずだ。

 俺は懐かしいアパートの木の階段を上って2階に向かう。

 あの女がいるのは、ヒカルコが住んでいた部屋だ。


 部屋の前にやって来た俺は、戸をノックした。


「お~い、いるか?」

 バタバタと音がして戸が開く。


「オッサン!」

 シャツに青い毛糸のセーター、下はジーンズ。


「篠原だ」

「もう、オッサンでいいだろ?」

「それより大家さんから聞いたけど、なんの用だ」

「あのさぁ~」

 女がモジモジしている。


「あのさぁ~って金だろ? 入るぞ」

「ちょっとちょっと、散らかってるし!」

 そうは言っているのだが、大家さんから借りた布団とちゃぶ台しかない。


「お前なんてどうでもいいから、部屋もどうでもいい」

「ちょっと酷いんじゃね?!」

 彼女が抗議をしているが、マジでどうでもいいのだ。

 それに年始の挨拶してくるって行って出たから、すぐに帰らんといかんし。

 中に入るとコートを脱いだ。


 とりあえず、今年初ゴニョゴニョしてから金を渡す。


「それより、ちゃんと仕事に行ってるだろうな? あとがないんだぞ?」

「わ、わかってるってば……」

 俺は財布の中から3千円を取り出して彼女に渡した。

 本当は2千円のつもりだったが、年末年始で金も必要だったのだろう。


「ほんじゃな」

 姫始めを終えた俺は、女の部屋から出るとアパートをあとにした。



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