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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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153話 いったん仲がこじれるとねぇ


 暖かくなってきたある日、八重樫君のお姉さんが再びやって来た。

 今度は高そうな着物を着て。

 どうやら、前々から話があった、地方議員の所に行ったらしい。

 俺はまた愛人やら、めかけかと思ったら――なんと正妻。

 俺が教え込んだ、ゴニョゴニョテクニックをフル活用して、狒々爺を落としたらしい。


 爺相手に、あんなことやこんなこと――まさにど根性。

 彼女は、爺から全財産を巻き上げて、復讐するつもりのようだ。

 助ける助けると上手いことをいって、お姉さんをものにしてから掌を返したのだろう。

 そのせいで、八重樫家は一家離散して、お父さんは行方不明だという。


 それだけ聞けば、なるほどなぁ――と、それじゃ金回りもよくなるだろうから、俺が貸した金も返ってくるんだろう。

 ――そう思っていたのだが、やって来たのは、お姉さんだけではなかった。

 一緒にお母さんまでやって来たのだ。

 お姉さんのお母さん――それはつまり八重樫君のお母さんだ。


 色々とあったし、親類縁者から借金もしたということで、地元に居づらくなったのだろう。

 そこにあえて残るという、お姉さんの肝っ玉はいったいどうなっているのだろうか。

 針のむしろ状態だと思うのだが、俺だったらとてもじゃないが耐えられない。

 決して曲がることがない鋼の意思を感じる。


 ――そんなことより、八重樫君のお母さんを紹介したら、大家さんが怒っている。

 そんなのは、実の息子である八重樫君のやることなんじゃないの? ――ということのようだ。

 そりゃそうだ。普通はそう思うのが当たり前なのだが……。


「でも、大家さん。先生は、実家から勘当されている身なので」

「そういえば、そういう話をしていたわねぇ」

「彼も、もう実家を捨てて、なにかあっても戻るつもりもないと公言していたので、ここにお母さんが来たと言ってもですねぇ……」

 俺の言葉で、大家さんがなにか考え込んでいる。


「…………まぁ……私も、親類縁者と縁切りして疎遠になっているから、気持ちは解らなくはないんだけどぉ……」

 そう、彼女の財産目当ての親戚が嫌になってしまって、親戚つき合いを止めているのだ。


「まずは、八重樫君の所にいって、どうするか聞いてきますよ」

「そのほうがいいと思うわぁ」

「駄目なら、2階の私の部屋が空いているので、そこを使ってもらおうかと思ってますが」

「篠原さんのお仕事に差し支えあるんじゃないの?」

「ずっと貸すわけじゃないですよ。別宅の横にスペースがあるので、そこに小部屋を増築しましょう」

 便所の汲み取り口がある面は増築できないから、1階の小屋やトイレにアクセスする廊下の突き当りの場所だな。

 4畳半ぐらいの部屋ならなんとかなるだろう。

 スペースを広げると、大家さんの部屋に被ってしまうし。


「あ、あの! そこまでしていただかなくても……」

「うなぎの寝床になると思うので、あまり期待しないでください」

「期待だなんて――私のような者を置いていただけるだけでも」

 お母さんの態度を見ていても、普通に善人だよなぁ。

 ただ、八重樫君の言うとおり、良くも悪くも旦那の言いなりだったのだろう。

 大家さんと話していると、A子がやって来た。

 彼女にも紹介しておく。


「いつもやってくる漫画家の先生のお母さんだ」

「八重樫フミコと申します」

「芦原エイコです。よろしくお願いいたします」

「お前と境遇がまったく同じで、会社の倒産で放り出された口だ」

「そ、そうなんですか……」

「まだ、ここに住むと決まってはないが、新入りが来たからっていじめたりするなよ」

「そんなことしませんけど……」

 彼女はお母さんじゃなくて、俺を少し睨んでいる。

 なんだ不満があるのか。

 行く所がないってんだから、仕方ないだろうが。


「あれ~! 皆さん、集まってどうしたんですかぁ?!」

 今度は矢沢さんだ。

 ま~た、一から説明した。


「え~?! 八重樫先生のお母さん!?」

「そうなんだよ」

「でも! ここより、先生の所に行ったほうがいいのでは……」

 皆がそう言うが、そらそうか。


「やっぱり、先生の所に行って、とりあえずどうするか――聞いてくるか」

「そのほうがいいですよ」

 矢沢さんの顔を見ると、ここに女が増えるのに不満があるらしい。


「八重樫さん――とりあえずねぇ、篠原さんが帰ってくるまで私の所にいらっしゃい」

 大家さんが、部屋にお母さんを招き入れてくれた。

 口では少々棘がある発言をしていたが、困っている人を放り出すような人じゃないだろうし。

 大家さんに預けておけば、安心だな。


 それじゃ、俺はムサシプロダクションに宇宙旅行に行ってくるか。

 渡り廊下から自宅に戻ると、居間に顔を出した。


「ちょっと、宇宙旅行に行ってくるから」

「……」

 ヒカルコも不満らしいが、とりあえず先生に話を聞いてみないことにはな。


 靴を履いて玄関から出た。

 別宅から出たほうが早いのだが、別宅には俺の靴がないからな。

 外履きのサンダルでも置いておけばいいか――今度買ってくるか。

 あまり便利だと、それであちこち出歩いちゃうからなぁ。


 小学生の頃、ビーチサンダルが楽すぎて、延々とビーチサンダルで登校したことがあった。

 まぁ、寒くなると普通の靴に戻るから、マイブームはそれで終了するわけだが。


 路地を歩いて、俺たちが以前住んでいたアパートに向かう。

 外階段を上り、廊下で電話番をしているモモに挨拶をした。

 電話の所に小さな机を置いて、事務作業などもしているようだ。

 感心感心――俺が拾ったときと比べたら、見違えるようにしっかりと働いているな。

 俺は彼女に手を振りながら、2階の先生の部屋をノックした。


 先生の奥さんである、丸太さん――いやもう八重樫さんか。

 名前は柔子らしいので、ヤワコさんと呼んでいる。

 彼女はまだ小中学館に勤めているのだが、4月には寿退社する予定だ。

 令和なら、共働きが普通になっていたのだが、この時代は専業主婦が多い。

 女性は就職しても、「腰かけ」と言われて、結婚したら寿退社するのがよくあるパターンだった。

 それどころか、お局様になると追い出されることもあったりして。

 酷い時代だ。


「お~い、先生いるかい?」

「は~い!」

 八重樫君が顔を出した。

 中は部屋の壁を全部ぶち抜いてワンルームになっている。

 俺たちが住んでいた部屋も机がたくさん並び、漫画家の卵たちが作業をしていた。

 寝るスペースがないので、元矢沢さんの部屋を寝床にしている。


「ほ~い、みんなおはよう~!」

「「おはようございます!」」

 アシスタントたちから返事が帰ってきた。

 ここにはたまには顔を出しているし、俺がムサシの原作者だとみんな知っている。

 漫画やストーリーのレクチャー、はたまた人生相談にも乗ったりもしているしな。

 みんな若い子ばかりで、若さと夢と希望にあふれてキラキラしている。

 オッサンには眩しすぎる光景だ。


 まだ挫折も知らず、自分に可能性があると信じて疑わない。

 まぁ、俺にもこんなときがあった。

 いつも思うが、俺にもこのぐらいの歳の息子たちがいてもおかしくはないんだよなぁ。


「どうしました? なにか仕事ですか?」

「今、忙しいかい?」

「大丈夫ですけど……」

 俺の表情で、彼もなにか不穏なものを感じたようだ。


「実はなぁ――君のお母さんが俺の所にいるんだよ」

「……は?」

 突然のできごとに、彼は軽いパニックになっているらしい。


「だからなぁ、君のお母さん――八重樫フミコさんが俺の所にいるんだよ」

「え~?! なんですか?!」

「それはだなぁ、カクカクシカジカ――というわけで」

「あ~!」

 彼がいきなり畳に手をついた。


「おい、どうした?」

「なんで、そんなことに!」

「説明しただろ? お姉さんが来て、置いていったんだよ」

「あの人たちが大好きな地元に、いつまでもいればいいじゃないですか!」

「まぁ、会社も潰れてしまったし、味方もいなくなってしまったから、地元にいられなくなってしまったんだろ?」

「本当に篠原さんには、ご迷惑ばかりかけてしまって!」

 彼が泣いている。

 よく泣くやつだ。

 俺はしゃがみこんで、彼の肩に手を置いた。


「いやいやそれはいいんだよ。でも、向こうにいる女たちが、実の母親なんだから八重樫さんの所に行くのが筋なんじゃないのか――って言い出してな」

「……」

 彼が黙っている。

 まぁ、最初から解っていた。

 母親を引き取るような話なら、最初からお姉さんも俺の所に預けたりはしないのだ。

 もう駄目だと思っていたからこそ、恥を忍んで見ず知らずの俺などに託したわけだし。


 それに、仕事しているときに、嫌いなやつの顔を見てイライラはしたくはねぇし。

 俺もクリエイターだから気持ちは理解できる。


「いいんだよ。お母さんは俺の所で面倒をみるから」

「申し訳ありません……」

「それでなぁ――打ち合わせで俺の所にやって来て、顔を合わせるのも嫌だろ? 電話をくれれば、俺からこっちに来るから」

「本当にすみません……」

「いいってことよ、ははは」

「……」

 泣き顔の彼と一緒に立ち上がった。

 たくさんのアシたちが、気まずそうにこちらを見ている。


「うわ~」って感じだ。

 そりゃそうだろう。

 こんな愁嘆場にいきなり突っ込まれたらな。

 まぁ、プロならこういう経験が芸の肥やしになればいいけどな、ははは。


「いやぁ――創作するためには気分的なものが重要になるから、こういう面倒なことを話してしまって、スマンな。でも、君に話さないわけにもいかねぇし……」

「いや、それは当然ですよ……本当に篠原さんにはご迷惑をかけてしまい」

「気にするなって」

「でも……なんの縁もない、篠原さんに預けるなんて……」

「う~ん、それはあれじゃね?」

 東京にいる数少ない知り合いで、地元の息がかかっておらず、オカンを預けても大丈夫なぐらいのそれなりの財力もある。

 それに、たくさんの女たちが周りにいたのも解っていたはずだ。


「それにしたって……」

「俺がたくさんの女を囲っているように見えたんじゃね?」

「別に篠原さんが囲っているわけじゃないですよね?」

「ははは、そうだけど――傍から見たらそう見えるかもしれんし。ここで俺が連れてきたんじゃない女は小桜だけだし」

「僕も、篠原さんがいなかったら、小桜さんは連れて来ませんでしたよ」

「ええ? そうなのかい?」

 とりあえず、俺ならなにかいい手を考えてくれるはず――と、思ったらしい。

 それは買いかぶり過ぎってもんだが、怪我の功名というか、上手いぐあいに先生のプロダクションの仕事をしてもらっている。

 プロダクションの運営は順調のようだし。

 広告や商品化の話が来ていて、かなり忙しいらしいが。


 女性が実務や交渉にやって来るので、下に見られることも多いらしいが、そんなことでへこたれるような玉じゃねぇし。

 それに、失礼なことを言う相手なら、タイアップの仕事などをしなけりゃいい。

 それには八重樫先生も了承している。


「そうか~まぁ、いいけどな、ははは」

「申し訳ないです」

「それじゃ、お母さんはこちらで預かるということで」

「よろしくお願いします」

 彼がペコリと頭を下げた。


「八重樫君……」

「なんですか?」

「お姉さんのことは聞いたかい?」

「ええ……地元にいる友人に……」

「お父さんのことも?」

「はい……」

 これについては、なんて声をかけていいか解らん。

 特にお姉さんに関しては、俺も関わっていることだし。

 2人の間に沈黙が流れていると、だれかが階段を上がってきたようだ。


「おはようございます~」

 階段を上ってきたのは、矢沢さんのアシをしている女の子。

 彼女は、矢沢さんのスタジオの領収書を持ってきたらしい。

 毎月、持ってこさせてしっかりと記載している。


 プロダクションの経営は順調のようだ。

 これは、八重樫君1人じゃどうしようもなかっただろう。

 小桜は、本当に拾いものだったな。

 行く所がない女だから、逃げようもないみたいだし。


 俺はムサシプロダクションを脱出すると、宇宙旅行を終了した。

 自宅に戻ると、まっすぐに大家さんの所に向かう。


「大家さ~ん」

「は~い、どうぞ~」

「失礼します~やっぱり、駄目でしたよ」

「あらぁ――そうなのぉ……?」

 彼女は困っているのだが、少し怒った表情にも見える。

 実の母親を助けない息子に腹を立てているのだ。


「……」

 俺の話を聞いたお母さんも、下を向いて落ち込んでいる。

 そりゃ、実の息子から「もう会いたくもない」と絶縁宣言されたようなものだ。


「まぁまぁ、お母さん。10年か20年か、わかりませんが、いつかはわだかまりが消えて、また一緒に暮らしたりできるようになるかもしれませんよ」

「……はい」

「でも、半年ちょっとすれば孫も生まれるというのに、その顔も見れないんじゃ、ちょっと可哀想かなぁ……」

「うう……」

 俺の言葉に彼女が泣き始めてしまった。

 なんだ、先生が泣き虫なのは、お母さんの遺伝なのか?

 あのお姉さんは、簡単には泣きそうにないし。

 多分、親父さんもそうなんだろう。


「まぁまぁ、八重樫さん。俺と大家さんがなんとかしてあげるよ」

「そうよねぇ、なんとかしてあげたいわねぇ」

「丸太さん……じゃなかった、ヤワコさんをこっちに引き込めば、孫の顔を見るぐらいはできるんじゃないかなぁ」

「それはいいわねぇ。あの子、とてもいい子だしぃ!」

 すでに大家さんのお墨付きが出ているのだから、間違いない。


 なんだか――さっきまで女の住民が増えることに反対していた大家さんだが、そうじゃなくなったらしい。

 なんだろう、お母さんと話して情が移ってしまったのだろうか。

 別に、彼女が悪いことをしたわけでもないしなぁ。

 八重樫君の行動が、あまりに頑ななので、お母さんのほうの味方をしたくなったのかもしれない。


 なぁに――孫の顔を見たいというなら、いくらでもチャンスはある。

 買い物に行くといって、こちらにちょっと寄って孫の顔見せするとか。

 先生は色々とわだかまりやら、因縁があるかもしれないが、孫は関係ないしな。

 バレたら八重樫君に怒られるかもしれないが――まぁ、そのときはそのときだ。

 俺は基本的には女の味方だし、ははは。


「それじゃ、とりあえず――住むところは2階の部屋を使ってくれ」

「なにからなにまで、ありがとうございます」

「まぁ、乗りかかった船だし」

 早速、2階に上がって部屋を片付ける。


「ここは板の間だから、ベッドを買ってこないと駄目だな」

「……」

「金のことなら心配しなくてもいい」

「は、はぁ……」

「ちゃんと対価をもらうから」

 彼女と2人で、部屋を片付けていると、下から声が聞こえてきた。


「こんにちは」

 階段から下を覗くと、モモだった。


「どうした?」

「あの、先生からこれを……」

 彼女が茶封筒を渡して来た。


「ん?」

 中身を見ると――2万円。


「さっき話していた方を、ムサシプロダクションの社員扱いにして、経費で落とすそうです」

「ああ、なるほどな、ははは――了解だと、先生に言ってくれ」

「失礼します」

 モモと別れると、部屋に戻った。


「八重樫さん、金ゲットだ。当面の生活費として渡しておく」

「あ、ありがとうございます」

 話を聞いていたようで、彼女が封筒を抱きしめている。

 先生の感じから、お母さんのことを許しているような様子ではなかった。

 俺に迷惑をかけられないから、せめて生活費ぐらいはなんとかしようという感じだろうか。


「とりあえず、ベッドは買ってくるが、必要なものはそれを使って自分で購入してくれ」

「わかりました」

 俺の家に戻ると電話をかける。

 相手は、矢沢さんのスタジオを作ってくれた、若い大工だ。

 話をすると、すぐに来てくれるという。


「さて、大工がやって来るまでに、商店街に行ってベッドを買ってくるか」

 ヒカルコに声をかけてから、路地を縫って商店街に向かう。

 そろそろ自転車がほしい所だが、この時代にママチャリはないしなぁ……。


 自転車のことを考えていると、商店街に到着。

 いつもの家具屋でベッドを購入したのだが、毎度買うので俺の顔を覚えてくれているようだ。

 家も覚えているので、すぐに配達をしてくれるという。

 まぁ、夜に寝る前までに寝具があればいい。


 ベッドは買ったし、同じ商店街でシングルの布団も買う。

 本当に着の身着のままだが、とりあえず寝る所があれば落ち着けるだろう。

 まったくの見ず知らずの場所と人で、疲れているとは思うが、この環境で生きていくしかない。

 他に行く場所はないみたいだし。


 家に戻ると、車が止まっていた。

 大工の赤松だ。


「よぉ、こんちは」

「ちわ~!」

 若い彼は今日も元気だ。


「どうだい仕事は?」

「おかげさまでだいぶ楽になったっす!」

「まぁ、相原さんたちも、ほぼ一括で払ってくれたしな」

「そうっすねぇ――ありがたかったっす」

 零細企業はとりあえずの運転資金がほしい。

 だいたい、これがなくなって資金ショートするのだから。


「それで、仕事ってのは――こっちに来てくれ」

「うっす!」

 彼を別宅の横に連れて行く。

 塀との間に若干のスペースがある。


「この隙間を使って簡単な部屋を増築してもらいたいんだよ」

「簡単なってことは小屋っすか?」

「まぁ、そんな感じなんだが、人は住む――仮の住まいってやつだ」

「ははぁ――なるほど。それじゃ基礎はなくして、束石だけって感じで……」

「ああ、そんな感じでいいぞ。使わなくなったら、小屋にするし」

「わかりました! 早速寸法を測らせてもらうっす!」

「全部任せるよ」

「うっす!」

 早速、彼が車から巻き尺を降ろして、長さを測り始めた。

 結論はすぐに出たようだ。

 彼が持ってきたノートに設計図を書いてもらう。

 別に凝ったものを作ってもらうつもりはない。

 本当に小屋みたいな部屋なのだ。

 とりあえずの住処がほしいので、スピード重視で作ってもらうだけ。

 金ができたら、普通のアパートにでも引っ越せばいいし。


 モモも3畳の部屋に突っ込んだが、彼女はいまだにあそこに住んでいるし、困ってはいないようだ。

 ムサシプロの社員になったので、家賃は会社から出ているし、金を貯めるのを優先しているのだろう。

 男に頼らずに、女1人で生きていくためには、金がいる。

 男は裏切るかもしれないが、諭吉は裏切らない。

 いや、昭和の今は聖徳太子だが。


「あらぁ、こんにちは、また仕事をお願いするわねぇ」

 赤松を見かけたのか、大家さんが出てきた。


「あ、こんにちはっす!」

「お茶とお菓子をご馳走するから、休憩にいらっしゃいな」

「ありがとうございます~」

 彼は、大家さんからお茶と羊羹をもらい、外でノートを書いている。

 それを見ていると、建築案が決定したようだ。

 彼の書いたノートを見る。

 中々上手い。


「絵が上手いじゃないか。漫画家になれたかもな」

「漫画が好きだったっすけど、どうやってなるのかとか、描き方がまったく解らなかったっすよ。それで、近所にあった大工に弟子入りしたっす」

「基本的にものを作るのが好きなんだろ?」

「そうっすね~」

 漫画の描き方やら、どうやったら漫画家になれるのか――そんな情報をまったくゲットできないから、普通の仕事についてしまう。

 そんな感じで潰えてしまった才能がたくさんあったんだろうな。

 平成令和ってのは恵まれた時代だったってわけだ。

 SNSに発表したらバズってトントン拍子で、プロデビューなんて話もあったぐらいだし。


 それはそうと、彼から提示されたのは、4畳半の部屋で押入れつき。


「おお、いいじゃないか。これでいってくれ」

「了解っす!」

 普通の三角屋根だが、それを見た俺はひらめいた。


「……これで、屋根に出窓をつけたらどうだ?」

「面白そうっすね! でも、早く簡単に――というのに逆らうっすよ?」

「まぁ、俺も面白いのが好きだから、やってみたいな」

「解ったっすよ」

 こんな感じで別宅の工事が早速始まった。


 夕方には、注文したベッドと寝具が来たので、2階まで運んでもらう。

 炊事場は1階にあるし、トイレもあるし、俺や矢沢さんの所には風呂もある。

 これでとりあえずの生活はできるだろう。



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