12話 お引越し
競馬で勝った金を使って部屋を借りた。
着の身着のままで、昭和に投げ出されるという状態だったわけだが、やっと前に進めるわけだ。
不動産屋と契約を済ませ、部屋の鍵をもらった俺は、近くの和菓子屋で詰め合わせを購入した。
暇なのか、同じアパートの女がずっとついてくる。
和菓子を買っていると食いたそうにしているので、大福を1つ買ってやった。
それを黙々と食べているのだが、ハムスターみたいなやつだ。
まぁ、失業したらしいので暇なのかもな。
この時代じゃ、アルバイト情報誌とかねぇだろうし。
どこかに貼ってある張り紙とか見て、就職活動をするのだろうか?
限りなく胡散臭そうだが。
そうだ、この時代でも職業安定所――職安があったか。
この時代、女性の就職先は少なそうだなぁ。
結局女はずっと俺についてきた。
そのままアパートに帰ると、大家さんの部屋を訪ねた。
「私、近日中に引っ越しますので、今までありがとうございました」
俺は買ってきた詰め合わせを差し出した。
「そうですか、お元気でね」
「それから新しい住所です。引き続き新聞は取らせていただきますので」
マジで色々と助かったので、そのぐらいしてもいいだろう。
「わかりました、手続きしておきますよ」
「ありがとうございました」
礼をして、大家の所をあとにした。
部屋は何もないし、汚したりもしてない。
問題なかろう。
俺のあとを女がついてくる。
「おいおい、部屋の中までついてくる気か?」
「……」
彼女が黙ってうなずいたので、部屋の中に入れた。
「明日、向こうの大家に挨拶したら、引っ越しの荷物もコレだけだな」
「……」
「金がないのか? 貸してやってもいいぞ?」
「……」
俺は財布から、2000円を出して彼女に渡す。
彼女はそれを握りしめたのだが、出ていく気配がない。
「おい、俺は明日か明後日には、ここを出ていくんだぞ?」
「……ご飯を作る」
「え? おい、話が通じねぇぞ。飯って晩飯か?」
「コクコク」
「まぁ、お別れ会みたいなもんか」
会社や学校じゃないから、送別会とは言わんはず。
言うのか?
「……」
「それじゃ、隣のやつも誘うから、3人分な」
「解った……」
「材料費は別に渡すか?」
「これでいい」
まぁ、飯を作ってくれるってなら、それもいい。
この時代の女なら、家事はできるんだろうし。
いや、待てよ――ウチの母親は料理ダメだったような気がする。
ちょいと不安だが、料理ができない女が、「食事を作る」とか言わんだろう。
任せてみよう。
「米とか鍋とかあるから、それを使ってもいいぞ」
「コクコク」
――そのまま夕方近くになると、彼女は服を着て出ていった。
階段を降りたので、外に行ったようだ。
しばらくすると、帰ってきて炊事場でなにかを作り始める。
俺の所から米も持っていったから、飯も炊くのだろう。
そのうち八重樫君が帰ってきた。
「お~い八重樫君、不動産屋に行くのか?」
「はい」
「俺も行こうか?」
「大丈夫ですよ」
「今日は、ここで一緒に飯を食おう」
「篠原さんが作るんですか?」
「いや、もう作っている」
俺が炊事場のほうを指差す。
彼が確かめに行くと、すぐに戻ってきた。
「どういうことです?!」
彼が怪訝な顔をしている。
「なんでか仲良くなった。今日の晩飯を作ってくれるそうだ」
「篠原さんが、女性に手が早いなんて思いませんでしたよ……」
「ははは、オッサンを見くびってもらっては困るなぁ」
すでに編集の相原さんまで手を出しているとは言えん。
いや、あれは彼女のほうから誘ってなかったか?
それに、料理作っているあの女も――いや、金がなくてやむを得ずだったかもしれないが、そのあとの行動が謎だが。
女の考えていることは解らん。
俺の言葉に、むくれたまま少年が出ていった。
自分がまったく相手にされなかった女と、俺が仲良くなったので、それが面白くないのだろうか。
ははは、まだ若いな。
笑っている間にも、料理は色々とできあがってきた。
肉野菜炒め、卵焼き、味噌汁、おひたし――なんか久々の普通っぽい食事である。
皿とか茶碗が足りないので、色々と容器が混じっているのだが、食えりゃいい。
俺の偏見かもしれんが、やっぱり昭和の女は家事が上手い。
――とかいうと、平成令和の女たちに叩かれるんだろうなぁ。
俺の所にはテーブルがなかったので、彼女が自分の部屋からちゃぶ台を持ってきてくれた。
分厚い板で丸くて脚が折り畳めるやつだ。
「美味そうじゃないか。お前、料理上手かったんだな」
「……」
彼女が黙って、ニコニコしている。
褒められて嬉しいのだろうか。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は篠原だ。篠原正一」
「ショウイチ……」
「お前は?」
「寺島ヒカルコ」
「ヒカルコって、光子って書いて、ヒカルコなのか?」
「うん」
「中々いいじゃないか」
彼女の両親の性格が伝わってくる。
あまり突拍子もない名前はマズいけど、人と同じようなのも嫌――って感じだろう。
料理ができあがったが、八重樫君が帰ってこない。
しびれを切らしていると、彼が階段を登ってくる音が聞こえてきた。
「お~い、八重樫君。料理できてるぞ~」
「解りました。すぐに行きます」
荷物を置いて、彼がやってきた。
「こんばんは~」
「ペコリ」
彼女が黙って頭を下げた。
基本的に、人見知りなのだろうか。
「美味しそうですね!」
「早速食おうぜ!」
「「いただきま~す」」
お? 美味い美味い。
味噌汁も、イリコでダシを取ってあるみたいだし。
おひたしはなんだろう? 大根の葉っぱかな?
久々のまともな食い物だ。
自分でも、とんでもない生活を思い出して苦笑いをしてしまう。
ずっと自炊してきたから料理はできるのだが、ここで料理をしようと思わなかったな。
とりあえず、勝負のための金を貯めるのが最優先だったし。
「美味しいですね!」
「いい所のお坊ちゃんで、舌が肥えてる八重樫君がそう言うんだから間違いないな」
「そ、そんなことはありませんよ」
「卵焼きも美味い! 俺も自分で作るけど、すぐに焦げるんだよな」
「……サッカリンを使ってる」
「サッカリン?」
ああ、なるほど。
卵焼きが焦げるのは砂糖を入れているせいだから、人工甘味料を使ったのか。
サッカリンとかチクロに発がん性があるとか言われて、使用禁止になったが、問題になったのはチクロだけ。
サッカリンは完全なとばっちりだ。
そのチクロだって、追試の結果、結局なんの問題もなかったらしい。
とりあえず出されたものは、全部平らげた。
余は満足じゃ。
「よっしゃ、それじゃ洗い物だな」
俺は食器や鍋を持って立ち上がった。
「……い、いい」
「気にするな。手伝うから」
いつも自分でやっているから、別に苦でもねぇ。
この時代の男は上げ膳据え膳だろうが、俺は平成令和の独身のプロだし。
2人で炊事場でじゃぶじゃぶとやれば、すぐに片付く。
後ろで八重樫君がウロウロしているのだが、3人入るスペースがないし。
「ほい、終わり~。そういえば、なにか飲み物でも買ってくればよかったなぁ」
夜に店が閉まっているとこういうときに困る。
自販機もろくにないしな。
瓶を引っ張るタイプが店の中にあったりするが、24時間稼働している自販機はもうちょっとあとだ。
その自販機も、最初は缶の見本もなくてスイッチだけだったらしい。
「僕がコーラを買ってきましたよ」
「でかした! よし、皆で飲もう」
皆でコーラを飲んで、今後の予定を八重樫君と話す。
「八重樫君、不動産屋の爺さんがリヤカーを貸してくれるらしいから、君の引っ越しも手伝うぞ」
「本当ですか? ありがとうございます」
お開きになったあと――ヒカルコという女が、また布団に潜ってきたらどうしようかと思ったのだが、黙って自分の部屋に帰った。
「明日は引っ越しだ」
俺は女のにおいが残っている布団に寝転がった。
引っ越しといっても、俺の場合は布団だけだからな。
さて、どうするか。
布団だけ持って、なん回か往復するか。
それとも不動産屋の爺さんの所に行ってリヤカーを借りてくるか。
色々とシミュレートしてみるが、リヤカーを使うほどの荷物でもないんだよな。
それにリヤカーを借りると、借りてきて荷物運んで、また返しに行く――というムーブだし。
その間に布団だけなら運べるんじゃね?
――とか思ってしまう。
どうせ時間はある。
3往復もすれば全部運べるし、リヤカーはいらねぇな。
------◇◇◇------
――部屋の契約をした次の日。
八重樫君が出勤する音を聞いて起きると、ぼ~っとしながら新聞を見る。
ダービーの記事が小さく出ていた――5月31日らしい。
シンシンザンは皐月賞も勝ったし、今度は人気になるだろう。
関東のやつらにも強い馬だとバレてしまったからな。
さて、引っ越しの準備だ。
畳を剥がして、下に隠してあった金を全部カバンの中に入れた。
今日は荷物を運んだりして体力を使うので、なにか食おうと思ったのだが――作るのは面倒だ。
カバンを持っていつもの店に向かうと、そこでアンパンと牛乳を買う。
今日でここのアンパンともお別れか。
パンを食ってから帰ると、俺の部屋の前にヒカルコが立っていた。
「おはようさん。今日は引っ越しだからな。お前にかまっていられないぞ?」
そんな毎日毎日金を渡していられねぇ。
「……」
黙っている彼女を後目に部屋に入ると、カバンを布団の間に突っ込んで、それを持ち出す。
軽いので敷布団と掛け布団を一気に行けるだろう。
担ぐと重いので、こういう場合は頭の上に乗せる――余裕だ。
それを見たヒカルコが、残っていた毛布を頭の上に乗せた。
「手伝ってくれるのか?」
「コクコク」
彼女がうなずいた。
残るのは鍋やら包丁やらの台所用品や、タオルや石鹸やらの風呂道具だけ。
溜めていた新聞は、ちり紙交換に出した。
そういえば、平成令和にちり紙なんて使わないのに、ずっとちり紙交換って言っていたな。
最後に残った荷物は、テーブル代わりにしていた木箱に詰めて運べばいいだろう。
それじゃ往復2回で終了だな。
楽な荷物運びでいいが、新しい部屋では荷物が溜まりそうなので、次の引っ越しは少々面倒だろう。
暇だったから散歩をしつつ、路地の繋がりなどを確認したので、もう一発で新しいアパートまで行ける。
ここらへんは空襲で焼け残ったらしいので、細い路地がそのまま残っていたりする。
くねくねと曲がりながら、山手線の近くまで続いているのだ。
それをずっと散歩するだけでも、中々楽しい。
この道は、そのまま平成令和まで残っていたのだが、家を新築するためには道路幅の規制があったりして、建築もままならない所が多い。
新築ができないから改築――ということになるのだが、道が細くてトラックが入れなかったりして、中々大変だと思う。
そんな所でも、コンクリのマンションが建っていたりするから、いったいどうやって建てたのだろうと頭を捻る。
路地のことを考えて歩いていると、風呂敷をマント代わりにしているガキどもが走ってきた。
本当にどこに行ってもガキがいるな。
どこに行くのかと思ったら、道端に沢山ガキが集まって紙芝居をやっていた。
ああ、紙芝居なぁ。
昭和の時代にゃ、そういう話がよく出てきたが、すっかりと忘れていた。
紙芝居作家みたいな専門の人もいたらしいし。
TVが普及して廃れたみたいだが、これらも子どもたちの数少ない娯楽だったはず。
紙芝居を懐かしんでいると、新しいアパートに到着した。
塀についている引き戸を開けると、階段を登る。
部屋の戸を開けて布団を放り込んだ。
ヒカルコからもらった毛布も畳の上に投げる。
鍵をポケットから取り出すと鍵をかけた。
この時代なら、このまま部屋を離れると布団がなくなる可能性もある。
ものを持ってないやつのほうが多い時代だから、どんなものからも目は離せない。
それに俺たちが布団を持って歩いているので、引っ越しをしているとあとをつけているやつらがいるかもしれん。
心配し過ぎかもしれないが、用心するに越したことはない。
苦労してせっかく買った布団とか取られたくないからな。
そのまま復路を帰ってくると、最後の荷物を木箱の中に突っ込んだ。
これで全部だ。
元々荷物はまったくなかったが、ガランとしてしまった。
その景色を見ると、ちょいと寂しい。
「おっと、八重樫君の所に手紙を入れていくか」
先に引っ越すと手紙を入れた。
相原さんに会ったり連絡することがあったら、新しい住所を伝えてくれと書いた。
木箱を持って階段を降りると、それを玄関に置いて大家さんの所を訪ねた。
「いままでありがとうございました。引っ越し終わりましたので」
「篠原さん、荷物少ないからねぇ」
「はい、あとはあれだけです」
俺は置いてある木箱を指した。
「そう、お元気でね」
「あの――部屋の確認とかは……?」
「篠原さんがいた期間は短いから、なにも変わっていないでしょ?」
「ええ、荷物もありませんでしたし」
「それじゃ大丈夫だね」
「ありがとうございました」
礼をしてアパートをあとにした。
さて、俺を最初に案内してくれた、○○党の事務所にもお礼を言ったほうがいいのか?
いや、向こうは多分もう忘れてるな。
それに、このアパートの大家から、向こうに連絡がいくかもしれん。
まぁ、それでいいか。
こんな場所でも出ていくときには、少々寂しいかもな――。
みたいなことを考えていると、後ろにヒカルコがついてくる。
「これでお別れだな。それじゃ元気でな。早めにここを抜け出せよ?」
「……」
お別れをしていると、彼女が突然泣き出した。
「おいおい待て待て、今のどこに泣くところがあったんだ? こら、やめろ。まるで俺が悪いみたいじゃねぇか」
「ぐすぅ……」
涙を流しているので、嘘泣きではない。
いったいなんだっちゅーの。
「あ~、解った解った、たまに遊びに来ていいから」
「コクコク……」
彼女がうなずくので、多分これでいいのだろう。
そう思って俺が歩き始めたら、彼女がついてくる。
「たまにって話に、今日も入るのかよ……」
「……」
「いや、いいけどな」
「……」
黙る彼女に、俺は嫌な予感がして向き直った。
「まさかと思うが――押しかけるつもりじゃないだろうな? 押しかけは受け入れねぇぞ? とりあえず、自分で金を稼いで、あの部屋を精算しろ」
「コクコク」
彼女がうなずいた。
本当に解っているのか。
まぁ、結構いい大学に行ってたぐらいだし、並以上の頭はあるんだろう。
押しかけといえば、ウチの婆さんが爺さんの所に押しかけたそうだ。
爺さんとは、例の俺の作り話に出てきた樺太から引き上げてきた人な。
死んだと言ったのも当然作り話で、この時代にまだ生きている。
すごく寡黙な人だったらしいが、爺さん婆さんはラブラブだったらしい。
オカンからよく聞かされた。
そういえば、俺が消えた平成令和じゃ行方不明扱いか。
田舎にゃ数十年帰ってねぇから関係ねぇとはいえ、借りていたアパートを放置して問題になれば、親の所にも連絡がいくかもしれねぇなぁ……。
まぁ、すでにどうしようもねぇが。
考えごとをしている間に、新しいアパートに到着した。
最後の荷物である木箱を放り込んで、俺は鍵を閉めた。
「さて、買い物だ」
大家さんに引っ越しの挨拶もしないとダメだしな。
駅前に買い物に行くと、前に買った和菓子屋で詰め合わせを買う。
次に向かうのは蕎麦屋だ。
乾蕎麦を探したのだが、売ってなかったので蕎麦は蕎麦屋だろうということで向かう。
店に行くと売っていたので、そこで引っ越し蕎麦を買った。
もうこの時代には引っ越し蕎麦が残ってないかもしれないが、元々東京の風習なので知っている人もいるだろう。
ついでに俺たちの分まで買う。
そうだ、蕎麦を食うならめんつゆが必要か。
ヒカルコに聞くとそんなものはないらしい。
マジで。
それなら、醤油と味醂とダシで作らんとダメだろう。
色々と買うものが増えたし、これから食事を作るための買い物をすることも増えるだろう。
そのために、買い物カゴを買った。
昔、オカンがこういうのを持って買い物に行ってたなぁ。
醤油は5合瓶(900ml)で約100円――味醂も手に入ったが、ダシはどこだろうか?
当然パックに入ったカツオダシとか顆粒の昆布だしは、ねぇだろうし……。
「鰹節なら、乾物屋……」
彼女に引っ張られて、乾物屋に向かう。
確かに店先には色々な干物や乾物が並ぶ。
鰹節も売っているが、当然まるごとだ。
「これ削るやつがいるだろ?」
彼女が店員となにか話していると、鉋のような器具を持ってきた。
鰹節が250円だが、削る器具がかなり高い。
こういうのって手作りだし、一生ものだろうしなぁ。
まぁ、一生とか言っている間に、みんな顆粒とかパックになっちゃったけど。
――とか思いつつ買う。
ついでにイリコや乾燥昆布も買っておく。
普通の料理をしようとすると、こういうのを全部そろえないとアカンのか。
便利な化学調味料が売っているが、あれはさすがにタレ類には使いたくない。
炒めものなどに少々入れるぐらいだ。
ウチの両親や爺さん婆さんが、化調をドバドバ入れていた悪夢が蘇る。
その反動もあり、その手のものにはアレルギーがあるのだ。
食器なども買い込み、最後に家具屋に行って、ちゃぶ台を買う。
TVなどに出てくる丸いやつだ。
結構な値段がするが、これも壊れることがないから一生ものだな。
おまけに箸入れをつけてくれた。
乾物類をヒカルコに持ってもらい、俺はちゃぶ台を頭の上に乗せて歩く。
彼女についてきてもらって、買い物は一回で済んだ。
新しいアパートに戻ると、家の前で大家さんに出会った。
「こんちは~」
「あら」
「引っ越しが終わりましたので、今日からお世話になります」
「もう終わったの?」
「もう荷物は布団ぐらいしかなかったものですから――これ、どうぞ」
俺はヒカルコが持っていたカゴの中から、買ってきた和菓子と蕎麦を出した。
「あらぁ、引っ越し蕎麦なんていただいたの久しぶりねぇ」
「そうでしたか」
「あの、篠原さんでしたっけ?」
「はい」
「奥さんがいるとは聞いてなかったけど……」
「え?!」
後ろにはヒカルコがいる。
確かに、俺が荷物を持って彼女が食器などが詰まった買い物カゴを持っている。
傍からみたら、新婚夫婦に見えるかもしれない。
「随分と若い奥さんねぇ」
「あ、え~こいつは違うんです。前のアパートの住民で、引っ越しを手伝ってもらっただけ」
「ああ、そうなの……」
大家さんの目が信用してない。
本当なんだが……。
部屋に戻り、早速蕎麦を食べることに。
その前にそばつゆを作らねばならないのだが、ヒカルコが作るというので、まかせた。
味噌汁も美味かったので大丈夫だろう。
しばらくすると、そばつゆができあがったので、ちょっと味見。
「美味いな」
俺の言葉に彼女が喜んでいる。
続いて蕎麦を茹でて、丼にいれれば完成だ。
食器などは、客がくることも想定して、一応3つずつ購入してきた。
蕎麦を食うのがこんなに大変だとは……。
これなら蕎麦屋の意味もあるなぁ。
最後に、そばつゆをかけて食う。
「お、美味いじゃないか」
蕎麦も美味いし、ダシもちゃんと効いている。
「コクコク」
彼女も嬉しそうに蕎麦をすすっている。
蕎麦は美味いのだが、この女はなにを考えているのやら。
まさか俺みたいなオッサンに惚れたわけではあるまい。





