107話 人類ナントカ計画
俺の原作で宇宙戦艦ムサシを連載している八重樫先生が、どこからか「M資金」などという詐欺ネタを掴んで持ってきてしまった。
出どころは、俺や先生たちがいつも訪れている図書館。
そこにいた女司書だ。
前々から、人を値踏みするような感じがして怪しかったのだが、今回のことで謎が解けた。
どうやら詐欺のカモを探していたようだ。
あの女には、売れっ子漫画家になった人の良さそうな男が、カモがネギを背負っているように見えたのだろう。
まったく、そんなのに引っかかるなよ。
女に興味がないのかと思ったら、そんなネタを女から握らされるとはなぁ。
今は金を持ってないから騙されたとしても被害は少ないだろうが、単行本が出てからそんなのに引っかかったら目も当てられない。
一発で財産を失うかもしれん。
それどころか、払うはずの税金なども失ってしまったら、どん底まで一直線だ。
税金じゃ破産はできないからな。
落ち込んでいた先生だが、このネタを漫画にしてみるようだ。
どういう話にするのだろうか?
順当に――親友が事件に巻き込まれるなどして、探偵がその謎に迫る感じだろうか。
王道だろうが、ネタが面白ければイケるか。
M資金詐欺が流行っているかもしれないので、相原さんは編集部に戻り、他の漫画家さんたちにも警戒を呼びかけてくれるようだ。
そんなのに引っかかって、作品の製作に影響が出るとマズいからな。
それはそうと、俺が書いていたムサシのムック本の原稿を相原さんに手渡した。
あとは、彼女の構成力に期待だ。
もしくは、そこからさらに外注に出すのかもしれない。
そこら辺は相原さんにまかせているので、俺はノータッチだ。
――八重樫君が、詐欺に引っかかりそうになって数日あと。
「篠原さ~ん」
先生がやって来た。
「ほい、どうした?」
「ネームができたので、見てください」
今回は、彼のオリジナルストーリーだ。
最初に知り合ったときに読んだ彼の漫画は酷かったのだが、メジャーデビューして、ストーリーの構成などは変わっただろうか?
――読んでみる。
矢沢さんのネームは結構しっかりと描かれていることが多い。
先生のネームはラフが多いのだが、どんなキャラかは解るぐらいには描いてある。
俺が予想したとおり――親友が殺されて、その事実を追っていくとM資金の核心に迫っていくという探偵ものだ。
ページは32Pほどある。
週刊だとちょっとページ数が多いか。
別冊の漫画を、特別オマケとして同梱するというパターンもあるしな。
「おお、面白いじゃないか」
「そうですか?! ありがとうございます」
「ヒカルコにも読ませていいかい?」
「どうぞ!」
「……」
ヒカルコもネームを読み始めた。
「でも、ちょっと想定する読者年齢層が高めかな?」
「ああ、それはありますねぇ」
まぁ、編集長に見せて、どういう風に扱うのか任せてしまえばいい。
オマケじゃなくても、落ちた原稿の穴埋めなどなど、いくらでも需要がある。
「……」
「どうだ、ヒカルコ?」
「……う~ん、ちょっとオチが弱いかもしれない」
「確かに、M資金にたどり着いてENDだからな。もう1段オチがほしいか」
「たとえば、どんなのですかねぇ」
「そうだな――事件の黒幕を倒したら、さらに奥にデカい黒幕がいたとか」
「なるほど……」
彼が、メモをしている。
入れ子構造になっているストーリーは未来ではよくあるネタだろうが、この時代なら新鮮かもしれないし。
「その場合は、一番最初にそれっぽいのを匂わせるシーンを入れないと駄目かもな」
「秘密結社の集まりみたいな感じですか?」
「いいね~、いっそのこと――物語のキーマンと、真っ暗な空間に抽象的な像が浮かび、敵側が会議をしているシーン――みたいな感じにすると、不気味でいいんじゃね?」
「なんか、あまりに壮大な感じがしますが……」
「大きな物語の中の、1つのエピソードを切り取った感じだろうか。M資金に迫っても、大きな謎は残る」
「エピソード、エピソード――」
先生がなにか考えている。
単語の意味が解らないようだ。
「エピソードってのは、大きな物語の間に、差し込む話のことだよ」
「ありがとうございます」
「秘密結社の目的はなに?」
話を聞いていたヒカルコから、質問だ。
「ズバリ! 人類完全化計画」
「なにそれ?」
もちろん、未来に流行るアニメのネタパクリだ。
「普通の秘密結社は、世界征服を企んじゃうとかそういうのだろ?」
「うん」
「この秘密結社は違う。ある日手に入れた神様の力を使って強制的に人類を1つにまとめて、飢餓や差別、戦争がない世界を作るのを是としている組織だ」
「……それって、いい者じゃないですか?」
「そうとも言えるから、主人公は苦しむわけだけど――全人類に強制するんだぞ? 物理的に1つになるんだ」
「ええ~……?」
先生がドン引きしている。
彼がどういうビジョンを思い浮かべているのか不明だが、多分団子のように固められている姿だろうか。
「たしかに世界から争いはなくなる――それはいいことかもしれないが、そんなのはいやだろ?」
「そ、そうですけど……そんなすごい話は、描けそうにありませんよ」
「本当に描かなくてもいいんだよ。要はハッタリだ。なんかすごそうなことを言って、煙に巻く」
散々思わせぶりなことを言って、結局なにも回収しない漫画家なども普通にいるし。
それが駄目かといえばそうでもない。
謎が謎を呼ぶストーリーは途中の人気が出るし、要は売れればいいのだ。
広げた風呂敷を畳むのは別の話だし。
「インチキ」
ヒカルコがボソリとつぶやいた。
「いいんだよ。壮大な話を考えたって、途中で漫画が打ち切られたら、全部それを放り投げるわけだろ?」
ヒカルコはそういうのは嫌いそうだな。
「そ、そうですねぇ」
「ムサシだって途中で打ち切りになったら、考えた舞台やら設定やら全部お蔵入りだぞ」
「ええ」
「与太話やら世迷い言ってのが、物語の本質だからな――ふひひ」
「わかりました」
「とりあえず目新しさを狙って描いて、編集長の評判が悪かったら、前後をぶった切って普通の探偵ものにすればいいし」
「あ、それもそうですね」
「本当は、こういう打ち合わせを編集とやるんだけどな」
「はは、僕の担当は高坂さんですし」
先生がちょっと呆れているが、最近はマシになっている。
「彼女でも、文学は好きなようだから、文学的な話は参考になるかもしれないぞ?」
「僕が描きたいのは、読んで楽しいワクワクする冒険などをする漫画ですからねぇ」
先生は、ヒマをみてチマチマ原稿を仕上げていくようだ。
ムサシが本職で、他の漫画が趣味みたいだな。
漫画で食えるようになりたいというのが彼の目標だったが、やっぱり基本的に漫画が好きなのだろう。
有名になりたいと漫画家を目指す人もいるかもしれない。
そういう目標もありかもしれないが、やはり創作が好きじゃないと続かないのだ。
――そのまま12月の中旬。
あっという間だ。
新聞には、アメリカの宇宙船がランデブーしたと載っていた。
要は宇宙船同士がドッキングしたってことだな。
平成令和だと、ランデブーとか使わなくなったなぁ。
それはそうと――たまに違う漫画を描いたら楽しかったのか、先生の新しい漫画がほぼできあがっていた。
創作ってのはノリだ。
ノッていればこのぐらいはできるし、精神的にも充実する。
逆に精神的にどん底でも、プロなら仕事をしなければならないのがツライところ。
まぁ、そういう道を自ら選んでしまったのだから、泣き言を言っても始まらない。
早速、彼の漫画を読ませてもらった。
「面白いねぇ」
「ありがとうございます」
「ちょっと含みを残すところが、帝塚先生っぽくもある」
「あ、僕もそう思いました」
勝手に描いてしまった漫画なので、編集部に任せることになる。
人気漫画家の漫画なのだから、使い道はいくらでもある。
高坂さんはムサシの原稿を取りに来たばかりなので、矢沢さんの漫画の様子を見にきた相原さんに持っていってもらうことにした。
本当の担当は高坂さんなのだが、彼女は当てにならないし。
当然、彼女にも漫画を見せる。
「……面白いですね!」
「ありがとうございます」
八重樫君がペコリと頭を下げた。
「あの――僕が勝手に描いたものなので、まぁ使い道は編集部にお任せすると伝えてください」
「承知いたしました」
「ちょっと、突拍子もない話かもしれませんが……」
「そんなことはありませんよ。なにか大きなストーリーと広がりを感じます。それがなければ、普通の探偵ものですし……」
「うう……」
彼女の指摘に、先生がちょっと落ち込んでいる。
そこを描いたのが彼だからな。
「大丈夫だよ先生! 一番~最初に読ませてもらった漫画なんて、山なしオチなし意味なしだったし。それからしたらすごい進歩だよ」
「それって褒めていただいているんですかね?」
彼がちょっと恨めしそうにこちらを見ている。
「もちろんだよ、ははは」
「先生、もしかしてこれは連載も可能なのでは?」
相原さんの目が輝いた。
「もしかして――人類完全化計画から繋げられるかもしれませんねぇ」
「これはどういう計画なのですか?」
「それは――」
先生が、人類完全化計画を相原さんに説明した。
秘密結社が神様を復活させ、人類を強制的に団子にして、飢えや差別、戦争がない世界を目指す――というのが彼なりの解釈のようだ。
「そ、それはたしかに平和になると思いますが……」
女史がドン引きしているので、そこに俺が補足を入れた。
「従来の秘密結社は、悪の秘密結社じゃないですか」
悪いやつらが世界征服していったいなにをやるのか、不思議で仕方ないが。
やっぱり酒池肉林だろうか。
「はい」
「これは、善意の秘密結社なんですよ」
「つまり本当に世界から飢えや差別、戦争をなくすために、崇高な使命をもってその完全化計画を遂行する組織だと?」
「そのとおり」
「なんか宗教か、なにかですかね?」
「まぁ、そういうのもありえますね。まだそこまで設定していないので、なんとも言えないでしょうけど」
一応、善意の組織だというのは先生には説明してある。
「……」
彼女がちょっと下を向いて黙っている。
「なにか気になることが?」
「あ、あの――いいえ、ちょっと難しそうな話で、読者年齢層が高めだなぁ――と」
「そうなんですよねぇ」
相原さんの言葉に、先生がうなずいた。
「私と先生も、帝塚先生の漫画みたいだと言ってたところなんですよ、はは」
「もしも、連載するのであれば――少年誌ですし、もう少し読者年齢層を下げたほうがよろしいかと」
相原さんの助言は的確だ。
「篠原さん、どうしたらいいですかねぇ。僕にそんな話は思いつきませんよ……」
「そうだなぁ、アクションと派手な戦闘のためにロボットを出そうか」
「ロボットですか?!」
彼の目が輝く。
「ロボも人気あるだろ?」
「はい、横川先生の鉄人18号とか……」
「それじゃ篠原さん、敵もロボットで攻めてくるってことでしょうか?」
相原さんと先生に、ストーリーの説明をする。
「敵のロボは神の使徒だ」
「使徒? 使徒ってなんですか?」
八重樫君は、単語が解らない様子。
そこからか、そこから説明しないとアカンのか。
キリスト教があまり浸透してないせいもあるかもしれない。
神道や仏教に使徒っていたっけ?
神道はなんでも神様だしなぁ。
「先生、使徒ってのは、神の使いのことですよ」
「あ、なるほど――天使とかそういうのですね」
八重樫君の疑問に相原さんが答えてくれた。
さすが、帝都大卒の彼女は学がある。
「まさしく、敵のロボは天使と呼ばれている。起動すると頭の上に光輪が浮かぶしな」
「それじゃ、翼が生えたりとかも……」
「描くときに大変だから、空を飛んだりするときだけ、翼を出す――みたいにしたらどうかな?」
「いいですね」
具体的なストーリーの説明をする。
もちろん、未来に流行ったアニメのパクリだが、そのままは使わない。
多少は、この時代に合わせてアレンジしないとな。
煮え切らない内向的な主人公などは、この時代にはどうかと思うし。
「敵は偶然拾った神様の力を使って、人類完全化計画を推し進めているから、ロボも神様の力で動いている」
「具体的にはどんな感じなんでしょう?」
「神様の力を宿した核からエネルギーを得て動いているから、そいつを破壊されるとロボは動かなくなる――つまり勝ちだ」
「待ってください、今メモをします」
先生がサラサラとスケッチでロボを描いて、その中心に核を描いた。
「先生、そのロボには、主人公が直接乗るってことにしてくれ」
「ええ?! 鉄人みたいにコントローラーじゃなくて、直接乗るんですか?」
この時代、ロボに直接主人公が乗り込むタイプは浸透していなかった。
アストロナントカという、ロボと融合するタイプはあったのだが、あれは操縦してないしな。
やっぱり直接乗り込む元祖は、魔神ロボZだろうか。
「戦闘機や攻撃機だって、パイロットが乗るじゃないか。そういう扱いだな」
「な、なるほど……」
「操縦席も戦闘機のコクピットみたいにすると格好いいと思う」
「確かにそうですねぇ……」
彼が操縦席のスケッチを描いた。
「戦闘機みたいな操縦桿だとオカシイから、両手で持つ操縦桿にしよう」
「いいですね!」
相変わらず、彼の絵は達者だ。
絵は素晴らしくても、話やネームがマズいとまったく駄目になるのが漫画の難しいところ。
「戦闘機みたいに乗り込むとして、寝転がっているときにはしごかなにかを使うんでしょうか? 大変そうですね……」
「それじゃ、主人公を空を飛ぶバイクに乗せよう」
「ええ? 空を飛ぶんですか?」
「ああ」
俺の下手くそな絵で説明する。
「こんな感じでな。タイヤの所がジェットエンジンになってたりする」
「これに乗ってどうするんですか?」
「ロボットの腹や背中が開いて、そのままバイクで乗り込んで操縦席になるってのはどうだ?」
「う~ん……」
「駄目か?」
これから流行るロボものを先取りするんだがなぁ。
この時代のロボはコントローラーだが、未来には乗り込み型が主流になるし。
「なんかムサシに比べて、現実感に欠けるというか……」
「それを言うと、ロボじたいが怪しくなるがな。たとえば、大きな基地の中でクレーンで乗り込むみたいにすると規模がデカくなるから、味方も大きな組織じゃないと駄目になるしな」
「そうですよねぇ」
「それじゃ、敵に対抗するために日本政府の協力を得て、デカい基地を持っているという感じにするか?」
巨大なハンガーにロボが立って、主人公が乗り込むタイプを説明する。
「絵的には、こちらのほうが格好良くなりそうですよね」
「ロボットにして、TV漫画やおもちゃが作られるようになると、ギミックを求められると思うが」
「え? ギミックってなんですか?」
「仕掛けやらからくりのことだよ。たとえば、ミサイルが飛んだりとか――主人公が乗った空を飛ぶバイクとがギューンと飛んできて、ロボにガシーン! と、合体すると子どもが喜ぶ」
2つのものが1つになったりする合体という単語は、この時代でもあるはず。
「う、う~ん……合体」
先生が腕を組んで考え込んでしまった。
要は、ハードなSFを描きたいのだろう。
そのためにリアリティが欲しいのだと思われる。
「まぁ、最終的にどんな話にするか決めるのは先生だから」
「でも、篠原さん、味方のロボはどこから来たのでしょうか?」
相原さんに、ロボットの由来の話をする。
「秘密結社と戦う主人公が、敵の基地から盗んできたんですよ」
「この探偵ものの主人公だと、これでいいのですが、少年誌の連載ものとしてはちょっと年齢が高いような……」
彼女の言うことももっともだ。
ロボットもののアニメの主人公は少年が多い。
「それなら――盗んできたときに主人公が重傷を負って、最期の際に歳が離れた弟に託すことにしましょう」
「ああ、それなら少年が敵と戦う理由もできますねぇ」
「……」
俺と相原さんの会話を聞いて、八重樫君が黙って下を向いている。
「篠原さん、敵はなぜ襲ってくるのでしょうか?」
「それはですねぇ、盗み出されたロボというか天使が、人類完全化計画の要になる重要なものだからです」
「ああ、なるほどぉ!」
「……」
女史の反応はいいのだが、先生は黙ったまま。
「おいおい、先生。ネタ出しをしているだけなんだから、これを描かなきゃ駄目ってことはないんだぞ? これが駄目なら他のネタを考えればいいし」
「そうですよ、先生」
「あ、そうだ、相原さん」
俺はいいことを思いついた。
「なんでしょう?」
「ムサシの広告を描いた子がいたじゃないですか? 彼にこの話は合いそうですね」
Hな漫画がアカンのなら、この話はどうだろうか。
「え?! ああ、た、たしかにそうですけど……」
相原さんが少し困った顔をしていると、八重樫君が大声をあげた。
「篠原さん! 僕のことが嫌いなんですかぁ!?」
「そんなわけはないが、あまり乗り気じゃないならと思ってなぁ」
「もう勘弁してくださいよ! こんな面白そうな話じゃ、こっちも描きたくなるじゃありませんか!」
「ああ、なんだ。そういうことかよ」
どうも、どうやったらスケジュールをやりくりして漫画を描けるか算段をしていたようだ。
「あ~もう、どうしよう」
彼が頭を抱えている。
もっと広い場所に引っ越して、アシを沢山いれれば回せるだろう。
メカや背景は人に描かせて、モブなどもアシに回す。
「まぁ、全部自分で描きたいのは解るけどな」
「う~ん……」
普通のプロダクションだって、そうやって回しているわけだし。
「ああ、それから、天使には核があると言ったじゃん」
「はい」
「そいつは女の子にしてくれ」
「女の子ですか?」
「そうそう――最初は出てこないんだけど、核というのがどういうものか天使の中を開けたら、塊が女の子に変わるとか――そんな感じで」
「なるほど、それなら恋愛シーンや、いやらしいシーンも描けますね……」
「少年漫画には必須だ」
「ショウイチスケベ!」
黙って話を聞いていたヒカルコからツッコミが入った。
「そうは言うが、少年誌だぞ? 読んでいるのは男の子だ。オッパイやお尻は大好きだし」
「ぶ~!」
「そうですよねぇ、あはは」
「チ○コやウ○コも大好きだけどな」
なぜか、子どもは下ネタが大好き。
他誌だが、便器博士というお下品な漫画がすごく流行った。
「そういう下品なのもありますけど、僕は嫌ですよ」
「はは、先生の絵柄じゃ合わないし。でも、可愛い女の子の天使と一緒に戦う――なんて受けないか?」
「受けると思います!」
エロシーンといっても、いずれ流行るだろうハレンチ学校などに比べたら可愛いものだし。
「あ、そうそう。M資金じゃなくて、Z資金とかにしたほうがいいかもな」
「そうですね。上手くごまかせるようにですね」
「そうそう、M資金じゃなくて、あくまでもZ資金という架空のものを描いているんですよ――てな具合だ」
いくらZONYのテレビがよく壊れるからといって、そのまま漫画に描くわけにはいかない。
打ち合わせは終了した。
「それでは先生、原稿をお預かりいたします」
相原さんが原稿をもって帰社するようだ。
「よろしくお願いします~。直すところがあれば、直しますので」
「承知いたしました」
頭を下げた相原さんだが、俺のほうを見た。
「なにか気になることでも?」
「いいえ、色々とありがとうございました」
彼女が再び、深々と頭を下げた。
「え?! どうしました? なにかありましたっけ?」
「いいえ、今年のボーナスがすごく沢山出ましたので、おほほ」
「そりゃ、相原さんの仕事っぷりで出さないわけにはいかないでしょう。前にも言いましたが、テキトーな扱いをして、ライバル会社にでも移籍されたらとんでもないことになるのが目に見えている」
小中学館の上層部もそれに気がついたってことになる。
「ありがとうございます」
「会社の上層部も理解しているってことですから、出世の道も開けたってことですよ」
「そうでしょうかねぇ……」
増えたボーナスは嬉しいようだが、出世に関しては半信半疑のようだ。
――そのあと、八重樫君が描いた新作原稿は、相原さんによって古巣の月刊編集部に持ち込まれた。
今の彼女は少女漫画の編集部所属だしな。
喜んだ月刊誌の編集部は、そのまま別冊の付録にしようとしたらしいのだが、週刊の編集部に嗅ぎつけられて取られてしまったようだ。
月刊誌は月刊誌で、週刊誌に連載している漫画の別冊をオマケにつけたりして売っていた。
その話を持ち出されて逆らえなかったという。
個人的にはちょっと突飛なストーリーかと思ったのだが、そのまま掲載されるようだ。
当然、週刊の編集がやってきて、週刊連載の話もされたようだが、先生は断った。
単行本が売れているので、小中学館としても印税の前払いをしてもいいということだったが――。
今のところは週刊連載には手を出さずに、堅実に進むようだ。
その割には、変な投資話に騙されそうになってたけどな。
そこら辺は人のよさが出たという感じなのだろうか。
それとも枕営業でも食らったかな?
まぁ、彼も男だ。
据え膳食わぬは――という状況になったかもしれないし、それを責めることはできない。
どうせ怪我をするなら若いときのほうがいい。
歳食ってからそういうのに引っかかると洒落にならないことになるのは、いつも話しているとおり。
売れているというムサシの単行本は、初版の30万部を売り切り、重版決定した。
年末にはレコードも出るというし、ますます売れ行きに拍車がかかるかもしれない。





