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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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106話 Mという


 ヒカルコの小説が書籍化された。

 もう立派な小説家だ。

 しかも純文学という俺には絶対に無理な分野。

 ヒカルコには才能がある――それは俺が彼女の小説を読んでもそう感じる。

 俺には、逆立ちしても書くのは無理な文章だし。


 誰かの言葉だが「人間、配られたカードで勝負するしかない」

 残念ながら、俺に小説の才能はなかったが、未来の知識という人には真似できないインチキがある。

 昭和にやって来たときには色々と苦労もあった。

 それでもチマチマと積み重ね、撒いた種が実を結びつつある。


 会社も起こし、そのために金庫も買うことにしたが、設置場所にコンクリートを打ったため養生に1ヶ月はかかるという。

 実際に金庫がやって来るのは、年が明けてからだろう。


 ――そんなある日、ムサシの原稿を上げて外に出ていた八重樫くんが戻ってきた。

 どうやら慌てているらしく、俺の部屋の戸を叩いている。

 なにかあったのだろうか?


「篠原さん!」

「はいはい」

 ドアを開ける。


「篠原さん、M資金って知ってますか?!」

 俺は頭を抱えた。

 M資金――それは、平成令和になっても見かける詐欺の定番中の定番だ。

 そんなものはないのに延々と引っかかるやつが多い。

 戦争絡みだと、フィリピンの山下将軍の財宝も、これまた定番だ。


 海外だと、マルタ騎士団の財宝やら、ヒットラーの金塊を積んだ潜水艦というのもある。

 ヒットラーの潜水艦はたしか見つかったんだよなぁ。

 たまにそういう本物があるのがやっかいなところだ。

 実際に戦後の話で、GHQより没収財産の横流しやら、東京湾で金塊が見つかったりしたので、そういう噂に拍車をかけているのだろう。


 他にも四谷資金、キーナン資金などのパターンもある。

 なぜそんなに詳しいかと言えば、小説のネタにするために色々と調べたことがあるのだ。

 M資金といえば、創作のネタとしても定番だからな。


 これだけ詐欺に利用されているんだから、政府も見解を正式に発表すればいいのに――と思う。

 一応、1950年代だったかな? GHQが接収していた金は、全部日本政府に返還されたという発表があったはず。

 政府は被害が少ないから、そんな必要はないと考えているのかもしれないが。


 俺は、興奮しているらしい八重樫君を見て、静かに諭すように言った。


「まぁ、それを説明するから、ちょっと入りなさい」

「は、はい、お邪魔します」

「ヒカルコ、なにか飲み物を出してあげて」

「うん」

 座布団を出して、彼をちゃぶ台のところに座らせる。


「M資金なんて、どこから聞いてきたのよ」

「図書館ですよ。司書の女性がいたじゃないですか!」

「ああ、いたなぁ。あいつは、ちょっと怪しいから、気をつけたほうがいいって話をしたじゃん」

「でも、すごい話なんですよ!」

 彼が興奮気味に話している。

 なんでこういう話を信じるのかねぇ。

 まぁ彼は――俺が時間渡航者で、やって来たときのミスによって荷物を全部なくした――なんていう話も信じそうになっていたし。

 いや、俺が言ったのは事実なんだけどな。

 普通は信じないだろう、時間渡航者なんて与太話は。


「ああ……」

 図書館のあの女が、なんぞ人を値踏みするような感じだったが――要は、詐欺に引っ掛けるためのカモを探していたのか。

 いや、本人は詐欺だと思っていなくて、事実だと確信しているのかもしれないが。


「篠原さんも知っているんですか?!」

「M資金のMってのは、GHQのウィリアム・マーカット少将のことだ」

「そうなんですか?! GHQ絡みってのは聞きましたけど……」

 そこにヒカルコがお茶を持ってやってきた。

 もう寒いからな。

 温かい飲み物のほうがいいだろう。


「ショウイチ、M資金ってなに?」

 ヒカルコも知らないようだ。


「え~とな……戦後、GHQが日本政府から接収した大金が、まだ隠されているから――それで儲けないか? ――という、詐欺だ」

「詐欺なんだ」

「え?! 詐欺なんですか?!」

 意外だったのか、先生が驚いている。


「あたり前○のクラッカーだろ。だいたい、GHQが政府から接収した金は、50年代に返却されてるし」

「……」

 彼はまだ納得できないようだ。


「だいたいだな――本当にそんな話があるなら、上流階級の所にまっさきに行くに決まっているだろ?」

 本当に儲かる話ってのは、表に出てこないで密かに行われているのだ。

 もしも本当に儲かるなら、人に教える必要がないわけだし。


 よく、「絶対に儲かります!」という詐欺に、「それなら、お前が買えば?!」という返しがあるのだが、実にそのとおりなのだ。

 絶対に儲かるなら、人に教える必要はない。

 1億でも10億でも借りて儲ければいい。

 もしも1万円しか元手がなくても、倍々ゲームで増やすことができるだろう。

 本当に絶対に儲かるならな。


 俺は、同じ話を八重樫君にした。


「うん、私もショウイチの言うとおりだと思う」

 俺の説明を聞いていたヒカルコもうなずいた。

 これが常識的な反応だ。


「う、う~ん」

「まぁ、他の人には教えないでください――と言われたと思うんだが、それでも俺に話してくれたってのは、感謝しているよ」

 それだけ俺のことを信用してくれているってことなんだろうし。


「……」

 まだ、彼は納得していないようだ。


「まぁ、結論を急がなくても――今日あたり、相原さんが原稿を取りに来るから、彼女にも意見を聞いてみたら? 相原さんのお父さん、政府関係者みたいだし」

「え?! そうなんですか?!」

 知らなかったのか。

 前に話したような気がしたが……。

 相原さんは、八重樫くんには話していなかったらしい。


「ああ、彼女から直接聞いたからねぇ」

「そ、そういえば、そんな話を……聞いたような……」

 聞き流していたらしいが、彼も女史の意見を聞いてみる――ということで、納得してくれたようだ。


「それはそうと、時間が空いたら、読み切りを描いてみたいんですよね」

 なるほど、ずっとムサシを描いているから、他のものを描いてみたくなったのか。

 まぁ、気持ちは解る。


「そのネタを探しに図書館にいって、あの女に掴まったのか」

「そうですけど、まだ詐欺って決まったわけじゃないので……悪く言うのは」

「先生、ああいうインテリ系の女は好きじゃなかったんじゃ?」

「女性の好みと、投資の話は違いますし」

 間違ってもM資金は投資ではない。


「ムサシの単行本が売れている――なんて、話したんじゃないの?」

「は、話しましたけど……」

 飛んで火に入る夏の虫ってやつか。


「ヒカルコ、お前も図書館に行ってたと思うが、話しかけられたりしなかったか?」

「したけど、あしらった」

「小説家ってことも言わなかったのか?」

「うん」

 意外と手堅いな。

 俺は話してしまった。

 俺の本は売れてないと思ったのか、そんな話はしてこなかったな。


 少々納得してないような顔で、八重樫君が部屋に戻った。

 読み切りのネタを考えるらしい。

 今回は自分で話を考えてみるようだが、自分で構成できるならやったほうがいい。

 そのうち、俺がネタだししなくても、もっと面白いムサシの話ができるかもしれないし。

 それはそれで、読んでみたいしな。


 ――昼飯を食い終わると、廊下で電話が鳴った。

 モモがいるはずだが、もしかして飯を食いにいっているのだろうか?

 廊下に顔を出すと彼女が電話に出ていた。

 指で俺の顔を指すと、モモがうなずいたので、廊下に出た。


「どこから?」

「サントクさんです」

「あ~はいはい。お電話替わりました」

『先生、ご無沙汰しております』

 社長さんの声を聞く限り、元気そうだ。


「いえいえ、こちらこそ――それで、なにかありましたか?」

『いいえ――あの、漫画に広告を載せましたでしょ?』

 社長さんの話では、あの広告を見た全国から注文があったらしい。

 今までは、関東一円に限られていたのだが、一気に全国に広まったということだ。

 目一杯増産はしているというが、まったく生産が追いつかないらしい。


「すごいですねぇ。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですね」

『それがちょっと問題も出てきてましてな』

 売れるということはパチ(偽物)が出るということだ。

 大手が相手なら、訴訟という手もあるのだが、この時代は地方にも小さなメーカーやら工場がごまんとある時代。

 そんなチマチマした訴訟を一々やっていられないのである。

 零細に裁判に勝っても、金を払えずにそのまま倒産なんてこともありえる。

 まったくもって割に合わない。


 大きなメーカーは、特許をかいくぐるような、袋やケースをつけて対抗してきている。

 それでも、売れに売れているのは間違いないというのだが。


「社長、可能であれば、週刊誌に出したほうが費用対効果は高いと思われますよ」

『出版社の営業がやってきて、同じことを言っておりましたわ、ダハハ』

 彼の話では、週刊のほうにも広告を出してみるようだ。


 それと俺が提案した、袋とじ棒の試作も進んでいるらしい。

 とりあえず、爪切りでいっぱいいっぱいなので、他のものを作っている余裕がないようだが。

 プラスチック工場をもう1つ買おうかと迷っている様子。

 さすが昭和――イケイケドンドンになったら、もう止まらないのだが――。

 調子がよかった会社がいきなり倒産することもあるからなぁ。

 ちょっと心配だぜ。


 そのあと社長さんと少し世間話をした。


 ――そのまま夕方になり、皆で夕食。

 もう12月なので、食事をする頃には真っ暗。

 少々寒いので、ストーブを点けた。


 食事のあと、ちゃぶ台でコノミの宿題をみてやっていると、外に車が止まる。

 窓を開けてチラ見――タクシーから相原さんが降りてきた。


「相原さんだな」

「やった!」

 コノミが喜んでいると、戸がノックされた。


「は~い」

 戸を開けると、大きなカバンと紙袋を持った相原さんだった。


「こんばんは~」

「いらっしゃいませ~」

 ニコニコ顔のコノミが出迎えた。


「コノミちゃ~ん! は~クンカクンカ!」

 相原さんが、コノミに抱きついている。

 久々のクンカクンカじゃないだろうか。


「見てみて、綺麗に治ったよ」

 コノミが相原さんに顔を見せている。


「本当に、綺麗に治ってますねぇ」

「子どもってのは、新陳代謝が早いからなぁ。歳を食うと、傷がいつまでも残るし……」

 マジでそうなのだ。

 シワシワになった肌も二度と戻ることはない。

 悲しいけど、これ現実なのよね。


「はい、コノミちゃん」

「やった!」

 女史のお土産であるケーキも久しぶりである。

 麻疹はしかでずっと食えなかったからな。


 それはそうと、仕事の話だ。

 できあがったムサシの本の原稿を彼女に渡した。


「……確かに、いただきました……」

「挿絵はおまかせいたしますが、粗描の段階で一旦見せていただきたい。あまりかけ離れたものを描かれても困りますし。先生にもチェックをしていただかないと」

「それはもちろんです」

 絵を描くのは、サントクの広告絵を描いた子だ。

 ちょっと丸っこい、ムチムチなキャラを描くのだが、これはこれで非常に魅力的。

 平成令和だと萌え絵ってやつだな。

 もちろん、この時代にそんな概念はないが。


「それから、この漫画家さんなんですが……」

「はい」

「非常にキャラが魅力的なので、ちょっといやらし系の漫画を描かせてみたらどうですかねぇ」

「そ、そういうのがよさそうですか?」

「いやぁ――女性の編集者さんにこういうことを言うのはイカンと思うのですが……」

 セクハラという言葉がない時代だ。


「たとえば、どんな話でしょうか?」

「学校で、美人教師のスカートを捲ったり、身体にタッチしたり――女性が『いや~ん!』とか、もちろんギャグ漫画ですよ?」

 相原さんがメモを取りつつ、白い目でこちらを見ている。


「このオッサン、なにをアホなことを言っているんだろう」

 ――なんて思っているに違いない。

 もう、癖になりそう。

 美人の学級委員長とかいたら、いじめたくならないか? そんな感じだ。


「男の子ってそういうのが好きなんですか?」

「まぁ、大好きですねぇ――そういう漫画を見たことがありませんか?」

「あ、ありますけど……」

「このキャラでそういうのを描いたら受けると思いますけど――作者さんは、いやらしい漫画を描くのに抵抗はありそうですか?」

「多分、大丈夫だと思います。そういうのを描いているのを見たことがありますし……」

 まぁ、こんなムチムチなキャラを描いてエロが嫌いだとは言わせん。


「……」

 気がつくと、ヒカルコも白い目を向けている。

 仕事だよ、仕事。

 男が「スケベが大好き」ってのは、紛れもない事実だし。


 相原さんとしばらく仕事の話をしていたのだが、重要なことを思い出した。


「あ! そうだ! ちょっと相原さん、八重樫先生のことを説得してやってください」

「え?! 説得ですか? いったいなんの……」

「いや、なんか変な投資の話にひっかかりそうなんですけど、俺が説得しても信じてくれないんですよね」

「篠原さんの説得で無理なのに、私の説得じゃ……」

「大丈夫ですよ。相原さんのお父さんは政府の高官じゃありませんか」

「それが関係しているんですか?」

 俺の言葉に、彼女も困惑の表情を浮かべている。


「すぐに呼んできますから」

「は、はぁ……」

 彼女もいきなり俺からそんなことを言われて戸惑っているようだ。

 廊下に出て八重樫くんの部屋をノックすると、出てきた彼を俺の部屋まで連れてきた。


「先生、こんばんは」

「こんばんは~」

 彼が挨拶をしながら座る。

 お土産をもらったコノミは、俺の文机で本を読んでいる。


「それで、なんのお話なんですか? 投資ですか?」

 女史に、今回の事情を話した。


「相原さん――M資金って知ってます?」

「……すん」

 ニコニコしていた彼女から笑顔が消えて、無表情な仮面みたいな顔になる。


「先生が変な女に引っかかって、M資金なんて話を掴まされてきたんですよ」

「……あの、先生」

 彼女がすごく真面目な顔をしている。


「は、はい」

「政府絡みで、そのようなものは存在しておりませんので、そういうたぐいの話は全部、間違いなく詐欺です」

 間違いなく――って所に力がこもっている。


「相原さんのお父さんは、政府の高官なんだよ。本当にそんな話があれば、知っているはずだし」

「篠原さんのおっしゃるとおりで、そんな話はありえませんよ。GHQに接収された資産は53年に全部返還されましたし」

「そ、それじゃ……」

「もう一度はっきりと言わせていただきますが――詐欺です」

「そ、そんなぁ――」

 彼が、がっくりと肩を落とした。

 そもそも、そんなものにひっかかるなよと言いたい。


「だから、言っただろう。そんな美味い話が、下々のところに降りてくるはずがないってな」

「うう……」

「こういうのって、手を変え品を変えやってきますからね」

「はぁ……」

 先生がため息を漏らした。

 2人に説得されて、正気に戻ったようだ。

 この時点で頑なに説得に応じないやつもいる。

 そうなったらお手上げで、実際に痛い目に遭うまで解らない。


 それどころか、痛い目に遭ってもズルズルと落ちていってしまうやつがいる。

 そうなるともう、洗脳やら宗教の世界に足を突っ込んでしまった状態。

 抜け出すのは大変だ。

 八重樫くんには、まだ理性が残っていたといえるが――まぁ、最初から半信半疑だったのかもしれないが。

 薄々――そんな美味い話が――と、自分でも思っていたのだが、ガッツリと否定してくれる人を欲していたのだろう。


 こういうときに、相談できる大人がいるというのは大きい。

 人生経験が浅い若人が、誰にも相談できないまま、少々疑問に思いつつもズルズルと深みにハマるというパターンは多い。


 ――かといって、人生経験豊富そうな年寄でも、こういう詐欺話に捕まるやつも多いのだが。


「そんな落ち込む八重樫君に、とっておきの話がある」

「な、なんですか?」

「旧日本軍が、昔フィリピンを占領しただろ?」

「は、はい」

「それまで欧米諸国が不正蓄財していた財宝を発見してな、それを日本軍が接収したんだ」

「へ~、そんなことがあったんですね」

「あの……篠原さん……?」

 相原さんがなにか言いたそうだが、話を続ける。


「接収の指揮をしたのが山下将軍という人だったんだが、その財宝を海上ルートで日本に運ぼうとしたところ、ボカ沈を食らってな」

「え?! それじゃ、その財宝がどこかにあるってことですか?!」

「そうなんだよ。関係者が戦犯として処刑されてしまったから、どこにあるか解らないという……」

「篠原さん!」

 たまりかねたのか、相原さんが大声を上げた。


「先生! その話も嘘ですから!」

「……え?! え~っ!」

 八重樫くんが驚いている。

 さすが相原女史、山下財宝のことも知っているらしい。


「ははは。これまた詐欺の定番、山下将軍の財宝ってネタだ」

「もう、止めてくださいよ~! 信じそうになったじゃありませんか!」

 彼が泣きそうになっている。

 なにも泣くことはない。


「だがな、全部が全部、嘘ってわけじゃないんだぞ?」

「どういうことですか?」

 当時の日本軍は、地元の華僑を説得するために金貨を数万枚作らせてフィリピンに送っている。

 その管理をしていた部隊が全滅したために金貨の所在が不明になっているのだ。

 たまにその金貨が古物商などに持ち込まれるので、存在していたのは間違いないらしい。


「――という話もあるんだよ」

「それは、本当の話なんですか?」

「ああ、金貨を作らせたのは、本当らしい」

「篠原さん! なぜそんなことをご存知なんですか?」

 相原さんも、俺がそんなことを知っているのが意外だったらしい。

 未来には、ネットという情報を漁るための超絶便利なグッズがあったからなぁ。


「ははは、それは内緒ってことで」

「……」

 俺の言葉に彼女が黙ってしまった。

 いつの間にか、コノミが俺の話を聞いていた。

 どうやら面白い話だったらしい。

 子どもには少々難しいと思ったのだが。


「ショウイチすごい! 面白い!」

「コクコク!」

 話を聞いていたヒカルコもうなずいている。


「ははは、こういう話をされて、お金になるよ――なんて言われても、それは嘘だから引っかかるんじゃないぞ?」

「うん」

 コノミの頭をなでてやるが、彼女に理解できるだろうか。


「そんな美味い話はないってことですね……」

 先生がしょんぼりしているが、やっと解ったようだ。


「そういうこと。漫画家になりたくてもなれない子がたくさんいるだろ?」

「はい……」

「そういう子たちを飛び越えてプロになってヒットも飛ばしているのに、わざわざ詐欺に引っかかることはないだろ」

「そ、そうですよね……」


 そういえば――どこぞの編集部にお邪魔したときに、そこのバイト君が「友だちの友だちが、フィリピンの山下財宝を見つけたらしいんですよ! これは本当っぽいですよ!」

 ――なんて言っていたが、彼のそのあとを聞かない。

 まぁ、そんな美味い話があるわけないのだ。

 俺だけに、万に1つのチャンスが回ってきた――そんなことはありえない。

 それならば、仮想通貨で億り人になったりするほうが、まだ現実味がある。


「あの――篠原さんが詳しすぎるんですけど……」

 今度は相原さんが、まだ俺のことを疑っている。


「はは、さっきも言いましたが、内緒ってことで――まぁ、本当のことを言うと、そういう話を書こうとして、色々と調べたんですよ」

「……」

 彼女は納得していないようだが、これは本当だし。


「……」

 今度は、先生が黙りこくって、なにか考えている。


「先生どうしたい? そんなに落ち込むことはねぇよ」

「いいえ、この話を漫画にしたら面白いんじゃないかと……」

「ああ、それはいいかもなぁ」

 M資金なんて、よくあるパターンではあるが、この時代ではまだ手垢がつく前かもしれないし。


「……解りました! ちょっと、このネタで読み切りのネームを切ってみます」

「おお、いいねぇ。期待しているよ」

「あの、解らないことがあったら、お聞きしてもいいですか?」

「そりゃ、もちろん」

「お願いします!」


 先生は、早速部屋に戻って仕事をするようだ。

 引きずってなくてよかったな。

 失敗をネタにできるなんて、クリエイターの鑑ってやつだ。

 週刊にも描いてくれって頼まれているらしいので、そちらに読み切りを載せるのかもしれん。


「相原さん、M資金詐欺が流行っているのかもしれませんね。編集部で話してみて、他の漫画家さんたちにも警戒するように伝えたほうがよろしいのでは?」

「そうですね、編集長に話してみます」


 小説家やら漫画家で、小金を持っているやつは危ないかもしれん。

 若くして漫画家になったりすると世間のことを知らなかったりするしな。


 まったく危険が危ないぜ(誤用)。



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