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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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104話 全快祝い


 コノミの麻疹はしかがやっと治り、学校に通い始めた。

 俺とヒカルコで彼女につきっきりだったが、やっと色々と進めることができる。

 まぁ、看病の中でも、ムサシのムック本の原稿などはやっていたけどな。

 ムック本の発売日は、まだ決まっていないので、締切を気にすることなく原稿ができるのがありがたい。

 おおよその骨格ができたら、申し訳ないが相原さんに全部投げてしまう。


 彼女に渡すといっても彼女が全部の仕事をやっているわけではない。

 仕事ができる人ってのは、人脈を巧みに操り人を使うのが上手いのだ。

 仕事は段取り八分っていうが、実にそのとおりで、女史はその段取りが確実で正確。

 一緒に働いたら解ると思うのだが、編集の連中の目は節穴か。

 解っててもなお、女を認めるのは嫌なのか。

 本当にそうだとしたら、まったくもって度し難い。


 コノミを土曜の学校に送り出して、俺はヒカルコと一緒に朝食の後片付けだ。

 昨日の夜に、彼女から話を聞くと――。

 俺との婚姻届を書くと、彼女は捨てられると思っているようだ。

 もちろん、そんなつもりは毛頭ないのだが、突然未来からやって来た俺が、突然また別の所に行ってもおかしくない。

 そのときのために、俺の持っている財産を自由に使えるための籍入れなのだが、彼女はそう思っていないようだ。

 まぁ、そこら辺の選択は、ヒカルコに任せよう。

 強制はできんし。


「おはようございます」

 矢沢さんのお母さんだ。


「おはようございます。今日、お帰りらしいですが、いつ出発ですか?」

「2時の列車らしいので、昼を食べたらすぐに出ようかと」

「朝や夕方はラッシュがすごいですから、賢明ですね」

「はい、娘からもそう言われました。東京のラッシュというのはすごいものだと」

「はは、押しくら饅頭よりギュウギュウ詰めにされて、降りられなくて窓から引っ張ってもらったり」

「本当ですか? 戦後の買い出し列車みたいですねぇ」

 彼女が袖から紙切れを取り出した。


「上野駅についたときに、駅員さんから帰りの列車についても聞いたのですよ――急行第二信州 長野行き 6番線 14:15――ちゃんと書いてあります」

 そう言った彼女の顔は少し寂しそうだった。

 やっぱり娘が心配だし、一緒に暮らしたいんだろうか。


「そういえば、長野はもう寒くありませんか?」

「ええ」

「長野、長野――といえば、『御柱祭』か」

「あらぁ、よくご存知でぇ」

 そう言った彼女の語尾が、すこし訛っていた気がした。

 元々東京に住んでいたらしいが、20年ほど長野に住んでいれば多少はね。


「え?! 篠原さん、御柱祭知ってるんですか?」

 やって来たのは矢沢さんだ。


「小説を書くのに、地方の祭りを調べたことがあってねぇ」

 もちろん嘘だが。

 未来のニュースを毎日見ているだけで、地方のお祭りに詳しくなるからな。

 ~のお祭りのニュースが入ると、そんな季節か~と感じることもできるのだが――。


 え?! そのお祭りのニュースって、ちょっと前にやったんじゃなかった?

 ――と、思っていたら、いつの間にか1年たっていた――などが、あるあるな話である。


「矢沢さんも、お母さん送って上野駅まで行ってくるのかい?」

「はい」

「原稿のほうは大丈夫かい?」

「ええ、お母さんが家事をやってくれたので、だいぶ進みました」

「そりゃ、よかった」

 モモが家事できるようになれば、それでも金が取れそうだな。

 ついでにスケジュール管理もやって、ジャーマネもやりゃいい。


 矢沢さんのお母さんと話していると、モモがやって来た。

 今日も電話番と漫画家の先生たちのお手伝いだ。


 ――そして昼。

 昼飯を食べ終わると、矢沢母娘も出てきて後片付けをし始めた。


「終わったら行きますか?」

「ええ、大変お世話になりました」

「はは、いいんですよ。こっちは矢沢さんの漫画の原作をやってますからねぇ。つまり一蓮托生ってやつで」

「ありがとうございます」

 2人で片付けると早い。

 あっという間に終わると、矢沢さんが風呂敷に包んだ荷物を持ってきた。


 母娘を、玄関のところまで送る。

 下から大家さんも上がってきて、ワイワイとやっていたので、八重樫君も出てきた。

 ヒカルコはドアを少しだけ開けてこちらを見ている。


「それでは皆様お元気で」

 お母さんが、大家さんにお辞儀をしている。


「お気をつけてくださいねぇ」

「はい――篠原さん、娘をよろしくお願いいたします」

「大丈夫ですよ。お任せください」

「ええ~っ!? それって、矢沢さんと結婚するってことですか?!」

 先生がいきなり頓珍漢なことを言い出した。


「そんなわけあるかぁ!」

 黙って話を聞いていたヒカルコが声を上げた。

 珍しいヒカルコのマジツッコミだ。


「なに言ってんの先生。仕事のことだよ」

「ええ、でも……」

「くくく……」

 大家さんが腰を曲げて笑っている。

 こんな彼女は初めて見たってぐらい、八重樫君が頓珍漢だ。


「篠原さんがその気なら、エミコも問題ありませんから」

「させるわけないでしょ!」

 ヒカルコが間髪入れず否定した。


「私もいつでもOKですから」

「矢沢さんまで……まったく」

「さっさと帰れ!」

「こら!」

 俺は乱暴なことを言っているヒカルコの頭にチョップを入れた。


「にゃ!」

「どうも申し訳ない」

「いえいえ、それでは皆様、大変お世話になりました」

 矢沢さん母娘が、礼をして階段を降りていった。

 昼なので電車は空いているだろう。

 普通に私鉄から山手線に乗って、上野駅まで向かうらしい。


「矢沢さんが稼いで、早くお母さんを呼んであげられればいいのになぁ」

「そうですねぇ」

 俺の言葉に、八重樫君がうなずいている。


「でも、本当にそっくりだったわねぇ」

 大家さんも、あの母娘をそう思っていたらしい。


「そうですね。矢沢さんが歳を食ったらああなるのか」

「ああでも、大家さんと大家さんの娘さんも似てましたよ」

 八重樫君の口から、大家さん母娘の感想が出た。


「あ、それは俺もそう思った。大家さんが若い頃はこんな感じだったんだなぁ――と」

「そうですよね」

「いやですよ、もう」

 大家さんが照れている。

 娘さんはちゃきちゃきって感じだったが、大家さんはもうちょっと上品な感じだったと思う。


 見送りは済んだので、解散して部屋に戻った。


「ふう、コノミが病気になってから色々とありすぎたな」

「うん」

 俺の言葉にヒカルコがうなずくと、廊下で電話が鳴った。

 顔を出すと、モモが電話に出ている。

 どうやら俺に電話のようだ。


「お電話代わりました」

 電話に出ると、相手は金庫屋だった。

 来週の火曜日に土間の工事をするらしい。

 ――といっても、小屋の少しのスペースにコンクリを流し込むだけだ。

 養生するのに、1ヶ月ぐらいかかるだろう。

 完全に固まらないと、金庫の重さに耐えられない。


 電話を切り、部屋に戻る。

 そのまま部屋で仕事をして、3時頃になるとコノミが帰ってきた。

 階段を走って上ってきたのだが、病み上がりなのに元気だ。


「コノミ、病気が治ったばかりなんだから、あまり走り回ったりしないようにな。息が切れるだろ?」

「ハァハァ……大丈夫! 平気」

 コノミと話していると、ちょうど矢沢さんも上野駅から帰ってきた。


「おかえり、矢沢さん。お母さんは無事に電車に乗ったかい?」

 この時代は汽車かな?

 ――と思っていたのだが、すでに電化しているらしい。


「はい、お陰さまで。色々とありがとうございました」

「早く、お母さんを東京に呼べるといいな」

「はい! 頑張ります!」

 彼女には根性があるし、才能もある。

 大丈夫だろう。


 しばらくすると、コノミの友達もやって来た。

 いつものメンバーだ。


 彼女たちは期待しているのだろうが、残念ながらもうおやつはない。

 たくさんあったバナナなども、先生たちや、アシスタントたちに食べられてしまった。

 それはいいのだが、あの値段だとバナナはあまり食いたくないなぁ。

 安くて栄養があって手軽だから、食生活のパートナーだったけどね。


「「「おじゃましまーす」」」

「はい、こんにちは。昨日ぶりだね」

 おやつはないが、ヒカルコがカルピスを作ってあげた。

 部屋が女の子たちでいっぱいになったので、俺は秘密基地に避難しようとしたのだが――。

 コノミが「座れ座れ」をしている。


 仕方なく、言うとおりに座ると、彼女が本棚から自分のノートを取り出した。

 そこに挟まれていたのは、以前ヒカルコから取り上げた婚姻届。


「見て! 私の宝物!」

「なになに!」「なにこれ?」

 ちゃぶ台の上に広げられた用紙を女の子たちが覗き込んでいる。


「この紙にねぇ、コノミの名前を書くと、ショウイチと結婚できるんだよ!」

「ははは」

 まぁ、そのとおりなのだが、まさか友達の前で自慢するとは思わなかった。


「すごーい!」「本当?!」

「本当だよ! ねぇ、ショウイチ?」

「まぁ、本当だねぇ」

 女の子たちが、すごいすごいと言っているのだが、1人冷静な女の子がいる。

 1つお姉さんの鈴木さんだ。


「でも、コノミちゃん、お父さんとは結婚できないんだよ?」

「大丈夫! ショウイチは、私のお父さんじゃないから!」

 彼女が胸を張っている。

 彼女の自己申告が正確なら、会ったときには10歳。

 今年は11歳で、来年は12歳になる。

 もう、分別がつく年頃だ。

 子どもなら、親がほしいと願うのは普通だと思ったのだが、そうでもないらしい。

 俺もヒカルコも保護者であるが、親ではないと理解しているようだ。


「コノミ、そのことなんだけど」

「なぁに?」

「コノミがお父さんが欲しいなら、俺がお父さんになってもいいんだぞ?」

「いらない」

 即答かよ。


「もうちょっと、考えたほうがよくないか?」

「いらない。ショウイチはショウイチだし」

 まったく取り付く島もない。

 やっぱり12歳近くになると、解っているのか。


「いいなぁ……」

 つぶやいたのは野村さんだが、なにがいいのだろうか。


「なにがいいんだい?」

「私も、ショウイチと結婚したい……」

「ええ?! ははは、変なオッサンが随分とモテモテになったなぁ」

 まさか、女の子にそんなことを言われるとは思わなかった。

 彼女の親御さんには聞かせられないセリフだな。

 なにを言われるか解らん。


「そうです! 私が、変なオジサンです!」

 コノミが俺の真似をしている。


「野村さんは、なんでそう思ったの?」

「だって……ショウイチと一緒にいれば、美味しいものがたくさん食べられるから……」

「そうかぁ、はは」

 餌付けしてしまったのかぁ。


「だめぇ! ショウイチの作るご飯は、コノミのもの~!」

「コノミちゃん、ずる~い!」

「ズルくな~い」

 女の子たちがキャッキャウフフしている。


「なんだよ~、モテモテだなぁ、ははは」

「むぅ」

 子どもたちの後ろで、ヒカルコがむくれている。

 ガキの言うことを本気にするなよなぁ。

 それなら、さっさと婚姻届に名前を書けばいいじゃん。

 なにを考えているのか、さっぱりと解らん。


「そういえば、美味しいものといえば――今日の晩ごはんはなににしようか~。病気が治ったお祝いになにが食べたい?」

「ハンバーグカレー!」

 コノミが即答した。

 しかも、ハンバーグ入り。


「ハンバーグカレーか」

 カレーなら簡単でいいがなぁ。


「うん!」

「よっしゃ、それでいくか」

「やったぁ!」

 せっかく買ったミキサーだし、ハンバーグ作りに利用して作ってみることにしよう。


「う~」

 野村さんが、恨めしそうな顔をしている。

 カレーが食いたいのだろうか?


「野村さんも、カレーを食べるかい?」

「いいの?!」

「野村さんのお母さんに、食べていいか聞いてこないとだめだよ」

「わかった!」

 彼女が立ち上がると、早速に家に戻るようだ。


「鈴木さんはどうする?」

「う~ん、う~ん……食べたい……」

「電話を使ってもいいよ」

「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げて鈴木さんも立ったので、モモが電話番をしているところまで行く。

 すぐに電話をかけたのだが、鈴木さんの家はOKのようだ。

 電話口で彼女のお母さんに恐縮されてしまった。


 八重樫君の所をノックする。


「お~い、先生。今日はカレーなんだが、一緒に食うかい?」

「はいはい! 食べます! 食べます!」

 彼が、勢いよく戸を開けた。

 中にはアシの五十嵐君もいる。

 とりあえず、食べる人数を確認しないと、具材の量が決められない。

 以前、みんなでカレーを食べたときには、ご飯が全然足りなかった。

 同じ顔ぶれでカレーを食うなら、ご飯を炊く量を増やさないとだめだろう。

 育ち盛りを甘くみてた。


「はい! 篠原さん! 私も食べます~!」

 矢沢さんが顔を出した。


「アシの女の子は?」

「夕方から来ますので、彼女の分もお願いできますか?」

「オッケー! さてぇ、それじゃ買い出しに行ってくるかぁ」

 たくさん買わないとな。

 矢沢さんと話していると、ヒカルコがやって来た。


「私も行く?」

「ヒカルコ、お前は大家さんと一緒に飯を炊いてくれ。大量だからな」

「わかった」

「大家さんも食べるよな?」

「多分……」

 まぁ、食べなくても、カレーなら置いておけば誰かが食べるだろう。

 もう寒くなったから、傷むこともないしな。


 部屋に戻ろうとすると、野村さんが戻ってきた。

 彼女のお母さんも一緒だ。


「おや、野村さん。こんにちは」

「いつも本当に申し訳ございません」

「ああ、カレーの件ですか? はは、大丈夫ですよ。カレーのときは、このアパートの住民みんなで食うのに大量に作るんで」

「本当に、お世話になってばかりで」

「ウチのコノミといつも仲良くしていただいてますので」

「ありがとうございます」

 お母さんはいいのだが、野村さんのお父さんはどうだろうか?

 う~ん、聞けない。

 まぁ、多分大丈夫なんだろう。

 なにか問題があるなら、断ってくるだろうし。


「あの、弟たちが、私のことをズルいって……」

 野村さんが、モジモジしている。

 そりゃ、お姉ちゃんだけカレーを食ったり、動物園に行ったりしているからな。


「それじゃ、弟さんたちの分も少しもっていく?」

「い、いいえ! そんなことまでしていただいては!」

 お母さんが恐縮している。


「はは、10人前作るのも、13人前作るのもたいして変わりないから。でも、野村さん、カレー作るの手伝ってくれる?」

「うん!」

「本当に申し訳ございません!」

 お母さんがペコペコ頭を下げている。


「まぁ気にしないでください。さて、材料をたくさん買ってこないとな」

「篠原さんがお買い物にいくのですか?」

 野村さんのお母さんが驚いている。

 まぁ、男が晩飯の買い物をするなんて考えられないのだろう。

 八百屋の親父もそう言っていたしな。


「ええ、ウチのには飯を炊いてもらわないと。とにかく大量に炊かないと駄目なので」

 大家さんから、また大鍋を借りないと。

 こういうことが、なん回もあるなら、もうウチで鍋を買ったほうがいいんじゃないのか。


 野村さんのお母さんとの会話を終えると、背嚢を持って部屋から出た。


「篠原さん、外に行くんですか?」

 隣の部屋から、先生が顔を出した。


「ああ、晩飯の買い出しだ」

「僕も行きます!」

 一緒にカレーを食うって話をしているのだから、晩飯の買い物ではあるまい。


「仕事はいいのかい?」

「気分転換ですよ」

 2人でアパートを出かけると、路地を歩く。


「先生、仕事は順調かい?」

「ええ、モモさんがいるので、だいぶ助かってますよ」

「あいつでも役に立つことがあってよかった。家事などを覚えて、先生たちの身の回りのことをしてくれれば、助かるんだがなぁ」

「それはいいですねぇ。食事やら洗濯やらで、時間を取られますんで」

「その前に、結婚するって手もあるんだぞ?」

「そういう出会いが、まったくないですからねぇ……」

 そう、漫画家ってのは仕事部屋にこもりきりなので、編集やら同業者とくっつくことが多い。

 それなら矢沢さんなんだろうが、彼はまったく興味がなさそうだ。


「そうそう、篠原さん」

「なんだい?」

「ライオン大帝のアニメが始まったじゃないですか?」

「ああ、日本初のカラーTV漫画だってな」

 ウチにはTVがないので、観ていない。

 ましてカラーTVなんてすげー高いし。


「帝塚プロダクションのことを聞いたんですが、豪邸の隣にアニメを作る会社も一緒にあって、社員が数百人もいるらしいんですよ」

「もう、立派な会社だな」

「そうですよねぇ。もうすごすぎて、なにがなんだか」

「でも、アニメーションを作れば作るほど赤字で、その赤字を補填するために神様が漫画を描いているって話もあるぜ?」

「そうなんですか?」

 これは、後世の神様絡みの創作で知った話だ。

 もう少したつと、最初は上手くいって膨大な利益を出していたビジネスモデルが破綻する。

 アニメが儲かると解った途端に、他社が参入してくるからだ。


 それに、最初は神様が持っていた有名コンテンツがたくさんあった。

 それをアニメ化するだけで大ヒットしたのだが、それも長くは続かない。

 すぐに弾切れになってしまったのだ。

 いくら神様ブランドといっても、あまり有名じゃない作品じゃインパクトに欠ける。

 他社がすぐれたコンテンツを繰り出してくるようになると苦戦を強いられた。


「俺たち凡人が、神様みたいなことをやろうとしてもできるわけがないんだから、自分のやれることをやらねぇとな」

「そうですよねぇ」

「俺だって会社を起こしたが、税金を払いたくねぇだけだからな、ははは」

「ああ、僕も単行本が出たらそうしないと……」

「そうそう、そうしないとケツの毛を抜かれるぐらい税金を取られるからな」

 話しながら商店街にやってきた。

 いつもの八百屋で野菜を大量に買う。


「旦那! まだお子さんが病気なんですかい?」

「いや、お祝いでカレーを作って、アパートの住民で食おうってことになってな」

「ははは、そいつは豪気だ! またバナナをどうですかい?!」

「いや、バナナはもういいよ」

「ははは」

「篠原さん、バナナはここで買ってたんですか?」

「そうなんだよ」

 具材を大量に買って帰ってくると、子どもたちにも手伝ってもらい野菜の皮を剥く。

 モモにも手伝ってもらうが、かなり上達した。

 肉は半分、肉屋で挽いてもらった。

 この時代、ひき肉として売ってないから、店で挽いてもらう。

 ミキサーでできるかもしれないが、店でやってもらったほうが早い。


 玉ねぎは全部ミキサーでみじん切りにして、半分はカレー用に炒める。

 カレーということで大家さんも手伝ってくれて、彼女もみんなで食べるカレーを楽しみにしているようだ。

 大家さんちのコンロでも、ご飯を炊いてもらっている。

 ご飯もカレーも、この前よりかなり多い。

 大量だ。


 ひき肉にしてもらった半分はもちろんハンバーグ用だ。

 玉ねぎのみじん切り、ひき肉、パン粉、つなぎに小麦粉を少々、ダシにこんぶ茶を一振り。

 ボウルで全部を揉み込んで、小判型にして両手の間でパンパンする。


「ショウイチ! なんで、パンパンするの?!」

「こうやって、肉の間の空気を抜いているんだよ」

「へぇ~」

 子どもたちが感心している。


「ショウイチ! コノミもやる!」

「やってみるかい?」

「篠原さん、ハンバーグなんかも作れるのぉ?」

 俺のハンバーグ作りに、大家さんが感心している。


「ええ、作ったほうが安いですし」

「手さばきが、どう見ても素人じゃないわよねぇ」

「ははは、そんなことありませんよ」

 実際、一人暮らしで、ハンバーグを結構作った。

 同じネタを餃子の皮で包むと餃子になるし、油で揚げればメンチカツだ。

 大量に作っても冷凍が利く。


「最後は、真ん中を凹ませる」

「なんでぇ?!」

「焼くと、真ん中が膨らむんで、凹ませるとちょうどいい感じになるんだよ」

「「「へぇ~!」」」

 子どもたちも感心している。

 こうやって、子どもも料理やら家事を覚えていくわけだ。


 すぐに焼くと、カレーができたときに冷えてしまうので、タイミングを計らないとな。


 飯が炊きあがり、カレーが入ったデカい鍋がグツグツと血の池地獄のように沸いている。

 そろそろいいだろう。


「そろそろ、飯にするか?!」

「「「わーい!」」」

 それでは、ハンバーグを焼き始める。

 大家さんやら矢沢さんから借りたフライパンを並べ、加熱するとハンバーグを投入。

 じゅうじゅうという肉が焼ける音と、香ばしいにおいが廊下に充満する。


「すぐに焼けるからなぁ」

「「「わぁぁぁ」」」

 子どもたちが、フライパンを覗き込んでいると、廊下の戸が開いた。


「何のにおいですか?! もういいにおいすぎて、仕事してられないんですけどぉぉぉぉ!」

 飛んできたのは八重樫君だ。

 珍しく興奮している。


「今日のコレは、子どもたちのために作っているんだから、先生は駄目だぞ? カレーだけな」

「えええ~っ!?」

「お兄さんなんだから、我慢しなさい」

「我慢しなさい」「我慢しなさい」「我慢してください」

 子どもたちからもツッコミが入っている。


「そ、そんな殺生な……」

「篠原さ~ん、だめですかぁぁぁ?」

 いつの間にか、俺に抱きついてきた矢沢さんがスリスリしている。


「だめに決まってるし!」

「いやぁぁぁ!」

 矢沢さんがヒカルコに引き剥がされた。


「やれやれ、まったく騒々しいなぁ。兄妹が10人とかいう家はこんな感じなんだろうな」

「あ、ウチの地元でもいましたよ。8人とか10人兄弟姉妹。やっぱり農家が多かったですねぇ」


 ハンバーグが3枚焼けたので、半分に切ってご飯と一緒に盛る。

 子どもたち、ヒカルコとモモ、大家さんに半分ずつ。

 大家さんは、前に食べたときにはハンバーグをパスしていたが、今回は挑戦してみるようだ。

 今回、俺の分はパス。


「その上からカレーをかければ、ハンバーグカレーの完成だ」

「「「わぁぁぁぁ!」」」

 子どもたちの目がキラキラしている。


「さて、食うか~。先生たちは、勝手にやってくれよな」

「「……はぁい」」

 八重樫くんと矢沢さんが、落ち込んでいる。

 ハンバーグまでみんなの分を作っていられないからな。


 みんなで皿を持って座る。


「さ~て、食うか」

「「「は~い」」」

 子どもたちが、まっさきにハンバーグにかじりついた。


「「「……!」」」

 こっちを見て、目をキラキラさせている。


「あらぁ、これは柔らかくて美味しいわぁ。こんなお味なら、前にも食べればよかったかも……」

 大家さんも納得の味だ。


「ショウイチはハンバーグ食べない?」

「俺はカレーだけでいいよ、あはは」

 ちょっと歳を食うと、ハンバーグの油がきつくてなぁ。

 カレーにも肉が入っているし。

 大家さんが食べているから、俺も食ってもよかったが……。


 それよりも、ハンバーグが評判よくてよかった。

 みんなで食べ終わると、野村さんは小さな鍋にカレーを入れて帰っていった。


  

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