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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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102話 治った


 コノミの麻疹はしかが長引いている。

 早くよくなればいいのだが、こればかりはどうしようもない。

 そんなおり、矢沢さんのお母さんが上京してきて、アパートに泊まっている。

 東京観光などを楽しんでおり、故郷に帰っても娘の仕事と一緒に自慢ができるのではないだろうか。


 そういえば、矢沢さんはお母さんに漫画を見せているのだろうか?

 おそらく彼女のことだ、献本なども故郷に送っているから、どういう漫画を描いているのか理解はしていると思われるが……。

 少々エロいシーンなどがある刺激が強いものなので、心配ではある。

 まぁ、初対面でなにも言われないということは、クリアしているのかもしれない。


 漫画のストーリーに反対しているのではあれば、「娘にこんな漫画を描かせて!」などと、抗議をしてくると思うし……。

 問題ないだろ。


 ――そして週明け。

 俺と一緒にコノミが起きた。

 随分と顔色がいいように思える。

 たくさん出ていた赤い発疹もかさぶたになりつつあるのだが――。


「ケホケホ……」

 今度は咳が始まった。

 どのぐらいで学校に行けるか、病院に行って診てもらったほうがいいか。

 コノミの熱を測る――37.5度。

 かなり下がったが、まだ喉は痛いらしい。


 ヒカルコが、鰹節とこんぶ茶、卵色のおかゆを作ってくれたので、コノミが美味しそうに食べている。

 喉が痛いので、まだご飯は食べづらそうだ。


「コノミ、10時頃になったら病院に行って、学校にいつ行けるか聞いてこようか」

「コクコク!」

 彼女がおかゆを食べながら、うなずいた。

 朝食の後片付けをしに炊事場に行くと、矢沢さんのお母さんも食器を洗っていた。


「あら、篠原さんも後片付けをなさるんですか?」

「ええ、ヒカルコがやることが多いですが、今はコノミの看病もしてますしね」

「……」

「なにか?」

「あ、いえ――家事をする男の方は珍しいので……」

「はは、言いましたけど、一人暮らしが長かったもので……」

 彼女と話をすると、今週の土曜に故郷に帰るようだ。

 せっかくの母娘水入らずだが、矢沢さんの修羅場にやってこなくてよかったな。

 まぁ、彼女も忙しくない日程でお母さんを呼んだのだろうけど。


「おはようございます~」

 矢沢さんも炊事場にやってきた。


「はい、おはようさん。忙しくて徹夜とかしている所にお母さんを呼ばなくてよかったな――はは」

「もちろん、そんなときに呼びませんよ」

 やっぱり、ちゃんと計算をしているんだ。

 中卒だけど、頭はそれなりにいいんだろうな。

 会話の返しもしっかりとして、ユーモアもあるし。

 お母さんがいるのに積極的になられるのは、少々困るが。


「はは、そうか」

「それに、前にも言ったかもしれませんが、篠原さんやヒカルコさんがネタ出しをしてくれるので、時間に余裕があるんですよ」

「まぁな」

「有名な先生の所にお手伝いにいっても、先生のネタが出なくてなにもできなかったとか、普通にありましたし」

「ああ、そうだろうなぁ。ネタを考えてネーム切るのは大変だし」

「それが篠原さんから、『次はこういう話なんで』って教えてもらえるわけですしぃ」

「けど、自分でネタを考えて、ネームを切る鍛錬もしたほうがいいと思うよ」

「もちろん、作品の合間をみてやってますよぉ」

 さすが、彼女はやる気にあふれているし、バイタリティもある。

 未来で彼女の漫画を見ることはなかったんだが、どういう顛末になってしまったんだろうなぁ。


 まぁ、八重樫君は解る。

 絵は上手いけど、話がつまらなくて普通に売れない――それで筆を折ったんだと思うが、彼女は違う。

 話もそれなりに組み立てができるしなぁ。

 タイミング的なものだろうか。

 それが大きいのも確かだし。

 世の中、なぜか売れてしまうものもあることだし。


 矢沢さん母娘と話していると、誰かが階段を上がってきた。

 この時間だから、多分モモだろうと思ったのだが――ちょっと様子が違う。

 髪の短い女が廊下を歩いてきたのだ。


「おはようございます」

 声を聞いたら、モモだったので驚いた。

 そういえば服もちょっと違う。

 いつもデニムだったが、今日はブラウスにスカートだ。


「あら~」

 矢沢さんのお母さんも驚きの声を上げた。


「お、おはよう――髪切ったのか? 最初、誰か解らんかったよ」

「は、はい」

「あ、でも似合ってるじゃないか。なんか仕事ができそうな雰囲気があるぞ」

「髪切っちゃったんですかぁ?」

「洗うのも大変だし。仕事だと邪魔になるかなぁ――と」

 ここにやって来たあと、心を入れ替えて色々やっていると思っていたのだが、さらにやる気を出したのだろうか。

 まぁ、本当にそうならいいことだ。

 それに、いつもと比べて受け答えもしっかりとしている。


「服も、新しいの買ったんだな」

「はい」

「中々いいじゃないか。なにはともあれ、やる気を出したのはいいことだな」

「がんばるし」

 彼女が気合を入れている。


「そうよ! 男なんて当てにできないんだから、女だけで生きていくことをまず考えないと!」

「はい」

 矢沢さんのお母さんとモモが、手を取り合っている。

 なんだ――どういう心境の変化かと思ったが、矢沢さんのお母さんの影響か。

 まぁ確かに、どんな苦労を並べてもお母さんの話を聞いたら霞んでしまうぐらいに壮絶だからな。

 とてもじゃないが、私の方が苦労しましたとは、言えないだろう。


「そうか、私服が面倒なら制服を買ってもいいぞ。よくある紺の制服ならどこでも売っているんだろう」

「いいえ、私が1人で制服なのも変……ですし」

「そりゃそうだが」

 モモの口調もしっかりとお仕事モードになっている。

 なんだ、やりゃできるじゃないか。

 このまま順調に、俺の手を離れてくれりゃいい。

 ――と、前もそう思ってたら、いきなり変な男に捕まってて頭抱えたけどな。


「お金もらいながら、花嫁修業させてくれる所なんてここぐらいしかないんだから、しっかりしないと駄目よ」

「は、はい」

「はは、矢沢さんのお母さんの言うとおりだな」

「篠原さんが優しすぎるんですよぉ。普通、こんなことしませんよ?」

 矢沢さんがそう言うのだが、少々違う。


「別に優しくはないぞ。初めてこいつと会ったときには、ケルナグールでボコボコだったし」

「……」

 俺との遭遇を思い出したのか、モモが暗い顔をしている。


「ええ?! なんでですか?!」

「そりゃ、犯罪の片棒を担いでたからだよ」

「は、はい。そのとおりです」

「あなたも、そうしなきゃやっていけない事情があったのかもしれないけど、そういうのを全部背負って生きていかないと駄目なんだよ」

 さすが苦労人――いいこと言うねぇ。


「矢沢さんのお母さんの言うとおり、多少更生したとしても、お前のやってきたことを考えると、結構マイナスだしなぁ」

「は、はい」

 まぁ、いじめるのはこのぐらいにしておこう。

 コノミを病院に連れていかないと駄目だからな。


「ちょっと病院に行ってくるから、電話番をよろしく」

「はい」

「コノミちゃんですか?」

「発疹が治りそうなんだが、ちょっと咳が出ているし、どのぐらいで学校に行けるのか聞いてこないとな」

 電話をかけてから行ったほうがいいか?

 病院に子どもがいたりして、感染ったら大変だしな。


「大変ですねぇ」

「本人は学校行きたいみたいなんだが、こればっかりはなぁ――治らないとどうしようもない」

「そうですよねぇ」

 そういえば、矢沢さんのお母さんがきてから、八重樫君があまり顔を出さないな。

 ちょっと苦手な人なのかもしれない。

 矢沢さんのことも、ちょっと苦手っぽいしな。

 ぐいぐい来るタイプは駄目なのかも。


 いい時間になったので、病院に電話をかけてみた。

 OKらしい――コノミを着替えさせて病院に向かう。

 天気は曇りで、気温も低い――10度ちょっとだろうか。

 まだ熱も少々あるので、コノミにはコートを着せた。


「ケホケホ」

 路地を歩いている間にも、彼女が咳をしている。

 熱が下がっているので、つらくはなさそうだが。


 ――いつもの病院にやってきて、消毒液くさい診察室で診てもらう。

 コートを脱いでお腹を出しているコノミの前には、いつもの医者の爺さん。


「あ~ん~、だいぶ治ってきてるねぇ。耳が痛いとかないかな?」

「うん」

「咳が出てるんですが、学校は駄目ですかね」

「咳が出ていると感染する可能性があるから、それが収まるまでは駄目だよ」

「そうですか~。コノミ、そのケホケホをすると他の子に病気が感染っちゃうから、出なくなるまで駄目だって」

「……うん、ケホケホ」

 言っているそばから、咳をしているし。

 しょんぼりして可哀想だが、やっぱり無理だろう。

 他の子に感染したら大変だしな。


 熱は下がったので、今度は咳止めのシロップをもらった。

 咳止めってことはエフェドリンかなにかだろう。

 この時代、少々ヤバい薬でも、まだ売っていた時代だ。

 戦後しばらくは、ヒロポンなども普通に売っていたようだし。


 家に帰ってから、すぐに薬を牛乳で割って飲ませた。

 さすがエフェドリンなのか、すぐに咳が止まる。

 咳をすると体力を消耗するからな。


 具合がよくなったコノミは、布団に入って本を読み始めた。

 彼女が麻疹になってから、たくさんの本をゲットしたので、しばらくは読書を楽しめるだろう。

 ずっと同じ部屋で外にも出ることもなく――そんな生活が長かったせいか、彼女の知識欲は旺盛だ。

 本を読んで布団の上で世界中の情報を知ることができるわけだし。


 その完全上位互換が、インターネットだな。

 彼女にもそれを体験させてやりたい。

 俺だって、子どものころにネットがあったら、一日中かぶりつき状態だっただろう。

 エロも山ほどあるしな。

 いや、ガキの頃にネットを漁り尽くして、燃え尽き症候群みたいにならんだろうか?

 その心配もなきにしもあらずだろうが、生まれた頃からネットがある世代でそんな話も聞いたことがないしなぁ。

 やっぱり、世界に広がる情報の海というのは、あまりに広大なのだろう。


「なぁに?」

 俺がネットのことを考えて、変な顔をしていたのかもしれない。

 ヒカルコが反応した。


「いや――そのうち本だけじゃなくて、部屋にいるだけで世界中の情報を得ることができるようになるんじゃないかと思ってな」

「どうやって? 電話?」

「そうだなぁ、無線とか人工衛星の通信でつながるんだよ」

 実際は光ファイバーと、海底ケーブルだけどな。


「ふ~ん」

 ヒカルコは、俺の話にピンとこないようだ。

 そりゃそうだろう。

 まだ電話すらあまり普及していない時代だしな。

 外国からやってくる情報がテレックスなどの時代だ。


「それじゃ、外国の本もたくさん読めるようになる?」

「そうだな、外国の情報はTVで見られるようになるだろうなぁ」

「すご~い!」

「TVも、箱じゃなくて板になって、壁にかけられるようになるぞ?」

「それだと持って歩けそう……」

 ヒカルコは鋭いな。


「そうだな、情報は板に全部入れて、持ち運べるようになるかもな」

「情報ってどんなの?」

 小学生には少々難しいか?


「う~ん、本とかニュースとかだな……」

「それじゃ、本もその中に入るの?」

「板の中に、なん千冊も入るから、本棚も要らなくなるぞ?」

「すごい! 早くそうなればいいのに!」

 残念ながら、そうなるのは50年もあとなんだよなぁ。

 インターネットだけなら、40年ぐらいか。

 俺はそこまで生きられないし、ヒカルコは70歳ちょいってところか――まぁ普通に生きているかもな。

 コノミは間違いなく生きているだろう。


 俺が死ぬまでに、なんとか食うに困らないだけの財産が残せればいいが……。

 午後に、野村さんがやってきたので、プリントをもらい連絡帳を先生に持っていってもらう。

 咳が止まるまであと2~3日かかると――書いておいた。


 今日は11月30日、世間は明日から師走に突入する。

 コノミの麻疹が、冬休みの間だったら問題なかったのにな。

 ああ、そうか――俺が麻疹で学校を休んだ記憶がないのは、もしかして夏休みか冬休みだったのかもな。

 ただその記憶がないだけかもしれないが。


 ――結局、コノミの咳がなくなったのは、それから2日あとのことだった。

 暦は12月に入る。

 昭和40年もあと1ヶ月だ。

 昭和38年にやってきて、早2年。

 41年になると、このままいざなぎ景気も加速するだろう。

 俺のやっていることが歴史を変えているような気がするが、大きな改変にはなっていないはず。

 なんとか上手く流れに乗れればいいが。


 12月に入ってもコノミは休んでいたが、2日にはもう咳は出なくなっていた。


「ショウイチ! もう学校に行ってもいいでしょ?!」

 彼女も元気いっぱいだ。


「そうだな。大丈夫だと思う」

「やった!」

 喜ぶ彼女の顔にも、まだ発疹の跡がカサカサになって残っている。

 このカサカサに感染力はないらしいので、大丈夫だ。


 熱もないし咳も出ないので、もう薬も飲んでいない。

 喉も痛くなくなったので、昼には早速ナポリタンを作ってあげた。


「「じ~っ」」

 俺が炊事場で料理をしていると、漫画家の先生たちがこちらを見ている。


「今日は駄目だぞ? これはコノミの分だからな。スパゲッティもその分しかないし」

「「ええ~っ!?」」

「これ!」

 矢沢さんが、お母さんに叩かれた。

 すっかりお母さんに甘えているのではなかろうか。


「だって、お母さんも篠原さんの料理はすごく美味しいって褒めてたじゃない」

「そ、そりゃ言いましたけど……人様の料理を毎回ねだるなんて失礼でしょ?!」

「ぶ~ぶ~」

 お母さんが出てきたので、八重樫君はすぐに引っ込んだ。

 やっぱり少々苦手なキャラのようだ。


 それはさておき、今日のナポリタンはコノミのために作っているのだから、食わせるわけにはいかない。

 料理ができあがったので、シンクの後片付けをすると部屋に持っていった。


「おいしい! おいしい!」

 彼女が口の周りをケチャップで真っ赤にしてパスタを頬張っている。


「ご飯が食べられるようになってよかったなぁ」

「うん!」

「俺も麻疹になったはずだが、こんなに学校休んだかなぁ」

「私も覚えてない。小学校の前だし」

「俺は小学生だったような気がしたんだが……」

 まぁ、小学生のときの記憶なんてたいていはあやふやだが。

 多分、強烈なイベントもなく、ただ寝ていただけだから覚えてないのだろう。


 そのままお昼も過ぎて、3時頃。

 今日も野村さんが学校のプリントを持ってやってきた。


「おお、野村さんありがとう。コノミは明日から学校に行けるから」

「え?! 本当?!」

 ちょっと暗かった彼女の顔が明るくなった。


「ああ、もう大丈夫だよ」

「コノミちゃんと遊んでもいい?」

「いいよ」

「わかった!」

 そう言うと野村さんが階段を降りていってしまった。

 ランドセルを持ったままだったので、家にいったん戻ったのかもしれない。


 しばらくすると、ワイワイガヤガヤと階段を上ってくる音がする。


「「「コノミちゃ~ん」」」

「は~い」

 俺が出ると、女の子が3人。

 いつも遊びにやって来る、鈴木さんと野村さん、女の子が1人。

 それはそうと、みんな名字呼びなのに、コノミだけ「コノミちゃん」なのな。

 呼びやすいのだろうか?

 俺は「ショウイチ」だし。


「大丈夫?」

 鈴木さんが、部屋の中に入ってきた。


「うん、大丈夫」

「まだ、カサカサがあるけど、それは大丈夫みたいだよ」

 あ、そうだ。

 病気のコノミのために買ったけど、子どもがたくさん来たから余ったものを出してしまおうか。

 俺は炊事場に行くと、冷蔵庫を開けて中のものを出した。


 牛乳とカッテージチーズも悪くなるし、桃缶も出してあげよう。

 バナナもあるが――今、バナナを食わせたら夕飯が入らなくて、苦情がくるかもしれん。

 まぁ、バナナは先生たちや、アシの子たちなどにやってもいい。

 俺は桃缶を開けると、小鉢に盛り付けてカッテージチーズをかけた。

 残った牛乳も、コップに注ぐ。

 そうそう、スプーンも必要だな。


 なんだかんだと人が集まることが多いので、徐々に食器などが増えてきてしまった。

 家庭を持つってことはこういうことなんだろうな。

 バタバタとおやつの準備をしていると、廊下の戸が開いた。


「子どもの声が聞こえたようでしたけど……」

 顔を出したのは、矢沢さんのお母さんだ。


「ははは、コノミのお友だちがやってきたんですよ。やっと明日から学校に行けますからねぇ」

「麻疹が治ってよかったですねぇ」

「ええ、お陰様で……矢沢さんの所にもお友だちがやってきましたか?」

「それがねぇ――ウチはアレでしょう? エミコが恥ずかしがって友だちを呼んだことがなかったんですよねぇ」

「ああ、なるほど……」

 こういうのは、マジでツライ。

 マジなネタは突っ込めないし、イジることもできん。


「お母さん! 恥ずかしいから止めてよぉ」

 後ろから矢沢さんの声がする。


「恥ずかしいって、本当のことでしょう」

「……そうだけどぉ」

 まぁ、気持ちは解る。

 ウチも貧乏だったから、家に友だちは呼びづらかった。

 ――といっても、矢沢さんの家ほどではなかったはず。


「あ、そうだ」

 俺は、近々起こる油のPCB食中毒事件について話した。

 具体的なことを言ったわけではない。

 ある会社の油はちょっと怪しいから、買わないほうがいいよ――みたいな話だ。

 本当は断言したいのだが、「証拠はあるのか?」と言われたら、なにも言えん。

 俺は未来からやって来たんだから間違いない――などと言ったら、イカレタオッサン扱いだろう。


 一応、知り合いの人たちには、この話をしているし、ヒカルコには絶対に買うなと言ってある。

 事件が明るみに出たのは、もう少しあとなのだが、もうPCBに汚染された油が出回っている可能性がある。

 知り合いが中毒事件に巻き込まれでもしたら、目も当てられん。


 無力な俺だが、メーカーには告発する手紙を送ってある。

 それをメーカーがどこまで真摯に捉えてくれているかどうかは、そのときがきてみないことには解らない。


「その会社の油は危ないのですね?」

 話を聞いたお母さんも心配そうな顔をしている。


「もし違ったら、私のことはホラ吹きと笑ってください」

「そんなことないですよ! 篠原さんがそう言うんですから、なにかあると思いますし……」

「俺の取り越し苦労ならいいんですけどねぇ」


 矢沢さん母娘と話したあと――準備したものをお盆に載せると、俺は部屋に戻った。


「3時のおやつにこれを食べておくれ~」

「わぁ!」「桃缶?!」

「そうそう、病気のコノミのために買ったんだが、治っちゃったからねぇ」

「この白いのは?」

 野村さんは、カッテージチーズが気になるようだ。

 見たことがないだろう。

 まぁ、それも当然だ。


「それはねぇ、チーズだよ」

「チーズ?!」

「大丈夫、美味しいよ!」

 見たことがないおやつに皆が戸惑っていると、コノミがスプーンで掬うと口に運んだ。

 それを見た女の子たちも、白いものがかかったオレンジ色の果実を口に入れた。


「美味しい!」「おいひい!」「こんなの初めて食べた!」

 美味しいおやつを食べた女の子たちは、ニコニコ顔である。


「ははは、外でこんなの食べたら、結構なお金を取られるだろうなぁ」

 この部屋に、またワイワイとやかましい騒ぎが戻ってくるか。

 子どもたちがやって来るということは――俺はまた秘密基地勤務だな。

 電話番はモモがやってくれるから、アパートに戻ったら折り返し電話をかければいい。

 大至急の用事なら、秘密基地に迎えにこいと言ってある。


 ――そんなわけで、久しぶりに秘密基地にやって来た。

 隣の白い家は、まだ売れていない。

 結構高い買い物だからなぁ。

 ここなら場所もいいし、俺が買いたいところなんだが、ローンが通らねぇみたいだし。

 なんとかならねぇもんか。


 あ、そうそう――コノミの麻疹ですっかりと忘れていたが、金庫を買わないとな。



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