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第九話

 生贄をヴェスペラ様に捧げ奉った後…

護衛の兵士を10人ほど伴っている軍の騎士らしき西洋兜の顔を守る為の器具の面頬を上げたプレートアーマーの身長165cm程度の変声期前にしては大柄な紅顔の少年に引き連れられて木材建築の町並みを通り抜ける、周りの剣闘奴隷達は逃げ出そうと隙を伺ってはいるが、服こそブーツに長ズボンと頑丈そうなシャツを着れてはいるものの全員、30人がロープで一繋ぎに拘束されているし周りを槍と盾に簡易的な鎧兜に身を固めた兵士達が取り囲んでいるから無理だろう。

周りに居る通行人達の侮蔑の目を尻目に、やがて領主の館の鉄の槍を組み合わせたようなスライド式の扉の前に到着する。

「ペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド男爵の忠実な騎士カレンヴィラ・フォン=アイコス!任務のとおり剣闘奴隷共を引き連れ到着しました!脱落逃亡者は0です!」

と面頬の辺りに手を当てる現代の敬礼のような仕草を取る。

相手の兵士も不審な表情を浮かべる事なく似たような仕草を取るあたり、この世界の敬礼なのだろうか?

あとカレンヴィラって女性の名前だよな?間違えたんかな?まあ身長165cmは女性としては普通よりも多少は大きい程度だから変声期前の少年よりは不自然ではないか。

しかし、この時代で女性が騎士か…銃火器が発展している現代の地球ならともかく、体格筋力が劣り強姦の対象にされる女性が騎士になるのか…このローズウッド領は末期的なのかもしれへんね。


 そして館の塀の内側、敷地内の館まで続く道の脇の広い庭で待機するように言われ、ロープを解いてもらい芝生の上に座りながら、各々の時間をチーム同士で過ごしていると…

俺達の監視をしながらも館の方向にチラチラと目を向けていたカレンヴィラ氏が突如として叫びだす。

「お前達!立膝をつけ!ペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド様の御成だ!」

立膝?ああヨーロッパの騎士が肩を剣の腹で叩かれる時にやるアレか。左足と右足どちらが前だっけ?ええい第六感にしたがって左足だ!

俺自身モタつきながら何とか立膝をついたのだが…

「貴様達!ボサッとするな!その者達を見習い手本とし!さっさと立膝をつけ!」

その言葉を聞き、周りを横目で見渡すと…

マーガレット達、チームのメンバーは俺の真似をしたのか全員立膝をついていたのだが、他の者達はノロノロと俺達を真似をしようとする数人達はまだましで、約20人の剣闘奴隷達は戸惑うばかりで何もしていなかった。

いや、それどころか俺達と真似をして立膝をついた者達を見下している?


 だが、それは、悪手であった…

奴隷如きに舐められて、支配階級である騎士のカレンヴィラが何もしないわけがない。

だが最初は穏便穏当であった。

「平伏せよ!平伏せよ!」と怒鳴るだけであったからだ。

だが言葉では跪かない事を理解して業を煮やしたカレンヴィラは兵士達に命令を下す。

「槍で叩け!」やっべ!?俺達も巻き込まれかねないぞ!?ってそうだ!新しく覚えた奇跡だ!

「平和への祈り」の奇跡を使った瞬間、ついでにボコると思っていたであろう兵士達の殺気が薄れ、俺達立膝をついていた奴隷を人質にしようとしていた立ったままの奴隷達の悪意も薄れてゆく…まあ人質なんて無意味なんだがね、諸共に殺されるに決まっている。


 




 数分後、カレンヴィラ氏の熱意ある説得と俺の使用した奇跡の結果、無傷の剣闘奴隷は立膝をつき、傷を負った剣闘奴隷は這いつくばっていた…

「よろしい!貴様達!ペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド様の御話を拝聴せよ!」

封建時代とはいえ拝んで聴けとはな、まあ無意味に反抗して彼等の様にボコボコされたくはないし大人しく清聴するとしようか…


 「…以上である!」

うん、話をまとめると大体こんな感じの事を言っていた。

隣領のアーガイル男爵の事が気にくわねぇ!奴らを滅ぼすために謹んで協力しろ!余が貴様ら如きに頼んでやってんだから平伏して喜べよ!(意訳)

頭を下げているわけじゃないから頼むもクソもないんだがね。

それはそうと、四つん這いの姿勢を維持出来ずにぐったりとしている剣闘奴隷達に光の奇跡の強力な回復を使ってやらねば。手遅れになりかねん。

そう思い顔を上げたら、まだ20才前後で幼さが残る傲慢そうな顔立ちで赤茶けた髪の身長2mオーバーの大男で筋肉隆々の領主様、ペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド様と目が合ってしまった…

「貴様は確か真っ先に立膝をついた者だな、殊勝な心がけである、名を名乗る名誉を与えてやろう」

この忙しい時に!イラッ!とする事を言うな!

「夕凪朝日と申します。姓が夕凪、名は朝日です。

同輩達の治療があるので失礼してもよろしいですかね?」

上の立場の人間に対して失礼な言動をしているのは理解している。だが頭骨が凹む様に歪んで耳から血を流している者すらいるのだ、治療が遅れると言語障害や身体障害が残る可能性が少なくないし植物状態すらあり得る、ていうか放置してたら確実に死ぬだろう。

だが、このクズは…

「放置しておけ、いい薬だ」

「いい薬ですむなら放置しますが、耳から血を流してる者は、今すぐに治療しないと死にますよ」

こうして話をしている間、刻一刻と救命確率は減っているだろうし…


 だが、このクズは年上では有るが身分に天地の差がある者に反論されたのが気に食わないのか、腰に吊るしている剣に手をかけた。

「よく聞こえなかったのだが?確か余の言葉の否定しなかったか?だとするならば手打ちにしなければならないが?」

あっこれはやべえ…目が笑ってないを通り越して能面の様に無表情になっている。

敵意の察知を使うまでもなく、言葉を間違えたら本当に殺される事が分る。そこで神の助言の奇跡を使う事にした!

その瞬間、多分サービスなのだろう。時間がスローモーションの様にゆっくりと流れ始める。

『ヴェスペラ様、ヤバイ状況なので助かる方法を教えてくだせえ』

『ん〜中々面白い状況になっているね。

では助言を与えよう、否定すると予想どうりに死ぬぞ。

肯定しても、おべっか使いがと殺されるだろう。

故にこうしたまえ…』


 ヴェスペラ様の助言に従い平伏しつつ言葉を発する。

「どうか王者に相応しい慈悲を、助ける者達は貴方様に仕える者達です、無駄に生命を散らさせる必要はありますまい」

衆人環視の元で土下座をする事になるとは…これほどの屈辱は日本でも味わった事は無いぞ…許さぬ…必ず殺してやるぞ…


 「よかろう!余の慈悲に感謝するのだな!カレンヴィラよ治療が終わり次第会議室に案内せよ!」と明らかに上機嫌な声色で指示を出して立ち去っていった…

治療をするか、土下座までしたんだし…


 耳から血を流している10代後半の怜悧さを感じさせる白皙金髪碧眼の女に強力な回復をかけたところで、ふと思ったのだが。

治るのかコレ?耳から血が出てるって事は脳挫傷とか内耳や中耳から出血してるって事だよな?いや頭が凹んでるから、ほぼ間違いなく脳挫傷だから出血を止めても脳内に血が溜まってるだろうから、治療しても脳が圧迫されたままだから壊死しないか?となると頭、頭蓋骨に穴を開けて開頭手術を行うのか?素人が?考えるまでもなく無理じゃね?

と思った瞬間!?女の耳からドバドバと血が流れ出して、1分後に止まった。


 女の容態は安定している。呼吸も規則的だし脈拍も安定してる、右手の親指と人差し指を使って左目を開かせて眼球を見ると…何を見ればいいんだ?瞳孔か?瞳孔ってどこだ?瞳か?でもどうやって見ればいいんだ?何か医療ドラマでは懐中電灯を使ってたから、聖なる光を使えばいいのかな?でも至近距離で使うと最悪失明しないか?


 「何なの。瞼が痛いわ、指を離して」と女が呟くので指を離し、指をピースの形にして質問をする。

「指は何本立てている?」

「2本でしょ?それが何だっての?」

「頭を槍で殴られた事は覚えているか?」

「ん〜?そういや何で助かったの?殴られた感じだと頭の骨が砕けたから死んだと思ったんだけど?」

「俺が奇跡を用いて治療した。記憶も目も耳も大丈夫なようだから、多分問題無いだろう」

まっ!問題があっても素人には対応は不可能だから死ぬんだけどな!


 そうして他の者達の治療を終えて…

会議に参加する事と相成った…正直ペリノアみたいな癇癪持ちの上司を相手なんてしたくないんだが。

いや、何時か殺すつもりだから、ある程度は近づいておくのも悪くはないか。

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