第六話
3日後…そうして新たな戦闘が始まる。
3日間ではあるが毎日訓練を続けた闘技場、普段と違うのは周りには自分のパーティーのメンバーしかおらず俺達を見下ろす形の客席には満員の客がおり歓声を上げているという事か。
そんな中ギャアギャアとゴブリン達の鳴き声が檻の奥から響いてくる。
ただ…1つだけ懸念点を上げると1つだけ野太い声が聞こえてくる様な?情報とは違うし気のせいだと思いたいのだが、この世界に来てから希望的観測は叶ったためしがない様な?となると…
「全員警戒をしろ!ゴブリン8体ではなく、強敵がいるかもしれんぞ!」
そう言いはしたものの問題はない対処できるはずだ、なぜならば3日間の訓練を積み全員が適切な装備を身に着け、さらには追加メンバーのインプもおり実質7人で戦える状況であるし、俺自身はさらに自らの食事を削ってまで供物の量を増やした事により、レベル1の光の奇跡の平静と加護にレベル2の光の奇跡の祝福を覚えられた。さらに使用回数も1回増やして10回になっている。負ける要素はかなり減っているだろう。
それに初戦とは違いフォーメーションも考え抜いて細かく配置している、1番右にはグラグがその左にダンダにリオンにマーガレットと1番強い奴を右端に配置して左手の盾で右半身を守らせる重装歩兵の隊列をイメージしたフォーメーションを取っており、さらには俺とインプが後方から援護できるし、ツバキは撹乱遊撃援護が可能であり戦法戦術的に圧倒的に有利だろう。
そうして不安感を押し殺し続けていると檻が開き中のゴブリン達が現れる。
クソが!やはり情報はデタラメだった!7体目までは身長120cm位の通常のゴブリンだったが最後の1体は身長180cm位のホブゴブリンであった。
それだけではないゴブリン達の武器はナイフだけではなくショートソードを持つ者もいるし、ホブゴブリンにいたってはロングソードを持っていた。
そうして戦闘が始まる。俺の行動としては飾り気がなく棒に模様が着いただけの神官用の杖を持ち頭上に掲げながら最初に使用回数2回分を消費してレベル2の光の奇跡の祝福を自身に使う、ゲーム的な表現でいえば幸運値が3上がり全ステータスが1上がるらしい。まあステータス値なんて見ることも出来ないからフレーバーもいいところだが。だが重要なのはグググッと筋肉が盛り上がり身体能力が上がっている事が実感でき、同時に奇跡の威力や精度も多少は上がっている感じがするという事だ。
そして俺が祝福を自身に使うのと同時にインプが闇の飛礫をホブゴブリンに放つがホブゴブリンはかがんで回避するが、回避する事を読んでいたツバキが投石器を用いて、かがんでいても頭1つ高いホブゴブリンの頭部を狙う!
狙いは違わずホブゴブリンの側頭部に当たり血の花を咲かしながらもんどり打って倒れ伏す。
倒れ伏したホブゴブリンを見てゴブリン達はギャアギャア喚き散らしている。
その隙をつき俺も神官用の杖の先端をゴブリン達に向けて闇の飛礫を放ちゴブリンの後頭部に直撃させる事により1体を始末して、さらにツバキとインプが1体づつ始末したところでゴブリン達はこちらへと突撃を開始してきたのだが、もはや時すでに遅し。
グラグはバトルアックスの一撃で容易く始末し、ダンダにリオンも盾で防ぐ必要すらなく槍で胸部の辺りを一突きにして、マーガレットも盾でナイフを防ぎつつ手槍で右肩の辺りを一突きにしたのだった。
ふむ思ってた以上に簡単に勝てたな、それに何体かは虫の息になってはいるがまだ生きている、止めをさせば供物に捧げてポイントが得られるだろう。
そう思いながらも警戒を解かずにマーガレットが深手を与えたゴブリンに近づこうと歩みを進め、マーガレットの背中の辺りに差し掛かった時に、ホブゴブリンが呻き声を微かに上げ頭を軽く振りながら立ち上がった!
即死しなかったのかという気持ちと、俺が止めをさせばポイントが増えるなという気持ちが同時に湧き上がってくる。
いや待てよ?止めをさせばポイントが増えるだと?俺はこんなに好戦的だったか?
断じて違うな、日本に居た頃は積極的に生き物を殺そうとする事はなかった、蚊とノミとゴキブリとハエみたいな害虫以外の生き物は!
…意外と殺してるな、案外変わってないかもしれん、ゴブリンってどう考えても害獣の類だろうし。
まあ猪やシカやクマみたいな害獣と害虫は同じ生き物でも何か違う気はするんだが、ましてやゴブリンって二足歩行の知的生命側の存在の気もするしな。
などと考えていると前方の地面の辺りからグギャグギャと呻き声が聞こえてくる、ホブゴブリンに向けていた視線を下げると、マーガレットが右肩を刺したゴブリンがホブゴブリンの元へと這いずっていた。
やだなぁ、コイツに止めをさすの?でもまあ殺さないとポイントにならないし、万が一の事ではあるがホブゴブリンが回復魔法とか光の奇跡の類を使えたら…
まあ負ける事はないにせよ、誰かが深手を負うかもしれんし、それが俺という事も当然ながらあり得るだろう。そんなリスクを負う意味はないし、そもそも殺さずにすむ可能性は皆無である。
ならば、せめて苦しむ事のないようにとゴブリンの右手に回り込み手斧を頭上に掲げてから一気に首へと振り下ろす!
首の骨が手斧によって断ち切られゴブリンは力無く顔から倒れ伏し、ビクンビクンと静かに痙攣している。
ゴブリンに止めをさした後に、ホブゴブリンに目を向けると…
血の涙を流しながら憤怒の表情で、こちらを睨みつけているホブゴブリンがそこにはあった。
何か悪い事をした気分になってくるな…もちろん俺は恥じるべき事はしていない、善きにせよ悪しきにせよ殺し合いをしているのだ俺達は…
そう自分に言い聞かせ終えた直後にホブゴブリンが俺を憎悪の表情で睨みつけながら何ごとかを呟いている…いやゴブリン語を初めて聞き翻訳能力も発動していない俺にも分かる分かってしまう。お前を殺すだろう…
覚悟を決めてマーガレットの後ろに退避しつつ闇の奇跡の強化を使う!いきなり女の背に隠れんのかよという内心の声が聞こえなくもないがカッコつけて生き残れるならいくらでもカッコつけるが、そんな都合のいい事は起こらない事は45年の人生で嫌というほど思い知らされておる。
そしてその判断は正解であった。
ホブゴブリンはマーガレットの背後に退避した俺を見て「逃げるのか!」と喚くが「逃げるのだ」と返してやると、猛然と突撃をしてくる。
最初に当たったのはダンダとリオンだったのだが、体格差はないどころか2人の方が数cmほど高いのに2人共弾き飛ばされ、次に十数cmほど高いグラグが接敵するが右手のバトルアックスを振り上げたところをホブゴブリンのロングソードで柄を切り飛ばされるつつも、左手の大盾を身体の正面に構えて体当たりを行いたたらを踏ませ!その隙を突きツバキはいつの間にか拾ったゴブリンのショートソードを使い両膝の裏側の靭帯を手早く斬り裂き転倒したところを…しないだと!?馬鹿な!靭帯が切れているんだぞ!いや、まさか!
「狂戦士だワン!負傷は全て意に介さないワン!死ぬまで止まらないワン!死んでも止まらないワン!」とツバキが警告を発するのだが!
「平静」の奇跡をホブゴブリンに使うとホブゴブリンの全身は柔らかい光に包まれ、狂戦士が解けたために地面に崩れ落ちる。まあ平静の奇跡は文字通り平静になるものであり、パニックや恐怖や混乱といった負の感情だけではなく高揚や興奮みたいな正の感情すら平静にする奇跡だしな。
狂戦士も含まれるのだろう。興奮や高揚の延長線上だろうし。
そしてホブゴブリンに止めをさし、首を供物にするのであった、なおホブゴブリンは初回供物ポイント込みで3ポイント残りのゴブリンは2体で2ポイントだった。
ちなみに反省会は開かなかった、何故ならば反省すべき点が存在しないからだ。
インプとツバキの連携は見事だったし、ホブゴブリンが倒れた隙を見逃さず追撃もきっちり決めてグラグ達も一体づつしとめて、立ち上がってきたホブゴブリンにもスグに対応出来た、実力不足で苦戦はしたがそれは仕方あるまい。皆の努力に期待しよう。
また痩せぎすの中年ババアにデマを流された事は報告したのだが対応は拒否された。ちなみに被害者は俺達だけではなく全パーティーが被害にあっているらしい、何時か殺そうと思う。
そうして訓練と供物を捧げながらの日々を4日間過ごし…