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第五話

 翌日…まだ誰も目を覚ましてないであろう早朝に銅鑼の音がジャーン!ジャーン!ジャーン!と響き渡る…

パッと目を見開き、何事かと周囲の様子を伺うとツバキは既に軽く身構えながら鉄格子越しに外の様子を伺っており、ダンダとリオンは俺とほぼ同時に起き上がり、グラグは早朝で気温が低いせいか今起き上がってきた。

マーガレットは?とマーガレットが寝ていた麻の敷布団の位置を見ると…ぐごーぐごーとイビキをかいて眠り続けていた…

皆の目に呆れが浮かんだのは言うまでもないだろう。


 マーガレットを起こすかどうかで少しの間迷っていると。やや痩せ気味でしかめ面の貫頭衣ではない程度の粗末な服を着た中年女性が病院で見るような数段重ねのカートを乱暴に押しながら食事を持ってきたのであった。

「食事を持ってきたよ!とっとと持っていきな!」乱暴な口調で苛立ちを隠す事もなく金切り声で怒鳴りつけてきた。

正直イラッとしたんだが、他の連中はどうなのかね?と別の牢獄から出てきた者達の様子を伺うと、やはり不快に思っている者が大半の様子だった。いや正確には青スジを立ててるレベルだから、その内に暴行殴打事件くらいは起きるんじゃないか?知らんけど。

てか何で怒鳴りつけてんの?別に俺達は何もしてなくね?と思いながらも、何が出来るわけでもあるまい何かをやらかしたら処罰されるのはこのオバさんだし軽い毒消しに浄化の奇跡も使えるから問題はあれども軽微なりって感じだろうな。別の神の神官てはあるが俺よりも高位の神官や、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界であるため能力に疑問符は付くが医者も常駐してるしな。

毒ではないにせよ何か変な物を混ぜられる?それこそ現代日本でもありえる事だ、知らぬが仏だろう。実際食品工場で働いていた時には、そういった話はウンザリするほど見聞きしていた。大多数はマトモなのだが、給料が少ないがゆえに本物の底辺が入社してくる、具体的に言うと人の財布を盗む奴だの、食品の中に鼻くそを入れる奴だの、電卓や計量器すらまともに使えない奴だの、トイレットペーパーを流しすぎてトイレを数日に一回は詰まらせる奴だの、人前で怒られてメンツを傷つけられたとブチ切れ工具を人に投げつける奴だのが当たり前にいた。


 そうして食事を乗せたトレーを取ろうとしたところで、昨日の会議で副リーダーに決定したグラグに話しかける。

「グラグって変温動物だから食事の量は少なくて良いんだったか?」

何故イラついてるオバさんの前でそんな立ち話を?と思うかもしれないが、イラついてるという事は何かしらの不満があるという事でもある。そして痩せているのであれば栄養状態が悪い可能性は低くないだろう。

そう思いながらオバさんの様子を伺うと…一瞬だけ顔に喜色を浮かべてから、しかめ面に戻っていた。

「アアソノトオリダ朝日、リザードマンデアルグラグノショクジハ半分以下デイイ毎日タベル必要モナイムシロ太ル」

「となるとヴェスペラ様への供物にするか。一回くらいは誰かに渡して情報を得るのも良いかもな」と言ってみる。これで食いついてこないなら諦めてヴェスペラ様の供物だな、パワーアップ出来ることは悪くないし。

「情報って何が聞きたいんだい?初めに言っておくけど絶対に言えない事もあるからね!」

「次の戦いは何日後で敵の数と種類を教えてくれ」

「3日後でゴブリンが8体、武器はナイフのみで強さは不明だね」

そっかー強さは不明か、って事は最悪の場合はグラグとツバキの連携でようやく仕留めた傷だらけのゴブリン並の強さのゴブリンが、俺達6人よりも多い数の8体ってのもありうるのかな?だとしたらこのままだと全滅だろうな。

「情報料はパン1つで良いか?他に何かあるならスープもつけるけど」

「そうだね…新しい武器を運営に要求するか新メンバーを募集するのはどうだい?アンタと獣人とリザードマンの3人しかマトモな戦力がないんだろ?」

「新メンバーということは、人数を追加するって事か?」

「あっははは!違う違う!足手まといの3人と戦力になりそうな3人を交換するか、別のパーティーに入るんだよ!よかったら口利きをしてやるよ!」と意地汚い笑いを浮かべながらマジでクソみたいな事を口にしやがった。それはともかく沈黙を守っていると仲間達に検討している様に思われるので、すぐさま否定する。

「断る!考える価値すらねえよ」

まあ嘘である、考えたし今この瞬間に検討もしている、だが目先の利益はなくもないが不都合があったらスグに切り捨てる奴だと思われて、間違いなくツバキとグラグの信頼は確実に損なうだろうし他の3人にも恨まれる、生き残れないなら問題は一切ないが、生き残られたら後腐れが酷いだろうし最悪殺し合いになりかねん。

そしてそれならまだましで、実際には一回しか戦っていない俺達は他のパーティーに加入とゆうカタチになるだろう。しかも3人纏めて1つのパーティーに加入出来る事もなくバラバラで別のパーティーに入るんだろうな。そして当然ながら新しく加入したパーティーで発言権があるとは到底思えない、おそらくは信用も無いために使い捨てにされるだろう。

結論、論外である。


 痩せこけた意地汚い笑いかたのオバさんにカビ臭いパン1つと白湯の様なスープを情報料として、くれてやった後…

ヴェスペラ様の祭壇にカビ臭いパンを1つ供物として捧げると1ポイント貰えたのでレベル1の闇の奇跡の、闇の奇跡の強化を手に入れてから食事を始める。

湯気も温かさも何も感じないカビ臭い黒いパンを手に持ち力を込めて2つに引き裂くと中の茶色いスポンジ状になった内層が顔を出す。

不味そうだな…てかカビ臭いし品質も最底辺だろうから腹を壊す程度ですめばマシで最悪ゲリが止まらなくなって死ぬよな?45歳で若くないから免疫機能も低下してるだろうし。無論光の奇跡の軽い毒消しは使えるのだが限界は存在するので。

「浄化!」を2つに割ったパンと割ってないパンと、具が1cm位の小さな葉野菜のカスしか浮いていない白湯の様なスープにかけてみると!

パンとスープが神聖さを感じる光に包まれ、パンからはカビ臭いが消え去りスープは一見変化は起きていない。

2つに割ったパンを一口かじると…

「なるほど」温かくはなってないし柔らかくもなってない、だがジャリジャリとした砂を噛んだかのような不快に過ぎる食感は存在しないし、カビ臭くもないしカビの味もしない。つまり現代日本の高級スーパーで買った事がある黒パンよりは多少は味が劣る程度のものに仕上がっていた。

そしてスープを口にする。

うんただの極薄の塩味やね、不味くはないけど美味いとは御世辞でも言えない味だ。まあそりゃあそうかパンは浄化によって引き算されて美味しくなったが、スープに必要なのは足し算だからな。そんな事を思っているとダンダに話しかけられる。

「なあなあ朝日リーダー、そのパン美味いのか?美味いなら俺達のパンにも浄化をかけてくれよ」

バイトリーダーみたいに言うなイラッとする。そんな思いはお首にも出さず、まとめて浄化をかけてみたら全てのパンが美味くなった。美味しくなったパンを食べつつ雑談へと興じる。

「それでだ、ゴブリン達が8体ともダンダとリオンに深手を負わせた、傷だらけのゴブリンだと勝ち目はあるかね?」

答えは明確で全滅すると全員が回答した。

「では何体までなら勝ち目はあるのかな?」

「多分3体までなら勝ち目はあるワン、でも全滅に近いか最高でも私とグラグと朝日リーダーの3人くらいしか生き残れないワン」とツバキが回答し、グラグも同意見のようだった。

「では1体ならどうかね?」と本命に近い質問をしてみると。

「多分1人か2人くらいの犠牲が出る程度ですむと思うワン」マジか…ああでも、そりゃあそうか、互角の数でも回復と攻撃両方をこなせる俺がいなけれゃ3人死んでたんだしな…

相手の数が多けりゃ死人も出るか。てかこれでも希望的観測込みだとツバキの顔に書いてあるわ。

陰鬱な雰囲気のまま食事を終えて、武器保管庫へと向かう事にした。


 「と言うわけで、ダンダとリオンとマーガレットは180cm位のスピアと1辺が90cm位の正方形の盾をグラグはバトルアックスと長方形の180cm✕90cmの大盾をツバキは120cm位のショートスピアと投石用のスリングを俺は神官用の杖と手斧と1辺が60cm位の正方形の盾を用意していただきたい」

「まあそいつは構わんが、使い慣れた武器の方が良いんじゃないか?」と厳つい顔した男が正論らしきものを口にするのだが。どう考えても新しい武器を渡すのと選ばせるのが面倒臭いといった表情をしていたのだった。


 そうして武器を選び終えた俺達は訓練を始める。

訓練の内容としては最初は闘技場の壁沿いにランニングを10周ほど走り、次に腕立て伏せをしようとしたのだが。

「朝日リーダー、腕立て伏せは質の悪い筋肉になるから私は遠慮しておきたいワン」とツバキが口を挟んできた。

「いや、全員でトレーニングを共有することにより一体感を得る事も目的の1つではあるから、参加してもらいたいんだが?」

「むう、朝日リーダーの言う事だし少しだけ参加するワン」

そうして何とかトレーニングを開始する。ちなみにこの世界でもランニング、腕立て伏せ、腹筋、スクワットを中心としたトレーニングは一般的であった。

ちなみに腕立て伏せの結果は、マーガレットは15回、俺は20回、ダンダは35回、リオンは40回、ツバキとグラグは100回を超えた時点で切り上げた。なお余裕たっぷりといった様子であった事も併記しておく。


 筋トレが終わり、それぞれの訓練を始める事にする。

ダンダとリオンとマーガレットは…特にマーガレットは全くと言っていいレベルではかどってないな…盾と槍を持つだけでフラフラで訓練用の藁人形に槍を突くのだが、音にするとペシリといった感じで表面に刺さるだけでゴブリンに致命傷を与えれるか怪しいし、そもそも避けるかナイフで弾かれそうだ。

ダンダとリオンがキチンと訓練出来ていてザシュって藁人形に刺さってる事を鑑みるに、これ多分筋力が完全に足りてないな…装備を別のにするしかないか。

そうして別の装備をいくつか試して最終的に長さ90cm位の手槍と、円形で半径が20cm位で中心に半球状の膨らみがある小盾にする事になった。素人でこんなに弱い装備では死ぬかもしれんね…


 ついでに言うとグラグはバトルアックスで藁人形を袈裟斬りで一刀両断にしており、今は大人しく素振りとイメージトレーニングをしている。

ツバキは左手で石を上空に投げ右手で振り回していた投石器の石で撃墜するという、超熟練者なら出来なくはないかもしれない事を事も無げにこなしていた。


 そして俺はというと訓練の木剣や槍が打ち合う音や声が鳴り響く闘技場の片隅で…

「インプよ俺の声に応じ!その姿を現せ!」とレベル2の闇の奇跡、インプの召喚を使いインプを召喚しているのであった。


 俺の足元の地面がシミの様に黒く染まり、やがて魔法陣らしき円形の複雑な模様を描く。そしてその中心の五芒星から小さな身長20cm位の禿頭に小さな角が2本生え、背中にはコウモリの翼がある小悪魔の様な姿形のインプが地中から姿を現出させる。

「キキキ貴様が我の召喚主か?」

さてどうしよう、肯定すべきか否定すべきか?いやいや何で!?という声が聞こえてきそうだが。昨今のフィクションでは召喚主を殺そうとする使い魔の類は決して珍しくはない、ならば慎重にいくべきだと愚考したのだが、何時までもにらめっこをし続けるわけにもいくまい。

「そのとおり俺が君の召喚主だ。質問と要求はあるかね?」

インプは小首を傾げながら返答をしてくる。

「では、何故返答が遅れたんですかね?遅れるタイミングではなかったはずですがね?」

さてどうしよう、素直に君が俺の生命を奪おうとしてるかもしれないと思ったと伝えてみるか?だがそれは目の前の相手を殺人鬼扱いしている様なものなのだから、失礼なんてレベルでは済まないだろう。立ち去るだけならまだましで、それが理由で襲いかかってくる事も十二分に有り得るだろう。

なので嘘も方便と言うしごまかす事にする。

「インプを見るのも召喚したのも初めてだったから、思わず固まってしまったのだよ」

「なるほど、そういう事にしておきましょう。

では次に要求は…食事を必要量と報酬は召喚主殿が得られる金銭の十分の一程を頂きましょうかね。

この2つに納得いただけたなら契約を締結いたしましょう」

なるほどな、だが説明がお互いに不足しているのだが、どうするべきか?臭い物に蓋をするのもありかと思いはするが、やはりキチンと聞くべきだし言うべきだろう。

「残念ながら、そうもいかん。先ずは俺達の事情を説明する。俺達は奴隷であり当分の間は解放されない、よって食事はもちろん分けるが報酬は与えられない。

次に君の能力を聞いてないのだが?」

「…では答えましょう。我の能力はレベル1の闇の奇跡の掠り傷を与えると闇の飛礫、それに人間が杖を用いて扱う魔法の眠りの雲しか使えませんね。報酬は仕方ないので当分の間は諦めます自身が強くなるための絶好の機会なので、ではそちらがよろしければ契約をしましょうか」

多分平均よりも弱く落ちこぼれなんだろうけど、俺自身も決して強くはないし報酬も払えない、それでも良いと言ってくれる存在は間違いなく希少だろう。

「そうだな、こちらこそよろしくお願いします。」

契約はなり、3日後…



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