第四十七話
1時間後…
不幸中の幸いになると良いのだが、マーガレットとエルザの姿を目撃する事はなかった。
そして俺自身の状況はというと…
薄汚れた指揮官用の天幕の下、両手は縄で縛られ両膝を地面についており、さらには4人の槍の切っ先をこちらに向けている兵士達と一番奥にはアーデルハイド・フォン=アーガイル、その手前には左腰に差している鞘に入ったままの直剣に片手を掛けているフリッツ・フォン=ディーチェが居た。
そしてフリッツ・フォン=ディーチェによる尋問が始まる。
「さて、夕凪大和守朝日殿だったかな?
先日、我が軍に投降した際は夕凪朝日と名乗っていたと報告されているのだが?」
当然の事ながらフリッツ・フォン=ディーチェの瞳は不信の色に染まっていた。
うぬぅ…事実を喋りたくない…確実に誤解される自信がある…だが喋らぬわけにもいかないよな…
コイツは怪しい処刑しましょう!が問題なく可能な世界だし…
「そのとおりです。拙僧はアーガイル軍に投降した時点では夕凪朝日と名乗っていました。
そして今は騎士叙勲を受けたため、フォンの代わりに拙僧の祖国風の名乗りになる大和守を付けています」
俺の説明を受けてフリッツの目は、さらに不信の色が濃くなった…
当然といえば当然だろう…
投降する前は騎士ではなく投降後に騎士に成ったわけで、それはつまり何らかの手柄を挙げたわけで。
「つまり先日、我が軍に投降した後に裏切ったのは、予めペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド男爵の指示を受けていた。
そう判断していいのだな?」
まあ、そうなるよな。そう判断するよな。
そして、その判断を認めるわけにはいかない。
そもそも事実とは異なるし、仮に事実だとしても認めれば処刑されるからだ…
「いえ、違いますな。
拙僧が騎士叙勲を受けた理由は、ボル砦を陥落させる作戦を提案した功績によるものです」
これはこれで処刑される理由になりそうではあるが、裏切り者の豚野郎と思われるのは………どうでもいいんだが正直に答えなければ処刑前に拷問を受けるだろうしな、拷問を受けずに済む方が同じ死でも少しはマシだろう。
いや当然の事ながら死にたくはないんだがな。
「つまり貴公はローズウッド男爵を裏切ると言いながら舌の根も乾かぬうちに我が軍を裏切っただけでなく。
つい先刻の事ではあるが我が軍の最重要拠点であるボル砦を陥落させた人物であると言うのか?」
フリッツの目はコイツ生命がいらないのか?という困惑に染まっていたのだが、やがて殺すかという冷徹な色に変わってゆく…
このままだと間違いなく処刑されるだろう…
故に処刑を免れるためにも何とか言い訳をせねば…
いや!言い訳では助からないだろう!処刑すると多大なデメリットがある事を示さねば!
今の段階では、助かる方法は思い付いてはいないが、思い付くまでの時間稼ぎをしなくてはな。
ならば適当に勿体ぶった言い方をする!
「拙僧を処刑するとアーガイル軍に多大なデメリットをもたらす事になりますぞ」
この言葉を聞いたフリッツは顎に左手を当てて考え込んでいる様子だ。
ククククク、存分に悩むがいい、その間に妙案を思い付かせて貰うぞ。
だが、わずか数分後には判断材料が無いため、いくら考えても答えが出ない事に気付いたのか…
「デメリットとは何だ?」
とストレート過ぎる質問をしてきた。
マズイマズイマズイ!?まだ何も思い浮かんでないぞ!?
何とかごまかすか?いや2連続でごまかすのは不可能か?
だが、フリッツは俺の迷いを無意識的に嗅ぎ取ったのか目つきが鋭くなり、左腰がわずかに後方に下がりながら直剣に当てていた右手が鍔の辺りにスライドしていく。
これは剣を抜く動作だな…
仕方ない、多少は危険ではあるが、口からでまかせを言うしかないか…
「拙僧を処刑すれば残虐非道なるペリノア・グレゴリー・フォン=ローズウッド男爵は、これ幸いとボル砦に籠城していた兵士達を全て処刑するでしょうな」
あれ?適当に言った事ではあるが、かなりの説得力があるぞ?これは上手くいくのでは?
「ぬう、確かに…」
フリッツは呟きと共に抜剣姿勢を解いていく。
よし勝ったな!
と思った直後!?




