第四十五話
負傷兵は全て助ける事は出来たが、1人は蘇生出来なかった…蘇生の成功率が低い気もするが、まあ仕方ないか。
う~む何か人を救えない事に慣れ始めてるな?だが気に病んだところで成功率が高くなるわけでもないし…
まあ、良いか!そうだな!良しとしよう!
さて救えなかった者達に思いをはせる暇は無いし、今後の事を考えなければと思った直後、胴体に複数本の矢が刺さっている負傷兵が右足を引きずりながらも自力歩行で治療所に入ってくる。
やべぇな、数えてみたが6本の矢が刺さってる、だけではなく内臓に達しているのが3本に右足の付け根に1本だぞ…
何で自力歩行が可能なんだ?激痛で動けないだろ常識的に考えて…
負傷兵を麦藁のマットレスが乗った木製のベッドに寝かせた後「強力な回復!」の奇跡を使用すると刺さったままの矢が次々と肉に押されるようにして抜けていく。
矢が全て抜けたところで負傷兵は口を開き……
「ありがとう、おかげで悶絶する様な苦痛を味合わずに済んだ」
「悶絶する様な苦痛?」
「ん?ああ、夕凪殿の様な優秀な神官でなければ…
傷口を切ってから、やっとこを使って矢を引き抜かないといけないからなぁ…
血がドバドバ出るし、悶絶する痛みで歯を噛み砕く事もあるし、矢尻か矢の木くずが身体に残ったら病になるしで最悪だったなぁ…」
二度と体験したくない…と負傷兵の表情は物語っていた。
そうして負傷兵は再び前線に赴くのであった……
と思いきや、治療所を出てゆく事もなくベッドに居座り続けている。
「ええと傷の治療も終わったので、戦場に復帰していただかないと困るのですが?」
こいつがモタモタしてるせいでマーガレットにエルザにダンダにリオンにカレンヴィラ達が死なれるのは、とても困るというよりは殺意が湧いてくる。
このままダラダラと怠ける様なら、ヴェスペラ様に捧げる生贄にしてやるか。
等と考えていると……
「いやいや、失った血が多くて中々身体が動かねえんだぁ」
そんな筈はない、失血も治療した手応えがあった。
つまり、コイツは俺を騙そうとしている!
殺すか?味方には一度も手を出していない俺だが、考えようによっては悪くはない。
ヴェスペラ様に生贄を捧げる事により俺は強化されるし、カレンヴィラ隊長もやる気が無くサボり癖があり不公平感を多くの者に齎す士気を下げるだけの存在など始末したいだろうしな。
とはいえ今すぐ始末するわけにもいかない、カレンヴィラ隊長の許可を得なければならないし、何よりもヴェスペラ神の祭壇に乗せてから殺さなければ生贄にはならないからだ。
等と考えていると……
ベッドで寝ていた男はシュバッと立ち上がり!
「やぁ!もう元気を取り戻したなぁ!今すぐ戦場に行かないとなぁ!」とわざとらしく叫びながら、あっという間に出ていった…
ちっ!感の良い奴め!
そうして様々な者達を治療しながら、それなりに充実した日々を過ごすのだろうと思っていた…




