第四十四話
弓矢の雨を越えて辿り着いた俺の身長よりは高い程度のエンダハ村の外壁、予定通りの施工であれば、この辺に抜け道を兼ねた通用門があるはずだが……
夜闇のせいか、見ただけでは分からない…
夜が明けるまで離れるべきか?と考えたのだが、背後に付き従っているジャンとマリーとラングがいるな。
ジャン達に指示を出そうとしたのだが、その直前で壁内からカレンヴィラらしき声色の人物から声がかかる。
「夕凪大和守朝日か?その位置に抜け道は無い!ボル砦側の裏口に回れ!」
「分かった!」と返事をしつつ、裏口へ回ると……
そこには騎士甲冑に身を包んだカレンヴィラにマーガレットにエルザにダンダとリオンにカレンヴィラの部下の兵士数名が武器を構えた状態で待機していたのであった……
「さて貴公は夕凪大和守朝日でいいのだな?ずいぶんと若返った様子だが?」
そういや若返った時に同席していたのはツバキとハイデマリーとジャンとマリーとラングだけだったな。
「そのとおりだ、服装も同じだしアンデッド達も同一個体だろう。
それに、この額に刻まれたヴェスペラ神の聖印を見間違えたのか?」
「そのとおりではあるのだが、不老長寿の奇跡を使うのであれば指揮官である私か恋人であるマーガレットかエルザが同席するべきではないのか?」
状況的には仕方なかったのだが、おっしゃるとおりである…
「さらに質問があるのだが、ハイデマリーとツバキだったな?あの獣人はどうした?」
「ツバキはソーガス領にある獣人の村を目指すと脱走しました。
ハイデマリーはヴィンディ神のやり口が汚すぎると信仰を捨てたせいでヴィンディ神に逆印を刻まれた直後に何故か脱走しました」
ツバキは庇う理由は正直無いだろうし。
ハイデマリーは直後にヴェスペラ様の聖印を刻まれたのだが、立ち合ってはいなかったので報告する必要はあるまい。
ハイデマリーが脱走した理由?言わない方が面倒がないだろう。
話は終わりかな?と思っていると…
カレンヴィラ・フォン=イコスは片手で頭を抱えながらも話を続ける。
「ふむ、指揮官である私としては話は終わったのだが、マーガレットにエルザは話を続けたいそうだ
(ペリノア男爵には朝日の無能さを報告しておくか)」
その話を聞きマーガレットとエルザに目を向けるのだが、その表情は般若のごとき表情であり、アニメやラノベでいうのであれば乙女がしていい表情ではなかった…
声を出そうにも出せないでいると、マーガレットが口を開く。
「ねえ、何で私の前で若返らなかったの?」
このパターンはあれだろうな…それ以外の意図がある質問だ…直接的な返答をすると察してよとブチ切れるやつだ…
俺はエスパーじゃないから無理なんだけどな…
黙っているべきか…口を開くべきか…
男同士であれば説明すべきなのだが、女性相手では上手くいかない事も多い事だけは数少ない経験ながらも学んではいる…
だが黙っていると…
「もういい!」とキレ出す事は理解している…
なんとか説明はした…多分納得もしただろう…
だがマーガレットとエルザの目には微かな不信の感情が存在していた…
それはそうと成さねばならぬ事、仕事は発生する。
留守にしていたからこそ尚更に。
内容を具体的にいうと、負傷兵の治療である。
治療所にいた兵士達は中々にグロテスクな姿であった…
右ひじから先が無く血まみれの布で止血をされている者、逆に左腕が無い者、腹部に血まみれの布が巻かれているだけの者、その中で特筆すべき事は…
治療所の片隅に集められた、頭に布袋を被せられた物言わぬ者達であろうか…




