第四十三話
俺が率いる一行はエンダハ村の南にある高台へ辿り着いたのだが……
エンダハ村が有ったはずの場所には、元々存在した家々と、その間を繋ぐ様に建てられた粘土や泥で表面を強化している木の板の外壁に矢狭間があり、さらには外壁の手前には1m程度の深さの空堀があるため、どこにでもある小規模の村落であったはずのエンダハ村は室町時代の小規模な城郭の様な姿になっていた。
さて戦闘の様子は……
戦闘開始を告げる鬨の声がアーガイル軍から鳴り響き、全軍の数分の一程度の疎らな数の矢が打ち込まれた結果、カレンヴィラ隊も反撃を開始して矢が放たれるのだが、敵軍は矢が着弾する前に撤退をしている…
アーガイル軍は、それを幾度となく繰り返し続けている。
なるほど、遮蔽物が無い攻撃側なのに犠牲が出ていない辺り敵軍には戦巧者がいる様だ。
敵の狙いは多分、カレンヴィラ隊に休憩をさせずに疲労を与え続けて、士気が落ちたところで全軍突撃を行い止めを刺す気なのだろう。
だがしかし、戦巧者といっても所詮は戦巧者程度の存在だ…大局的に考えれば残念ながら意味は無い…
ボル砦は飲料水の補給が出来ないから陥落寸前だし、仮に1時間後くらいにエンダハ村を陥落させる事が出来たとしても、ボル砦を包囲してるペリノア男爵軍本隊までには1日以上かかるから間に合う事はあるまいし、さらには別働隊のアンドレアス隊にオルテンシア隊もいるからペリノア男爵本隊を攻撃しようと接敵したとしても。
エンダハ村の南東部にあるインマ村、アンドレアス隊が居る場所だが位置的にはアーガイル軍の後背か右翼を突く事が可能な位置であるし。
エンダハ村の北東部にあるコロ村周辺に居るオルテンシア隊はアーガイル軍の左翼を狙えるので、結果的にだが鶴翼の陣となり包囲殲滅を受けかねない。
それに……
「強力な闇の飛礫よ!」
俺自身が気合いを出すのとジャンとマリーとラングに合図するために上げた掛け声と共に、強力な闇の飛礫と彼らの投げた投石が飛んでゆき、俺の強力な闇の飛礫が指揮官らしき敵兵の右側頭部を撃ち抜き、彼らの投石は敵兵の胴体に命中する!
さらに小走りにエンダハ村へ移動しながら数発の闇の飛礫を放つが、これらは敵の胴体に当たった1発を除いて全て外れた…
まあ良いか、敵に反撃をさせないための制圧射撃を目的としたものだからだ。
だが、制圧射撃を行っていても敵の反撃はくる。
弓矢がヒュンヒュンと恐ろしい音を立てて飛んできたのだが、最初の一射は移動前の射撃地点に突き刺さる。
次の二射は移動を始めた地点に、三射は背後に、四射は直撃コースのため左手の楯を頭上に掲げて防ぐ。
ドスドスドス!?っと矢が盾に突き刺さり楯の裏地の皮がたわむ!?
闇の壁の奇跡を使いつつ、矢を受けた楯の表を見ると……貫通はしなかったが矢が四本も刺さっている、引き抜く事は出来るだろうが、そこに矢が刺されば貫通するだろう。
それに矢が刺さったせいで楯の重量も増えたし重量バランスも悪くなった…
捨てるか?と思いはするが楯の表面にはヴェスペラ神の聖印が刻まれている…
ヴェスペラ神の敬虔な信徒たる俺としては捨て辛い…
そう考えた瞬間、ヴェスペラ様から神託が舞い降りる。
『我としては、それを打ち捨てたとしても問題はないと判断しよう。
朝日の生命の方が大事ではあるしな』
よし捨てよう!
そうして聖職者にあるまじき行為をした後に、俺はエンダハ村に辿り着いたのだが……




