第三話
「嘘だろ…騙されたのか…そんな…」
と絶望の呟きが口から紡がれる…
いや、まて、ひょっとしたら幻覚か何かかもしれん。目をギュッと瞑ってカッと見開けば状況が変わるかもしれん。
そうして目を開くが目の前の景色は…いや、ばんえい競馬の出走馬のような巨馬が引いている、俺達が乗っている馬車が動き続けているので変わり続けてはいるのだが。木の格子だけは一切変わる事なく目の前に有り続けた。
マジか…と絶望のあまり力無く目線を落とすと木の板の枷で拘束された手首と身を包む貫頭衣が視界に映る…
実存感は現実だと認識させてくるが、着替えた覚えがまるで無いゴワゴワの肌触りの貫頭衣が否定をしてくる…とりあえず木の格子を触って確かめるべく手首を動かそうとすると木板枷が擦れて痛みがはしり、今までの人生で夢では痛みを感じた事が無い経験から現実かもなと思わせてくれる…
薄く剥げかけたニスが塗られた、手のひらで覆い掴めるほどの太さの木の格子を掴み前後に揺さぶってみるが頑丈に出来ているのか微かにミシッと木が軋む音が鳴るばかりで何も起きない。
デコピンでニスが剥げた格子を弾いてみるがコンとゆう音が聞こえ、腐ってないことが分かってしまう。
仕方がない自力での脱出は諦めるか?そう思いながらも状況を掴むために周囲を見回すのだが。
周囲には俺と同じく貫頭衣のみを身に着けた希望を失い腐りきった目をした奴隷らしき人物達が一歩離れた所でひしめき合っていた。
これは相当マズイ状況だよな。というのも馬車は明らかに狭く、収容人数に見合ってない数の奴隷が積載されている。下手をしたら圧死しかねないほどだ。
にもかかわらず肌が触れないような距離を保たれており、周りからは一切の文句が出ていない。
何故こうまで避けられている?嫌悪感か?忌避感か?憎悪か?
どれもがある気はするが、どれでも無い気もする。
姿見が見たいな自分の顔や体調を見たい、何らかの皮膚病があるのかもしれんし最悪別人になっているかもしれん。だが姿見の類を見れば確認は出来る、それすらも幻覚である可能性は否定できないが、それは割り切るしかないだろうし。
ゴドンと馬車が揺れて若い女、多分10代の可愛い系の茶髪の女が肩口の辺りにぶつかって来た。これは何かのイベントが発生するのか?と思い様子を伺うと…
「ヒィ…ごめんなさい許してください!」と恐怖に塗れた表情で謝罪を口にしてきた。
ボーイミーツガールなラブコメディーは無しか。年齢差が有ることは自覚しているが、ここ迄の反応は正直理解し難い。
納得できない思いと共に話しかける事にした。
「お嬢さん、この状況だ、ぶつかる事に文句を言う気は無いよ、だが何故そこまで恐れるのか教えてくれないか?」
「ヒィィ!」と悲鳴を上げて女性は周囲を見回すが、全員が全員目を反らしている。
うん、この状況は何だ?俺は何かをしたのか?何故ここまで恐れられる?扉をくぐった瞬間に多少の異世界用の知識と神力?を与えられたのか、自分が何をでき何をできないかは分かるのだが、ここまで恐れられる理由が分からん。
とゆうのもヴェスペラ様の聖印が額に刻み込まれているのは何となく理解しているのだが同時に神官のランクの証明でもあり、そしてその神官のランクでいえばレベル1の光と闇の奇跡を2つずつ使えるだけで見習いの肩書きが取れてない程度でしかない、奴隷商の牢屋にぶち込まれている事も相まって恐怖を抱かれる理由がまるで分からない。
周囲から助けがない事を覚ったのか、女性は恐怖で身体を微かに震わせながらも覚悟を決めた様子で口を開く。
「だっておじさn、お兄さんってヴェスペラ教徒ですよね?」
なるほど忌避の視線はヴェスペラ教徒が理由か。皮膚病とかではないんだな。それはそうとおじさんと言いかけたのは忘れない、まあ45だし年齢も年齢だから否定は出来んのだが。
「まあ、そのとうりだ最近神官に成ったばかりで、まだまだ見習いの肩書が取れない程度だがね」
俺自身は軽口くらいのつもりで喋ったのだが女性は「ヒィ!」とゆう短い悲鳴を上げながら尻もちをつくようにして後ずさる…
何だろうな、この連続殺人鬼を見るような眼差しは…おじさんと言われて内心ムカついた事が表情に出たのかな?だとしても、ここまで怯えるのは変だよな?となると俺以外のヴェスペラ教徒はヤバイ奴しかいないか、それとも昔とんでもないのがいたのか、あるいは両方かな?
まあどう考えても仲良くするのは不可能か…となれば下手にコミュニケーションを取ろうとせずに沈黙を守るべきか?仲が改善する事はなくなるし場合によっては、例えば同じ職場なら敵対的になる事もあるが、俺自身のしょぼいトーク力を鑑みれば沈黙を守るべきだな。現在覚えている奇跡に交渉やコミュニケーションに役に立つものは存在しないし。
そして体感では数時間後、太陽の角度の移り変わりを考えると数時間後、もちろん地球ではなく異世界であるため1日24時間であるとは限らないし、季節により日照時間も変わるだろうから正確な時間を把握するのは不可能だが、とにかく数時間後。
巨大な人ではまたがれそうに無い馬に引かれる馬車は目的地であるだろう開拓村とでもゆうべき村にたどり着いていた。
まあ正確には目的地とも開拓村とも断言出来ない、もちろん見た目は開拓村に見えるし間違いないだろう。具体的に言うと大通りと言うには粗末で狭くて土がむき出しの道路を通っているのだが両端に見える建物は西部劇に出てくる様な木製の建物だし、何と言うか日本の伝統的な屋根瓦の家や神社仏閣と違い洗練されてない感じがするのだ。まるで普段は石やレンガで建物を建ててる大工が木で建ててみましたといった感じがするのだ素人が遠目に見ても。
それに都市計画などはまるで考えられていない。例えば大通りの脇の建物には何と言うか妙な隙間がある。家と家の間に家1軒から1.5軒が建つほどの隙間が目立つし、逆に狭い隙間は人がすれ違う事が出来る程度だ。柵も何もないから庭でもなさそうだしかと言って防犯意識が低いのかと言うと、キチンと調べたわけでもないから直感でしかないが、そうでもなさそうだ。
それ以外にも中世ヨーロッパであれば町を覆う外壁や堀なども有りそうな物だが全く無かった。
辺ぴな田舎村なら無いんじゃないか?そう思うかもしれないが、見た感じ人口は決して少なくない、大通りを行く間に少なくとも数十人程度は見かけたし、今もなお数人程度が今度来た新人達はどんな感じかね?使える奴がいるといいなあ。といった感じで興味津津でこちらを見てきているので活気も有りそうだ。
うん、良い意味で活気が有り、悪い意味で無計画かつ色々と必要な物が揃ってない事を考えると、やはりここは開拓村だろうな。
そして開拓村ということは、俺達は多分開拓奴隷なのだろう。
ということは肉体労働だろうな、畑をクワで耕したり、森に行って木を斧で伐り倒したり、切り株をロープで引っ張って引き抜いたりするんだろ?まいったね…年齢も年齢だから、そんなキツイ作業をしてたらスグ死んじゃうかも…タコ部屋なんかも若くないとスグ死ぬから無理って聞いたことあるし。
だが幸運かどうかはさて置き、俺は開拓奴隷にならずに済むらしい。というのも大通りの先に建物が見えてきたのだが、この町では珍しく円形の競技場の様な、あるいはローマのコロッセオの様な、石造りの建物である。
「なんか血の臭いがするワン…」と茶髪の女と反対側にいた頭の上の辺りから犬耳が生えた獣人の女が暗い声でつぶやいている。どうやら円形闘技場らしい、そこで殺し合いでもするのかな?
そんなふうに考えていたら案の定なのか、30代後半の100キロを超えそうな肥満体型の奴隷商兼御者が闘技場の手前の建物の前で停車させ牢の前いや女の犬獣人の前の辺りに立つ。
「お前達の中で冒険者に成りたい奴は居るか?冒険者に成りたいのであれば、ここで降りるがいいコロシアムで魔物と殺し合いをして実力を示せば冒険者に成れるだろう!」
その言葉を聞き馬車から降りる者は…俺以外には誰も居なかった。1人か2人くらい連れが欲しかったが、まあしょうがないかと思い奴隷商に話かけようととすると。
「おいおいおい本気か?本気なのか?言っちゃ何だが自由を勝ち取るには1番楽で手っ取り早く簡単な方法だぞ!確かに危険は少なくないが次は農奴でそこが駄目なら鉱山奴隷になるんだぞ!」
その言葉を聞き奴隷達は微かに騒ぎはするものの、顔を見合わせるばかりで誰も馬車から降りようとはしなかった。
まあしょうがない、彼らにも彼らの判断がある、勧めてくるって事は冒険者にすると奴隷商は得をするのかもしれないが、奴隷商が得をしたところで俺には何の関係もないし、何なら腹立たしいとさえ言える。
そんな感じでボケッと突っ立ていると…
「おい!お前!この中から5人選べ!」
はへ?
「話を聞いてなかったのか?話を聞いてなかったんだな!いいか!このままだと人数が足りなくて契約が不成立になりお前は農奴になるしかない!だから適当に5人選べと言っている!」
「はっえっ!?お前が勝手に選べばええんちゃうん?何で俺が選ばないかんのや?」あっ!?言葉が乱れた上に思わず口にしてしまった!?
「この私も貴様如きに大事な奴隷を扱わせたくはないのだがね、少しでもヤル気がある、性格が合う、生き残れる者を選ばせようとする親切心がわからんのか!」
そう言いながら奴隷商は右手を振り上げるが!何故か俺の顔の手前で拳を止めた。
「うん?どったの?何で殴らないの?生意気な奴隷の鼻ヅラに右ストレートを叩き込めたのに?」挑発するような口調ではあるが事実だし疑問でもある。恐怖心をごまかすためでもあるが。一瞬でも遅れたら歯の根が合わなくなり呂律が回らず涙目になっただろうし。
「ふっふっふっ…こんな下らん事でヴェスペラ神官の恨みを買うほど馬鹿ではないわ!」
そっすか、賢明ですね、でもこの程度でも恨む奴は恨むっすよ。俺はさすがに恨みはしないけど。
さて誰にしようかな?と思ったのだが判断材料がまるで無い事に気づき質問を開始した…
どうしよう戦力に成りそうな奴が1人も居ない…俺と同様に隣りの奴隷商も顔を引きつらせている。
全員戦闘経験が皆無、喧嘩くらいならしたことがある者は当然いるが同じ村人と怨恨が残らない程度の殴り合いの喧嘩なので何の参考にもならないだろう。
仕方がない…「茶髪の女のマーガレットと犬獣人の女のツバキの2人と、その2人を守りたい奴はいるか?」
様子を伺うがざわざわと内輪話をするだけで誰も立候補をしようとはしなかった。
「んー、仕方ないからマーガレットちゃんは馬車に戻っていいや、女だから体力的に冒険者は無理だろうし」と口に出して言ったのだが、マーガレットは動く気配が無い。それどころか、その場で話し合いを始めたぞ。少しだけ待つか。
「2人共冒険者になるワン」
「え〜とどうゆうことかな?獣人のツバキちゃんはともかくマーガレットちゃんはいらないんだけど?」
もしも自分を有望だと思ってるなら勘違いを正さないと、巻きこまれかねないしな。
「アイツラの中に戻れっての!アタシを見捨てた薄情な奴らの下に!」
あっ、なるほど確かに戻りたくはないわな、まあ俺のせいではあるし、それでも言わなければ受け入れられただろうけど、人には感情はある。感情のままに生きると損をする事が大半だがね。
ただまあ俺自身と彼女のためにも確認を取らねばなるまい。
「俺が受け入れなかったらどうする?」
「関係ないわ!1人でも冒険者に成ってやる!」
マーガレットの茶色の瞳は、間違いなく決意と覚悟に燃えていた。
「では君を喜んで迎い入れよう、後は1人だけ居るリザードマンのグラグとドワーフ男のドンダガとエルフ女のフラウは…ダメ?ドワーフは鍛冶屋に売り飛ばしてエルフは娼館か、リザードマンは良い?じゃあリザードマンは追加で…フラウちゃん絶望しないで奴隷から解放されたら客になって上げるからさ」
エルフちゃんが何か泣き出しちゃったけど、娼館で働くだけで生命の危険は無いんだし長い寿命があるんだから足抜けまでは色々と諦めた方が良いと思うんだけどね、冒険者に名乗り出れなかった時点で。マーガレットもツバキも擁護すらしてないし。
「しゃあない後はそこの体格の良い兄弟のダンダとリオンの2人で」
そうして奴隷商と別れた俺達は、鉄製の槍と革鎧で身を固めた闘技場の警護兵2人に後ろを取られた状態で非武装の職員に案内されながら闘技場の準備室に入室すると…
そこには上部の口が開いた樽が複数個有り、樽の口には大量の武器が刺さっていた。
「その樽の中に有る武器を1つか2つ選べ。選んだらスグに出番だぞ」
「訓練期間とかは無いんですかね?あと服も」
「両方無い、どちらも問題ないからだ」
その言葉の真意は数分後に解ける。ちなみに俺が選んだ武器は見慣れない武器だからと樽の中に放置されていた刃渡り90cm位の日本刀、マーガレットは重たい武器を使えないからツバキは身軽にしたいからという理由で長さ120cm位のショートスピア、ダンダとリオンの兄弟は1m位のロングソード、グラグは種族的に期待値が高いおかげで特別に鉄製の縁が着いた木製の大盾とロングソード2本分の重さが有りそうな長さ110cm位のバトルアックスを選んでいた。
「さぁて!皆様お待ちかね!ニュービー達の出番だ!これからゴブリン達のエサになるか!勝って生き残り冒険者への一歩となるか!皆様さあ賭けた賭けた!ゴブリン達は2.9倍!ニュービー達は1.1倍になって返ってくるよ!」
「嘘だろ?コイツら俺たちの生死を賭けてやがる…」
ちなみにこのセリフは俺のものではない、俺の左に居る刃渡り1m位のロングソードを1振りづつ持ったダンダかリオンのどちらかが喋ったセリフだ。
別に変な話しでもないと思うんだけどね、そりゃあせっかくのコロシアムだ賭け事くらいするさ、そのための奴隷だろうし、服が支給されなかった理由は穴が空く切れる血塗れになるって感じか?
それに冒険者に成るなら多分1番弱いモンスターくらい殺さなきゃ話にならないだろうしな。それに理由はどうあれ倍率が明らかに片寄っているって事は、こちらが勝つ事を前提にしてるんじゃないか?
むしろ問題なのは、まだ腹を決めてない奴が1人は居るという事だ。
マズイな武器を取る時に決めた作戦どうりに行動してくれるのか?パニックをおこすんじゃないか?
「ゴブリンの檻が開くまでに作戦を再度確認するぞ!ダンダとリオン、マーガレットとツバキは二人一組で戦え!グラグは俺の手前だ!俺は闇の奇跡の闇の飛礫か投石で後方から援護しつつ君達が怪我を負った場合は光の奇跡の回復で治す!そしてゴブリン達の止めは出来る限り俺がさす、供物の奇跡によって俺がパワーアップ出来るからだ!説明をしたが質問はあるか?ないなら終わりとする」