8 呼び出し
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
瑛子はジャージと一緒に要に手紙つきの生キャラメルを手渡した。
「お礼、手作りなんで大した物じゃないですけど。生キャラメルなんで、保冷剤つけてます。家に帰ったら直ぐに冷やして下さいね」
要はそれを受けとると、嬉しそうに微笑んだ。
「だったら、お昼ご飯のデザートに少し食べようかな。櫤山さん、これからお昼? 一緒に食べよう。せっかくの手作りだし、目の前で食べて感想言いたいかな」
「ご飯はみんなで食べたら楽しいですし、かまいませんよ」
そう答えると、了承を得るため緑と学の顔を見た。二人はあまりいい顔をしなかったが、頷き了承した。
要はそれを見て、少し驚いた顔をした。
「君たちはご飯も一緒に食べてるのか。徹底してるね」
そう言うと笑った。
その後、昨日と同じく倉庫になっている教室でみんなと昼食を食べ、その流れで要ににお礼としてあげた生キャラメルを結局みんなで分けて食べた。
生キャラメルを作れると知らなかった面々は、生キャラメルの作れるとを知るととても驚いていた。
そんな話をしている時に、要は勝が書いた手紙を見つけすぐに胸ポケットに入れてしまった。
「あとで読むよ」
あまりにも素早く要がそれをポケットへ入れてしまったので、瑛子自身もそこに何が書かれいるのかを知ることができなかった。
このとき、それは父の勝が書いたものだと言うタイミングを逃してしまったが、読めば瑛子が書いたものではないことがすぐにわかるだろうと、瑛子は気にしないことにした。
思いの外楽しく過ごせたからなのかこの日から、要も一緒にお昼ご飯を食べるようになった。
それと、生キャラメルが好評だったので瑛子はデザートとして、時々家で作りすぎたお菓子を持って来るようになった。
これはいつも守ってくれるお礼でもあったが、それを午後のおやつとしてそれをみんなが楽しみにしてくれていた。
そうして一ヶ月経ったが、特に身体的な嫌がらせなどもなく、穏やかな日常が続いた。唯一された嫌がらせも大したものではなかった。
それは、一度だけ他のクラスの女生徒二人が、瑛子のところにプリントの束を届けに来た時のことだった。
「櫤山さんに渡してって先生から」
そう言ってその女生徒二人は、瑛子にプリントを渡そうとした。だが、瑛子がそれを受け取ろうとした瞬間に、相手の女生徒がわざと手を離し、プリントを床にばら撒いたのだ。
そうしておいて、その二人は楽しそうに笑うと瑛子に言った。
「やだー、櫤山さん! ちゃんと受け取らないと駄目じゃーん」
瑛子はやられた瞬間に、カチンときて一歩前に踏み出す。
その瞬間、背後から素早くやってきた学がプリントを拾い始めた。
「こんなことが楽しいなんて、君たちは品性に欠けている。下卑た人間なんだな」
そう言って学は拾い集めたプリントを瑛子に渡す。そして、その女生徒たちに向きなおった。
「こういう時、常識ある人間ならごめんなさいと謝るものだが。相手を困らせ、それを見てせせら笑うなんてどういう生き方をしてきたらそんなことができるようになるんだ」
じっと二人を見据える学に驚いた女生徒たちはしばらくそのまま固まっていたが、周囲からの冷たい視線もあり、しばらくしてから小さな声で呟くように言った。
「ご、ごめんなさい……」
そうして二人は慌てて走り去っていった。それが見せしめにもなったのか、この一件のあと瑛子に嫌がらせをする者はいなかった。
それに通学は緑が、クラスでは学が瑛子と一緒に行動しているので、嫌がらせを受ける隙がなかったのかも知れない。
そのうえ、放課後はみんなと勉強会をしたりもしたので、放課後も一人になることはなく、自然と瑛子の成績も上がる結果となった。
その頃には、瑛子はヒロインに攻略対象者を押し付けようとか、ゲームの内容とこの世界が同じなどとは考えなくなり、ゲームはゲーム、現実とは別だと考えるようになっていた。
なによりみんなのことを攻略対象者などと思うのは、とても失礼なことだと気づいたのだ。
そんなある朝、いつものように緑と通学し下駄箱で上履きに履き替える時に、瑛子は上履きの中の爪先の方になにか詰め込まれているのに気づいた。
「なんでしょう、なにか上履きにゴミが入ってるみたいです」
そう言いながらそれを取り出すと、それは小さくたたんだ紙だった。
上履きに履き替えながらその紙を広げるとなにか書いてある。
「なに? ラブレター?」
緑は瑛子の手元を覗き込みながら、冗談っぽくそう言った。
その手紙は何かノートの切れ端に書いてあり、ラブレターではないことは一目瞭然だった。
「そんなわけないじゃないですか。それにこれがラブレターだったら嫌です」
笑いながらそう言い返し、手紙を開いて内容を見る。そこには印刷された文字でこうメッセージが書かれていた。
「今日の午後19時頃、駐輪場に一人で来てください」
明らかに怪しい。
緑はその紙を瑛子の手から取り上げると、瑛子に尋ねる。
「まさか、一人で行くつもりじゃないよね?」
瑛子はもちろん行くつもりだった。
「色々ハッキリさせたいから、行ってみようと思います。一応芦谷先生にも伝えておけば大丈夫じゃないでしょうか」
それを聞いた緑は明らかに呆れた顔をした。
「瑛子は危機感足りないよ。何かされたらどうするんだ?」
「わかりました、神成君は気にしないで下さい」
そう答えると、瑛子は緑の手からその手紙を取り返そうとした。だが、緑は手紙を持つ手を引っ込め瑛子に返そうとしなかった。
「これは預かる。とりあえずお昼にみんなで対策を立てよう」
瑛子はみんなに迷惑をかけているようで、なんだか申し訳なく思った。
「わかりました。みんなに迷惑かけるなら行きません」
「いや、瑛子の意見も尊重したい」
そう言って緑は悲しそうに微笑んだ。
その日のお昼、食事を終えると緑がテーブルの中央に朝に靴の中に入っていた手紙を置いた。
「今朝、これが瑛子の上履きに入ってた」
学はその手紙を読み上げると、瑛子の顔を見つめる。
「瑛子は行く気なのか?」
「みんなに迷惑をかけるようなら止めようかなとも思いましたけど、でも相手を誘いだしてハッキリさせたい気持ちもあります」
そこで、要が口を開く。
「確かに、本来なら危険を回避するためにこう言った物は無視をして行かないのが正解なんだろうけど、いつまでも逃げるよりはしっかり犯人を捕まえて対応しますよ? ってことを見せた方が良いかもしれないね」
緑はそれを受けて頷くと、その手紙を手にとってしばらく考えてから瑛子に言った。
「確かに、栗花落先輩の言うことも一理あるね。でも、行くとしたら芦谷先生は絶対に反対するだろうから、行くなら芦谷先生には伝えない方がよいかも知れない」
瑛子は驚く。
「先生に言わなくて本当に良いんですか? 後で怒られたりしませんか?」
そう訊かれると、緑は苦い顔をした。
「芦谷先生は、瑛子に少しでも危険が及ぶようなことは絶対に反対すると思う。だから行きたいなら言わない方がいい」
その意見に、要も学も大きく頷いた。
確かに、責任ある立場なのだから、こんな囮のようなこと反対するかもしれない。
その後話し合いでいろいろと意見は出たものの、結局直ぐに駆けつけられる場所に他の三人がスタンバイし、待ち合わせ場所には瑛子が一人で行くということになった。
恐らく相手も学生なので、三人も人が近くにいれば対応できないようなことはしないだろう、と結論付けた結果の作戦だった。
瑛子はこの手紙のことが気になり午後の授業を上の空で受けると、その時間になるのを待った。
芦谷先生が、なぜか落ち着かない瑛子の様子に気づき声をかけてきた。
「櫤山、どうかしたのか?」
瑛子は嘘をつくのは躊躇われたが、ここで手紙のことを話してしまうわけにはいかなかった。
「大丈夫ですよ? 今日は午後から友達と約束があるから楽しみで少し落ち着きがなかったかもしれませんね」
そう答えた。約束している相手は友達ではないが、嘘ではない。芦谷先生はじっと瑛子の目を見つめる。
「そうか、わかった。何かあれば言いなさい」
そう言うと職員室に戻っていった。それを見ていた学は瑛子に言った。
「芦谷先生は鋭いな」
「本当にそうですよね」
瑛子はそう答えると苦笑した。
その後、他の二人も合流するとどこから見られているかわからないので、一度下駄箱で別れて別々に駐輪場にむかうことにした。
駐輪場に着くと、電灯の明かりだけで少し怖くもあった。すると、暗闇の方から砂利を踏む音がして、人の気配があった。
そちらの方向を見つめていると、緑色のラインの入ったネクタイをした男子学生が二人近付いてきた。
「うわっ! マジできたよ。誰にでもさせるってマジだったんだな」
瑛子を見るとそんなことを言い出した。なんの話しかわからず困惑してるいるとゆっくり近づきながら、二人はこう言った。
「楽しみたいって?」
そして、手を伸ばし瑛子の腕をつかもうとした。そこで向こうから緑が急いで駆け寄ると瑛子とその男子学生の間に割り込んだ。
その後から学と要が出てきて、緑の横に並ぶ。すると、その男子学生は焦ったように叫ぶ。
「なんだよこの女、俺たちを嵌めたのか!?」
そして、逃げようとした。
だが、その先にはなんと芦谷先生が立って待ち受けていた。芦谷先生はゆっくり静かに落ち着いた声で二人に話しかける。
「何をしている。何をしようとした?」
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