7 勝の手紙
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
瑛子は突然思い出したことを口にする。
「あっ、連絡先!」
そうして、慌てて鞄からスマホを取り出すと要が瑛子のスマホについている星のチャームを見つめて微笑む。
「昨日の天井のこともだけど、君は星が好きなんだね」
その時、その場にいた芦谷先生と学、緑が一斉に顔をあげて要を見た。
要は驚いて全員の顔を見回す。
「えっ? なに?」
すると、緑がなにかを誤魔化すように苦笑しながら言った。
「いや、先輩が瑛子の好きなものを知っているから、驚いただけです」
瑛子は、たったそれだけのことでそんなに驚くだろうかと不思議いながら、要に説明する。
「私、星が好きで星のモチーフの物をたくさん持ってるんですよ」
微笑むと要と連絡先を交換したところで、保健室の城崎先生に声をかけれる。
「ちょっとごめんなさい櫤山さん、保健室の利用台帳に名前と目的書いてもらっていいかしら?」
「はい、わかりました」
瑛子はそちらに行き台帳に記入する。すると、城崎先生は瑛子の耳元で優しく言った。
「大丈夫? ショックだったでしょう。なにかあったらいつでもここに来なさい」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
そう答えると、みんなに優しくされたことが嬉しくて目を潤ませた。
そんな瑛子を見て、城崎先生は背中を優しく撫でてくれた。そこで今日あったことなども思い出し、ポロっと涙がこぼれ慌てて涙を拭いた。
「先生、ありがとうございます。もう大丈夫です」
そうして、みんなのところに戻ると作り笑顔で言った。
「みんなありがとうございます。帰りましょう! 城崎先生ありがとうございました、帰ります!」
努めて明るく振る舞うと保健室をあとにした。そんな瑛子を見て芦谷先生は、なにかしら思うことがあったのか保健室を出る時にこっそり優しく頭を撫でた。
保健室を出たところで坪野先生とすれ違う。また嫌みを言われるのだろうと瑛子が構えていると、坪野先生は芦谷先生を見て微笑んだ。
「あら、芦谷先生お疲れ様です」
そして瑛子に向きなおる。
「櫤山さん、大変だったみたいね。これからも気を付けなさい」
そう言うと、あっさり去って行った。まさか自分に気づかってくれると思ってもいなかった瑛子は、意外に思いながら坪野先生の背中を見つめた。
そこで、芦谷先生が瑛子に言った。
「この状況だ、君の親御さんにも今日の説明をしなければならないから、今日も私が家まで送ろう」
緑は不満そうな顔をしたが、学は大きく頷く。
「確かに、この状況ならその方がいいでしょう。不本意ですけど、櫤山さんのこと宜しくお願いします」
そう言って芦谷先生をまっすく見据えると頭を下げた。瑛子は慌ててそれを止める。
「催馬楽君がそこまですることはないですよ。でも、ありがとうございます」
芦谷先生は頷くと答える。
「大丈夫だ、そんなに心配するな」
そんな二人を他所に緑は瑛子をじっと見つめて微笑んだ。
「瑛子、後で連絡する」
瑛子は微笑むと頷いた。
こうして下駄箱のところでみんな別れると、荷物と制服を持って芦谷先生の後に付いていった。
「少しここで待ってなさい」
そう言って、自分の荷物を取って来ると芦屋先生は瑛子の荷物も持ってくれた。
「駄目です、先生にそんなことさせられません!」
そう言って、芦谷先生の手から自分の荷物を取り返そうとしたが、芦谷先生はそれを制した。
「君は今日ショックを受けるような出来事に遭遇したんだ、周囲の大人に甘えなさい」
そう言って手早く自分の車に瑛子の荷物を積み込んだ。
瑛子はその優しさにまたも涙腺が緩んでしまい、送ってもらう道中、泣くのを必死にこらえた。
なんだかんだやはり他人にバケツの水をかけられるというのは、ショックな出来事だったのだ。
家に着くと、出迎えた勝が瑛子を見て唖然とする。
「瑛子、どうしてそんな格好……」
そう呟くと、芦谷先生に気づき頭を下げる。
「先生、わざわざ瑛子を送ってくれたんですか? ありがとうございます」
「いえ、大したことではありませんから。それより瑛子さんのことで少しお話があるのですが、今、お時間よろしいでしょうか?」
勝は慌てて答える。
「瑛子が何かやらかしたんでしょうか?」
横で聞いていた瑛子は、父よ、まず私を疑うのかーい。と、心の中で突っ込む。
芦谷先生は苦笑すると言った。
「いえ、瑛子さんは大変素晴らしい生徒です。ですが、ちょっとしたトラブルに巻き込まれまして。とにかく込み入った話になるので……」
「そうですか、わかりました。どうぞあがって下さい」
勝は家の中へ入るように促した。
「瑛子さんは同席しなくても大丈夫です」
芦谷先生がそう言ってくれたので、瑛子はすぐに自室に戻ると少し泣き、落ち着くと直ぐにジャージを脱いで洗濯機に入れた。
要は急がなくて良いと言ったが、やはり替えがなければ不便だろう。明日には返せるようにしなければと思ったからだ。
要へのお礼に何を贈ろうかと考え、以前大量に作り置きして余っていた、生キャラメルがあるのを思い出す。
先輩、こんなもので申し訳ない。
瑛子はそう思いながら、冷凍庫からそれを出して切り分け、あとでラッピングしようとそれを冷凍庫へ戻した。
「瑛子、先生がお帰りになるぞ!」
玄関の方から声がしたので、玄関まで行くと芦谷先生が靴を履いているところだった。
「先生、今日は色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
瑛子は頭を下げる。芦谷先生は振り返り微笑んだ。
「こちらのことは、あまり気にするな」
そう言って、勝に頭を下げて帰って行った。
「瑛子、良さそうな担任の先生で良かったな」
そう言って勝ら瑛子の頭を撫でると、優しく瑛子に言った。
「さぁ、今日は何が食べたい? お前の好きなもの作ってやる。それと、ジャージを洗濯機に入れとけよ、洗濯しておくから」
「もう洗濯機にかけた」
「そっか、偉いな。ジャージのお礼は何を持っていく?」
「生キャラメル」
「そうか、わかった」
勝は頷いた。
翌朝、支度をして一階に降りると、洗濯されたジャージと綺麗にラッピングされた生キャラメルが置いてあった。
「『手作りです』って手紙入れといたぞ」
そう言って勝はニカッと歯を見せ笑った。
「もう、お父さん、余計なことしなくても良いのに!」
「バカ言え、大切な一人娘のことなんだから、気合い入れるに決まってるだろう!」
そこへ冴子が起きてくると、会話に割って入る。
「そうよ、こう言う一つ一つが大事なんだから。それにしても、綺麗なラッピングね。流石、パパ」
そう言って、勝の頬にチュッチュし始めた。勝はデレデレしながら言った。
「僕はママに誉めてもらうのが一番嬉しいよ」
また始まった。
そう思いながら、そんな二人を無視して瑛子は用意された朝御飯を食べると、家を出た。
駅に着いて改札をくぐると、緑が待っていた。昨夜連絡して、待ち合わせ時間を決めていたのだ。
挨拶を交わすと二人並んで電車を待つ。
「昨日のこと詳しく栗花落先輩から聞いた」
瑛子は前方を見つめたまま頷く。
「うん」
「守るって言ったのに、守れなくてごめん。君の言うとおりだった、学校で目立たないようにするために一緒にいない方がいいのかもしれない」
緑はそう謝ったが、瑛子は首をふる。
「別に今回のことは、神成君が悪いわけじゃないですよね? それにこんなことで、私たちの間がギクシャクしたら、向こうの思うつぼです。そんなの悔しいから嫌です」
あんなに緑を避けていたのに、天邪鬼かもしれないとも思ったが、それでも水をかけた彼女たちに負けるのは嫌だった。
そして、神成緑の方に向きなおる。
「だから、普段通りに仲良くしてやって下さい」
「してやってくださいって……」
緑はそう言って、微笑んだあと言った。
「そう言われればそうだね。俺も瑛子を守ることができなかったからって、ちょっと意固地に考えてたかもしれない。じゃあ、あらためて言うのも変だけど、これからも宜しく」
「はい、宜しくお願いします」
そう答えて微笑むと、列車に乗り高校へ向かった。
学校に着いて教室へ向かうと入り口で神成緑と別れ、今度は学が教室で出迎えてくれた。
「おはよう。昨日はやっぱり僕が一緒についていけばよかった。僕のせいだ」
「悪いのは水をかけたあの子たちです。神成君ともさっき話していたんですけれど、これで私たちがギクシャクする必要はないです」
瑛子がそう答えると、学は少し考えてから言った。
「確かに、少し割りきれないこともあるけど、それが最善かもしれないな。それに、これからはもっと君をしっかり守るよ」
相変わらず過保護な学に瑛子は苦笑する。
「守るとか守らないとかそういうことは関係なく、仲良くして下さいね。普段どおりにいきましょう」
そう答え席に着いた。
昼休みになると学と緑に付き添われ、要にジャージを返しに行った。
誤字脱字報告ありがとうございます。