6 ジャージ
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
瑛子の左隣に学が座り、右隣に緑が座ると各々か机の上に弁当を広げた。と同時に、瑛子は先程疑問に思ったことを口にする。
「なんで二人とも、丹家さんにそんなに冷たいんですか?」
すると、緑がそれに質問で返す。
「逆になんで瑛子は、そんなに丹家さん気をするの?」
ヒロインだから、とは言えず少し考え思ったことを口にする。
「だって丹家さん可愛いし。二人と仲良くしたいように見えたんで」
緑は苦笑すると瑛子の顔を覗き込む。
「ん? 瑛子だって可愛いよ?」
瑛子は流石にそれはない、お世辞にしても無理がある。と、思わず苦笑し適当に返す。
「ありがとう」
緑はじっと瑛子を見つめるとため息をついて言った。
「信じてないね」
「ごめんなさい、でも神成君は紳士だから親しい友達にはそういうこと、さらりと言そう」
瑛子は緑が否定するかと思ったが、自分でも心当たりがあるのか少し考えた様子で無言になった。
言い過ぎたかも。そう思い瑛子は慌てて付け加える。
「あ、でもそれは神成君の良さでもあるし、それにちゃんと好きな子ができたら、その子にだけ優しくしそうですよね。と、言うか自然とそうなるだろうし」
そこで学が口を挟む。
「ところで櫤山さんは、本当に丹家さんのことを可愛いと思っているのか? 昨日の彼女の行動を見たら、とてもそんなふうに思えないと思うけど」
瑛子は昨日の栞奈の般若顔を思いだし、あれを見られたらそう思うのも当然かもしれない。
だが、まだ会って一日目だ。もう少し長い目で見てもよいのではないだろうか?
「でも、あれは、ほら、嫉妬っていうか。まぁ、そんなところも含めて可愛いかな? と。それに私もですけど、みなさんも丹家さんのこと、あまりよく知らないですよね?」
瑛子は攻略対象者を引き受けてもらおうとしている、そんな引け目もあった。
今度は緑が突っ込む。
「いや、だとしたら向こうも昨日初めて会った人をあんな顔で睨むなんてどうかと思うけど?」
確かにそう言われればそうかもしれない。
瑛子は心の中で栞奈にこれ以上フォローできないことを謝ると、二人に向かって微笑む。
「はい、じゃあこの話しはおしまいにしましょう」
瑛子がそう言うと、緑が嬉しそうに瑛子に尋ねる。
「それなら、俺は瑛子のことを知りたいな。どんな趣味なのかとか、好きなタイプとか。スマホに星のチャームつけてるけど、星が好きなのかとか」
そこで学も反応する。
「それは僕も聞きたい」
こうして結局昼休み一杯、瑛子は二人から質問責めにされたのだった。
午後の授業も終わり、集めたプリントを、窓際の一番後ろの席の人が職員室へ持ってこいと言われたので、瑛子はプリントを集めた。
「ついていこうか?」
学はプリントを集めるのを手伝ってくれるとそう言ってくれたが、そこまでしてもらうのは悪いと思い、瑛子はそれを丁重にことわると職員室へ向かった。
教師にプリントを渡し教室に戻るため廊下を歩いていると、突然後ろから思い切り水をかけられた。
あまりの冷たさに驚いて体を強張らせていると、廊下に空のバケツが落ちる音が響いた。
うっすら目を開けると床に掃除用のバケツが転がっており、自分が掃除用のバケツの水をかけられたのだと気づいた。
瑛子は怒りよりも先に、誰がなぜ自分にこんなことをするのかと恐怖を覚えた。これはあまりにも悪質過ぎる。
瑛子が慌てて周囲を見ると、ケタケタ笑いながら走り去ろうとしている二人の女生徒が視野にはいった。
その瞬間、瑛子の恐怖は怒りへとかわった。
瞬間的にその二人に飛びかかると、首根っこを掴む。
「今、あなたたちは自分がなにをしたのかわかってますか?!」
そう大声で叫んだ。女生徒は瑛子の手を振り払おうとしたが、瑛子はそうはさせまいと渾身の力で掴んだ。
そこにたまたま通りかかった男子生徒が、転がっているバケツと水をかぶった瑛子を見て何がおきたのか悟ったらしく、加勢に入りその女生徒を取り押さえてくれた。
そして、周囲に向かって叫ぶ。
「誰か先生呼んで!」
その男子生徒は、あらためて瑛子をまじまじ見つめると呟く。
「あれ? 昨日のジョン・トラボルタ?」
ジョン・トラボルタ?
そう思いながら瑛子はその男子生徒の顔を見ると、その男子生徒は要だった。
その後、駆けつけてきた教師たちに事情を説明すると、加害者の生徒たちは連れて行かれとりあえず瑛子と要は解放された。
とりあえず要に付き添われ保健室へ向かうと、借りたタオルで制服を拭いて乾かした。
要はひどく心配した様子で瑛子に話しかける。
「トラボルタ、大変だったね。僕ので良ければジャージを貸すよ?」
「そこまで迷惑かけられません! 家が近いので大丈夫です」
そう言ったが、保健室の先生がそれを聞いていて瑛子に言った。
「遠慮しないで借りておきなさい、風邪を引くわよ」
瑛子は意固地になっていても仕方がないし、正直にその時点で寒くてしかたがなかったので要に甘えて素直に借りることにした。
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えます。それにしても巻き込んでしまって、大変申し訳ありませんでした。助けて下さって本当にありがとうございます」
「トラボルタが悪い訳じゃないんだから、謝らなくていいよ」
この辺りで瑛子は自己紹介もしていなかったことに気づく。
「その、私の名前はトラボルタじゃありません」
「だって、僕トラボルタの名前知らないから」
そう言うと瑛子も要も声を出して笑った。
「自己紹介もせずにすみません。私、櫤山瑛子って言います」
「僕の名前は栗花落要、珍しい名前ってよく言われる」
そう言うと優しく微笑む。
星春高校の制服のネクタイやリボンに入っているラインの色で学年がわかるようになっている。
瑛子の学年はブルー、二年生は赤、三年生は緑だ。要は赤のラインのタイをしているので、あえてお互いに自己紹介で学年は言わなかった。
栗花落先輩が素早くジャージを持ってきてくれたので瑛子は着替える。
「栗花落先輩、本当にありがとうございます」
改めて深々頭を下げると要は苦笑する。
「そんなにかしこまらないで欲しい。それに、なんかいいねその格好」
と栗花落先輩は少し照れくさそうに言った。
「先輩、背が高いからブカブカで変ですよね」
そう言って笑って見せた。要はしばらくそんな瑛子を見つめると頷く。
「うん、いい感じだね」
瑛子は要が恥ずかしがらないように、気を遣って言ってくれたのだろうと思い微笑んで返した。
「ジャージ、変えがあるから返すの急がなくていいよ。あっ、連絡先だけ教えといて」
瑛子はスマホを持っていないことを伝えると、教室まで一緒に行くことになった。
保健室を出ようとドアを開けると、そこに芦谷先生が立っていた。
「すまない、会議に出ていて来るのが遅れた。櫤山、大丈夫か?」
瑛子は驚いたがすぐに微笑むと答える。
「大丈夫です。芦谷先生わざわざ来てくださったんですね、ありがとうございます」
芦谷先生は学年カラーと違う、大きめのジャージを着ている瑛子を訝しげに見ると、瑛子の後ろに目をやった。
それに気づいた要が先回りして答える。
「僕はたまたま居合わせて、櫤山さんの着替えがなかったのでジャージを貸しただけです」
それを受けて瑛子も付け加える。
「栗花落先輩が、私に水をかけた女生徒を取り押さえて、人を呼んでくれたんです」
「そうか、栗花落ありがとう。櫤山、何があったのか話を詳しく訊きたい。栗花落は現場を見ていたのか?」
「はい。と言っても僕が見たのは途中からで、櫤山さんが嫌がらせをした女生徒を捕まえているところでした。だから、実際に櫤山さんが、嫌がらせをされているところを見たわけじゃないですけど」
それを聞いて芦谷先生は頷く。
「わかった、それでも居合わせたんだろう? 栗花落からも話を訊きたい」
瑛子たちは保健室にもどり、ことのあらましを最初から説明することになった。
瑛子が最初から順を追ってなにがあったのか説明するの、その後に要が自分が見たことを話す。
すべて話し終わったところで、ガラッっと音を立てて保健室のドアが開いた、
「失礼します」
声の主を見るとそれは瑛子の荷物を持った学と緑だった。瑛子は驚く。
「催馬楽君、神成君も、どうしたんですか?」
その問いに学が答えた。
「どうしたの? って、他のクラスの子が君がここにいるから荷物を持ってくるように芦谷先生に言われたって言うから」
そう言って芦谷先生を見つめる。芦谷先生は瑛子に説明した。
「そうだ、私が他の生徒に頼んだ。聞いていた話だと、君は教室にもどるどころではないだろうと思ったからな」
「そうなんですか、ありがとうございます!」
瑛子はそう言いながら学から荷物を受けとる。
その横でずっと様子を見ていた緑が瑛子に訊いた。
「ところで、瑛子その格好……」
瑛子は苦笑する。
「ちょっと制服汚しちゃって、栗花落先輩に借りたんです。目立ちますよね」
学はまじまじと瑛子の姿を見つめる。
「いや、大きめのジャージだから、色んな意味で目立つかも。あんまり他の人に見せたくないと言うか……」
その横で緑が大きく頷くと呟いた。
「これが着てるジャージが俺のなら、もっと良かったんだけどな」
誤字脱字報告ありがとうございます。