20
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
目が覚めると、瑛子はベッドに寝ており、周囲を見るとそこは病院のようだった。ベッドサイドに両親が立っており勝が
「瑛子大丈夫か?」
と言い、冴子が
「気持ち悪くない? 眩暈は?」
と訊いてきた。瑛子は状況がよくわからないまま、とりあえず首を横に振った。
「ここどこ? なんでお母さんとお父さんいるの? 私、学校は?」
と訊いた。勝は
「学校で色々あって、病院に運ばれたんだよ。とりあえずお前は少し休みなさい」
と言って、寝るように促した。瑛子は
「えっ? でもなんともないから、家に帰りたい」
と言ったが、冴子が
「少し頭を打ってるから、お医者様が今日は様子を診たいって」
と言うので、訳のわからぬまま横になった。その日は病院に一日入院となり、ついでに右指の傷のことを話し、診断書も書いてもらう手筈になった。
翌朝、病室まで警察官が訪れ
「何か覚えてる? 誰か見たり、声を聞いたとか」
と、聞かれたが、瑛子は覚えてないどころか、なぜ自分が頭を打って、ここにいるのかすらわからないことを話した。警察官は
「大丈夫、覚えてなくてもいいよ。何か思い出したら直ぐに回りの大人に言ってね」
とだけ言うと、引き上げていった。それがすむと、主治医から退院の許可が出たので、両親に付き添われ退院して自宅に帰ることができた。だが、しばらくは安静とのことで、数日学校は休むことになった。
退院した次の日、芦谷先生が瑛子の自宅を訪れた。勝が
「先生と会うか? 大丈夫か? 嫌なことを思い出したりしないか?」
と、心配したが、なにも覚えていないうえ、現状がどうなっているのかも聞かされていないので、瑛子は
「芦谷先生に色々聞きたい。自分のことなのに、何にも分からないのはいや」
と言うと
「わかった、呼んでくるから待ってなさい」
と、芦谷先生を瑛子の自室へ通した。瑛子は、自分自身に起こった出来事を芦谷先生に訊いたら、帰ってもらおう。そう思っていた。勝が
「どうぞ」
と、ドアを開けると、芦谷先生が
「失礼します」
と入ってきた。勝は
「なにかあったら呼んで下さいね」
と言って、リビングに降りていった。瑛子の心臓は早鐘のようにドキドキと脈打った。そして、なにを言われるのか分からず緊張でクラクラした。瑛子は芦谷先生に自分の勉強机の椅子に座るように促すと、芦谷先生は
「ありがとう」
と、その椅子を、瑛子のベッドサイドに持ってきて座った。そして開口一番に
「櫤山、すまなかった」
と頭を下げた。瑛子は謝られるとは思っておらず困惑した。それに何に対して謝っているか分からなかった。
「先生、頭を上げてください。私なんで自分が頭を打ったかも、その状況もわからないんです。まず、説明してもらえますか?」
と訊くと、芦谷先生は頭を上げて話し始めた。
「体育の授業を受けたのは覚えているか?」
瑛子は頷く。芦谷先生は続けて
「あの日、お前は体育館倉庫でバレーコートのネットを一人で畳んでいただろう? その時倉庫から、大きななにかが倒れる音がしたんだそうだ。みんなが倉庫に行くと、お前が倒れていて、その隣に、バレーボール支柱が転がっていた。バレーボール支柱は固定されていたはずだ。どうだったか覚えているか?」
と訊かれ、瑛子はそんなことがあったのかと驚きながら
「はっきりと見た訳じゃありませんけど、固定されてなかったら気が付くはずなので、固定してあったんだと思います」
と答えた。芦谷先生は頷くと
「倉庫に一番最初に駆けつけた体育の山田先生が、咄嗟に機転を利かせて事故と事件の両方を疑って、倉庫の裏手、つまり外から入れるドアを確認しに行ったが、鍵がかかっていたそうだ。だが、事故にしても、バレーボールの支柱を固定して置いてある場所から、お前が倒れていた場所までが遠すぎた。それにバレーボールの支柱は片付ける際に、安全面から固定されているかダブルチェックをするだろう? 事故にしてはおかしい。となった。後は警察の方で調べているから、任せよう」
と言ったあと芦谷先生は
「櫤山、お前を守りきれなくてすまなかった」
と言った。瑛子は慌てて
「それは違います!」
と言ったが、芦谷先生は
「いや、お前が守るのを辞めて欲しいと言った時に、反対すべきだった」
と、もう一度頭を下げた。瑛子は笑うと
「先生、その言い方だと私が完全に間違ってたみたいになってますよ?」
と言い、次いで
「それに最初の二ヶ月ぐらいは、本当に平和でしたし。たぶん犯人の中でなにかが変わったんだと思います」
と言った。芦谷先生は
「わかった、お前がそう言うのならそうなんだろう。だが、お前が私を許してくれても、私は自分を許せそうにない。二度とお前を一人にして、危険な目に合わせるようなことはしない。お前が倉庫で倒れてると聞いたとき……」
と言うと、一瞬苦しそうな顔をし瑛子を見て微笑んだ。そして
「とにかく、次は必ず守る」
と瑛子を見つめた。瑛子は、先生は責任感からこんなことを言っているだけ、勘違いしてはダメだ。と自分に言い聞かせながら頷いた。そして、それを見て芦谷先生も頷いた。すると今度は少し戸惑った様子になり
「ところで、もうひとつ話しておかなければならないことがある。文化祭の舞台袖での件だ」
と、言った。瑛子は慌てて
「あっ、その件ならわかってます。大丈夫ですから、私、変に勘違いしたりしてませんから!」
と芦谷先生がなにか言おうとしているのを遮った。芦谷先生はしばらく無言になってから
「櫤山、私は」
となにかを言いかけたところで、勝が部屋をノックした。
「先生、お茶もお出しせずにすみませんでした」
と、お茶を持って入ってきたので、瑛子が
「お父さん、遅いよ。先生はもう帰るって」
と言った。芦谷先生は瑛子を見て、ため息をつくと
「櫤山、話はまだ済んでいない。お前は勘違いをしている。色々なことが終わったらちゃんと話をしよう」
と言うと、勝に挨拶をして帰っていった。瑛子はこれ以上なにを話すことがあるのだろうか? 勘違いなんてしてないのに……。と思った。
それから数日休んで安静にしてすごした。瑛子には頭を打った時の記憶が全くないので、学校が怖いと言う気持ちはなかった。なので、勝も冴子も反対したが瑛子の強い希望もあって、学校に行くことにした。
学校に行く日、和木野美依が家まで迎えに来てくれた。玄関で、和木野美依は
「瑛ちゃん、お見舞い来れなくてごめんね。芦谷先生から瑛ちゃんは安静にしてないといけないから、お見舞いとかは控えろって言われてたんだよね」
と言って謝った。瑛子は芦谷先生がそんな配慮をしてくれていると知らなかったので、ありがたいと思いながら
「そうなんですね、全然気にしてないですよ! それより今日迎えに来てくれて、ありがとうございます」
と言って頭を下げた。和木野美依は
「昨日、瑛ちゃんのお父さんに電話して、瑛ちゃんのこと訊いたら、今日から学校に来るって言うから、迎えに来ちゃった」
と言って笑った。瑛子は勝と和木野美依が、そんなやり取りをしているとは知らず
「びぃちゃん、ありがとう」
と、心から感謝の気持ちを伝えた。和木野美依は照れ臭そうに微笑むと
「瑛ちゃんには、勉強教えてもらわないとだしね」
と笑った。そして、急に申し訳なさそうに
「それと……」
と言って後ろを振り向いた。そこに神成緑、催馬楽学、栗花落先輩が立っていた。和木野美依は
「瑛ちゃんが入院した日、三人から瑛ちゃんのこと根掘り葉掘り訊かれて……」
と言ったところで、神成緑が
「瑛子、お願いだからそばにいさせて欲しい。あの手紙が来て、瑛子を疑って近づいたことに、瑛子は怒ってると思う。それもあって距離を取りたいと思ったとしても、俺らは文句言えなかった。でも、現に瑛子があんな目に遭うなんて、もう二度と耐えられない、無理だ」
と言うと、栗花落先輩は
「本当に心配したんだ。一秒でも早く君の元気な顔を見たくて、それなのにそばに居れなくて辛かったけど、それより一番辛い思いをしたのが、君だと思うと後悔しかないよ」
と言い、次いで催馬楽学も
「そうでなくても、今まで学校や教室で同じ空間にいながら、君と言葉も交わせない時間が、どれだけ辛く長く感じたか。お願いだ、君のそばで、僕に君を守らせて欲しい」
と言った。瑛子は三人がこんなことを思っているとは思いもよらず
「えっ? 私は怒った訳じゃないです。私だって寂しい思いもしましたけど、みんなを、私を守る役目から解放したかっただけなんですよ? それに、あの手紙のことを調べたいなら、きっと丹家さんと関わった方が、情報も入ると思うんですよ。だって、私、モブだし」
と答えると、催馬楽学が
「瑛子、今、僕らと離れて寂しいと思ったって言ったか? 本当か? 瑛子もそう思ってくれてたのか?」
と言いながら、瑛子にゆっくり近づくと、瑛子の手を取った。瑛子はその気迫に圧されとりあえず無言で頷く。すると
「なんだよ、そうだったのか」
と、満面の笑みで神成緑が右横から瑛子に抱きついた。瑛子はビックリして
「えっ? 神成君? ちょっと、なにやってるんですか!」
と、それを振り払おうとしたが、今度は左横から
「瑛子……」
と、栗花落先輩が神成緑ごと瑛子を抱きしめた。そこに催馬楽学も加わる。瑛子は
「ちょっ……苦しい。みんなわかったから、離して、離して、びぃちゃん、助けて……」
と言って、隙間から空間に向かい手を出し上下したが、和木野美依は
「みんな、仲直りできて良かったね。凄い悩んでたみたいだから、本当に良かった」
と、言うだけだった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※余談ですが、筆者も脳震盪をやったことがあります。その直後、一ヶ月分の記憶が飛びました。色々なきっかけで一ヶ月分の記憶は取り戻すことはできたのですが、事故前後数時間分の記憶は戻ってきませんでした。
瑛子は話の都合上、記憶喪失にはしませんでしたが、実際はその日の朝ぐらいからの記憶が飛んだりします。




