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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
皿を片付けると、瑛子はふと疑問を口にした。
「先日の件のことで気になったことがあるんですが」
と、瑛子が言うと、芦谷先生は
「なんだ?」
と、瑛子を見た。
「芦谷先生は、なぜあの現場にいらしたんですか?」
すると、芦谷先生は少し困った顔をしたが、苦笑し
「あの日は、なんとなく君の様子がおかしかった。その上珍しくあんな時間に一人で駐輪場に向かって歩いて行く姿が見えたからな、なにかあると思った」
と言った。瑛子も苦笑すると
「見られてたんですね、すみません。今度からは必ず先生に報告してから行動します」
と謝った。芦谷先生は
「今度からは、あんなことは絶対にさせない。それにそんなことになる前に犯人を見つけないとな」
と微笑んだ。
「戻ったぞー!」
玄関から声がした。勝が帰ってきたようだった。勝は上機嫌で
「それにしても、僕の瑛子はモテモテだなぁ。世界一可愛いから、しょうがないよなぁ。でも、誰にもやらん!」
と、言ったところで、芦谷先生の靴を見つけたようで
「瑛子、この靴誰のだ? 誰か来てるのか?」
と言った。瑛子は慌てて玄関に向かいながら
「お父さん、先生、芦谷先生来てるの! 変なこと言わないで!」
と勝を制した。勝は慌てて
「先生? あっ、いや、芦谷先生になら、瑛子をもらってもらうのはかまいません」
と言い始めたので、瑛子は更に慌てて
「違う、違う! 学校の話! 学校の話をしに来たの!」
と言うと、芦谷先生が
「その件につきましては、私としてもやぶさかではありませんが、残念ながら今日は先日の瑛子さんの学校での一件について報告に上がりました」
と言って笑った。瑛子は、やぶさかではないんかーい! と心のなかで突っ込みを入れつつ、先生ってこう言う冗談の通じる人だったの、と驚いた。勝はまだ慌てており
「はい、ではその件は後日改めまして。今日はこの前の学校での件ですか? 休日なのに、わざわざすみません。今、お茶をお出しします」
と、台所に向って数歩進むと、突然立ち止まって振り向き
「瑛子はもう寝なさい」
と言った。瑛子と芦谷先生は顔を見合わせて笑った。瑛子は芦谷先生に
「きっと、私は聞かない方が良いお話なんですよね?」
と訊いた。芦谷先生は
「まだ、途中報告だ。全て終わったら、君にもちゃんと説明できると思う」
と言った。瑛子は頷き
「約束してくださいね」
と言って自室へ戻った。
自室へ戻ったあと、瑛子は色々考えた。恐らくみんな、私の知らないなにかを隠している。それがわからずモヤモヤしたが、それを私が知ることによって、問題が生じるかもしれず、だからこそみんな、その事実を隠し通しているのだろうと思った。なので、もどかしくもあったが、事件が解決するのを待つしかないのだと瑛子は思った。
その後も、その件に関してのこれといった話はなく、気がつけば更に数週間が立とうとしていた。
六月には体育祭があり、瑛子たちはその準備に追われ少し慌ただしい日々を過ごしていた。特に瑛子は、体育祭の実行委員に催馬楽学と一緒に選ばれていたため、雑務や、週一で行われる委員会に出席する必要があったりと、多忙を極めた。
その週に一度の委員会の日のこと。必要なプリントを持って来るのを忘れ誰もいない教室に催馬楽学と戻ると、机のなかを探していた。
「おかしいな、持ってきたはずなんですけど」
と机の中を探る瑛子を、教室内の廊下側の壁に寄りかかって待っている催馬楽学が
「ゆっくり探すといいよ」
と、しばらく待ってくれていた。そこに通りかかったヒロインこと丹家栞奈が、こちらに気づくと
「ちょっと、あなたなにやってるの?」
と、教室の入り口から声をかけてきた。何をやってるの? ってそりゃプリント探してるんですよ。と、思いながら
「私、教室に忘れ物しちゃったみたいで」
と言った。するとヒロインは
「喪山さん、あんた今一人よね? どうせ男漁りで誰か待ってるんでしょ!?」
と笑った。瑛子は思わず行動を止めた。催馬楽学が、ヒロインに何か言おうとしたが、瑛子はヒロインに気づかれないように、そっと首を振ってそれを制した。ヒロインは
「私、知ってるのよ? 昼休みになにかやってるって噂話。その噂話が広がるって知った時、モブの癖に目立ちすぎなのがムカついてたから、正直ざまぁって思っちゃったし!」
と言った。瑛子はヒロインをまっすぐ見据えて
「どういうこと?」
と訊く。ヒロインは
「やっだ、超こわっ! 今はちやほやされてるかもしれないけど、これからちゃんと軌道修正するから、後で可愛そうなことになるかもね。あはは!」
と言いながら去っていった。話をじっと聞いていた催馬楽学は不愉快そうに
「なんだあの女は」
と怒りを露にしたが、瑛子は彼女がモブと言ったことと、噂の話を知っていたことがきになっていた。催馬楽学が
「最近、大人しいと思っていたが、なにか仕掛けてくるかもしれないな」
と言った。瑛子は気を取り直し、必要なプリントを机の中から見つけると、とりあえず委員会に出席した。委員会の最後に担当の坪野先生が
「今週の『体育祭だより』は、櫤山さんにお願いします。明日の放課後までに原稿を 私のところまで用意して持ってらっしゃい」
と言った。委員会の最後にバッチリ先生と目が合ったので、ヤバイ、頼まれる! と、思ったら案の定であった。
明日が提出期限なら、今日か明日には仕上げなければならなかった。催馬楽学が
「瑛子、手伝おうか?」
と、言ってくれたがそこまで甘えるわけにはいかないので
「やれるだけやってみて、駄目ならお願いするかも。その時は宜しくお願いします」
とだけ伝えた。その日は催馬楽学が家まで送ってくれて、帰り際に
「瑛子、本当に丹家さんには気を付けた方がいいよ。彼女なんかおかしい気がする」
と、忠告して帰っていった。瑛子は、入学式の時から彼女も前世の記憶があるのではないかと薄々感じていた。前世のことを知らない催馬楽学には、彼女の台詞はさぞ奇異な存在に見えたに違いないだろうと思った。
帰宅して、直ぐに『体育祭だより』の作成に取りかかる。記事の内容は、現在の準備の進行状況や、決定されたプログラム内容、執行部紹介、当日の配置割りなどを分かりやすく図解で説明して、空いているところにはイラストを適当につければ終わりだ。前世で働いた経験があるので、こういった記事を書くのはさほど苦ではなかった。
それでも、資料を漁るのに手間取られ、書き上げるのに時間がかかった。手書きにしなければいけないのも時間がかかる要因だった。
出来上がった記事を読み直したあと、椅子に座ったまま思い切り伸びをした。
そして改めて、今日ヒロインに言われたことを思い出していた。彼女が同じく前世の記憶を持っていて、この世界を舞台にした“晴れ彼”を攻略していたとして、本当に『これから軌道修正する』のは可能なのだろうか? それはこれから巻き返して、攻略対象者と仲良くして攻略すると言うことだろうか?
だが、ここは現実であってゲームではない。そんなことは到底不可能のように思われた。
次の日の午後、昨夜書き上げた『体育祭だより』を坪野先生に提出して帰ろうと思い、原稿を入れていたカバンを見ると入っていなかった。瑛子はヤバい、忘れた? と、思いながら他の場所を探すと机の中の一番奥に、ビリビリに破かれた原稿を発見した。嘘でしょ! と思いながら、原稿を取り出した。
とりあえず、嘆いていても仕方がないので、書き直すことにした。提出は今日の午後までなので、なんとかすれば間に合わなくもない。
今日は勝に送ってもらうつもりでいたので、幸い帰るのが遅くなっても、誰かを待たせることもない。
瑛子は気持ちを切り替えて、昨夜記事を書くのに参考にした、体育祭実行委員のプリントを引っ張り出し、原稿を書き始めた。
書くのは二度目なので、内容を覚えていることもあり、書き上げるのはそんなに難しいことではなかった。
夢中になって書いていると、机を誰かにトントンと叩かれる。見上げると芦谷先生だった。
「先生、どうしたんですか?」
と、瑛子が驚いて見上げていると
「それはこちらが訊きたいんだが」
と、芦谷先生は苦い顔をした。瑛子は
「実は原稿を書いたんですが、誰かに破かれてしまって。期限が今日までなんで、書き直してました」
と言うと、芦谷先生は
「そう言う時は、先生に事情を説明して期限を明日にしてもらえばいいだろう」
と言って、ため息をついた。瑛子は
「書き直せばあっという間です」
と答えたが、芦谷先生は瑛子の前の席に座ると
「それでも、だ」
と言った。そして続けて
「そもそも、原稿が破かれていた時点で報告が欲しかった」
と言った。瑛子は
「すみません」
と謝った。芦谷先生は
「謝らなくていい、心配しているから用心して欲しいだけだ。で、もう終わるのか?」
と瑛子の手元の原稿を覗き込む。瑛子は
「あと、イラスト書けば終わりです」
と、原稿を見せる。芦谷先生はサッと目を通すと
「良い原稿じゃないか、じゃあ待ってるからイラストを書いてしまいなさい」
と微笑んだ。瑛子は驚いて
「えっ、今日はお父さんに迎えに来てもらおうと思っていて」
と言ったが、芦谷先生は腕時計にチラリと視線を落とすと
「いや、今日は私もこの後なにもない。送っていく。ほら、早く書きなさい」
と言った。
誤字脱字報告ありがとうございます。