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第十三話 ~永久さんとの二回目のデート・彼女からの魅惑の誘いには乗らない決意をしました~

 第十三話





「お風呂をありがとうございました」

「どういたしまして。まぁ……永久さんの家の風呂には負けちゃうけどね」


 俺の部屋の扉を開けて、パジャマ姿の永久さんが姿を現す。

 お風呂上がりの彼女は、顔がほんのりと赤く色付き、身体からは湯気が出ている。

 男を惑わす色気が漂っている……


 ホント『グローブを磨いていなかったら』危なかった……


 精神を統一するために、俺はグローブを丹念に磨いていた。

 硬球を扱うことが増えた。とは言え、何年も共に過ごしてきたこの相棒を粗末に扱うつもりは無い。

 このグローブは俺の宝物だ。



「そんな事ないですよ?霧都くんのお風呂もとても清潔感があって気持ち良く入れました」

「あはは。掃除はこまめにしっかりとやってるからね」


 俺はそう言うと、グローブを机の上に置く。


「ちょっと手を洗ってくるね」

「はい」


 部屋を後にした俺は洗面所で手を洗う。


「無理だろ……」


 破壊力が……破壊力が凄すぎる……


 勝てる気がしない……


 武藤先輩を打席で抑えろって言われた方がまだ勝算があると思えるくらいの絶望感を味わっている。


「と、とりあえず……すぐに寝よう……」


 そうだよ!!寝てしまえば大丈夫!!

 どっかのトラブル体質の主人公は寝ている時ほどヤバいけど、俺はそんなことは無いはずだ!!


 手を綺麗にした俺は部屋へと戻る。


 そして、永久さんはやはり、俺のベッドの中に入っていた。


「ふふふ。お待ちしておりました」

「う、うん……」


 掛け布団の隙間から顔をのぞかせる彼女に、俺の心臓がうるさい位に跳ねる。


「明日は学校だから早めに寝ようね」

「私は夜更かししても良いと思ってますよ?」


「わ、悪い子だね……」

「ふふふ。霧都くんは私にどんな『おしおき』をしてくれるんですか?」


 そう言ってイタズラっぽく笑う彼女。どうやら何を言っても俺に勝ち目は無い……


「布団の中を温めておきました。どうぞ」

「お、お邪魔します……」


 俺はそう言って、永久さんの待つ布団の中に入る。


 無理!!無理!!無理!!

 なんかすごく良い匂いがする!!

 理性がガリガリ削られてるよ!!


「ふふふ。霧都くん。そんなところに居たら落ちちゃいますよ?」

「……っ!!??」


 むにゅん。という感触が背中に訪れる。

 永久さんが俺の身体を抱きしめていた。


「……その、永久さん」

「はい……」


「お、俺も男だからさ……その……」

「…………良いですよ?しても」


 ………………。


 俺は彼女の方に振り向き、キスをした。


「……んぅ」


 舌を入れる深いキス。彼女の柔らかい身体を抱きしめながら、これまでで一番長く、唇を重ね合う。


 唇を離した俺と永久さんは熱っぽい視線で見つめ合う。


「…………霧都くん、好きです」

「うん。俺も好きだよ……」


「でも、今はしない」

「……っ!!!!!」


 俺ははっきりと彼女に告げた。


「ねぇ、永久さん。何か『焦って』無いかな?」


 そう、これは俺がずっと感じていた『違和感』


 俺と身体を重ねることを焦っているように思えた。


「…………そうですね。私は少しだけ焦っていたと思います」


 永久さんは瞳を伏せると、そう呟いた。


「原因はやっぱり……凛……っん!?」


 凛音。と言おうとした俺の唇を永久さんがキスでふさいできた。


「……その名前を呼ばないでください」

「…………わかった」


 昏く淀んだ瞳。永久さんが見せる深い愛の部分。


「原因は彼女です。ですがその理由を話したくありません」

「そうか……」


「その事を話すこと自体が、彼女にとっての利益になってしまうからです」

「…………そんなことがあるんだね」


 俺がそう言うと、永久さんは俺の身体を抱きしめる。


「貴方とひとつになりたい。その気持ちは嘘じゃありません。焦っている。そういう所もありますが、求められたいという気持ちもあります」

「俺も健全な男子高校生だから、そういうことをしたい。という気持ちはたくさんあるよ」


 俺がそう言うと、永久さんは少しだけ寂しそうに笑う。


「でも、しないんですよね?」

「うん。今日はしない」


 俺がそう言うと、永久さんは納得してくれたのか身体を横にした。


「貴方の身体を抱きしめながら寝かせてください」

「うん。いいよ」


 そう答えて、俺と永久さんは抱きしめ合いながら横になる。


「もし、貴方が我慢出来なくなったら、私は受け入れますからね?」

「あはは……とても魅惑的なお誘いに心が折れそうだよ……」


 俺はそう言うと、手元のスイッチで部屋の明かりを落とす。


 オレンジ色の明かりに照らされて、永久さんの表情もまた一段と魅惑的に見えた。


 我慢するって決めただろ。少なくとも、俺と彼女の最初は今じゃない。


 俺はそう決意して、目を閉じる。


「おやすみ。永久さん」

「はい。おやすみなさい、霧都くん」


 そう言って俺と永久さんは眠りについた。





 あれほどの愛の深さを胸に抱いている永久さんにしては、今夜はしない。と言ったことに対して随分と『聞き分け』が良かったよな。


 そんなことを思いながら、俺は意識を手放した。

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