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美鈴side ① 前編

 美鈴side ① 前編





『凛音を含めた女子三人とご飯を食べて、少しゲームセンターで遊んでから帰る』

『帰りが遅くてもそこまで心配しないで大丈夫だよ』


 そう言うメッセージが私のスマホに入っていた。


 全く。入学式早々に女の子三人と遊んでくるなんて。

 ずいぶんとお兄ちゃんも『モテる男』になったもんだ。


 なんて思っていた。


 あの女にふざけた理由で振られて、自暴自棄になってないか?そう心配をしていたけど、その心配は無いみたい。


 だけど、その日。お兄ちゃんはなかなか帰ってこなかった。


 時計の針は十九時を示していた。


 おかしい。


 こんな時間になっても帰って来ないことじゃない。


 なんの連絡もない事がおかしい!!


 外はシトシトと雨が降ってきている。


 お兄ちゃんは傘なんて持ってないはずだ……


 私は不安になってスマホを手にした。


 とりあえず電話しよう!!


 その時だった。


 ガチャン


 と言う音と共に玄関の扉が開いた。


 お兄ちゃんだ!!


 私は玄関へと走った。


「お兄ちゃんおかえり!!もー!!遅いから心配し…………え」

「……ただいま、美鈴」


 そこに居たのは、ずぶ濡れになって、自暴自棄になって、この世からいなくなってしまいそうな雰囲気を身にまとった、お兄ちゃんの変わり果てた姿だった。







 朝。私はいつもの時間に目を覚ました。


 お兄ちゃんは眠れたかな。


 帰ってきたばかりのお兄ちゃんは、もう死んでしまうのかと思うような感じだった。

 でも、最後にはお兄ちゃんは前を向いてくれたように思えた。


 ……許せない。


 私のお兄ちゃんをこんなにしたあの女を。


 お兄ちゃんは、私にあの女を嫌いにならないで欲しい。と言ってきた。


 ……無理だよ。だって、大好きなお兄ちゃんをこんなにしたあの女を、許せるわけが無い……


 私はパジャマを脱いで、制服に着替える。


 下の階に降りると、お兄ちゃんが身支度を整えていた。


 いつもより少しだけ早い時間だ。


 きっと、駅に『北島永久さん』を迎えに行くんだ。


 お兄ちゃんを小学生の頃からずっと好きだったと言った女性。


 まだ、会ったことは無いけど、悪い人ではないような気はしてる。


 だから、会ってみようと思った。


 『妹』の私はお兄ちゃんと結婚出来ないから。


 この気持ちは……諦めたから。


 だから、私の代わりにお兄ちゃんを幸せに出来る人じゃないと認められない。


 あの女は私の目には『お兄ちゃんを幸せに出来るとは思えなかった』けど、『お兄ちゃんが好きな人』だから認めていただけ。


 なんであの女をお兄ちゃんが好きだったのか……全然わかんないし、どこを好きになったのかも知らない。


 まぁ、もうどうでもいいか。あんな女のことは。


 私はそう結論付けると、お兄ちゃんに話しかける。




「おはよう、お兄ちゃん。昨日は良く寝れた?」

「おはよう、美鈴。お前のお陰で良く寝れたよ。ありがとう」


 その言葉は嘘じゃなさそうだ。昨日よりずっと良くなった顔色を見て、私は安心する。


「それなら良かったよ。家に帰ってきたばかりのお兄ちゃん。正直なところ、このまま死んじゃうかと思ってた」

「あはは……あながち間違いでも無いかも」


 辛そうに笑うお兄ちゃん。私はやっぱりこの気持ちを我慢出来ない。


「私は……凛音ちゃんを許せない」

「うん。許す許さないは美鈴の気持ちだから良いよ。でも、嫌いにはならないで欲しい」


 はぁ……お兄ちゃんは本当に優しい……いや、甘いのかな……


「はぁ……まぁ、良いよ。それで、これから駅に行くんでしょ?」

「うん。北島さんを迎えに行く」


 強い目。キチンとお兄ちゃんの意思が込められているのを感じる。うん。身体の疲れは取れてるみたい。


「気を付けて行ってきてね。身体の疲れは取れてるかもしれないけど、心の疲れはなかなか取れないよ?」

「うん。心配してくれてありがとう、美鈴」


 そう言うと、お兄ちゃんは私を抱きしめてきた。


 ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!??????


「お、お兄ちゃん!!??」


 どうしてどうしてどうして!!!!???


「俺も、お前と血が繋がって無かったら、結婚してたな」

「……っ!!??」


 お、お兄ちゃん!!!???


「そのくらい。昨日のお前には助けられたし、心を救ってもらった。本当にありがとう。美鈴。俺はお前を心から愛してる」


 ギュッと抱きしめられて、お兄ちゃんの愛を感じる。


 好き……お兄ちゃん


 本当に私は……お兄ちゃんが大好きなの……


「…………ばか。そんなん言われたら諦めらんないじゃん」



 私は泣きそうな気持ちになりながら、お兄ちゃんの胸で呟く。


 聞こえないでね……お兄ちゃん


 そして、私はお兄ちゃんの身体を押し返した。


「ほら、早く行きなよ。未来の嫁が待ってるぞ」


 私は冗談ぽく笑いながらそう言う。


「あはは。そうだね、約束しておきながら初日から遅刻なんて軽蔑されちまう」


 お兄ちゃんはそう言うと、カバンを掴んで玄関へと向かう。


 私はそれを見送る為について行く。


 革靴を履いたお兄ちゃんは振り向いて私に言う。


「じゃあ、行ってくるよ」


「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん」



 私は笑顔でお兄ちゃんを見送る。


 お兄ちゃんとの新婚さんの気分を味わいたいから続けてるこの行為。


 お兄ちゃんが玄関の扉を開けたときだった。


「…………待ってたわよ」

「……え、凛音」

「り、凛音ちゃん!?」



 私の『敵』が玄関の前で待ち構えていた。


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