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第二十一話 ~武藤先輩の諦めの悪さには少し困りものでした~

 第二十一話





『それではこれで第50回 海皇高校予算会議を閉会しようと思います。皆さんご協力ありがとうございました!!』


 そう言って俺は一礼をしたあと、マイクを置く。


 放送部の人に視線を送ると、動画の配信が終了になる。


「つ、疲れた……」


 俺はようやく気が抜けるようになったので、椅子に座って背もたれに体重をかける。


「ふふふ。お疲れ様でした、霧都くん。かっこよかったですよ?」


 永久さんがそう言いながら、常温の麦茶のペットボトルを蓋を開けた状態でくれる。


「ありがとう、永久さん。君や桐崎さんが頑張ってるのが見えたからね。俺だけ情けない姿を見せる訳にはいかなかったよ」


 少しだけ中身が減ってる麦茶。俺がそれを飲みながらそう言って彼女に笑いかけると、


「おう、桜井!!やっぱり俺は納得いかねぇぞ!!」


 武藤先輩が話に割り込んできた。


「えと……予算の件ですか?」


 金券なんてものじゃやっぱり納得出来ないぞ!!

 って話なのかな……


 なんて思っていると、どうやら違ったようで。


「金なんかどうでもいいんだよ!!なんで野球部で投手をやらないんだよ!!」


 お前ならエースになれる。来年も甲子園に行ける。

 俺と一緒にプロの世界にだって手が届くぞ!!


 そう言う武藤先輩に、俺は首を横に振る。


「武藤先輩の言葉はとても光栄です。ですが、俺が公式戦で投げることは無いと思ってください」

「……な、何でだよ」


 俺が強く否定したからだろうか。武藤先輩は少しだけたじろいでいた。


「真面目に練習をしている他の野球部の人に失礼だからですよ。俺はあくまでも『生徒会の人間』です。野球部の為に雑務を行うのは喜んでやります。球拾いでもトス出しでもバッティングピッチャーでもなんでもやりますよ」


「ですが、こんな半端な人間が、真面目に練習をしている野球部の人を差し置いて『それなりに実力があるから』なんて理由でほかの選手の背番号を奪ってまで公式戦に出るのは失礼です」


「これが、俺が武藤先輩の誘いを断る理由です。ご納得いただけましたか?」


 俺がそう言うと、武藤先輩は少しだけ思案したあと、大きなため息をついた。


「はぁ……確かに桜井の言う通りだな。他の野球部のやつに失礼だ。真面目に俺の二番手になろうとしてる奴もいる。そういう人間の気持ちを考えてなかったな」

「練習の手伝いならいくらでもやります。それで勘弁して貰えませんかね?」


「あはは。わかったよ、桜井。お前がバッティングピッチャーをしてくれたから、昨日の練習試合では、相手のエースを打ち崩せたんだ。また練習に付き合ってくれ」

「はい!!喜んで!!」


 握手を求めてきた武藤先輩に俺は応じた。


「……わわ!!」


 握手をした俺の手を引き、武藤先輩は俺の耳元で言う。


「俺はしつこいからな。これで俺が諦めたと思うなよ?」


 バン!! と背中を叩いて、武藤先輩は会議室を出て行った。


「はぁ……諦めてくれないかなぁ……」

「あはは……霧都くんも大変な人に認められてしまいましたね……」


「光栄なこと……だとは思うけどね」

「ですが、野球部の人に配慮した霧都くんの言葉。私は感銘を受けました。とても素敵な考え方だと思います」


「あはは……公式戦でチームの進退を背負って投げる覚悟が無いだけだよ……」

「ふふふ。そういうことにしてあげますよ」


 そして、そんなやり取りをした後に、俺は桐崎先輩の元へと向かう。


「武藤先輩の質問内容は、先輩の入れ知恵ですよね?」


 俺がそう聞くと、先輩はニヤリと笑う。


「まあな。あの男が金のことなんか気にする訳ないだろ?あいつが欲しいのは金なんかじゃない。 ……それはわかってるだろ?」

「まぁ……そうですね。結構強めにお断りしましたが諦めてはくれてないみたいです」


「ははは。そりゃあそうだろう。俺なんか今でも言われるぞ。野球部に入らないか?ってな」


 あと何ヶ月出来るって話だよ。


 なんて言って先輩は笑っていた。


「それで、桜井庶務。君の腹案はいつから考えていた?」


 スっと目を細めて先輩が俺に聞いてきた。



「先週末ですね。先輩から借りた予算会議の動画を穴が空くほど見ました。そこで、今年のキモになる部分にあたりを付けてました」


「ちなみにこの金券の制度ですが、国債のような使い方をしても良いと思ってます」


「仮に生徒会が資金不足になった時に、出来高の支払いを滞らせないための一手段にもなるかと考えてます」


 俺がそう言うと、先輩は軽く思案した後に俺に言う。


「なるほどな。そこまで考えていたのか。桜井庶務。やるじゃないか!!」


 笑いながら先輩は俺の肩を叩いてくれた。


「よし。明日以降はその金券のデザインや使用期限なども話し合う事にしよう」


「はい!!」



 こうして、生徒会の一員として迎えた初めての予算会議は成功のうちに収めることが出来た。



 そして、配信された動画を見た『女性の先輩方』から『桜井くん頑張ってたね!!』と、たくさんの支援金が俺宛に入り、それがまた永久さんの目のハイライトを奪う一因となっていたのは、ホント勘弁して欲しい……



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