激突! 幽霊vsマッチョ!
長岡更紗様主催『肉マッスルフェス3』投稿作品です。
おバカネタです。
幽霊は前半シリアスですが、後半見る影もありません。
とにかく筋肉は全てを解決するのです。
そんなお話です。
どうぞ色々と諦めてお楽しみください。
夜の廃病院。
若者達が懐中電灯を片手に肝試しにやって来ていました。
「おい棚下ぁ。ここまじでやばいんじゃねぇの?」
「何だよびびってんのか錫綺ぃ。幽霊なんかいるわけないだろ」
「だ、だったらさ、や、やめようよ棚下君……。幽霊いないなら、ここんなところ入る意味ないじゃん……」
「鷹走ぃ。びびってる顔も可愛いぜぇ」
「やめなよ棚下。鷹走マジでこういうの苦手なんだから」
「あ、ありがとう里雨さん……」
「けっ、里雨は可愛げがねぇなぁ。もうちょっと女らしくびびれよぉ」
「棚下さいてー」
立入禁止の柵を乗り越え、男女四人は中へと進みます。
「おい知ってるか? ここには病気で死んだ女の幽霊が出るって話……」
「や、やめてよ棚下君! 幽霊いないってさっき言ったじゃん!」
「棚下のやつ鷹走ちゃんに気があるもんだから、吊り橋効果と男らしさアピールでここ選んだらしいぜ」
「錫綺ぃ! お前何でそれ言うんだよ!」
「うわー、棚下ガチめにさいてー」
「うっせぇな里雨! 大体お前はいつもガサツで女らしくなくてよぉ!」
「お、おんな……?」
「そうだよ! もっと女らしく……!」
「ち、違うの……。後ろ……、女が……」
震える里雨の声に棚下が振り返ると、そこには入院着を来た髪の長い女が、ゆらりと立っていました。
「で、出たー!」
「出たーじゃないわよ! あんたのせいでしょ何とかしなさいよ棚下!」
「できるかぼけぇ! あ! 錫綺ぃ! てめぇ逃げるの早過ぎるだろ!」
「棚下! お前の事は忘れないよ! 三日ぐらい!」
「あ! しかもさりげなく鷹走お姫様抱っこしやがって!」
「あ、ありがとう錫綺君……」
「どういたしましてプリンセス」
「あいつ随分余裕あるな! ちくしょううまい事やりやがって!」
「馬鹿な事言ってないで! 私達も逃げなきゃ!」
逃げる四人を髪の長い女が追いかけていきます。
何とか車に乗り込むも、エンジンがかかりません。
「やばいって! 来てるって!」
「やってんだよ! くそ! 何でかからねぇんだ!」
「鷹走ちゃん大丈夫、僕が君を守るから」
「錫綺さん……」
「錫綺ぃ! この非常時に何やってんだてめぇ!」
「いいから早くエンジンを……! きゃあ!」
女がフロントガラスに両手を押し付け、虚な目で車内を覗き込みます。
そしてバン! バン! とガラスを叩き始めました。
「ひぃ……!」
「棚下! びびってないで、とっとと車動かして!」
「わ、わかってるけどよぉ……! 手が震えて……!」
その間にもフロントガラスを叩く音は激しさを増していきます。
「やべぇ……! 何か音増えてねぇ……!?」
「ば、馬鹿な事言ってないでさっさとエンジンかけなさいよ!」
「あのー」
「だって横からも聞こえるぜ……!? 幽霊増えてるんじゃ……!」
「ば、馬鹿な事言ってないで早く!」
「あのー。もしもーし」
「ほら、何か男の声が聞こえるしよぉ……!」
「や、やめてよ! 鷹走が錫綺に取られたからって今度は私!? そういう口説かれ方好きじゃない! ちゃんと面と向かって……!」
「あのー、すみませーん。もう走らないんですかー?」
「!?」
ちょうど髪の長い女とフロントガラス上で線対称の位置に、角刈りのマッチョがフロントガラスを叩きながら覗き込んでいました。
「ぎゃあ! マッチョの幽霊が増えたー!」
「な、何なに何なのよー! もう嫌ー!」
「いやー、僕幽霊じゃないですよー。見てくださいこの大腿四頭筋!」
マッチョが足をボンネットの上に乗せます。
まるでニンニクを引き伸ばしたかのような筋張った足が、ボンネットを軽く凹ませました。
「に、人間!? な、何であんた、こんなところに……!?」
「いやー、日課のジョギングをしていましたら、シャトルランをやっているあなた方を見かけたので、一緒にトレーニングをしようかとー」
「シャトルランじゃないの! 幽霊に追われてたの! その! そこにいる髪の長い女の幽霊に!」
指差された女の幽霊は、ボンネットを叩くのをやめて、じーっとマッチョを見ていました。
『シャー!』
「うわ! 何か怒ったぞあいつ!」
「きゃあ! マッチョさん!」
質量を持った怨念といった雰囲気の、黒い泥のような霧がマッチョに襲いかかります。
「ふん! サイドチェスト!」
マッチョがポーズを取ると、黒い霧が文字通り霧散しました。
「……え?」
「……は?」
『……。っ!』
我に返った幽霊が、マッチョに黒々とした髪を伸ばします。
たちまちマッチョは全身に髪の毛が絡み付いてしまいました。
「きゃあ! だ、大丈夫ですかマッチョさん!」
「大丈夫なわけねぇだろ! 身体中締め上げられてんだぞ!?」
「大丈夫ですよ」
「えっ!?」
「は!?」
「強めの加圧トレーニングって感じで、いいですよこれ!」
言うなりマッチョは、おもむろにスクワットを始めました。
「いいぞー! 効いてる効いてるー! 大臀筋! 楽しんでるかい!? 大腿四頭筋! 気持ちいいだろう! ハムストリング! 君の事も忘れてないぞ!」
「……」
「……」
『……』
棚下も里雨も幽霊も、口をぽかんと開けて、夏の妖精を歌うアーティストのような姿のマッチョのスクワットを眺めていました。
スクワットを終えたマッチョは、にかっと幽霊に笑いかけました。
「いいトレーニングさせてもらいました! 聞けばあなたは幽霊との事! よろしければ僕のトレーニングをこれからも手伝ってもらえませんか!?」
『……え……』
「お願いします!」
マッチョが頭を下げながら差し出した手に、女の幽霊は戸惑った様子です。
ちらっと棚下と里雨を見ますが、見られても困る二人は、とりあえず手で『どうぞどうぞ』と示しました。
それに小さく頷いた幽霊は、マッチョの手を取りました。
「ありがとうございます! ではさっきの締め付けをお願いします! そのまま走って家に帰ります!」
『……』
幽霊はこくんと頷くと、髪の毛をマッチョに絡めるとそのまま背中に乗りました。
「うーん! いい負荷ですねー! では行きましょう!」
マッチョは元気よく帰って行きました。
残された棚下が里雨に呆然と聞きます。
「……なぁ里雨、何であのマッチョ、幽霊平気だったんだろう……」
「私に言われても……。あ、でも昔見た心霊番組で、幽霊って強い生命力に弱いんだって……」
「あー……。マッチョって、生命力の塊みたいなもんだからな……」
「とにかく助かったし帰ろ……。車出して……」
「おう……。錫綺、鷹走、帰るぞ……」
「あれ? 幽霊はどうなった?」
「は!? 見てなかったのかよ!」
「はっしーの瞳に吸い込まれていたぜ……」
「あぁ!?」
「私もずっきーの事しか見えなかった……」
「……あーはいはいおめでとさん。これもひとつの生命力の現れよね……。棚下、早く車出して」
「おう……。何か釈然としねぇ……」
こうして若者達は無事に帰る事ができました。
あなたも幽霊に襲われそうな所に行く時には、マッチョかラブラブカップルを伴う事をお勧めします。
読了ありがとうございます。
元々は、日本のホラーの映画とかでマッチョって出ないなーと思っていて、その理由を勝手に想像した結果こうなりました。
幽霊に襲われた時、下ネタやエロい事を考えると退散する事があるという話もそれかな、なんて思ってます。
ただし海外のスプラッタ系ではダメです。
敵が超パワーの生身だと、ほぼ確実にやられます。
ラブラブカップルはもっとダメです。
やられない方が難しいです。
まぁそんな国が違えば全く変わる攻略法なので、真に受けず幽霊に襲われそうな所には近付かないようお気を付けください。
長岡更紗様、楽しい企画をありがとうございます!
2022/2/19追記
茂木 多弥様からFAをいただきました!
この筋肉の躍動感!
そして後ろの幽霊の可愛らしさ!
最高です!
茂木 多弥様、ありがとうございます!