九話 突入! センゴクロード!
エドランドの街を歩く侍の男と岡っ引の少女がいる。二人は互いにうっぷ……と吐きそうな感じで歩いていた。その侍の方の男は腹を抑えながら言う。
「……うっぷ。完全に食い過ぎたでござる。腹が減っては戦は出来ぬが、ヘイコのメニューは美味すぎるから今後気をつけないと」
「そうね……うっぷ。吐いたらカッコ悪わよコウケン」
「それはそっくり返すでござるよ……うっぷ」
身体は健康であるが、一時的な食い過ぎにより二人の身体は重くなっていた。この状態ではセンゴクロードはおろか、通常のダンジョンでさえも戦い抜くには厳しいであろう。それでもセンゴクロードへ向かうと決めた日の為、ギルドが管轄するダンジョンゲートへと向かう。
『……』
顔を見合わせた二人は、近くにあった公衆トイレに駆け込んだ。そして、スッキリした顔でトイレから出てきた二人はダンジョンゲートへと辿り着いた。
※
ダンジョンゲートのあるエドランド北地区。そこはモンスターがダンジョンゲートを突破したもしもの時に備えて、防護柵や堀を設けたりして敵の市街地侵入を阻止する作りになっている。
北地区の奥にあるこの周辺は一般市民が住んでおらず、ギルド兵の鍛錬場と宿舎が存在する森であった。近くではニワトリやブタなどが飼われており、エドランドの食料を生産するエリアとしても存在している。
そんな事を軽く説明するヘイコは、ダンジョンゲートギルドの建物の受付にて、ダンジョンシーカーとしての証であるシーカーパスを見せる。
「ギルド長からの許可証がこれよ。センゴクロードへ2名行くわ。私は岡っ引のゼニガタヘイコ」
「侍のアオイコウケンでござる」
センゴクダンジョンへの通行が許可され、二人は下層に降りた。洞窟のような赤い岩肌の一本道の先には、巨大な黒いゲートが存在していた。周囲にはギルド兵達の簡易宿舎が存在していて、二十四時間モンスターが侵入して来ないかを警備している。常にギルドは有事に備えているな……とコウケンは感心した。
「モンスターが侵入して来た事が長い事無いとは言え、兵の士気が乱れてはいないでござるな。皆、鋭い殺気を備えていてピリピリしてるでござる。ギルド長官・シザクラシキブ殿の厳しさが兵からも伝わって来る」
「シザクラシキブは怠惰な兵は容赦なく解雇するからね。そして、解雇されただけじゃなくエドランドからも追放される。顔写真も身体能力も、全てギルドにデータとして保管されるからギルドを悪い意味で辞めると、二度とエドランドには入る事も出来ない。だから、ギルド兵は強ければなれるけど、腐った奴はいないのよ」
「……なるほど、なるほど。そうであってくれた方がギルドへの市民からの信頼感も上がるし、シキブ殿への崇拝度も上がる。統治者としてやはりあの女は侮れぬでござる」
「崇拝度……か。確かに皆、あの女を崇拝しているわね。あの女の前で死ぬのさえも恐れないのがギルドのエリート達。だから私はあの女には関わり合いたく無いのよ」
本来ならダンジョンゲートを突破したモンスターが存在しない事を考えれば、ギルド兵達の士気はたるんでいても仕方ない。しかし、ギルド長官のシザクラシキブの管理下にある兵達の士気は崇拝のような感情がある為に落ちる事は無かった。
「バグ以外でモンスターはエドランドには現れ無い。それならギルド兵も主にダンジョンゲートの警備に集中出来るでござるな」
「そのバグが何故起こるのかも、本来ならギルドが徹底的に調べなきゃいけないんだけどね」
「バグは自然発生するものでは無いでござるか?」
「……お喋りはここまで。ギルド兵がダンジョンゲートを解放してくれるわ。行くわよ」
ダンジョンゲートの中にいるギルド兵達がダンジョンゲートを解放した。ズズズ……と真っ黒なゲートは開いて行く。二人はその中へと足を進めた。赤い岩肌の一本道を抜けて、コウケンはダンジョンの重い空気を感じた。青神刀に手をかけ、周囲を見渡す。
「ここがダンジョンでござるか……洞窟のような場所と思いきや、地上と似たような風景が広がっているでござるな」
コウケンの言う通り、ダンジョンというモンスターが存在する場所は意外にも地上と似たような風景が広がっていた。空は青く、森も有り、川も存在している。モンスターさえ存在しなければ、この場所がダンジョンとは言われなかったであろう。
周囲には地上にあるギルド兵宿舎などが存在していて、多数のギルド兵が警戒に当たっていた。歩きを止めないヘイコは続くコウケンに話す。
「ダンジョンの入口付近はギルドが監視しているからそうそうモンスターは出ないわ。まずはあそこにある滝を目指す」
駆け出したヘイコにコウケンは続いた。ここからはどこでモンスターが現れるかわからない。周囲に意識を集中させつつ、二人は森の中を駆ける。そして、途中で遭遇したモンスター達を倒しつつ、一時間程が経過すると二人は目的の滝に辿り着いた。滝を見上げるヘイコは茶色いセミロングの髪を後ろでまとめた。
「この滝の裏側に祠があるの。ここがワープゲートで、センゴクロードに繋がっているのよ」
そして、滝の裏を抜けてワープゲートのある祠に入った。空気は冷たく、霊気が張り詰めているのがわかる。奥の祭壇のような場所には、青い門がありそれがワープゲートであった。背後を警戒するコウケンは言う。
「祠にワープゲートがあっても、モンスターが破壊する恐れは無いでござるか?」
「祠では結界がありまともな力は使えないからこのワープゲートは壊せない。それに祠はモンスターが近寄れない結界が存在しているの。だから、戻れなくなる事も無いわ」
「モンスターが近寄れない結界でござるか。それならワープして戻って来てもいきなり遭遇する事も無いか」
「ここが無ければ、無理矢理にでもセンゴクロードから上の階層に行けばダンジョンだし。経路はあるわ。さ、行くわよ」
ヘイコは祠の奥にあるワープゲートの前に立つ。青白い霊気が祠全体を発光させ、そのゲートが眩い光を放つ。ヘイコはコウケンに手を差し出した。コウケンはその手を掴み、二人は青い光に包まれた――。
そして、強き英霊が各々の国を形成して謳歌するセンゴクロードに到達した。