八話 ギルドに登録に行こう
名前・アオイコウケン
職業・ダンジョンシーカー
クラス・サムライ
ランク・1
武器・青神刀
装備・青の狩衣、黒いズボン、黒編み上げブーツ、葵御紋の印籠
これがエドランドでのギルドで登録したアオイコウケンのデータだ。
装備云々はその後色々変化するが、問題はシーカーランクだ。アシュラを倒したコウケンが何故、ランク1から始まるのかは、ギルドでの掟があるからだ。
全てのダンジョンシーカーは強さの強弱に関わらず、ランク1からのスタートとする。これがギルドの掟の一つである。コウケンのギルドカードを見たヘイコは、
「やっぱりアシュラを倒してもランクは1ね。ギルドは特別扱いはしてくれないようよ」
「んー、まぁダンジョンには用は無いでござるからな。拙者が目指すのはダンジョンの下層にあるセンゴクロード。そこはランクも関係無く入れる場所でござるから、何も問題無い」
「まーそうね。とりあえずこれで晴れてエドランドの住人として登録され、ダンジョンシーカーとしても登録された。もう、今からでもダンジョンへ行けるわよ」
「せかせかしても仕方ないでござる。今日はゆっくり休んで明日からダンジョンへは向かうでござるよ……?」
ふと、コウケンの視界に何かノイズのようなものが走った。ギルドのカウンターに、額だけ見えている人間が存在した。おそらく髪型はオカッパだ。つまりは……。
「あれ? 何故ロリビッチのビチナがギルドの受付カウンターに? ビチナはシキブ長官の侍女では?」
「わちしは本部で仕事ない時は、ギルドの受付カウンターにいるの。長官から頼られてるから大変なのよねー。お菓子美味しいし。ポリポリ」
ビチナは仲間のスタッフにお菓子やら飴やらを貰って食べている。何故、こんな事になっているのかをコウケンは察してヒソヒソ声で言う。
「おそらく、あまり仕事させないようにお菓子を食べさせているでござるな」
「ビチナはロリ系だし、むさいダンジョンシーカーから人気あるからいるだけで充分なのよ。下手に仕事すると、本来渡さないお宝とか渡すし結構危険なのよね」
「それは恐ろしでござるな。でも、ラッキーでもある」
「そんなでもビチナは私より強いわ。年は一つ下だけど、あの年齢でギルド長官侍女になった女はいない。普段はダメキャラだけど、ギルド長官を守る力を持ってはいるのよ」
「ほぅ。だから隙があるようで無いでござるか。納得、納得」
二人が話していると、ビチナは今度はお寿司を食べている。そして、コウケンにシーカー初心者プレゼントとして風魔の扇子を渡した。
「持って行くがいいさ。ほい、またな!」
ギルドの受付カウンターから去るコウケンをヘイコは追った。そのコウケンが持っている白い風魔と書かれた扇子を見る。
「え? 風魔の扇子って敵に空気の刃をくらわせられるレアアイテムよ。これって、ダンジョンの中ボスクラス百体倒して貰える景品。ビチナの奴、食べる事に夢中で仕事に身が入ってないわね。って、コウケンこのまま帰るの?」
「時、すでにお寿司でござるよ」
「遅しよコウケン。そして、ビチナのお寿司が口の中にある」
「……ビチナは食い過ぎでござるから拙者が一つ食ってあげたでござるよ。拙者お寿司は好きなようでござるから」
振り返ると今度はビチナは居眠りをしていた。ビチナファンのシーカー達はその眠り顔で興奮している。やれやれ……とヘイコは頭を抱えた。
「ま、いいか。ビチナもしっかりしないとダメだし、その風魔の扇子もいわば私の物だし。よし、ギルドへの登録も済んだことだし、私の家に帰るわよ!」
「何やら不穏な話が聞こえたが流すでござる。ヘイコの家はつまり、拙者の家でもござるな。帰るでござる」
※
「ここが拙者の家……でも、明日にはセンゴクロードへ向かうから一日限りの家でござるな」
そこは和風二階建ての中古の一軒家だった。すでに亡くなっているヘイコの両親が購入した家に住んでいるようだ。
「ここに帰って来る気があるなら、一階の部屋は貴方の部屋よ。ダンジョン行ってても家賃は徴収するからよろしく」
「……世の中は世知辛いでござる」
と言いつつ、家の中に入るコウケンはエドランドでの文化の違う所に着目していた。
「エドランドは中央地区は洋風でござるが、この東地区は和風でござるな」
「中央地区はギルドもあるし特権階級が住む場所として区別してるからね。洋風が貴族で、和風が一般市民が基本よ」
「そういうものでござるか」
「そーゆーものよ。私は夕食の支度するから、コウケンは自分の部屋とかのチェックしといてね。私の部屋を覗いたら股間に十手かますからね♪」
「了解でござる!」
そうして、コウケンは自室を少し雑巾で掃除したり、トイレを掃除したりした。夕方になり夕食になった。
ヘイコは市場で買った肉や野菜やらを料理しており、コウケンはテーブルに乗せられたメニューに驚いた。
オムライスに唐揚げ。ざる蕎麦にカツ丼。野菜炒めにチャーハン。麻婆豆腐に青椒肉絲……と和洋入り乱れたメニューが並んでいるのは壮観である。それを食べながら二人は話した。
「思ったのだが、センゴクロードの英霊がモンスター達のように徒党を組んで大国を作ってるとかは無いでござるか?」
「センゴクロードの英霊は自分の霊柱を守るのが大事だから、他のエリアには行かない。だから自分の国以外の国を形成する事は無いわよ」
「ほう。となると、まずは霊柱を見つけるのが先決でござるな」
チャーハンの上に青椒肉絲をかけてスプーンで食べるヘイコは、
「それにしても、あのギルド長官・シザクラシキブは本当に不老不死なのかも。全ての代のシザクラシキブは髪の色しか変わってないから怖いわよ」
「何故それを温泉で突っ込まなかったでござる?」
「センゴクロードの話をする場所で、あの人の話をする場所ではないからよ。つか、流石に怖すぎる」
「強気なヘイコにも好きな相手と天敵はいるでござるな」
「天敵ではあるけど、好きな相手はいるわよ……って、変な誘導尋問したわね?」
「ヘイコの好きな人間というのを見てみたいでござる」
「私だってまた見てみたいわよ……」
と、言ったヘイコはかきこむように食べる。そして、一気に水を飲み干した。
「とにかくセンゴクロードの英霊を倒して霊柱を破壊する。そしてその道中で記憶を取り戻しコウケンは世界に貢献する。私はその道中で私の知りたい事を知る。よし、これで全て完璧。後はセンゴクロードにゴー!」
「あぁ、拙者アオイコウケンはこの世界に貢献し、記憶を取り戻すでござる!」
二人はしっかりと過剰な栄養補給をし、ぐっすりと眠って朝を迎えた。
とうとう、アオイコウケンが自身の記憶を取り戻す為の場所であるセンゴクロードに向かう日が訪れたのである。