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七話 裸の話し合い2

 エドランドギルド長官・シザクラシキブが話す十数年程前に現れたダンジョンの更に下層にあるセンゴクロードについての話はこうだ。


 センゴクロードには呪われた結界が有り、センゴクロードの英霊は地上には上がれない。センゴクロードは霊気が強い者が多い為「英霊」と呼ばれている。一国一城の主になれる強さもあるというのもあった。


「センゴクロードの英霊達は強い。ウチのギルドメンバーでもまず勝てるのはいないだろう。シーカーランクが高くても、それはあくまでダンジョンでの強さ。センゴクロードにおいては役に立たない指標」


 驚いたように湯の中から立ち上がるヘイコは、


「それじゃあ、もしセンゴクロードからバグが起こってエドランドに現れたら終わりじゃない」


「そのもしを警戒する必要はある。だからこそ、英霊が守るセンゴクロードの霊柱を破壊しないとならない」


『……』


 コウケンは黙り、ヘイコもお湯の中に身体を入れ顔を洗い流す。二人共、シキブの言う「霊柱」という言葉に戸惑っていたのである。けたたましい笑い声を上げたシキブはお湯を手で叩いた。その水しぶきが二人の顔を濡らす。


「ギルドが霊柱の存在を知らないとでも思っていたのか? 動揺が顔に出てるぞヘイコ。まさか、岡っ引風情がそこまで情報を掴んでるとは思わなかった。ヘイコの強さではセンゴクロードの英霊には勝てないだろうしな」


「何ですって?」


 流石のヘイコも今の言葉にはキレた。今は全裸で武器も無いが、心はもう臨戦態勢である。


「ギルドの情報網を甘くみるなよ? ゼニガタヘイコの能力は永楽銭を投げる銭投げと、十手による急所突。岡っ引においては男を含めて最強とも言えるが、残念ながらセンゴクロードでは通用しない。だからこそ、アシュラを倒した出身不明のアオイコウケンを引き入れたのだろう。アシュラ王の息子の長男であるアシュラを瞬殺出来るならば、センゴクロードでの調査がかなり安全に進む事になるからねぇ」


「……否定はしないわ。まだ続きがあるなら聞かせて貰おうかしら?」


「いいぞ、いいぞ。その顔を見たかったんだよ私は。ヘイコの銭投げは、なけなしの永楽銭を投げる事によって威力を高めてる。本来なら後で回収するとは言え、そのまま盗まれたり、砕ける可能性もあるから怖くもある。それが能力を高める代価だ。そして、アオイコウケン。お前の問題を話そう」


「拙者の問題?」


「お前は問題も問題な存在だよ。そもそも、コウケンのような強い人間はエドランドにもバクーフ大陸にも存在しないんだよ。だからこそ、コウケンはセンゴクロードから来た人間と言う事が出来る」


『――!?』


 こんな核心的な事を言われると思わなかった二人はただ驚く。ギルドの情報網と、この金髪巻き髪美女の鋭い観察力には勝てる気がしない。額から汗が流れるコウケンは何となく、シキブの言っている事に納得していた。


「だから拙者はあの葵御紋の印籠を持っている……という事か。拙者の記憶の全てはセンゴクロードにある……」


 コウケンはまだ見ぬセンゴクロードの地を思った。そこは記憶喪失前に知っている可能性もあるが、今の自分からは未知のダンジョンである。その場で英霊を倒して霊柱を破壊して行けば、自分の記憶も戻るかも知れない。その事をシキブは言及する。


「記憶喪失の死に場所としてはいいんじゃないか?」


「どういう事でござるか?」


「死に場所を与えられるという親切は並大抵な人間では出来ない。男にとって最高の褒美は死に場所を与えてやる事。成功者も失敗者も男は前のめりに死ぬのが一番さ」


「確かにそうでござるな。だが、女にはそれが当てはまらないと思うでござる」


 フンと鼻を鳴らすシキブは続けた。


「記憶を取り戻したきゃ、センゴクロードの英霊を倒して霊柱を破壊していけば取り戻せるだろう。その過程で葵御紋の印籠をセンゴクロードにある聖櫃に納めれば、センゴクロードの封印が可能になり人間界は安定するという事。つまりは、アオイコウケンは英雄になるのさ」


 大サービスなのかわからないが、シザクラシキブはギルド長官としてセンゴクダンジョンの全ての情報を開示した。それは無論、コウケンが行うセンゴクロード封印計画であるが、昨日現れた記憶喪失の人間に話す内容では無い。余程、この女はアオイコウケンという男を見込んだのだろう。


「センゴクロードへはギルドが案内人をつけてやる。ギルド登録と準備が整い次第向かうがいい」


「拙者は火事場泥棒や謀反人のような事せねばならぬのか。センゴクロードの英霊とて生きているなら、その世界には必要という事でござろう。拙者の記憶の為に他者を害するのは気が進まぬでござるよ」


「謀反にて大志を抱くのは男の役目。それを全て吸い取るのが女の役目」


 スッ……と近寄るシザクラシキブの右手がコウケンの首に触れる。あまりに自然な動きにヘイコも対処出来なかった。コウケンとシキブは互いに見つめ合う。そしてシキブの左手はコウケンの胸に触れ、下へ流れた。


「……このまま私の男となれ。私を抱いてみせよ。そちならば私を快楽の絶頂へと誘えるだろう。全てを私の中に吐き出すのよ」


「……」


 何か特殊な術にかかったのか、立ちくらみのような感覚に陥り、コウケンはシザクラシキブの言葉に呑まれてしまう。この温泉では何か相手を攻撃するような技や術も使えない。単純にこのシザクラシキブという女の色香と言葉に籠絡されてしまったのである。


『……』


 虚な目をするコウケンの唇に、その魔性の女の甘い唇が迫る――。


「舐めんじゃないわよ!」


『!?』


 そのお湯を手で叩くヘイコの言葉でコウケンは目覚め、シキブはやれやれと金髪をかき上げた。


「言われっぱなしってのもムカつくから言うわ。私もセンゴクロードへの道は知ってる。私はダンジョンについての知識もあるから案内人なんていらない。岡っ引の情報網舐めないで!」


 そう啖呵を切ったヘイコにコウケンは感心した。この場所ではギルド長官に対しても意見出来ると言われていても、普通ならここまでは言えない。言えば、岡っ引を解除されてエドランドから放逐されてしまう可能性があるからである。最悪、打首獄門だろう。


『……』


 互いに言いたい事を言い切ったのか、少しの沈黙が流れた。

 そして、コウケンが話そうとすると温泉の中からポコポコ……と泡が浮かんで来た。


「ぬ? ヘイコの近くに下から泡が浮かんでいるでござる。まさか、温泉の中に誰かいるでござるか!?」


 あ! という顔のヘイコはコウケンに近寄るなと手を出す。


「いや、いないから。マジでいないから大丈夫……うっ」


 またもやプクプクと泡が水中から発生した。フフフ……とシキブは笑っており、天を見上げる。すると、コウケンは匂いで何かを察した。


「……まさかヘイコが――」


「あ!」


「――をこいたでござるか?」


「……まさかヘイコが――」


「あ!」


「――をこいたでござるか?」


 何度か同じ事を言い合うが、ヘイコが――の後をヘイコは言わせようとしない。そんな二人は全裸のまま取っ組み合っているのに一分間気付かずに戦った。


「それにしてもりっぱな刀を持っているわねぇ……吸い取りがいがあるじゃ無いか。その記憶も吸い取って、私色に染めてあげるわよ」


 妖艶なギルド長官は流し目で微笑んでいる。

 いつの間にか、一人酒をしていたビチナは酔っ払って小さな身体を温泉に漂わせていた。

 怪しい三日月がわちゃわちゃしてる混浴温泉を照らしていた。

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