六話 裸の話し合い
お互いに話しやすい環境を作る為にエドランドギルド長官・シザクラシキブは自身の混浴温泉にて話す事を望んだ。それをコウケンとヘイコは受けざるを得ず、全裸にて温泉に浸かってシザクラシキブと対峙している。
侍女のロリビッチことロンドリスビチナが小さい身体でちょこまかとブラシで石床を磨いている最中、酒を猪口で飲んでいるシキブは話し出す。
「アオイコウケンは記憶喪失ならダンジョンの事も知らないはずだ。センゴクロードの話の前に、まずはダンジョンについてのおさらいだ」
エドランドの地下にあるダンジョンとは、モンスターが出現する魔界だ。そこではお宝が多数有り、一攫千金を目指して人間達はダンジョンシーカーとしてモンスターとの戦いを繰り広げていた。
それを管理しているのがギルドであり、ギルドはランクに応じたレベルのエリアにしか人間を入れさせない。無駄な死者や行方不明者が増えてしまうからである。
現在、エドランドでは女が主に街の警備を担当し、男はダンジョンに向かう事が多い。ダンジョンでお宝をゲットするには大抵一週間は野宿しなければならない。トイレも風呂もベッドも無い状況が当たり前だから男の方が向いているのである。
そして、また一口猪口で酒を飲んだシキブは昨日起きたバグについて話し出す。
「……バグが起こり、お前が倒したのはアシュラ王の長男のアシュラ。おそらくモンスター界は何かしらの動きがある。ギルドはそれを警戒しつつ、運営しないとならない。そもそも、何故あのクラスのモンスターが出現したのかが謎だけどねぇ」
二人を見るシキブの目が冷たい。明らかにどちらかか、両方を疑ってる目だ。その空気を変える為にコウケンは話す。
「そもそもバグがまた起こり、もしアシュラ王とやらが出現したらエドランドはどうなるでござる?」
「だから昨日のバグは有り得ないんだよ。ボスクラスのモンスターは地上と地下にある霊気結界に阻まれて到達出来ない。ボスクラスが地上に来るなら、必ずダンジョンゲートを通らないとならないんだ。だからこそ、今までバクーフ大陸全土も壊滅的な被害を受ける事は無かった。ダンジョンゲートの真上にエドランドがあるのは、ここは人間達が管轄していないとモンスターに支配されてしまうからなのさ」
ダンジョンのボスクラスは地上の地面を覆う霊気結界により侵入不可能である。仮に突破出来ても、それだけで全ての体力も霊力も消耗してしまう為にモンスターは地上に向かうにはエドランドの地下にあるダンジョンの出入口のダンジョンゲートが当たり前なのである。
顔をお湯で洗うシキブは大きく息を吐きながら言った。
「十数年前にセンゴクロードが確認されて以降、強いモンスターが発生するバグが頻発している。こりゃ、何かあると踏んでもおかしく無いだろうよ」
『……』
「今後アシュラ王がどう出て来るかわからないが、一応ダンジョンゲート付近にはいつも以上のギルド兵を常駐させていて、ダンジョンシーカー達にもザコを倒した数でもお宝をやるようにしてる。センゴクロード目を向けてると、真下のモンスターがいるダンジョンに喰われちまうよ」
二人はギルドの早い対応に驚いていたと同時に、アシュラ王の動きに対して失念していた。コウケンは記憶喪失でありダンジョンのアシュラ王の知識は無いが、ヘイコはその動きを予想するべきであった。
完全に会話の主導権は金髪巻き髪美女に有り、黒髪ポニーテールの男と茶色セミロングの少女は聞き役になっていた。シキブは猪口をお湯に浮いているお盆に置くと、
「んじゃ、こっからがギルドの知るセンゴクロードの話だ。おいビチナ! この二人にのぼせられても困るから水持って来い! 氷も入れてな!」
「はいな! ――ぐへっ!」
言われたビチナはデッキブラシに足をぶつけ、足元をふらつかせて転んだ。そして、氷に塩を入れてやる……と呟きながら温泉から消えた。コウケンはここでシキブに感謝した。
「酒を断ったのに感謝するでござるシキブ殿」
「それはビチナにしな。私は私の為にしか動かないのさ」
二人は変な事をするなよロリビッチと思いつつ、温泉の暑さで火照ってきている頭を氷水でクリアにしようとした。
わざわざ敵に塩を送るような真似をせずとも、そのまま話し続けてしまえばシキブのペースのまま話し合いは終わる。それをしないシキブという金髪巻き髪美女の底知れぬ闇を感じている二人は氷水を飲み干した。額の汗を拭いつつヘイコは言う。
「冷たくて良い氷水だったわ。ありがとうビチナ」
「ありがとうでござるビチナ」
グラスを返しつつ、お湯の中でヘイコはコウケンの太ももを突いた。すると、コウケンは微かに頷く。
(おそらくヘイコの言いたい事は、相手が手の内を見せてくればこちらも見せる必要があるという事。そして、ヘイコは気付いているかわからぬが、この女はこちらの手の内を知っている可能性すらあるという事。ギルド長官・シザクラシキブ……これは食えぬ女でござるな……)
つつー……とコウケンの額から嫌な汗が流れた。そうして、薄ら笑いを浮かべるシキブからセンゴクロードの話を聞かされる。