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三話 葵の御紋印籠とヘイコと牢屋

 バグ発生により、地下のダンジョンから地上のエドランドに出現したモンスターである魔王の息子・アシュラを倒したアオイ・コウケン。

 それを観察していた茶髪セミロングの岡っ引である少女ヘイコはその青い侍の強さに疑問を持っていた。


「アシュラがエイトブラスターを使った瞬間、あの侍はアシュラを斬った。高速の身のこなしに斬撃の強さ……まるでセンゴクロードの英霊と同じだわ……」


 そして、その場にいた群衆達は激しい足音を立てて駆ける集団を見ていた。バグが発生し、エドランドに方広寺の鐘が鳴り響き、モンスターを退治する為にギルドから派遣されたギルド兵達が現れたのである。

 緑の軍服に長靴の一団は全員腰に両刃のソードを携行している。エドランドの人間達はそれを恐れるように道を開ける。腰の十手を抜いたヘイコはコウケンに近寄った。


「アオイ・コウケンとか言ったわね。貴方は手柄を上げたけど、このエドランドの住人でも無ければ、ギルドの戦士でも無い。私と共に来なさい。でないと、ギルドの連中にしょっ引かれるわよ」


「ほう。ならば行くでござるよ。拙者はどうやら記憶喪失故にギルドとやらの連中に捕まっても身を潔白する材料が無いでござるから」


「よし、なら駆けるわよ。エドの森方面なら人は少ないでしょう」


 そして、アオイ・コウケンとゼニガタ・ヘイコはエドの森に向かい駆けた。





 二人が来たエドの森とは、コウケンが流されて来た川のある森だった。その場で焚火をした時の焼き魚はすでに誰かに食べられた後だった。二人はその場で話す。


「アオイコウケン。貴方のその腰の武器は刀ね。それは最近になってダンジョンの更に下層に現れたセンゴクロードの連中がよく持つ武器。まさか、センゴクロードの英霊がこのエドランドまで進出して来たの?」


「うーん。よくわからないでござるが、拙者には肉体があるし、英霊ではないであろう。そもそも記憶が無いでござるから」


「確かにセンゴクロードからのバグ報告は聞いた事が無い。そもそもダンジョンより下層にあるからバグが発生しない可能性もある。それだけの強さを持っている以上、ダンジョンシーカーだった可能性はあるわね」


 鋭い眼差しで見つめているヘイコは、コウケンに話すのを許さない雰囲気である。その手には真ん中に穴の空いたお金である永楽銭が握られている。


「さぁ、拷問の時間よ」


「待つでござるよヘイコ」


 投げられた永楽銭をコウケンは手で受け止めた。


「私の永楽銭を手で受けたの!?」


「直線的であるし、そこまでのスピードでも無いから手で受けられる。少し痛いけども」


 コウケンは放たれた永楽銭を素手で受けた。まさか……という顔のヘイコは、投げ渡された永楽銭を受け取る。


「こうも簡単に私の銭投げを受けたのは初めてよ。私は岡っ引としてエドランドの最強クラス。いずれ全てを知る私はギルドにも何にも負けられないのよ」


「そんなに気を張らずに、落ち着くでござる。そもそも銭投げとは外れたり砕けた場合、自分にも痛手なのでは?」


「それは能力の代価だから仕方ないの。永楽銭は大昔のエドランドでの通貨。今でも使える所は使えるけど、基本単位はゴールド。次は本気で行くわよ。今の私の限界を超えてやるわ」


「ただの銭投げを技に昇華しているのは、銭を失う罪悪感。もったい無い事をするなでござるよ」


 そんな事を言っていると、茶髪セミロングの岡っ引の少女は自身最強の技を放つ。


「永楽百花繚乱!」


 両手から乱れ打ちのような雨あられの永楽銭がコウケンに降り注ぐ。腰を落とし、刀に手をかけ左の親指で鯉口を切ったコウケンは叫んだ。


「天覇神光流・乱龍嵐(らんりゅうらん)!」


 ズザァ! という龍の脳乱の如き嵐が吹き荒れ、必殺の永楽銭は全て砕けて地面に落ちた。技を放ったコウケンは、多少涙ぐみ歯軋りしながら特攻をかけるヘイコの気迫を感じる。


「ヘイコを倒せば、このエドランドとギルドの案内を願うでござる」


「私は岡っ引として目的がある。この世を知るには強さが必要。だから負けられないのよ!」


 十手と刀が激突する。ヘイコは予想以上に身のこなしは素早く、コウケンは刀で十手を捌き続けた。


「もうやめるでござるヘイコ。お主はアシュラを倒した拙者の力を自身で計りたかっただけ。その趣旨が変わっているでござる」


「気に入らないのよ。いきなり現れた記憶喪失に私の計画を乱された事が」


「計画? なら、この戦いは早々に終わらせよう」


 刀で十手を弾き飛ばし、コウケンの左拳がヘイコの腹部に向かう。それを無理矢理回避しようとした為に、ヘイコの胸に当たってしまう。その柔らかい感触にコウケンの心は乱れた。


「す、済まぬでござる」


「胸を触ったぐらいでグラつくとは甘いわよ!」


 逆にヘイコの拳がコウケンの腹部に決まった。しかし、体重差もある為に大きなダメージにはならない。すると、コウケンの懐から黒い印籠のような物が落ちた。それを見たヘイコの顔つきが変わる。


「葵の御紋印籠。何故貴方が……」


「ヘイコ……?」


 すると、ヘイコは戦うのをやめた。どうやらまた葵の御紋の印籠かと思うコウケンはアシュラに言われた神の子などと言う事を思い出していた。そして、ヘイコはセミロングの髪の毛先を後ろに跳ね上げると、


「とりあえず貴方に害は無いのはわかった。その強さならばエドランドでも生活は可能よ。ダンジョンでもかなりのシーカーランクになれるはず。とりあえず私がエドランドでの保証人になってあげるわ」


「ほ、ほんとでござるかヘイコ」


 ありがたい! とコウケンはヘイコの手を握り感謝した。男の屈託の無い笑みは欲望と金とダンジョンの街であるエドランドでは見られ無い為、少しヘイコは赤くなり照れる。それを誤魔化すかのように、葵の御紋の印籠について聞いた。


「その葵の御紋は身分証明になるの。貸して頂戴」


「いいでござるよ」


「よし、これはもらったわ。保証人としての手間賃ね!」


「はう!? そ、それが無いと拙者の記憶喪失問題が解決しないでござるよ! おそらくその印籠に全ての謎があるでござる」


「印籠を返して欲しきゃ私にしょっ引かれな。飯は出るし、寝床も確保出来る。一石二鳥でしょ?」


「一石二鳥の意味が少し違う気もするが……あーれー」


 コウケンはぐるぐると胴体を縄で巻かれて縄でしょっぴかれる。溜息をつきつつも、記憶喪失の自分が人と関与出来たのは良い事だと思う事にした。


「んー、まぁいいでござるかな。これも人への貢献でござろう」


 そうして、アオイコウケンはゼニガタヘイコに捕まり、エドランドの牢屋に入れられる事になった。

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