1話 チー牛転移
「すいません。4色チーズ牛丼特盛に温玉付きをお願いします。」
僕は生粋の「チー牛」
チー牛とは「インキャ」を指すネットスラングだ。
メガネに、整えられていない髪型、幼い顔に、イケてない服
僕のために作られた言葉と言ってもいい。
趣味は匿名掲示板漁りで言うまでもないが彼女もいない。
いつものフレーズを投げかける
「4色チーズ牛丼特盛に温玉付きをお願いします。」
…
「お待たせいたしました。こちら4色チーズ牛丼特盛に
温玉付きでございます。」
今日はお持ち帰りにしてみた。
いつもはお店で食べて帰ってくるので、袋を持つ右手に
特盛のどっしりとした重量感を感じる。
もう少しで家に着くというところ。
「うわぁ〜!」ズザッーーーッ!
何もないところで転んでしまった。
それに加えて情けない声と共に右手に持っていた牛丼まで
放り投げてコンクリートにぶちまけてしまったのである。
「こんなことなら店で食べてくればよかった…」
そう呟き、ぶちまけた牛丼を手で掬うように集め
袋の中に戻した。情けない。
帰路につき、先程の牛丼を捨てようと思ったその時、
なんと牛丼が元の姿に戻っていたのである。
僕は心底驚き、言葉が出なかった。
「な、なんで…さっき確かに転んでぐちゃぐちゃになったはず、しかも僕は米と肉を手で拾ったんだぞ!?」
そう思い自分の手のひらを見てみると、
日に当たることもなく、男らしい傷が一つたりともない
青白い元の自分の手に戻っていた。
自分の手から元の戻っている牛丼に視線を移し、
恐る恐る蓋を開けてみた。
「う、うわ!なんだこれッ…!!」
蓋を開けた途端、目を開けることすらできない眩い光が
僕を包み込んだ。なぜか体も動かせないし声も出ない。
この初めての経験に僕は身を任せることしか出来なかった。
…
ザワザワ…ガヤガヤ…
「う、う〜ん。ほんとになんなんだよさっきから…」
さっきの光でやられた目が徐々に見えるようになってきた。
「…な…なんなんだここは!?」
体ごと大袈裟に動かして周りの状況を確認する。
僕を見ながらヒソヒソ話す貴族、甲冑をきた騎士、一際目立つ玉座に鎮座する老人。
一体自分に何が起こったのか理解できず慌てふためく
僕に、玉座に鎮座していた老人が立ち上がり声を掛ける。
「4色を司る勇者よ。どうか我が国を救ってはくれまいか。」
突飛なことを言い出す老人に僕は戸惑った。
「あ、はい。…エッ!?僕が勇者…!?」
いつもの癖で「あ、はい。」と言ってしまった。
コミュ症特有のアレだ。
「僕が勇者って一体どういうことです!?
まままま、まず、ここは一体どこなんですか!!」
老人が答える。
「ここはセブンティスト王国、
私はこの国の王である。
そして其方は4色の神に認められた勇者なのだよ。」
全く意味がわからない。僕が勇者で4色の神に認められた?
まず4色って一体なんだ…?