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恐竜の声をきけ  作者: 奇村兆子
1/10

◆一

――さまざまな想いとともに恩師Aに捧ぐ――

 ある夢を見た。


 アパートの一室で、何か熱い思いに駆られた青年が鍵を作っている。

 これまで一点の淀みも受け入れたことのなさそうな、潔癖生真面目のあふれる、まさに青臭い年頃の男性だ。

 彼が作っているのは、物理的なロックはおろか電子的なパスワードさえもすべて無効化することのできるマスターキー。世界中のありとあらゆる金庫を開けることが可能である。

 しかし、厄介なことにその鍵は自ら動く力を持っている。一度世に放たれれば、己の本能に従い持ち主のもとを離れて世界中の鍵を開けて回るのだ。

 そうなれば世界は大混乱に陥るだろう。それでも彼はやらねばならなかった。

 彼の属する会社は金庫を使った何か大きな不正を企んでいる。それを知ってしまった青年は、清濁併せ呑むのが大人だと保身に走るべきか、それとも己の内からどうしようもなく湧いてくる子どもじみた正義感に従うかを迷った挙句、後者を選んだ。

 ああ、彼の熱い思いが私のなかにも流れ込んでくる。

 いや青年と私とは一体だ。ここはぜひとも彼を心から応援したい。

 マスターキーを使えば会社がなそうとしているものよりもずっと大きな業を背負うことになるけれども、それでも彼は不正がゆるせないのだ。

 ――不正って何なのだろう。


 さて、そんな熱気に満ちた青年を傍で見ている人物がいた。

 染め上げた白金の髪と緑色のカラーコンタクトが印象的で、どこか人工的なにおいを漂わせたホスト風の男。

 彼は青年とアパートの一室をシェアしている同居人である。長いこと一緒に住んでいるのに、未だ何の仕事をしているのかもわからない謎多き人物だ。この同居人が会社の不正に悩む青年に声をかけ、マスターキーを作るための道具を貸したのである。

 ――なんでそんなものを持っているのだろう。


 涼しい顔で青年の作業を見守りながら、同居人はふと思い浮かんだことを口にする。

「昇進のときとかさ、お祝いやら何やらで忙しい上に、お金の出入りが慌ただしくなるだろう。あとで時間を作ってゆっくり計算するために、とりあえず置いておく場所として開発されたのが金庫なんだよ」

 アンニュイに頬杖を突きながら、同居人は甘い微笑みを浮かるのだった。

 まだ続きがあった気はするけれど、覚えているのはここまで。


 目が覚めるとポストに小さな封筒が届いていた。

 送り主の名は書かれていない。

 中身は鍵がひとつだけ。他には何もなかった。

 ――いったい誰が、何のために?

 あまりに不可解で戸惑ったが、出勤までもう時間がなく、とりあえず鍵は鏡台に置いてすぐに家を出た。

はじめまして、奇村兆子です。

このたび、ユーザ名「ひかげのくに」で小説を置かせていただくことになりました。


この作品は全十話になります。

一話の分量が長いときもあれば、短いときもあります。

一日一話ずつ予約投稿しますので、お暇でしたらどうぞ。

※2021年1月2日の連載開始から、2021年1月11日に無事完結いたしました。

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