3節 幸せの人
つかれます!すんごく疲れます!しかし頑張ります!
「神の魂じゃ……」
神の魂など見たことがない。それを体に封印している者などもっともだ。
「精神介入、開始──」
子どもに自分の魂を進入させる。
この子の体に入ってる神の魂はとても硬い封印をされている。しかし、その封印をもくぐり抜けてその魂からは赤黒い血のような色の魔力が溢れ出している。
この子はただの混血の子供ではなく、混血という魂のイレモノなのだ。魂、人格を幾千、幾万と侵入、封印してもこの子の主体となるこの子自身の精神は壊れず揺るがない。それが何故の因果からは私からも分からない。
けれど、彼はイレモノ。その事実だけが存在する。
現に私という外部からの精神が侵入してきても彼の精神汚染は始まらず、崩れない。
「なんという子を拾ってしまったんじゃ……」
■■■
「う、ん……」
眩しい。
暖かくも目を刺すような日差しと、鳥のさえずりで目が覚めた。
「ん、ここは、どこ……?」
どうやら家の中のようだ。でも見覚えがない。布団が敷かれていて、自分はその上に眠っていたようだ。布団がかけられている。
パパ、ママ……
それを思い出しただけで涙が溢れ出る。
「うっ……」
「おや、起きたか、おはよう」
奥から1人の老人が出てきた。
「ひっ……」
「そんな怖がることはないぞ、わしは君の仲間じゃ……君をここへ連れてきたのもわしじゃ」
ニコッと微笑んでみせた。
「君、名前はなんと言うんじゃ」
少しだけ警戒しつつも
「ま、マーリン。ヨルエ=マーリン、です……」
「そうか、いい名じゃな。わしはイグリス=フォードじゃ」
フォードはその名前を聞いたときにすぐに気づいた。
マーリンとはパンデモニック(魔界語)で[無限に咲き続ける花]という意味がある。そして、旧パンデモニックでは[叛逆せし華]、そういう意味がある。
どちらの意味で付けられたのかはわからない。けれど、彼の人生を歩むのは彼だ。
そしてもう1つ気づいたことがある。彼の眼に宿る、魔法陣だ。魔法学では、人間の眼、手、口には、先天的に特別な能力が宿りやすいと言われている。能力が宿っている手を[魔手]、口は[魔口]、眼は[魔眼]。人によって宿る能力はそれぞれだ。
魔手は主に手から魔力を放出する魔法の能力を格段に向上させる。
魔口は人や、人外などを惑わさたり、精神汚染ができる。その他にも詠唱能力を格段に向上させる。
中でも強力なものが魔眼であり、魔眼そのものに破壊衝動、破壊能力があり、モノを破壊することができたり、封印衝動があるものは封印能力が格段にあがる。その他にも拘束衝動、攻撃衝動などがある。
魔眼はそれぞれの能力によって眼の奥に刻まれる紋様が決まっている。魔手も魔口もそうだ。
しかし、この子どものような魔眼の紋様は見たことがない。つまり、どのうな衝動を秘め、どののうな効果があるのかが分からない。使い方を誤ったら危険である。
「パパとママはどうしたんじゃ?」
「ころ、された……」
「……そうか……なら君はわしの子になりなさい。行くところがないのじゃのろう?」
マーリンはその言葉を聞いたとき、何故か少しだけ安心した。
そして、ひとつだけわかったことがあった。
このおじさんは悪い人じゃない、ママとパパみたいに優しくてポカポカしていて一緒にいたい人だ。
「うん。でも僕は、人間じゃないんです」
「それがどうしたんじゃ。血が混ざっていても人間は人間のじゃ。困っている者がいたら助ける。それがわしのモットーでな」
おじさんはそんなこと気にもしてないように答えた。
「君が困っている。だからわしは君を助けるんじゃ。」
その言葉はマーリンという小さな混血の男の子の心に刺さった。
なによりも重く、温かい言葉。
父と母。その代わりになってくれる人。
なにより、
僕を人として見てくれた。
僕は、このおじいさんに助けてもらった。
■■■
わしは混血のこの子ども。マーリンを自分の子にすることにした。
理由はない。けれど助けたかった。ただそれだけのことだ。
■■■
「じいちゃんはなんでここに住んでるの?」
「わしか。わしはなぁ、昔は王都の魔法賢者だったのじゃよ。けれどもう退団したんじゃ。もう歳じゃからなあ」
「へーえ。じゃあじいちゃんは強いんだ!やっぱりじいちゃんはすごいや!」
「はっはっはっ!そうか、わしはすごいか。じゃあマーリンもわしみたいに強くてすごい男にならんといけんの」
マーリンがフォードと一緒に住み始めてから3ヶ月が経った。魔法学校には通っていない。けれどマーリンは毎日フォードと魔法の練習をしている。1体1の真剣試合。今まで107回やって、マーリンは1度も勝ったことがない。
「じゃあじいちゃん、もう1回!」
「今日はいつもより張り切るのぉ」
「うん!だってじいちゃんみたいに強くなんないといけないんだ!」
森の中に1人の混血者、1人の賢者が向かい合う。
「神木よ、伸びよ──」
マーリンの左目が赤く光る。
マーリンとフォードの間の地面が膨らむ。
マーリンの詠唱により魔法が発動する。
詠唱とはつまり、魔法と自分を繋げる行為のこと。詠唱は発動する魔法を簡易化し、発動者の中で想像しやすくさせるために行われる。体内の衝動、イメージを変化し、魔法に変換する。そのために行われるものが詠唱というわけである。
詠唱は必ずしも必要とはされない。しかし無詠唱で発動するには莫大な想像性が必要だ。
魔法は自分の体内に存在する魂から溢れ出る魔力、想像の力、その者のもつ衝動から構成される。動作そのもののひとつ。
そして衝動、魔力、イメージの全てが混合し、作り出されるものが魔法の穴となる魔法陣だ。魔法陣は魔法という神秘を世界に成す唯一の式だ。魔法とは人には成すことの出来ないモノ。神秘。魔法陣は世界に魔法が存在出来るように働きかける。
つまり、魔法陣は魔法を発動するためには必須。なければならないものである。
しかし、マーリンが魔法を発動しても魔法陣が顕現しない。
それは有り得ないことである。けれど彼は魔法陣を作らなくても魔法を発動する。それにはフォードも驚かされた。
がぎ、バギ。
音を立てて膨らんだ地面から木の根がありえない速さでフォードに向かって突き進む。
フォードは手を前に突き出し魔法陣を展開し、彼の周りの空間魔力[マナ]を固め、見えない壁をつくる。
そして根という剣と、壁が衝突する。
ぎゃしゃ、みし、みしし
根はぐにゃぐにゃに折れ曲がる。
それから1秒と経たずにマーリンの詠唱が再び始まる。
「外部干渉──」
やはり魔法陣は存在しない。左目ががふたたび赤く光る。
しかし魔法は発動する。その矛盾の解はフォードにもわからない。
マーリンの周りの数え切れないほどの大量の地面の石、木の破片が宙に浮き、
「射出!!」
目にも留まらぬ速さでフォードにその全てが飛んでいく。
そして再びフォードがつくりだす壁にそれが──
当たらなかった。
その石、木の破片は透明の壁の前で止まり、フォードの周りを壁の上から包む。
「視界封じじゃな。頭を使うようになったものよ。しかしまだ甘いぞぉ」
フォードからは一時的に姿が見えないマーリンは
「瞬間強化!」
身体の筋肉を魔法で強化し、
「はぁっ!!」
高く跳ね上がる。フォードの真上を目指して。
フォードは魔法陣を展開。マーリンと同じ瞬間強化の魔法。そして、
「はァァァァァァ!!」
透明の壁をも破壊し、マーリンが作った薄い、視界封じの石と木の破片の壁を破壊した。
「なにっ!?いないじゃとォ!?」
目前にいると思ったマーリンの姿はなかった。
「ここさ!!じいちゃん!!」
真上から声がした。
「なっ……」
腕を顔の前で交差させた。フォードの真上からは、
「うおらぁぁぁぁ!!」
身体強化をした拳で殴りかかってくるマーリンの姿が見えた。
よんでくださりありがとうございます!
ちなみにですが、今回の話にでてくる詠唱なんですが、それっぽい妖精や英語をもじって使ってるだけで特に意味は無いので、ふぅーんと思っていてもらってだいじょぶです。そして戦闘描写がとにかく難しい。しかしこれからも頑張っていきます!