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三国志ものがたり(仮)  作者: あらん
4/4

劉佐と、劉備と、乱世と

挿絵URL 挿絵のフレーバーテキストが書いてあります

https://33138.mitemin.net/i466629/

●劉佐と、劉備と、乱世と



――劉佐様、劉佐様



見知らぬ声が聞こえる。

昨日はいい夜だった。だいぶ酔っていたし誰か家に招いてしまったのか?

佐藤はそう思いながら目を開けた。



知らない女性2名が自分を抱えのぞき込んでいた。

「良かった。劉佐様。目を覚まされましたか。」

目を覚ました自分に対し、知らない名前で女性2名から安堵されていた。



あの夢なのか、、、?

目の前の女性2名が現代には無さそうな古めかしいメイド衣装を着ていたことから佐藤はそう思ったが、何かいつもの夢とは違い、実感があった。

まず、自分の意思で手足が動く。いつもは見ているばかりだったものが、今日は動く。

そして、痛みを感じる。今は頭が猛烈に痛い。あと、視界がぼやける。



佐藤は目を細めながらメイドに言葉を発してみた。

「劉佐様とは誰だ?」



ああ、あなた様のことでございます!

もしや頭を打ったことでご記憶が、、、

そ、それは一大事にございまする!!

ど、どうすれば、、、

一先ず医者を、医者を呼ぶのです!


メイド2人は、慌てながらも状況を確認しあい、一人が颯爽といなくなった。

その後、やってきた男にベッドに運ばれ、医者の検診を受け、最後に眼鏡を渡された。

ベッドに運ばれるまでのぼんやりとした視界で捉えていたのは中世ヨーロッパの古城の風景だった。

見慣れた銀縁眼鏡をかけ、開けた視界で捉えたものも中世ヨーロッパの古城であった。



これはどういうことなのか?

佐藤は落ち着いて、ひとつひとつ確かめていった。



まずひとつこれは夢なのか?

一週間寝て起きてを繰り返しても佐藤は劉佐であった。



ここはどこなのか?

景観や衣装は、現代でいう中世ヨーロッパそのものであり、自分がいる城郭都市の名は「涿」、自分が住むこの城は涿城と呼ばれていた。



言語は?

すべて日本語



この世界はなんなのか?

聞く名前はうるおぼえながら、後漢末期、三国志の時代に出てくる人物の名が多いようだ。



文化水準は?

現代でいう中世ヨーロッパ並みであるが、魔法の概念があり、魔法により発達しているものもある。




現時点での結果

三国志の人物が出てくる中世の魔法世界




一方、今の自分は何者か?


劉佐徳然 父は劉弘 祖父は劉雄 年齢は5歳

父は涿城の城主であり、現皇帝のいとこであり、皇族と呼ばれている一族の一人

自分は長男ではあるが、妾腹の子であるらしい

ある日、日課の散歩をしている途中に急に気を失い倒れたとのこと

以来そこに私、佐藤がいる




現時点での結論

佐藤32歳ではなく劉佐5歳




まだわからないことばかりだが、元来の性格上あまり慌てふためきはしなかった。

情報を集め、冷静に理解し、適切な判断を心掛けよう。

佐藤、いや、劉佐はそう自分に言い聞かせた。






劉佐になってから2年の月日が経った。

妾腹ではあるが、皇族の長子として、歴史、地理、剣術、魔法学、帝王学、社交儀礼、必要なものを劉佐は与えられていた。



この2年で劉佐がわかったことは

頭脳としては佐藤のときの記憶も残っており、理解力は32歳の佐藤そのままだったこと。そのため、学問全般はすんなりと入ってきている。かなり得意だ。

武術や弓術は、自分が思う以上に体が動いた。特に剣術・槍術などは並の大人をこの時点で凌ぐほど恵まれていた。


ただし、魔法の習得はかなりの不得手であること。難儀をしているうえに才能がないらしい。この世界の貴族、特に皇族は膨大な魔力量を持って生まれるのが通常らしいが、劉佐には魔力量そのものが少なく、またその魔力も使いこなせていなかった。


これも佐藤の現代の固まった思考が影響を及ぼしているのかと劉佐自身は考えていたが、人々は陰で、妾腹の子だから魔力がないのね、生みの母親のせいねと囁いていた。



そのような風聞に、劉佐は生みの母親に対して少し申し訳ない気持ちがある。

ちなみに、生みの母親はこの涿城にはいなかった。

劉佐を生んでしばらくして郷里に戻ったらしい。

この雰囲気でこの涿城にとどまっているのは難しいだろう。

自分の生みの母親がある程度の常識人であることを劉佐は喜んでもいた。



劉佐の育ての親は、乳母の桑、そしてなにより父、劉弘の本妻、呉夫人がとてもよくしてくれていた。




その年の秋、父、劉弘の本妻、呉夫人が懐妊した。

翌年の春、劉佐に弟ができた。




弟の名は、劉備玄徳だった。




――なるほど、そういうことか

劉佐はなぜ自分がここにいるのかを半ば理解しはじめてきた。



劉佐は自身の置かれた境遇を鑑みて、より丁寧に日々を過ごしていくことに努めていった。



自分は妾腹の子、弟に本妻の子、劉備玄徳。それがすべてだ。






弟誕生から6年の月日が流れた秋、今日から4年に1度の劉神祭がはじまる。


劉神祭とは、日本でいう新嘗祭とハロウィーンとメキシコの死者の日を混ぜたようなもので、10月末から1週間、神へ収穫の感謝と祖先の霊を敬う祭祀であり、貴族や領主が厳かな式典をした後、民衆と共にハロウィーンやメキシコの死者の日のように騒ぐイベントであった。

劉佐は13歳、劉備は6歳となっていた。


皇族での祭祀が終わり、涿城の謁見の大広間に家臣一同が会していた。

そこで劉弘から家臣に向けて、感謝の言が述べられている。

その最後に劉弘から、劉佐と劉備が壇上に呼ばれた。



「皆も知っている通り、私にはこの二人の息子がいる。家臣一同が揃う機会は滅多にない。この場を借りて、我が河北劉王家の世継ぎの話をさせてもらいたい。」



大広間がどよめき、ざわつき、すぐに静けさを取り戻す

静けさから一拍をおいて、劉弘は発した。



「我が河北劉王家の世継ぎは、劉備とする!!」




大広間が再びどよめく。

私も皆も、薄々は感じていたこととはいえ、このように明言されるとなんと気持ちが晴れることだろう。やはり私の父劉弘は名君だ。

どよめきの中、静かな笑みを携えた劉佐は、拍手をしながら父を想っていた。



「劉備、これに!」

劉弘は、劉備を呼び、劉弘の横に並んだ劉備を抱擁し小声で言った。



「劉備、お前は王になりなさい」



「うんっ!!」

劉備は大きく頷いた。



「劉佐、これに!」

劉佐は、劉弘の前にひざまずいた。劉弘はさすがと言いたげな悲哀を含んだ笑みでひざまずいた劉佐に近づき抱擁し、声を掛けた。



「お前は、聡い子だ。劉備が生まれてからずっとお前が劉備を立ててくれていたのを私は知っている。お前のおかげで我が河北劉王家は世襲争いの臭いがまったくしなかった。本当にありがとう。」


「お前がいれば河北劉王家の繁栄は間違いない。これからも劉備を頼むぞ」



父が私を見ていてくれたことを知った。父の声が震えている。なんと嬉しいことか。

ふと劉佐は顔を上げ、呉夫人を見た。呉夫人も涙を流して小さく頷いている。



息子二人に順位をつけ、これからはその待遇に差をつけなければならない。それを辛いと思ってくれている父。自分の子でないにもかかわらず、平等な愛を与えてくれた母。

劉佐は眼鏡の奥に流れるものを感じていた。

もうかなりいい歳なのにと劉佐はコントロールを試みたが、家族というものに掛かれば感情の抑制などとてもできないようだ。



「謹んでお受け致します!」

劉佐は声を振り絞り答えたが、その声はしっかり震えていた。



大広間からは割れんばかりの拍手が起こった。

皆、劉佐の今までを見ていたからだった。



「では、これにて式典を終える!みな劉神祭を存分に楽しんでくれ!」

劉弘が一言を発し、会合が終了した。






式典のあと、劉備が劉佐を訪ねていた。

「ねぇ劉佐、お祭り一緒に回ろうよ」


無邪気な6歳がそこにいた。にこやかな笑みと優しい口調、天真爛漫とはこのことだといつも劉佐は思っていた。この劉佐という呼ばせ方も、劉佐の配慮の賜物である。劉佐は劉備に一度もお兄様などと呼ばせたことはなかった。


「いいですね、劉備様。一緒に参りましょう。父上様や母上様に許可はいただきましたか?」

これがこの兄弟のいつものやりとりであった。

「うんっ、劉佐となら二人で出掛けてもいいって!」


本当に信頼されたものだな、劉佐は改めてそう思った。

腐っても継承権第2位の私が継承権第1位の年下の弟と二人で城下の賑わう祭りに出掛けてもよいとは、あまりにも無防備だ。



城下に行くとそこには、屋台が立ち並んでいた。夏祭りの屋台の洋風バージョンだ。並んでいる屋台の種類も日本の夏祭りで見たようなものが多い。わたあめ、りんご飴、チョコバナナ、射的に、金魚すくい、からあげ、フライドポテト、たこやきにお好み焼き、中には十字架を象ったパンや骸骨の形の砂糖菓子などもある。

劉佐からすると一瞬、元の世界に戻れたのではないかと錯覚するほどである。

4年前に来たときは、本当に面食らったものだった。



「劉佐!劉佐!これなぁに?!」

「劉佐!これ!これ!やりたい!」

普段見慣れないものばかりで劉備はかなり興奮していた。

劉備ははじめての劉神祭を楽しんでいるようだ。



城下にいる者たちも劉佐と劉備は知っている。皆、温かい目で二人を見ている。

二人のいるメインロードがにわかに活気づいてきた。そろそろパレードがやってくるのだろう。先頭の大きな大きなカボチャの作り物が見える。カボチャを引く若衆が思い思いの仮装をしている。魔女のようなもの、オオカミのようなもの、包帯を巻いたもの、その後には楽器隊と踊り子、もちろん仮装をばっちりしている。今年のテーマは猫らしい。最後はカラフルな骸骨メイクをした人々が巨大な骸骨人形と共に来る。カラフルで明るく壮絶なインパクトだ。これには劉備も大きく目を見開いていた。



パレードが終わり、2人は広場にやってきた。ここは普段、市場がたち、生鮮食品が売買されている。劉神祭の期間では、そこにメリーゴーランドのようなアトラクションやお化け屋敷、サーカスのテントなどが建てられている。劉備は真っ先にメリーゴーランドに向かった。

劉備がメリーゴーランドで回り始めたころ、広場の奥のパブで騒ぎが起きた。



この野郎!ぶっ殺してやる!

やれるものならやってみやがれ!死ぬのはお前だ!



劉佐は劉備がメリーゴーランドに乗っているのを確認し、騒ぎの方向に走り出した。

走りながら遠目に確認するとすでに男二人が殴り合っており、二人が剣を抜くのが見えた。

二人までのこり30m、劉佐は思い切り地を踏みしめた。



ガキィィーーン



二人の間に劉佐が割って入っていた。片方を剣で、片方を鞘で受け止めていた。

そのまま二人を剣気だけで弾き飛ばした。



「双方の言い分を聞こう」


13歳の少年が冷たく刺さる声で二人に言い放ち、二人を諌めた。



急かして話を聞いてみればどうということはない。ビールが先に来た来てないというどうでも良いものであった。とりあえず今日のところは咎めなく、楽しく飲むと約束させ解決としておいた。そして、すぐに劉備のもとへ駆け出す。急がなくては。メリーゴーランドが終わる前に戻らなくては。




「劉佐、楽しかったー!・・・劉佐?」

「ここです劉備様、楽しかったですか?」

「すっごく楽しかったよ!」

「それは良かった。そろそろ日も傾きます。城に戻りましょう」

「うんっ!」

劉佐は、なんとかメリーゴーランドが止まる前に戻っていた。


これが劉備と二人で城下へ出掛けてよいもう一つの理由。

劉佐は、齢13歳にして涿城下一の剣の腕前を身に着けていた。

揺るがない信頼と圧倒的な剣、13歳にしてそれを同居させていた。


二人の背後の広場でバンバンッという花火の音が鳴る。

振り返ると色とりどりの紙吹雪が打ち上げられ、舞い始めていた。

それとともに、無数のランタンが空へゆらゆらと上っていく。

薄暗い空にオレンジ色のランタンが極上の風景を作っていた。


ずっと二人でその景色を眺めていたかった。



「劉佐!最後の景色はすごかったね!」

「そうですね。劉備様。明日はサーカスでも見に行きますか?」

「うんっ!行く行く!」




仲睦まじく城に戻る二人に夕日が影を落としはじめていた。



この4年後に起こる≪暁の政変≫、そこで彼ら二人のすべてが壊れる。



乱世が二人を待っていた。




挿絵(By みてみん)

               趙雲(劉佐)

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