ものがたりの幕開けはいつも赤
自分で言うのもなんですが
あんまり先が見えないですね…
めげずにやってみます
挿絵URL 挿絵のフレーバーテキスト書いてあります
https://33138.mitemin.net/i466607/
●ものがたりの幕開けはいつも赤
戦場は赤に染まっていた。
そこかしこに轟音、怒号が響いている。
シンデレラ風のドレスに身を包んだ女性が扇を片手に矢継ぎ早に使番を飛ばしていた。
「張飛に即刻今の位置から離れるように伝えて。殿軍を副将に任せ、自らは江陵方向へ先行している騎兵隊に合流する動きを取るように。江陵が見えたら、そこには留まらず、補給後すぐに漢水方面へ東進させて。よし、行って!!」
「「次、周倉が率いている歩兵大隊を三つに割るわ。1刻に1部隊ずつ進軍方向をこちらの漢水方面へ変えるように。劉備と趙雲の部隊には、大隊の動きに捉われずに、進軍路は長坂道のまま、所定の位置まで並足と伝えなさい。よし、行っ…」
「待て!!」
巨大な体躯の男がその女性の目の前に現れ、つかつかと歩み寄り、青龍刀の刃を突きつけた。
「主君である劉備殿を囮に使う気か?」
女が冷たい目で男を睨む。
「あなたには、漢津の確保を命じたはずです。なぜここにいるの?」
男が青龍刀を掴む手に力を入れる。
「もう一度問う。主君である劉備殿を囮に使う気か?」
女が静かに怒気を放つ。
「いいから私の言うことを聞きなさい、関羽」
男は表情を変えずに答えた。
「それは聞けぬ話だな。返答次第で私はお前を斬り捨てなければならぬ」
「構いませんよ、気に入らないなら私を斬ればいい。でも忘れないでね、今、この死地の先に我々の運命を繋ぐ事ができる事ができるのは私だけ」
関羽は恐ろしい顔で女を睨みつけた。
そして彼は、その女の目から涙がボロボロとこぼれていることに気づいた。
「この策は劉備の兄が命を賭して私に与えた策。私は彼に約束をした。私は何があってもこの策を最後まで果たす義務がある。斬れるものならやってみろ、首だけになってもこの策だけは成し遂げてやる」
彼女は静かに、しかし強い声で答えた。だが、それよりも関羽の様子がおかしい。
「・・・?劉備殿の、兄・・・?いったい誰のことだ?」
その様子を見つめていた女がゆっくりと、ほんの少しだけ首をかしげる。
彼女は関羽を見つめ、表情のないまま口を開く。
「知らない・・・の・・・?」
そして、彼女はハッとした顔をした。
「まさか・・・まさか、劉備本人も知らないんじゃ」
「何のことだ!?劉備殿の兄とは誰のことだ!?」
女が目を閉じた。眉間を歪ませる。
―――なんで・・・?
なんで、あなたは・・・
あなたは、ここまでどんな人生を送ってきたの?
どんな想いで生きてきたの?
なんで、誰にも話さなかったの?
なんで
なんで、私にだけ話したの?
ボタ
ボタボタっと涙が地面に落ちる
彼女はそれを拭うこともしなかった
沈黙の後、彼女は小さな声で言った。
「ずっと彼の横にいたでしょう・・・」
「趙雲は・・・彼の兄です・・・!!」
絶句。
関羽は無言のまま空を見上げた。
赤に彩られた高く、高くそびえ立つ空から、薄い月が彼らを見降ろしていた。
緋色の空。
乾いた空気の中、風が横切る。
夏侯惇が苦々しい顔をして前を睨みながらぼやいた。
「あーあ。一本道に入り込んじまったぞ」
率いてきた軍に停止命令を出す。
大将首につられて、迂闊に動いてしまったかもしれない。
そして彼は、目前に捕捉した小さな部隊に向かってとんでもなく大きな声をかけた。
「よお!趙雲と劉備だよな?」
その声に振り返った男は、しばらくの間、声の主である夏侯惇と敵の大軍勢を見つめていたが、不意に自軍の小隊に向かって叫んだ
「よし。馬を止めろ、ここで王子を脱出させる」
劉備は困惑した顔で趙雲を見つめた。
「何言ってるの趙雲?一緒にここで戦うって約束したでしょ?」
趙雲が優しい顔で劉備を覗き込む。
彼は劉備の頭をやわらかく撫でた。目をみつめる。
「劉備様、あなたはまだ生きねばなりません」
「趙雲・・・?」
少しだけゆっくりと、劉備の顔色が変わった。彼は趙雲が何をしようとしているのか悟った。
ひどく動揺して趙雲に駆け寄る劉備。
その少年を趙雲は手を広げ招き入れ、抱擁して、そしてこう言った。
「劉備様、これまで本当に楽しい旅でした。しかし、あなたはまだまだもっと大きな人物になれる。あなたなら、もう一度美しかった王都を蘇らせることができる。」
「あなたは、王となるのです」
そう言い終わった瞬間、趙雲がゆっくりと、しかし強い力で劉備の肩を掴み、少しずつ押し出した。
「劉備様、御免仕る!!」劉備はそばにいた兵にガッと体を抱えられ無理やり馬に乗せられた。突然のことに、必死に暴れる劉備。
「どうして!!どうして!?趙雲!!」
だめ、だめだ・・・趙雲は・・・死ぬ気だ。
暴れる劉備の手は趙雲を掴もうとして、そして、その手は空を切る。
兵が馬に鞭を入れる。それは全速力で駆け始めた。
「趙雲!!いやだ!!いやだああああ!!!」
馬上で泣き叫ぶ劉備。
すごい早さで小さくなっていくその少年の姿を見つめながら、趙雲はあの日の事を思い出していた。
血を流し、幼い少年を抱いた女性。
崩れ落ちる城壁の音。
趙雲は泣き崩れ、横たわる女性の手を握った。
「御后様!!」
女性は息も絶え絶えに呟いた。
「この子を・・・お願い・・・」
女性は血に濡れた手で気を失った少年の頭に触れる。
「あなたに・・・この子を託すことの罪は分かっている。でもね・・・それでも、あなたたちは二人とも私の子なの・・・。私の子供なのよ・・・」
「この都はもう終わり。でもいつか・・・。いつか、あなたたち二人で、再びこの王の都を再び興すのです」
視界が少しぼやけた。趙雲は自分の目から流れてくるものに気付いた。
劉備の姿はあっという間に小さくなって行く。
「お母様、どうやら私はここまでと決まっていたようです・・・二人で再興という約束を果たさず散る私をお許し下さい・・・後は劉備様が・・・」
唇を噛む。
趙雲は左手の甲で自分の頬を拭い、ゆらりと振り返った。
目の前には、隻眼の狼、夏侯惇。
―――劉備、君にあとのすべてを託すしかない愚かな兄を許してくれ。
夏侯惇が座った目をしたまま趙雲に話しかける。
「挨拶は終わったかい?」
―――生きろ、弟よ。
「言っておくが、手加減はしねえよ?」
夏侯惇はそう言うと、刀を抜きゆっくりと構えた。
趙雲は少しだけ微笑んだように見えた。
「ああ、礼を言うよ夏侯惇。お前が相手でよかった。」
「この趙雲子龍、これが最期の戦いだ。」
「思う存分やらせてもらおう」
趙雲も剣を抜いた。
その剣先は美しく輝いていた。
これは、かの有名な赤壁の戦いの前夜、名もなき戦いで命を落とした勇者の最後の叙事詩。
これから始まるお話は、これより数年前のことから語られます。
三国志ものがたり
いよいよ、開幕でございます。
関羽
自分で言うのもなんですが
あんまり先が見えないですね…
めげずにやってみます