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ぬるーりバッドエンド(オムニバス)  作者: 彼方のハートにヘドロ爆弾(仮)
本編
9/23

8. 新魔王の降臨は・・・①

【魔王国宰相】


 魔王国の宰相は、今日という日を心から待ち望んでいた。


 50年前のあの日、勇者の手によって前魔王様は倒された。そのことにより、魔王軍の力は衰退し、魔族の領地は次々に人間の手によって奪われてしまった。


 しかしこの屈辱の日々も今日を以って終わるのだ。


 何故ならば、神の啓示によってもたらされた情報によると、新しい魔王様が本日御降臨なされるのだから。


 宰相は魔王城にある玉座の間でその時を待つ。この場に魔王様が召喚され御降臨なされるのとか。

 あぁ、楽しみで仕方がない。

 気分が浮かれ思わずスキップをしてしまう。ランランルー。


 この宰相、役職のわりに子供っぽい性格をしているのだ。

 見た目は初老の男性であり、頭に生えた1本のツノと背中の大きな翼さえ無ければ人間の男性と差は無い。

 見た目だけであれば、落ち着きのある、いぶし銀な男性といっても差し支えないだろう。

 だが、あくまで見た目だけの話である。


「うきゃー、どうしよう~どうしよう。こんなスキップしているところを新魔王様に見られちゃったらどうしよう~。」

 内面はとても残念な宰相であった。


「落ち着いて下さらないかしら宰相様。玉座の間で恥ずかしい真似はお止めください。それにここには多くの魔王国の重鎮がいらっしゃるのですから。」


 そう声をかけて来たのは、魔王軍の女幹部であるテモールだ。

 彼女は魔王様の御降臨に合わせて、一時城に戻って来たのである。他の重鎮たちも、はしゃぐ私を見て眉をひそめて、ため息を吐く。

 この場にいる私とテモール以外の魔族は、皆人間とは遠い姿をしており、体が大きいため、漏れ出すため息の音も大きい。

 皆さ、私は宰相だよ?皆より偉いんだよ?ため息漏らすとか失礼じゃない?


「ホント、私の周りには碌な男がいないわね。あの勇者もことあるごとに私にすり寄ってくるし、今日も兄弟の結婚式に出るから一時パーティを抜けると言ったのについて来ようとするし・・・。」

 テモールはこの後も、ぶつぶつと勇者の愚痴を垂れ流していた。


 彼女は人間国にその実力を買われ、勇者とパーティを組む羽目になってしまったのである。

 ただでさえ人間の勇者と一緒に行動すること自体、魔族である彼女のストレスであるのに、その勇者の性格にも難があるため、かなり溜め込んでいるようだ。


 可哀そうに。などと自分もストレスの一旦であるにも関わらず、他人事のような感想をもつ宰相であった。


 その時、突然周辺の空気重くなるような、強い威圧感が体を襲ってきた。

 何事かと威圧感の発生元に目を向けると、玉座の前に巨大な魔方陣が浮かび上がっていた。


 あまりの威圧感に、玉座の間に居る重鎮たちも息をのみ、言葉を失っている。そして、額からは汗が流れだし部屋全体が強い緊張感に包まれていた。


 魔方陣は空中で何度も間隔をあけて明滅を繰り返し、その度に強い力が溢れ出してくる。

 いよいよ魔王様が御降臨なされるのであろう。


 以前の魔王様が御光臨なされた時は、このように何度も何度も明滅を繰り返すことは無かった。

 もしかすると、魔王様の膨大過ぎる力に召喚の魔方陣が耐えかねているのかもしれない。

 頑張れ魔方陣。もうちょっとだ、もうちょっとで召喚できるぞ。

 ひっひふーで呼吸するんだ。ひっひっふー、ひっひっふー。


 ただし、この宰相だけはマイペースで残念な思考の持ち主であった。




【女幹部】


 強い緊張感で部屋全体が静かになっていく中、何故か宰相だけはラマーズ法の呼吸を繰り返しています。意味が分からりませんわ。


 その間も魔方陣は光輝いては、また光が弱まっていく。光輝く時、溢れ出す威圧感が襲ってくるたびに、私の胸が強く高鳴る。

「あぁ、早くお姿をお見せくださいませ。」


 遂に魔王様が召喚されるのか、ひときわ強く魔方陣が輝きだしました。

 あまりの強い光に、私は目を細めてしまいそうになります。魔王様の誕生をこの目でしっかりと拝見するため、頑張って目を見開きます。


「おぉ、魔王様だ。魔王様が御光臨なされるぞ。」

 周りが騒めき立ちます。


 光の中に影が浮かび上がり、少しずつ輪郭があらわになり始めました。

 ついに、ついにですわ。


 影は段々と濃くなっていき、姿がはっきりとしていく。

 どうやら、現在横たわっておられますが、人型の魔王様のようですわ。私と同じように、ほぼ人間と見分けがつかないシルエットですわね。


 自分と同じタイプの魔族であることに、テモールの期待は更に高まっていく。


 そしてついに魔方陣の光は弱まっていき、その姿がはっきりとあらわになる。

 やはり自分と同じ、人間と見分けがつかないタイプの魔王様だ。


 まだ眠っているのか目を閉じており、動く気配は無ありません。


 ですが、確かに魔王様はご降臨なされたのです。

「うぉ~~~~。魔王様が御光臨なされたぞ~~~。」

「魔王様万歳~。」

 周囲の重鎮たちが一斉に声を上げた。私も一緒になって声を上げてしまいました。


 この日をどんなに待ったことか。嬉しさのあまり目から涙が溢れ出してしまいます。

 あぁ、魔王国の光り輝く未来が見えますわ。


 魔王様万歳。




【(元)喫茶店の自称ナイスミドルなマスター】


 すごく怒られた。神にすごく怒られて俺は涙目になっていた。

 神は怒らすとすごく怖かった。


「おら、さっさと行けよ。お前はこれから『ヌェーヨ』の新しい魔王になるんだよ。」

 そう言いながら俺の尻に蹴りを入れてくる。


 こうなるまでに何があったか簡単に説明しよう。

 この『ヌェーヨ』を管理する神によって神界に連れてこられた喫茶店のマスターであったが、好奇心に駆られて星を維持するための『星の秘宝』を手に取ってしまったのである。

 その結果、惑星『ヌェーヨ』は消滅してしまったのである。


 その後が大変であった。神は星を復活させるため、『星の秘宝』に何度も自分の力を注ぎこんだ。

 それでも力が足りなかったため、他の星の神々の力を借りようと走り回っていた。

 色んな神に事の顛末を話して、笑われたり馬鹿にされたり、それでも何度も頭を下げて星を復活させようと頑張っていた。

 他の神々に大きな借りを作って、何とか消滅する前の星に再生することが出来たのである。


 まぁ、そのあと俺はめちゃくちゃ怒られたんだけど。『星の秘宝』を触っちゃいけないなんて大事なこと聞いていなかったんだもの。

 大事なことは2回言っておいてほしいの。


「君は星を消滅させた程の大悪党だからね~。『ヌェーヨ』の魔王にピッタリじゃないか。」

 一切笑っていない目でそう告げられた。


「いや、あの、私に魔王はちょっと荷が重いかな。なんて。」

「いやいや、今までの魔王よりも君は結果を残したじゃないか。神の僕をココまで追い詰めたのは君が初めてだよ。」


 嫌だ、俺は人間のハーレムを作りたいんだ。可愛い女の子たちに「流石マスター」とか言われて、「やれやれ」とか言いたいんだ。


「そんな君にとって都合が良いことやらせる訳がないだろう。魔王だってモテるさ。ヌメヌメのスライムとか、豚面のオークとか、ゴリラのようなモンスターや魔族達にね。」

 神はニヤッと笑うと、こう続けた。

「それに、この前君に上げた能力は残しておいてあげるよ。『他種族とも子供を作れる体』があれば魔族やモンスターのハーレムが作り放題だよ。君の体も若返っているし交尾し放題だね。」



 嫌だ、モンスターは嫌だ。特にオークは死んでも嫌なんだよ~。スライムとかならまだローションに近いから忌避感が少ないかもしれないけど、変に人型に近いモンスターは特に無理なんだよ~。


 そんな俺の心情を無視して、神は俺の目の前に魔方陣を作り出す。


「おら、さっさと行けよ。お前はこれから『ヌェーヨ』の新しい魔王になるんだよ。」

 そう言いながら俺の尻に蹴りを入れてくる。


 ちょ、やめて、地球に返してください。いや~神様助けて~。


 魔方陣に入りそうになると、俺を異世界に飛ばすために魔方陣が光りだす。


 ぬぉ~。オークなんかとの交尾はゴメンだ~~。


 俺は必死に魔方陣から飛び出した。すると魔方陣の光は収まっていく。

 しかし、その度に神に蹴り飛ばされ、魔方陣に入りそうになり、俺は必死に逃げ出す。

 出たり入ったり、入ったり出たり、魔方陣は何度も明滅を繰り返す。


「いい加減あきらめろや。」


 神が俺の腕をつかみ、背負い投げで魔方陣の中に俺を叩きつけた。


「がはっ。」

 凄い衝撃に息が止まり、痛みで身が上手く動かない。

 止めとばかりに、神にお腹を蹴飛ばせれ、俺は意識を失ったのであった。


 そして、目覚めるとそこは見知らぬ天井。

 多くの化け物に囲まれ、そいつらは俺の顔を覗き込むように見ていた。


 た~す~け~て~く~れ~。

魔方陣が輝くたびに威圧感が漏れ出していますが、あれは怒っている神のものであって、マスターのものではありません。


まだ続きます。

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