4. 裸の王様:side詐欺師
「
『裸の王様』を簡単に纏めると、
王様が詐欺師から『馬鹿には見えない服』と、ありもしない服を売りつけられる話である。
しかし、本当にそうだったのであろうか。本当に『馬鹿には見えない服』は実在していたのではないのだろうか。
ただ、ほぼ全ての人々が、その服を見ることが出来なかっただけではないだろうか。
『彼等』は失敗した。
大臣の命により、多くの兵士が『彼等』を囲った。逃げ場など何処にもない。
『王を相手に詐欺を働いた罪で、貴様らを取り立てる。おとなしくお縄に付くがよい。』
兵士の先頭に立つ、馬に跨り立派な鎧を着た人物が声高々に罪状を読み上げる。
おそらく彼が兵士を纏める上役であろう。
そして、兵士たちは無抵抗の『彼等』を押さえつけ、拘束用の器具を取り付ける。
『彼等』は簡単に捕まってしまった。最初から逃げる準備などしていなかったのが原因だ。
そもそも逃げる必要などなかった為である。『彼等』は王を騙していなかった。勿論その家臣達も騙してなどいない。
実は『馬鹿には見えない服』は存在していたのだ。
『彼等』の失敗は、その服を、見ることが出来ない者たちに売ってしまったことだ。
王とは国の頂点に立つ、由緒正しい血統の者である。
そして王の周りには多くの貴族がいる。
彼らは国民が必死に働いて払った税で幼少期から高度な教育を受け、民たちの中心となり国を動かしていく存在である。
そんな有能なハズの者たちの、誰一人として王の服を見ることは出来なかったのだ。
『彼等』は愕然とした。
国の頂点が無能集団だということに、そして自分たちが無実の罪で囚われることに。
『彼等』が牢に閉じ込められた頃、城の中の個室で1人の男がほくそ笑んでいた。
その男は王の弟であり、この国の大臣であり、そして次期王位継承権1位の人物である。
実はこの大臣、他の家臣たちが王の服を見ることが出来ない中、しっかりとそれを目にしていたのだ。
『彼等』から『馬鹿には見えない服』を紹介された時、大臣は気付いてしまった。
殆どの者が服に焦点が合っていないことを。
見える振りをしているが、大臣からしたらバレバレの演技であったのだ。
それは王も同じで、自分の実の兄でありながら愚かだと思わずにはいられなかった。
この時1つの考えが頭の中に浮かぶ。これを旨く利用すれば、自分がすぐに王位を継げるのではないかと。
そう思い立った大臣はすぐに行動に移した。
大臣は見えない服を紹介された時、皆の反応をしっかりと確認していた。
大勢の【王のように見える振りをして、生地を褒めた者】
少数の【実際に見えており、純粋に生地を褒めたたえた者】
後者の人物だけを呼び集め、王位継承後の地位や褒賞を交渉材料にして、彼等を自分の派閥に入るように説得をした。
集まった者たちも、賢く先見の明がある者たちだ。その場で自己の利益を計算し大臣に付くことを決めたのであった。
そして大臣は、派閥の者たちへ服が実在していることを誰にも話さないように命じた。また、服を売った『彼等』をすぐにでも捕らえられるように準備をしたのだ。
そして、パレードの時を待った。
盛大に行われたパレードには多くの民が集まった。子供も大人も男も女も、誰もが不思議な服を一目見ようと集まったのだ。
王の登場から最初暫くは、皆が王の服を褒めたたえた。誰も自信が馬鹿者と思われたくないためだ。
『うむ、あれは素敵な服だ。うむ、素敵だ。』
『なんて、あの・・・立派な服なのっ!」
口々に中身のない誉め言葉が飛び交う
しかし、そんな中でも正直に『見えない』と言う者はいるのだ。
それは、幼い子供達。
『なんで王様は裸なの?』
『あははは、はだかだ~。』
『王様は裸だ!』
子供達の声を皮切りに、実は自分も見えていないと正直に話す人が出てくる。
1人見えないと認める人がいれば、もう1人正直に話す人が出てくる。暫く時間が経つと、見えないという声が大半になる。
この時に民はこう思ったのだ『実は王様は本当に裸なのではないか』と。
結果、王は騙されて裸のままパレードを行った愚者として民に認識されることになった。
『王は詐欺師に騙され、裸のままパレードを行った愚か者だ』
『こんな人物が王で本当に良いのだろうか』
『他の国に笑われたら嫌だな』
そんな言葉があちらこちらから聞こえてくる。
そんな民の声を、大臣は黒い笑みを浮かべて聞いていた。
そして、ここぞとばかりに大声を上げる。
『聞け、国民達よ。』
大臣の張り上げた声に、民は静かになる。
王を誹謗したことを罪に問われるのでないかと思い至り、やってしまったと言葉が出なくなったのだ。
静かになった民たちに対し、大臣は声量をすこし下げてゆっくり語りだす。
『君たちは今、王を侮辱する発言をした。それは本来であれば罪に問われるものだ。』
民の顔から血の気が引いていく。今にも泣きだしそうな顔もチラホラ見える。
それを確認した後、再度語りだす。
『しかし、それは王の愚かな失態が原因である。今回は罪に問わないでおこう。
そして、安心してほしい!
王を騙し恥をかかせた詐欺師共は、すでに私の手の者が追い詰めている。時機に捕まるであろう。』
一瞬の静寂の後、民は大きく盛り上がった。
失言をした自分達が罪に問われないこと。そして詐欺師をすでに追い詰めている大臣の手腕に。
そして多くの民が、大臣を褒め称えるのであった。
大臣やその派閥の貴族は黒い笑みを浮かべる。
本来ならば、詐欺師を捕らえたところで、民からの支持を集めることは出来ない。
しかしこの時は、直前に王が大きな失態を犯している。
更に、大臣は直前に民の暴言に対し『罪に問わない』と言うことで人々の関心を引き寄せた。人は自分の身が大事なため、注目をせざる負えない嬉しい話題である。
そして、その後の『詐欺師を追い詰めた』という小さな手柄を『安心してほしい』という言葉で、『罪に問わない』ことに繋げることにより、話しを大きく魅せることに成功したのだ。
そう、大臣は王を騙し、民を騙、名誉を手に入れたのだ。
大臣こそが詐欺師といって良いだろう。
『彼等』は悔しさで涙を流した。
牢の見張りから、大臣が次の王となることを聞き、全てを理解してしまったからだ。
大臣は我々を利用したのだと。さらなる権力を手に入れるために無実の罪を我々に被せているのだと。 ・・・おわり。」
俺は以前と同じように、山田に対して作り話を話して聞かせていた。
またも、誠太が遅刻しており暇なのだ。
「いや、先輩。何ですかその酷い話は。メッチャ極悪展開じゃないですか。服を売っただけで捕まった人たち可哀そうですよ。」
俺が話し終わると山田は大声で突っ込みを入れてきた。
こらこら、また声がでかいぞ。でも、反応が大きいのは嬉しいから許す。
「じゃあ、こうしよう。無能な王に変わり、王位に就いた元大臣一派はとても優秀だったため、皆幸せに過ごせたのでした。ちゃんちゃん。」
「ちゃんちゃん。 じゃないですよ、結局『彼等』救われていないじゃないですか。あと元国王。
先輩って前の金太郎の話といい、不幸な話を思いつきますよね。根暗なんじゃないですか。」
まったく失礼な後輩だ。この山田は。
「また興奮してるのか。何やってんだお前らは。」
そう言ったのは俺ではなく、またもや遅刻をしていた誠太だ。
「そういうお前はまた遅刻だな。お前こそ何をやっているんだ。」
「聞いてくださいよ、誠太先輩。先輩ったら酷いんですよ。」
だから、その言い方だと、俺が何か悪さしたように聞こえるではないか。
「ところで、この喫茶店のマスター変わったのかな。いつものオヤジがいないみたいだけど。」
その件は俺も気になって、先ほど店員に確認していた。つい最近ストーカーの被害に遭い、急に店を辞めてしまったらしい。
ちなみに現在、元マスターの行方も分からないのだとか言っていた。
「ストーカーか、オヤジにもストーカーが付くことがあるんだな。」
誠太は一瞬考えるような表情を浮かべたが、すぐに普段通りに戻る。
「まぁ、いいか。それよりもさ・・・。」
「あぁ、出かけようかね。」
「じゃなくて、俺にもその話聞かせろよ。」
結局先ほどの話を聞いていなかった誠太にもすることになり、今回もなかなか出かけられなのであった。
第1話と同じメンバーです。