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ぬるーりバッドエンド(オムニバス)  作者: 彼方のハートにヘドロ爆弾(仮)
本編
3/23

2. 喫茶店のマスターは・・・

 

【とある女性】

 日曜の朝7時

 私は目覚ましの音で目を覚ます。今日は休日であるが、予定があるため平日と同じ時間に起きる。


 まだぼぉっとする頭で、リビングにあるテレビをつけ、毎朝同じ内容を繰り返すニュースをぼんやりと眺める。

 そうしているうちに、だんだんと頭が働くようになり、意識がしっかりしてくる。


 洗面所に行き顔を洗った後、化粧をする。

 鏡に映る私は女性にしては髪が短く、頬が角張っており中性的な顔立ちをしている。むしろ男性に見られてしまうかもしれない。


 朝の支度が終わった後、私はメガネをかけ帽子をかぶりパソコンの入ったバッグを持って、最寄り駅へと足を向ける。

 駅に行くといっても電車に乗るわけではない。駅も構内にある喫茶店に入るのだ。


 なぜ朝から喫茶店に入るかというと、そこのマスターがすごく好みなのである。

 ビシっときまった制服に、オールバックの髪型。口の上にひげを蓄え、目はどこか涼し気で、少々無口。

 これぞ渋い大人!私よりも10以上は年上であろうが、ドストライクなのである。


 そんなマスターに会うため、私は毎週あの店に通っているのだ。


 自宅からゆっくり15分ほど歩くと駅が見えてくる。時刻は8時5分ちょうど店が開たばかりの時間だ。

 そう思ったのだが、店のドアをくぐり2人組の男女が出てきた。

 開店直後かと思ったが、いつもより早く店を開いたのかもしれない。そうとわかっていたらもう少し早く来たのになぁ。


 2人が手をつないで歩いているところを見ると、カップルなのであろう。

 あぁ、私もマスターと手をつないでデートしたいな。ふふっ。


 店に入るといつものマスターがカウンターテーブルの奥に立っている。今日も素敵である。


「いらっしゃいませ。」


 マスターは無表情なまま視線だけを私に向ける。

 私は内心ドキドキしながらマスターの前に立って声をかける。

「あの、コーヒーをください。」

「かしこまりました。お好きな席でお待ちください。」


 渋い声での返事。もっとその声を聴かせてほしい。

 私は少しでもマスターの近くにいられるよう、カウンターテーブルの席へ腰掛けるとカバンからパソコンを取り出し電源を付ける。

 本当はマスターを見つめていたいけど、ずっと見ていたら変に思われちゃうからパソコンを弄るふりをしてカモフラージュするのだ。

 だけど、パソコン開いてもやることが無いのでマスターの様子を何となく書き込んでいく。これが私の休日の過ごし方だ。

 1日中カフェで過ごすなんてちょっと変かもしれないけど。私はすごく充実を感じることが出来るのだ。




【マスター】

 日曜の朝8時

 自称ナイスミドルなカフェのマスターは店を開ける。


 それほど大きくもないローカル線の駅にある喫茶店で働く彼は、口の上に髭を生やし無表情な顔でお客を待つ。


 白いワイシャツの上に黒いジャケットを羽織る。そして黒い蝶ネクタイを整える。

 食器棚に映った自分の姿を確認し、今日も完璧だと自分を評価する。


 完全にドラマに出てきそうな見た目である。というより、ドラマを見てかっこいいので真似しているのである。

 喫茶店で働きだした切欠もそのドラマで、それを視聴した翌日に元々働いていた会社を辞め、喫茶店で働き始めたのである。


 喫茶店を経営するための資格を持っていない彼はアルバイトであって、自称なのはナイスミドルだけではなく、マスターも自称なのである。

 ちなみにこの自称マスター、そろそろ40にも差し掛かかろうとしているが独身である。


 ※毎回自称を付けるのは手間なので、以後マスターとする。


 店のドアが開き、チリンチリンとドアに取り付けてある鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ。」

 マスターは無表情なまま視線だけをお客へと向ける。


 お客は女性1人でおそらく20代中盤であろう。

 化粧は少し濃いが、整った顔立ちで美人といえるだろう。


 よし1人目から当たりが来たぁーーーーーー!

 まったく1人目から美人が来るなんて今日は幸先が良いぜ。どうしようこの女性にナンパされちゃったら。うふふ~。

 内心大喜びではあるが、顔に出さないよう気を付ける。


 このマスター内面かなり気持ちの悪い男である。


 女性は窓側の席に腰を下ろし、メニューを広げる。


「すみませーん。」

 女性が注文のためにマスターに声をかける。

「はい、お伺いいたします。」

 なるべく渋さを意識して、発声する。


 ふっふっふ、なかなか良い声であろう?惚れても良いのだよ?


「えっと、このおすすめのコーヒーをくだs」

 女性がそう言いかけた時またチリンチリンとドアが開く音が聞こえてきた。


 そこには1人の

 男性が立っており、注文をしようとしていた女性の方へ顔を向けていた。

「あれ、エミ先に来てたの?」

「あ、かず君!私約束の時間より結構早く着いたのに。もう来たんだ。」

「そりゃ、エミを待たせたくないからな、でも結局待たせちゃったみたいでゴメンな。」

「いや、全然まってないから、私も今来たところで注文すらしてないから~。」

「ほんと、じゃあこのまま行こうか。」

「うん、そうだね。」

 2人は注文もせずに、手をつないで店を出て行ってしまった。


 死ね~~~~~俺の前でイチャイチャしてんじゃねぇよ!リア充爆発しろ!男だけ爆発して女置いていけ!!


 やっべぇ最悪だわ、気分最悪だ。目の前で見せつけられた挙句、なんの注文もせずに帰りやがった。

 今日はもう店閉めようかな。でも、そんなことしたら店長に怒られるからしないけど。


 この男、外面は無表情であるが、内面はかなり気持ち悪い上に幼稚である。


 次に店に入ってきたのはメガネをかけ帽子をかぶった男性である。

 大きめの手提げを肩から下げてマスターの前に来る。


「あの、コーヒーをください。」

「かしこまりました。お好きな席でお待ちください。」


 相手は男であるが、渋い声で対応する。

 どこに女性の目があるかわからないからな。どんな時でも渋く決めるのだ。


 お客の男はカウンター席に腰を下ろし、パソコンを広げカタカタとキーボードを鳴らす。


 その後も入れ代わり立ち代わりお客が来てはコーヒーを飲み時間を潰して去っていく。

 中には「ここのマスターって渋くてかっこいいわよね~。」なんて話すおばちゃんもいる。だが、おばちゃんはノーセンキューだ。

 と、脳内で言いつつも嬉しくて口元がにやけそうになる。がまん、がまん。

 あと、なんか金太郎の鬼の話をしている変な奴らとかもいた。どんだけ暇なんだよ。


 ちなみにコーヒー1杯で数時間パソコンをいじっているメガネの男なんかもいる。こいつは何時まで居座るつもりだろうか。ていうかコイツ毎週この席で1日中座っているんだよな。意識高い系のお客様ですか、どうせカッコつけだろう。そんなことしてもモテないから早く帰ってくれないかなぁ。


 なお、この男もモテたいがためカッコつけでマスターをやっている。




【女性】

 時刻は午後4時を過ぎた頃。他のお客さんはみんな帰ってマスターと私は2人きりである。うん、2人きりって響きが素晴らしい。


 マスターはどこか虚ろな表情でコップを磨いている。すでにピカピカのコップに見えるが、やはりプロの目からだと納得がいくまでに至らないのであろう。

 そんな彼方を見つめているだけで私の心も磨かれていくようだ。自分でも何を言っているかわからない。


 そんな素敵で甘美な時間に事件は起きた。

 店の外から大声が聞こえてきたのだ。


 何事かと振り向くと、そこで女の子が大柄な男に絡まれているのである。

 男は女の子の腕をつかんで、なにやら叫んでいる。

 どうしよう。なんとかして上げたいけど、怖い。助けに行って私まで絡まれたら・・・そう思うと体が動かない。


 そんな私の目の前を黒い塊が通り過ぎた。マスターがカウンターテーブルを飛び越えて駆け出したのである。


【マスター】

 時刻は午後4時過ぎお客はほとんどが帰り、今はパソコンの男しか残っていない。

 マスターはコップを手に持ち、すでにピカピカに磨いたそれを更に拭く。


 暇だ。


 食器も全部洗ったし、テーブルも綺麗に拭いたし、その他諸々も完璧。やることがない。

 実はこのマスター仕事だけはかなり出来るのである。

 でも、仕事が早く終わってやることが無いのでコップを磨いているのだ。


 そんな時、店の外から大声が聞こえてきた。

 何事かと外を見ると、女の子が男に絡まれているではないか。


 女の子は高校生くらいであろうか、まだ幼さは残るが大人への階段を上り始めた年頃である。その顔はとても可愛らしく、店長の超ドストライクであった。

 年の差が倍以上あるがそんなの関係ない。可愛いだけで大好きさ。


 いま君のヒーローが助けに行くぜー!!


 マスターはカウンターテーブルを飛び越え少女の元へ駆け出す。

 頭の中ではすでに、助けた少女に惚れられ、数年後に結婚するところまでストーリーが出来上がっている。


 店の扉を蹴り開け。少女と男の間に体を滑り込ませる。


「大丈夫かいお嬢さん。まったく災難だったね、後は私に任せなさい。」

 この時少の方を向かないのがポイントである。ここで俺の大きな背中を見せ、心を奪う作戦である。


 マスターは絡んでいた男を睨みつけて語り掛ける。

「日も沈まぬうちから良い大人が少女に絡むなんて恥ずかしくないのかね。」

 もちろんここでも渋い声を意識する。

 ふっ、これは完全に俺に惚れたな。


「おい、おっさん邪魔するな、そいつ俺の財布を盗んだんだよ。逃げられるだろうが。」


「へっ?」

 思わず変な声を出してしまった。


 マスターが振り返って少女を確認しようとすると、そこにはもう誰もいない。


「があぁぁああ、逃げられたーーーー!おっさんマジで勘弁してくれよ。」

 男は目に涙をためて、マスターを睨みつける。



「・・・ごめんなさい。」



 その後マスターは男と一緒に警察署へ行って、事情を説明することとなった。


【女性】

 店内から外の様子を窺う。ここからだと声は聞こえてこないが仕方がない。


 マスターは大柄な男の前に立ちはだかり、なにか喋っている。

 その間に女の子は走ってその場から逃げ出した。どうやら助けられたようだ。


 かっこいい。


 そのあと、大柄男はマスターと少し話し、涙目になりながら一緒に歩いて行ってしまった。

 おそらくマスターの説得で改心させられたのだろう。


 かっこいい。


 暫くするとマスターは急いで店に戻ってきた。店に誰も居ないのがまずかったのであろう。

 でも大丈夫、店にはあの後誰も来なかったから私しかいないよ。


 店長は私の方へ来ると苦しそうな表情を浮かべ、私に語り掛けてきた。

「お客様、大変申し訳ありませんが、私はこの後警察署に行ってお話をして来なければならなくなりました。そのため店を閉めさせていただきたいのですよ。勿論御代は結構ですので。」


 事情があるにしても、客に対して出ていけ何て言うのが辛いのであろう。マスターの顔はとても辛そうだ。


「わかりました、先ほどの件では仕方ないですよね。」

 私はそういうとパソコンを閉じて帰る支度を始める。


 私が出ていく準備をするのを見てマスターは少し安心したような表情になる。


 本当にまじめで誠実な人なのだろう。


【マスター】

 財布を盗まれた男と警察へ向かう途中、店を開けっぱなしだったことを思い出して、すぐに戻るからと男に許可をもらって急いで店に向かった。


 店に入るとパソコン男以外誰も居ないようだ。

 こいつに出て行ってもらったら店を閉めてすぐに戻ろうと、パソコン男に後ろから近づく。


 そこでふとパソコンのモニターが目に入った。

 なにか文章を打っていたようだ。


 今日もマスターはビシっと決まっているかっこいい。マスターはが私に目を向けてくれた。マスターが他のお客の相手をしている。仕草がスマートでかっこいい。マスターの「いらっしゃいませ」は何度聞いても渋くて素敵だ。マスターがコーヒーを入れている腕の筋肉が動いた素敵。マスターがテーブルを拭いている。テーブルを拭くときお尻が良く見える。引き締まっていて素晴らしい。マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・マスターが・・・

 マスターは今日も渋くて素敵だ♡



 ひぇぇぇぇっぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!

 なんだーーーーこえーーーーーーなんだこれ、、、怖すぎるだろ!!!


 はやく追い出そう、怖い怖すぎるぅ。ヤンデレかよ!ストーカーかよ!!しかも男だよ!!!

 引きつりそうになる顔を必死に堪えようとするが、無理だ。

 多少表情を抑えられても、この恐怖に俺のポーカーフェイスは勝てない。

 それでも頑張って声をかける。


「お客様、大変申し訳ありませんが、私はこの後警察署に行ってお話をして来なければならなくなりました。そのため店を閉めさせていただきたいのですよ。勿論御代は結構ですので。」

 絞り出すように声を出し、なんとか伝えきった。あぁ、もうここから逃げ出したい。


「わかりました、先ほどの件では仕方ないですよね。」

 そういって、パソコンを閉じたのを見て俺は安堵した。引きつった顔も少し戻る。


 その後、店を閉めた俺は全力で走って警察署へ向かう。途中財布を盗まれた男が居た気がするけど、今はそれどころではない。

 全速力で警察署に駆け込む。

「おまわりさん~~~たすけてください~~~~!!!!!」




【女性】

 あぁ、今日もマスターが素敵だった。

 自分の部屋の中でホッと息を吐く。また来週もマスターに会いに行こう。




【マスター】

 あぁ、もう店に行きたくない。

 転職しよう。


だいぶ長くなりました。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。


誤字脱字などございましたら、教えて頂けと幸いです。

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