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ぬるーりバッドエンド(オムニバス)  作者: 彼方のハートにヘドロ爆弾(仮)
本編
2/23

1. 金太郎:side鬼

始めましての方は初めまして。そうでない方は居るわけがないだろっ!!だって初投稿なのですもの。

ってことで、初投稿の『彼方のハートにヘドロ爆弾(仮)』と申します。


拙い文章ではございますが読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

                   


「昔々、まだ人は藤原家が政権を握り、国を治めようとしていた時代のことである。

 人は人同士争い、時に政略をめぐらす。今の日本と比べてしまえば未開の秘境のような国だった頃のはなし。

 この頃はまだ河童や座敷童そして鬼など、物の怪や妖怪と呼ばれる化け物がそこかしこに蔓延っていた。

 そして化け物の被害が大きくなると、討伐を目的とした部隊が出ることもしばしあったのだ。」


「どうしたんですか先輩、急に変なこと語りだして。」


 後輩の山田が怪訝そうな顔をこちらに向け、そう聞いてくる。

 実際俺も急に変なことを話し出しているので、これは当然の反応であろう。


「いやさ、昔話の金太郎ってあるじゃんか。あれってタイトルと童謡の知名度はあるけどさ、どういう物語か詳しく知らないでしょ?」

「まぁ、クマにまたがりお馬の稽古をしたとか、あと鬼退治をすることしか知りませんね。」

 どうやら、後輩の山田は金太郎の物語を詳しく知らないらしい。俺も同じくらいのことしか知らないから同じだけど。

「だからさ、俺なりに考えてみたわけよ、金太郎をさ。」


「暇人を極めた人が考えそうなこと言いますね。」

「いや、現在進行形で暇人を極めているでしょ俺ら。誠太(せいた)が遅刻しているせいで。」

 現在、俺たちは地元の駅にある喫茶店に入り、コーヒー1杯でかれこれ30分くらいだらだらと過ごしている。

 本当は俺たちともう1人、合わせて3人で遊びに行く予定だった。しかし、そのもう1人である誠太が寝坊をして遅刻しているため何もやることがない。

 到着までに更にもう30分は掛かるそうなので、どう時間を潰そうかと考えて思いついたのが金太郎だったのだ。


「たしかに暇なんで聞きましょうか。興味はないですけど。」

「生意気な後輩だなこの野郎。でも俺が逆の立場だったら絶対に興味沸かないから許す。」

「後輩は先輩を立てるもんですから。まったく後輩とはつらい生き物ですよ。」

 そう言って山田はやれやれと首を横に振る。


 本当に生意気だし、一切俺を立てていないぞこの野郎。とは思ったがせっかく考えた話を聞いてほしいので文句を飲み込んで続きを話す。


「ここはとある田舎の山である。現代で言う静岡にあたる地方。

 鬼は嫁と息子の3人で山の中に家を建てて暮らしていた。


 鬼は山を下りた場所にある、畑を耕して生活をしていた。

 大根、芋、大豆など様々な畑があり、来る日も来る日もせっせと足を運び、家族に美味しい食事をしてもらいたいと一生懸命植物の世話をしていた。


 朝から晩まで畑を耕し、家に帰ると嫁と子どもが温かく迎えてくれる。そんな日々に鬼は満足し、多少貧しくはあるが、幸せな暮らしであった。」


「なんか、鬼が主人公の話ですよね。金太郎どこ行ったんすか。」


「とりあえず聞いておけ、そのうち出るから。それでは続きを、、、秋も深くなり、住んでいる山も紅葉を始めた頃、鬼は籠いっぱいに収穫した大豆を担ぎ家路についていた。

 すでに辺りは真っ暗で、手提げの行灯(あんどん)の明かりが無いと、ほとんど何も見えない。


 この年は天候が良かったせいか、例年よりも多くの大豆が育っており収穫にだいぶ時間が掛かってしまった。そのため日が暮れて月も空の上まで登り切った頃に、やっとのことで仕事を終えることができたのだ。

 帰りの山道はとても暗く、手提げ行灯でも大して明るくはならないのだが、何年も暮らした山道だけあって木の根の位置までしっかり覚えていため、家に帰るくらいはわけない。


 遅い時間まで畑で仕事をしたのだ、体はくたびれて服は泥と汗まみれ、しかも若干腰が痛い。それでもこれだけの大収穫なのだ、嫁や子どもの喜ぶ顔が頭の中に浮かび口元が緩くなる。

 少しでも早く家族に会いたいという思いから、すでに疲れ切った足もついつい速足になってしまう。このペースならばそろそろ我が家が見えてくる頃であろう。


 しかし、先の方を見つめても我が家の明かりが見えてこない。普段であれば庵に点けた火で家の中は明るいはずである。真っ暗な山道でその明かりを見逃すはずはない。

 もしかしたら、浮かれていて道を間違えたのかもと思ったが、そんなはずは無い。

 暗くなってから家に帰る経験などいくらでもあるのだ。今更道を間違えることは無い。

 しかしいくら近づいても小さな灯りさえも見えてこないのだ。」


「なんか不穏な雰囲気っすね。その後どうなるんすか。」

 山田はごくりと唾を飲み込む。

 なんだかんだ言ってしっかり話を聞いてくれるんだよなコイツ。もしかしたら物語に入り込むタイプなのかもしれない。


「鬼は不審に思い駆け足で山道を進むとすぐに我が家にたどり着いた。しかし、やはり家は真っ暗なままなのだ。

 急いで家の中へ駆けこんだ。嫌な予感が脳裏をよぎり、冷たい汗が首元を伝ってゆく。


 ふと情報通な仲間から聞いた話を思い出す。昨年遠くの土地で鬼に対する討伐が行われたらしい。確かにその鬼は暴れ者で、人間達を困らせていたらしい。自分は人間と関わることもなく静かな暮らしをしているが、人間達からして見れば鬼というだけで暴れ者と同じに思われても不思議ではない。

 そして、その討伐を行った者の名は「金太郎」というらしい。


『おい、誰かいないのか!』

 大声で叫んでいた。気がせっているため声が大きくなる。


『父ちゃん・・・・。』

 暗闇の奥から幼い声がする。これは息子の声である。

『父ちゃん、あのな、母ちゃんがな・・・。』

 息子の健在に安堵するも、嫁の気配が無いことに焦り呼吸が短くなる。


『母ちゃんに何かあったのかな。母ちゃんは何処にいるのだい。』

 鬼は逸る気持ちを必死に抑え、息子にそう問いかけながら、庵に火を灯した。


 パチパチと音を鳴らす火の光は息子の顔を浮かび上がらせるが、そこには不安で涙を堪えている表情があった。

『父ちゃんが畑に行っている間に、人間の男が家にやってきて母ちゃんを連れて行ってしまったんだ。』

『なんだって・・・。』

 息子の言葉に、さっと血の気が引いていく。


『母ちゃんはそいつのことを金太郎って呼んでいたよ。』

『金太郎・・・だと。』


 仲間から聞いた話を思い出す。「金太郎」それはここからそう遠くない足柄山で育った人間である。圧倒的な怪力でクマをも投げ飛ばす程と言うではないか。

 眉唾な話でどこまでが本当かわからないが、人間よりもはるかに力の強い鬼族である嫁を連れ去ったとなればただの人間とは思えない。


 そんなことを考えていると、息子がそういえばと声を上げた。

『そういえば、母ちゃんが何か書いて卓袱台の上に残しっていったんだ。』


 そう聞いて卓袱台へと目を向けると、急いで書いたような文字で手紙が残されていた。

 だいぶ崩れて読みにくくはあるが、確かにこれは妻が書いた文字だ。

 もしかしたら金太郎に連れていかれる前に、行先の手がかりを残していったのかもしれない。鬼は急いで手紙を手に取り読み始めた。


 しかし、そこには行先の手がかりなど書かれてはいなかった。それどころか、最悪の事態が自分に降りかかっていることが分かってしまった。

 手紙には驚愕の事実が書かれていたのだ。



≪急な話でごめんなさい、私は家をでます。今まで言えずにいましたが、この家に居ることに疲れてしまいました。彼方はいつも朝から晩まで畑のことばかりで家には殆どいない。家事をして、ただ彼方の帰りを待つ生活に嫌気がさしてしまいました。勝手な話だとは分かっておりますが私はもう耐えられません。この家を出ていきますので息子のことをお願いします。  鬼嫁より≫


 それは離縁の手紙であった。

 震える手で手紙を持ち、読み間違えではないかと何度も目を通す。しかし何度読み直しても文面が変わるはずもない。


 息子がぽつりぽつりと小声でしゃべりだした。

『あの人間。金太郎ってやつは半年ほど前からここへ来ては母ちゃんと話したりしていたんだ。母ちゃんはあいつと話している時はなんだか楽しそうで僕も嬉しかったんだ。でも、母ちゃんは僕たちを置いて遠くへ行ってしまったんだ。』

 絞り出すように声を出す子鬼の目から、涙が零れ頬を伝って床に落ちる。



 その言葉で鬼は状況を理解し愕然とした。

 嫁は連れ去られたのではなく、金太郎と浮気関係にあり出て行ったのだと。


 鬼は今までの生活を振り返って考えてみた。

 自分は畑の豆ばかりにかまけて家族を蔑ろにしていたのではないかと。いくら家族を大切に思っていても、それを口にして伝えたり、逆に話を聞くことをしてこなかったのではないかと。

 鬼は金太郎やその種族である人間、そして自らの甲斐性の無さを憎むことしかできなかった。 終わり。」


「鬱展開過ぎるわっ!」

 俺が話し終わると山田は大声で突っ込みを入れてきた。その声に周りのお客さんが驚いてこちらに目を向けてくる。恥ずかしい。

「おい、声がでかいって。」

「あ、すみません、でもこれで終わりですか、すごくヤキモキするんですけど。」


 最初は興味ないって言ってたのに、なんだこの食いつきは。でもこの反応はなんか嬉しいので許す。


「続ける? じゃあ、後日談ね、、、そしてその後鬼は人間に不幸をもたらすようになったが、事のきっかけになった豆を見るたび、あの嫁が出て行った日が脳裏に過り、その場から逃げるよう去るようになってしまったとさ。おしまい。」


「結局バッドエンドじゃないですか、鬼の親子が不憫。」


「何興奮してるんだよ。」

 そう言ったのは俺ではなく、いつの間にか来ていた誠太だ。

「聞いてくださいよ、誠太先輩。先輩ったら酷いんですよ。」


 その言い方だと、俺が何か悪さしたように聞こえるではないか。


 結局先ほどの話を誠太にもすることになり、なかなか遊びに出かけられなのであった。


2月3日ってことで、最後節分にも掛けてみました。

誤字脱字や文章変じゃない?もしくは足が匂って仕方がない。ってことがありましたら、コメントで頂けると幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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