Zクラス
Zクラス。
一般の生徒はまず立ち入らない魔界。
まあ、ここでなら、ルシフの力もそう目立たないかも知れない。
魔力測定も、武術測定も、人間と賤混者が混じる事は無い。
年一度の統一武闘会だけは例外で、混じった状態で雌雄を決する。
昨年の1年、つまり今の2年は、それでも人間が優勝したが。
昨年の2年、つまり今の3年の本当のトップは、Zクラス所属者だ。
首席は人間から選ぶので、3年の首席は、Aクラス所属だ。
とはいえ、目立つ事には変わりが無い。
実質上の首席は、軍の精鋭、流星騎士団に内定した。
賤混者では異例の待遇だ。
統一武闘会で実力を示す事は、出世への近道である事は間違いない。
「今日は転校生を紹介するぞ……入れ」
教官の指示で入室。
気付かれない程度に、見回す時にさっと力を視る。
ルシフにとって脅威となる者は……いない。
だが、魔力に優れた者、身体能力に優れた者……賤混者には、それなりの強さの者が見てとれた。
気になったのは……うさ耳の美女、猫耳の美女、エルフの美女……亜人もこっちなのか?
ハーレム候補では無いが、犬耳の偉丈夫、皮膚に樹が見えるインテリっぽい青年……いや、通常は賤混者とは、ゴブリンに襲われたりオークに襲われたりした村で、女性が浚われて……というパターンが多いんだが。
実際、クラスの半分くらいは、ハーフオーク、ハーフゴブリンだ。
兎とか、猫とか、女性を襲わんだろう……多分。
恐らく、想像は付く。
この国は、力に貪欲だ。
計画されし子供。
強制的に魔物と交配させ、その子供を育ててたのだ。
非人道的だから、表だっては許されていない筈だが。
もしくは、そういった研究所から救出された子供なのかも知れない。
クラスの大半は、ルシフに見とれている。
実際、ルシフは美しい。
親は、ヴァンパイアかインキュバスか……そんな推測を立てた者もいる。
「ルシフと言います。宜しく御願いします」
ルシフは、その実力を完全に隠蔽し、友好的な笑みを向ける。
どきゅーん
クラスメートのハートを撃ち抜いた音すら聞こえた。
「ルシフは、こう見えて、深海の魔女アカネア様の弟子だ。お前達、いらん悪戯をしたら、命が無いかもしれんぞ」
「?!」
教官の脅しに、クラスがどよめく。
深海の魔女アカネア、村ではそれなりの知名度だったが、王都にまでその名が響き渡っていたのか……
これは不味いな。
ルシフは少し、不安を覚えた。
地元で嫁探しをしなかった理由……祖母が有名過ぎて、みんな畏まり、誰もルシフ自身をみてくれなかったのだ。
此処でも同じ状況になるのは……面白くない。
「祖母の弟子ではありますが、私は出来が良い弟子では有りません。みなさん、気軽に話しかけて下さい」
「やっぱり魔術は使えるのですか?」
ハーフトレント?の青年が手を挙げて尋ねる。
「第壱階位までなら」
おおおおお!
ルシフが答えると、クラスが沸く。
第壱階位でこの沸きようか……
ルシフは、警戒を強める。
これなら、村の方が、まだ優れた人が居たな。
期待していたわけでは無いが、少しがっかりとはした。